ピアノの音響特性

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ピアノの音響特性(ピアノのおんきょうとくせい、: Piano acoustics)は、ピアノに影響を与えるその物理的特性である。

弦の長さと重さ[編集]

多くのオクターブが1枚の響板に収めることができるように弦の長さと太さは様々である。

ピアノの弦は太さに違いがあり(ゆえに長さごとの重さにも違いがある)、低音弦は高音弦よりも太い。典型的な範囲は最高音の弦の1/30インチ(0.85 mm)から最低音の弦の1/3インチ(8.5 mm)である。弦の音響特性がよく理解されているがゆえに、このように弦の太さに違いが発生する。

等しく張られ、等しく重く、片方がもう片方の2倍の長さである2本の弦を考えてみる。長い方の弦は短かい方の弦よりも1オクターブ低い音高で振動するだろう。しかしながら、この原理を使ってピアノを設計した場合、低音弦を合理的な大きさの枠に収めることは不可能である。さらに、こういった仮想的な巨大ピアノでは、最低音域の弦は振動中に大きく動くため、お互いにぶつかってしまうだろう。その代わりに、ピアノ職人は、重い弦は同一の長さと張力の軽い弦よりも遅く振動するという事実を利用する。したがって、ピアノの低音弦はその他の音域よりも太い。

インハーモニシティとピアノのサイズ[編集]

全ての振動体は基本音高より高い数多くの周波数での振動を起こす。これらは上音(overtone)と呼ばれる。上音が基本周波数の整数倍(倍音ハーモニクスと呼ばれる)であり、減衰を無視すると、振動の揺れは周期的となる。人間は周期的な揺れの音を楽しいと感じるようである。この理由のため、ピアノを含む多くの楽器はほとんど周期的な揺れを生み出すように、つまり、基音のハーモニクスにできるだけ近い上音を持つように設計される。

理想的に振動する弦では、伸びた弦上の波の波長は弦の太さよりもかなり大きく、弦上の波の速度は一定であり、上音の周波数はハーモニクスと等しい。これが多くの楽器が細い弦または細い気柱(管楽器の場合)で構成されている理由である。

しかしながら、弦の直径に近づく短い波長の高い上音では、弦はむしろ太い金属の棒のように振る舞う。その曲げに対する機械抵抗は張力に対する追加的な力となり、上音の「音高を上げる」。曲げの力が弦の張力よりもかなり小さい時にのみ、その波の速さ(およびハーモニクスの音高を持つ上音)は変化しない。周波数が上昇した(ハーモニクスよりも上の)上音は「インハーモニシティ」と呼ばれる不快な効果を生む。インハーモニシティを低減するための基本戦略には、弦の太さの低下、弦の長さの延長、低い曲げ力を持つ柔軟な金属の選択、曲げ力よりもかなり大きくなるように弦の張力を上げる、などがある。

巻弦を使うことで弦の太さを効果的に低下させることができる。巻弦では、芯線のみが曲げに抵抗するのに対して、巻線は弦の線密度を増加させるためだけに機能する。芯線の太さはその長さと張力によって制限される。より強い材料では、高い張力に耐える細い芯線を作ることができ、インハーモニシティを低減できる。このような訳で、ピアノ設計者は弦のために高性能鋼を選択する。

弦の直径、張力、質量、均一性、長さの妥協が唯一の要素ならば、全てのピアノは小型のスピネットピアノになるだろう。しかしながら、ピアノ製造業者は、「より長い弦」が楽器の音量、調和性、残響を上げ、適切に調律された音階を作り出す助けとなることを見出してきた。

より長い弦では、より大型のピアノがより長い波長と望ましい音の特徴を達成する。ピアノ設計者はケース内に可能な限り長い弦を収めるよう懸命に努力してきた。さらに、他が全て同じなら、ピアノの購買者は予算と場所に適合する最大の楽器を得ようとする。

インハーモニシティは主にピアノの最低音域と最高音域に影響し、ピアノの音の範囲を決める制限の一つである。最低音域の弦はピアノの大きさによって何よりも制限される。短いピアノの設計者は、弦の質量密度を上げるために太い弦を使わざるを得ず、インハーモニシティに突っ込んで行くことになる。

最高音域の弦は最大の張力にさらさらなければならず、さらに低い質量密度を可能にするために細くもなければならない。鋼の限られた強度は、ピアノ設計者に短い波長では非常に短い弦を使うことを強い、それによってインハーモニシティが生じる。

ピアノの自然なインハーモニシティはピアノの調律におけるわずかな調整を行うために調律師によって利用されている。調律師はより低い音の上音がより高い音の基音と同じ周波数を持つように高音はわずかに高く、低音はわずかに低くし音の幅を拡げる英語版(ストレッチ・チューニング)。

ピアノ線ピアノ調律音響心理学も参照されたい。

レイルズバック曲線[編集]

レイルズバック曲線は通常のピアノの調律と平均律とのずれを示している。

O. L. Railsbackによって初めて測定されたレイルズバック曲線(Railsback curve)は、通常のピアノ調律平均律(連続する音、つまり半音同士の周波数比が、2の12乗根に等しく、一定)との間の差を表わす。ピアノにおける任意の音について、その音の通常の音高とその平均律における音高とのずれはセント単位(半音の100分の1)で与えられる。

レイルズバック曲線が示すように、オクターブはよく調律されたピアノでは通常拡がっている。すなわち、平均律と比べて高音はより高く、低音はより低い。レイルズバックはピアノは、正確さに欠けているという理由ではなく、弦のインハーモニシティを理由にこの手法で典型的に調律されていることを発見した。理想的には、音の上音列はその音の基本周波数の整数倍の周波数で構成される。ピアノ弦に現われるインハーモニシティはによって一連の上音はそれらが「あるべき」音高よりも高くなる。

オクターブを調律するため、ピアノ技術者は低音側の第一上音と高音側との間のうなりが消えるまで調整しなければならない。インハーモニシティのせいで、この第一上音は(2/1の周波数比を持つ)調和オクターブよりも高い。このため、低音側はより低く、高音側はより高く調律されることになる。そして、ピアニストのテッシトゥーラは一般に3オクターブであるため、ピアノの全ての音を3オクターブ下の音の第8上音とかなり近く調律することが決定的に重要な意味を持つ。

したがって、平均律を反映したオクターブを生成し、楽器のインハーモニシティに対応するため、ピアノ技術者はピアノの中央から伸張調律を始め、音域が移動するにつれてこの伸張が蓄積することで、楽器の最高音と最低音で望ましい伸張がもたらされる。

曲線の形状[編集]

弦のインハーモニシティによってハーモニクスはより高くなるのみであるため(低くはならない)、(機能的にオクターブにおけるインハーモニシティの積分である)レイルズバック曲線は単調増加する。ピアノの調律は中央から始まるので、レイルズバック曲線はこの領域で緩やかな勾配を持つ。しかし、インハーモニシティを補うためにピアノ調律師がオクターブを伸張するにつれて、伸張は蓄積し、曲線はより明白となる。

弦におけるインハーモニシティは主に剛性が原因である。長さの減少と太さの増大は共にインハーモニシティに寄与する。ピアノの中音域から高音域では、弦の太さは一定で長さが短かくなるので、これが高音域におけるより大きなインハーモニシティに寄与する。低音域では、弦の太さが(特に小型のピアノでは)劇的に増大し、これは長い弦で埋め合わせることができず、この音域における大きなインハーモニシティを生む。

低音部において、インハーモニシティに影響する2つ目の要因はピアノの響板英語版音響インピーダンス英語版によって引き起こされる共鳴である。これらの共鳴はインハーモニシティ効果に正のフィードバックを示す。弦が共鳴周波数のすぐ下の周波数で振動するならば、音響インピーダンスによってさらに低く振動することになり、共鳴周波数のすぐ上の周波数で振動するならば、インピーダンスによってより高く振動することになる。響板は個々のピアノに固有の複数の共鳴周波数を有する。これが、実験的に測定されたレイルズバック曲線における低いオクターブでの大きな変動に寄与する。

複弦[編集]

ピアノの最低音域以外の全ての音は同一の周波数に調律された複数の弦を有する。これによって、立ち上がり-減衰-保持-余韻(ADSR)系における速く減衰する大きな音の立ち上がりと長いサステインが可能になる。

3本の弦は3つの基準モードを持つ連成振動子を作る。弦は弱くしか連結していないため、3つの基準モードはかすかに異なる周波数を有する。しかし、それらは著しく異なる割合で響板へ振動エネルギーを伝達する。

3本の弦が共に振動している基準モードは、3本全ての弦が同時に同じ方向へ引っ張られるため、エネルギーを伝達する効率が最も高い。これは大きな音を出すが、すばやく減衰する。この基準モードは音の素早いスタッカート「立ち上がり」部を担う。

その他2つの基準モードでは、弦はまとまって動かない(例えば1本は引き上げられ、2本が引き下げられる)。響板へのエネルギー伝達は遅く、ソフトだがほぼ一定なサステインを生じる[1]

出典[編集]

  1. ^ Dean Livelybrooks, Physics of Sound and Music, Course PHYS 152, Lecture 16, University of Oregon, Fall 2007.

推薦文献[編集]

  • Ortiz-Berenguer, Luis I., F. Javier Casajús-Quirós, Marisol Torres-Guijarro, J.A. Beracoechea. Piano Transcription Using Pattern Recognition: Aspects On Parameter Extraction: Proceeds of The International Conference on Digital Audio Effects, Naples, October 2004.
  • Railsback, O. L. (1938). “Scale Temperament as Applied to Piano Tuning”. The Journal of the Acoustical Society of America 9 (3): 274. Bibcode 1938ASAJ....9..274R. doi:10.1121/1.1902056. 
  • Sundberg, Johan (1991). The Science of Musical Sounds. San Diego: Academic Press. ISBN 0-12-676948-6. 
  • Weinreich, G. (1977). “Coupled piano strings”. The Journal of the Acoustical Society of America 62. doi:10.1121/1.381677. 
  • Giordano, Nicholas J., Sr (2010). Physics of the Piano. Oxford: Oxford University Press. ISBN 978-0-19-878914-7. 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]