来るべき世界 (漫画)

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来るべき世界』(きたるべきせかい)は手塚治虫SF漫画

概要[編集]

1951年、大阪の不二書房より上下2巻の作品として刊行された単行本書き下ろし作品で、このときの版では、上下巻に「THE WORLD OF THE FUTURE」「NEXTWORLD」[1]の英題の記載と、上巻には「前編」、下巻には「宇宙大暗黒篇」という副題があった。『ロストワールド』『メトロポリス』と並んで、手塚治虫の「初期SF3部作」と呼ばれる作品の一つである[2]。当時の東西冷戦を背景に、人類の存亡をめぐる大河ドラマが展開された。

3部作の他の2作と比較した場合、本作は分量の点では最長で、多くの立場の異なるキャラクターを同時並行で描く群衆劇、いわゆるグランドホテル形式であることが大きな特徴である。また、人類を超える「超人類」と呼べる登場人物により人類を相対化するという手法は、その後『0マン』など複数の手塚作品でも用いられることになる。

ストーリー[編集]

日本の科学者・山田野博士は核実験場の島で未知の高等生物を発見し、捕獲する。山田野は、これは人類の危機に対する警告であると国際原子力会議で報告するが、鋭く対立するスター国・ウラン連邦という2つの超大国はメンツを張り合うばかりでそれに耳を傾けようとはしなかった。やがて、この両国は些細なことから全面戦争に突入し、両国と日本の少年少女はそれぞれ数奇な運命に巻き込まれていく。一方、山田野の連れ帰った高等生物はフウムーンと呼ばれる知的生命体であり、彼らはまったく別の地球の危機を理由としてある計画を立てていた。

登場人物[編集]

ケン一(敷島健一)
本編の主人公で日本人。行方不明になった叔父のヒゲオヤジをフウムーンのロココとともに探索する。
ヒゲオヤジ
私立探偵。本名「伴俊作」。フウムーンのロココによってウラン連邦に飛ばされ、強制労働をさせられる。
山田野加賀士(やまだのかがし)(演:花丸先生
原子科学者。馬蹄島(ばていじま)でフウムーンを発見する。
ロココ
山田野博士が捕獲したフウムーン。手違いでヒゲオヤジをウラン連邦に飛ばしてしまう。その贖罪からケン一と行動を共にするようになる。
ノタアリン
スター国の原子力委員長、特殊警察局長。
ニコライ・レドノフ(演:レッド公
ウラン連邦の原子力委員。ノタアリンとの不和がきっかけで全面戦争に。
サントリー・ウイスキー
ウラン連邦の科学省長官。「鉄心臓」の異名を持つ独裁者。
ココア
ノタアリンの娘。戦争中にもかかわらずスキーに出かけて行方不明になってしまう。
ロック・クロック
スター国の少年。新聞記者をしていたが情報部員の教育を受け、ウラン連邦に潜入するも捕らえられる。強制労働、さらに精神的な拷問を受けて性格が歪んでしまう。
ウント・モウケル
ロックの父親。ウント・モーケル[3]新聞の社長。
ポポーニャ
ウイスキー長官の娘。美貌の科学者という才媛。性格は父親似で、強制労働の地下工場長。イワンの許婚。不思議と容姿がココアとよく似ている。
イワン・レドノフ
ニコライ・レドノフの息子。ポポーニャとは婚約者という関係。
アセチレン・ランプ
元はルンペン。後に成り上がるが、悲惨な最期を遂げる。
ヒック(演:ハム・エッグ
ニコライ・レドノフの手下。
フランケンシュタイン
天文学者。牢にとらわれた山田野を引き取る。
ボローキン
ウイスキーの部下。大佐。
ユモレンスクの人々
ウラン連邦の寒村に住む信心深い人々。フウムーンの空飛ぶ円盤を「ノアの箱舟」と信じる。主な村民に村長(演:ブタモ・マケル)、ラムネンコとブタノフ(演:チックとタック)など。
伴俊作探偵事ム所近所の人々
(ベレー帽の)海野(演:ムッシュー・アンペア)、和尚(演:タコ)、床屋の大将、(学生帽に眼鏡の)六角、和田(ピアノの先生)など。

作中に登場する架空国家[編集]

ウラン連邦
スター国と並ぶ、二大国家の一つ。モデルはソビエト連邦とされる。
スター国
ウラン連邦と並ぶ、二大国家の一つ。モデルはアメリカ合衆国とされる。
ソノタ・オーゼー国
国際原子力会議に出席。代表者が「ベリー・ナイス!」と発言していたことから、母語は英語とされる。
ガラクタ国
国際原子力会議に出席。
ヒネ共和国
国際原子力会議に出席。
トボケ国
国際原子力会議に出席。

アニメ[編集]

日本テレビの24時間テレビ 「愛は地球を救う」のスペシャルアニメとして『フウムーン』のタイトルで1980年にアニメ化された。

原作との相違[編集]

  • ウラン連邦の強制収容のくだりが除去されており、ヒゲオヤジは宇宙船でフウムーンの秘密基地にさらわれる。
  • ケン一の年齢は、10代前半頃の設定から、自動車免許を取得済みの10代後半に引き上げられた。また、同じ年代設定だったロックとココアは20代前半か、それ以上に設定された。
  • ロックは終始、正義感の強いスター国の若き新聞記者として登場する。実の両親は一切登場せず、最後にレドノフの養子になるエピソードも登場しない。スター国非正規工作員として雇われ、高度上空よりウラン連邦に潜入・密入国を図るエピソードも登場しない。
  • オリジナルキャラクターとして『ブラック・ジャック』のピノコ似のケン一の妹ピーチが登場する。
  • ウイスキー長官の娘ポポーニャをはじめ一部のキャラが登場しない。
  • 結末でのスター国・ウラン連邦両首脳の和解シーンが無い。
  • アニメ版ではガマタと名づけられたランプは最初から大富豪とされ、配下の企業による宇宙船「ゴンドーラ」の模造・量産エピソードが無い。
  • 原作では国際会議ウラン連邦代表でスター国での駐在大使に過ぎなかったレドノフが、アニメ版ではウラン連邦大統領と国家元首となっており、ウィスキー長官も部下になっている。また、同じく国際会議スター国代表のノタアリンも、アニメ版ではスター国首相となっている。
  • ウラン連邦戦艦ネコイラーズは一切登場しない。
  • 村ぐるみでカーゴ・カルト思想を奉じ、念願適ってフウムーンの宇宙船に一斉収容されるウラン連邦ユモレンスク村が登場しない。

キャスト[編集]

スタッフ[編集]

ソフト化[編集]

ビデオ化されている他に、2001年に『24時間テレビスペシャルアニメーション1978-1981』のタイトルで後継の他作品(『100万年地球の旅 バンダーブック』、『海底超特急マリンエクスプレス』、『ブレーメン4 地獄の中の天使たち』)とセットでジェネオン・エンタテインメントよりDVD化。翌2002年に同じくジェネオン・エンタテインメントより単品として発売された。

エピソード[編集]

  • 元は700ページとも1000ページとも言われる[4]長編作品だったが、出版社から「そんな長い漫画は誰も読まない」というクレームが付き、やむなく300ページにまで削った。手塚の宝塚の自宅を訪れた藤子不二雄がこの没原稿を見て「手塚先生は300ページの作品のために1000ページ執筆する」と衝撃を受けたエピソードは『まんが道』にも描かれた。
  • 手塚の没後にこの時代に使用した構想用ノート75冊が発見され、そのうちの10冊に本作に関する内容が記されていることが判明した[注 1]。これによると、原題はノアの方舟にちなみ「ノア」だった。また、ウイスキー長官など一部のキャラクターのデザインが刊行版と異なっている。本作に関係する箇所だけを抜粋したものが1994年に手塚プロダクションから『「来るべき世界」構想ノート』として刊行された。その後、2010年には構想ノート自体の復刻版が『手塚治虫 創作ノートと初期作品集』として小学館クリエイティブから刊行された。このときの付録の一つに本作の未使用原稿の複製が含まれており、ここでのウイスキー長官のデザインはノートや刊行版とも異なる(ムッシュ・アンペア)ものになっている[5]
  • 雑誌に再録された際には『新人類フウムーン』というタイトルに変更されたことがある。
  • アニメ版では、クライマックスの大事件が起こるとされる日付が初回放送日と同じ「8月31日」に設定されていた。

単行本[編集]

不二書房の前編は再版の際に冒頭部分の描き直しがあり初版とは内容が一部異なっているが、一般的に収録されているのは描き直し後のものである。例外として、不二書房版の復刻本である『虫の標本箱2』(ふゅーじょんぷろだくと)と『SF三部作完全復刻版と創作ノート』(小学館クリエイティブ)には冒頭のみが異なる前編の単行本が2冊収められている。

脚注[編集]

  1. ^ ママ。2語でなく、1語でつづられている。
  2. ^ これらで三部を成すことは、少年漫画劇場第三巻の解題(316ページ)の記述として「三部を成すので、もとは六二〇ページに及ぶ長篇でした」との作者のコメントが見返しにあった旨が見える。
  3. ^ 作中の表記。登場人物のページには「ウント・モケル紙」との表記も見える。
  4. ^ 下記外部リンクを参照。手塚治虫漫画全集版の「あとがき」には「1000ページぐらい描いた」との記述がある。
  5. ^ 手塚治虫 創作ノートと初期作品集

脚注[編集]

  1. ^ ただし、ノートの内容すべてが本作に関するものではない

外部リンク[編集]