リズム

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リズム英語:Rhythm, 伊語:Ritmo)とは、周期的な動きや進行の調子。律動(りつどう)と訳される。

時間の中に人間知覚されるような2つのを近接して置くと、2点間の時間に長さを感じるようになるが、その「長さ」をいくつか順次並べたものをリズムという。

古代ギリシャに生まれた概念で、ῥυθμός - rhythmos(リュトモス)を語源とする。リュトモスは古代ギリシャ語では物の姿、形を示すのに一般的に用いられた語で、たとえば「αという文字とβという文字ではリュトモス(形)が違う」というように用いられた。やがて、音楽におけるひとつのまとまりの形をリュトモスと言うようになった[1]

音楽におけるリズム[編集]

音楽に関する時間に対する構造または組織化を示す時にリズムと言う語が用いられる傾向がある[1]。拍子(周期的なアクセント)がなくてもリズムは存在する。

予備知識[編集]

20世紀の典型的なリズム論であるクーパーとマイヤーの「音楽のリズム構造」におけるリズムについての説明を示す。

パルス[編集]

まったく同じ刺激が時間的に等間隔で再起するものをパルスと呼んでいる。

次はパルスの例である。左から右に時間が流れていて、刺激のあるタイミングを○で示す。

○   ○   ○   ○   ○

次はパルスでない刺激の例である。

○  ○     ○ ○   ○ 

パルスはその定義から、パルスとパルスとの間に区別があってはならない[1]

[編集]

とはパルスとパルスとの間に区別があるものをいう。具体的には、拍とは、相互に全く区別のなかったパルスの連続から代わって、心理的に強いパルス(アクセント)と心理的に強くないパルス(非アクセント)という区別がついたもの。

次は拍の例である。

● ○ ● ○ ○ ● ○ ● ○ ○ ○ ● ○ 

●はアクセント
○は非アクセント

アクセントとは必ずしも音が強いことを表すのではなく、人の心理にとって強く感じる、目立たされていると意識されるという意味である。紛らわしいことに、アクセントのある音を強拍、アクセントのない音を弱拍と言うことがあるが、必ずしも音が強い、音が弱いということを表すのではない[1]

拍子[編集]

アクセントのある拍が周期的に繰り返されると拍子が生まれる。拍子とは、1 つのアクセントが 1 つ以上の非アクセントを従えた構造を持ち、合計いくつの拍で動いているかで何拍子か決まる。

たとえば 2 拍子は 1 つのアクセントが 1 つの非アクセントを従えた合計 2 つの拍からなる拍子であり、3 拍子は 1 つのアクセントが 2 つの非アクセントを従えた合計 3 つの拍からなる拍子である。

次は 2 拍子および 3 拍子の例である。

2 拍子
● ○ ● ○ ● ○ ● ○ 

3 拍子
● ○ ○ ● ○ ○ ● ○ ○ 

次は拍子がない例である[1]

● ○ ● ● ○ ○ ○ ● ○ ○ 

リズム[編集]

クーパーとマイヤーの考えでは、拍子の中に、グループができることがリズムである。拍子の中にグループ化を感じた時、我々はリズムを感じたということになる。

以下はグループ化の例である。 └─┘は一つのグループを表す。

2 拍子

● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ 
└─┘ └─┘ └─┘ └─┘ └─┘ └─┘ 

● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ 
  └─┘ └─┘ └─┘ └─┘ └─┘ └─
3 拍子

● ○ ○ ● ○ ○ ● ○ ○ ● ○ ○ 
└───┘ └───┘ └───┘ └───┘ 

● ○ ○ ● ○ ○ ● ○ ○ ● ○ ○ 
  └───┘ └───┘ └───┘ └──

● ○ ○ ● ○ ○ ● ○ ○ ● ○ ○ 
    └───┘ └───┘ └───┘ └

音楽事典でもそうだが、非常に多くの場合、拍子とリズムとが混同して理解されている[1]

応用[編集]

音楽においては、音の開始点が知覚されやすいので、時間軸における点を主として音の開始点で示す。音の開始点から次の音の開始点までの長さを、順次いくつか並べたものが、音楽におけるリズムである。

人の耳は音の開始には敏感だが、音の終了にはあまり注意を払わない傾向がある。これは、音が残響することによって音の終了がはっきりと作り得ないことや、人間の聴覚に残像効果がある(音が鳴りやんでもまだしばらく音が続いているように感じる)ことにもよるであろう。またこの傾向は、物を叩いたときの音のような、音が次第に弱くなっていくような音について顕著である。したがって、音の開始は時間軸の点を示すが、音の終了によって点を示すことは困難である。

それゆえ一般にはリズムを「音の長さを順次並べたもの」と定義することができる。ただし、この場合における「音の長さ」とは、実際の音の長さではなく、概念上の音の長さ、すなわち、次の音が出るまでの長さのことである。

このとき、音の開始点の時間間隔だけでなく、音の強さや音が実際に終了するまでの時間によって、リズム感が異なることがある。

等しい間隔で打たれる基本的なリズムを、拍節と言い、そのひとつひとつの時間単位を拍という。拍は、一般に、人間の歩行の一歩一歩に擬せられる。拍は実際に常に音によって示されなければならないわけでなく、しばしば概念化して、音によって示されなくても拍を感じることができることがある。

拍の周期の長短によって、音楽の速度を感じる。これをテンポという。

拍に重軽が生じ、原則としてそれが一定のパターンで周期的に繰り返されるとき、拍子という。

様々な民族の音楽の中でも、リズムを持たないものはおそらくほとんど存在しないと思われるが、リズムの現れ方は民族や音楽のタイプによって様々である。拍や拍子のない音楽は、世界各地に見られる。

西洋音楽や多くの民族音楽にあっては、リズムは拍子の上に作られる。この場合、拍を結合したり、拍を等分したり、等分した拍をさらに結合したりして、リズムを作成する。また、拍子のないリズムも存在する。これを自由リズムと呼ぶことがある。

モンゴル音楽におけるオルティンドーとボギン・ドーの区別は、拍子の有無を表すわかりやすい用語である。オルティンドー(長い歌の意)は拍子のない歌、ボギン・ドー(短い歌)は拍子に乗った歌である。

舞踊音楽等とリズム[編集]

舞踊音楽等においては、同じリズムの繰り返しがその舞踊や音楽を特徴づけることが多い。すなわち、メヌエットにはメヌエットの、ワルツにはワルツの、ボサノヴァにはボサノヴァのリズムがある。また、ジャズやジャズを起源とする音楽は、スウィングエイトビートシックスティーンビートといったリズムを持っている。

関連項目[編集]

言語におけるリズム[編集]

人間の音声言語における「リズム」とは、何らかの音の単位が、一定の時間で規則的に繰り返されるパタンのことを指す。このようなリズムの特性を「等時間隔性(isochronism)」と呼ぶ。繰り返される音の単位が何であるかは、言語によって異なる。また、などの韻文を作る韻律の基礎として、特に重要な性質である。なお、リズムは国際音声記号では[|]で表される。

強勢リズム[編集]

英語ロシア語などは、強勢のある音節がリズムを作る。発話の中で、強勢のある音節がほぼ等しい時間間隔で規則的に出現し、それがリズムとなる。具体的には「強勢のある音節から次の強勢のある音節の直前までのまとまり」が、リズムの単位となり、これを「脚(foot)」と呼ぶ。例えば、This is the house that Jack built.という文を脚で分類すると、以下のようになる[2]

│This is the│house that│Jack built.│

脚(foot)というリズムはAbercrombie(1964, 1971)が唱えたもので、その後、Halliday(1967, 1970)、Albrow(1968)、Kiparsky(1979)らに受け継がれている。上記の例文は、Albrow(1968)にて提示されたものである[2]

また、強勢リズムをもつ言語の自然な発話では、音節の数に関係なく、すべての脚の長さが同じになるように発音される傾向にある。よって、脚に含まれる音節の数が多くなればなるほど、個々の音節の時間的な長さは短くなり、逆に脚に含まれる音節の数が少なければ少ないほど、個々の音節の時間的な長さは長くなり、比較的ゆっくりと発音される。

 verse(韻文)における脚(pes; foot)については、「韻脚」を参照。

音節リズム[編集]

音節リズムはスペイン語フランス語などに見られ、各音節が時間的にほぼ等間隔で現れることによって生じる。

日本語のリズム[編集]

日本語のリズムは音節ではなくモーラ(拍)が基本的な単位となっている。

 詳細は「モーラ」を参照。

音楽・言語以外のリズム[編集]

リズムとは本来音楽用語であるが、転じて様々な時間の動きを表すものを表す。周期は数秒、数分から数日、数年に至るものまで存在し、株価の変動など経済の動き、太陽活動など天体の動き、占いなど運勢の動きなどに用いられる。

生体リズム
(人間に限らず)生物が、本来持っていたり天体の動きによって決められたりして持つことになる固有の時間周期を言う。
生活リズム
人間が時間的に規則正しく生活することをいう。「生活リズムが崩れると体調を崩す」などと使われる。

脚注[編集]

[脚注の使い方]
  1. ^ a b c d e f 徳丸吉彦『音楽理論の基礎('07)第10回「リズムと時間構造」』、放送大学学園東京テレビジョン放送局・放送大学学園東京デジタルテレビジョン放送局、放送日2010年2月25日など。
  2. ^ a b 枡矢 好弘 『英語音声学』こびあん書房、1976年、361頁。 

関連項目[編集]