シュマリ

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シュマリ』は、手塚治虫による日本漫画。『ビッグコミック』(小学館1974年6月号から1976年4月号まで連載された。

概要[編集]

明治政府によって次第に開拓され、アイヌも自然も追いやられている明治の初めの北海道を、一人の男の目から描ききる大作。映画的な描写と壮大な歴史背景の下、魅力的な男女のキャラクターが交錯する一大歴史ロマンである。

連載開始は虫プロダクションの倒産の翌年で、復活をかけて、手塚治虫が『ブラック・ジャック』や『三つ目がとおる』の連載を開始した時期である。

あらすじ[編集]

大月祥馬に妻お妙を奪われた和人シュマリは、東京と改名されたばかりの江戸から北海道へ渡ってきた。アイヌの族長から狐を意味するアイヌ語のシュマリという名前を与えられ、過去と決別してシュマリは北海道の原野をさまよい続ける。ひょんなことから、五稜郭の戦いで隠された黄金3万両の隠し場所を知ったシュマリは、太財一族から土地を買い受け開拓を始める。北海道王国を築こうとする父の意思を受け継ぐ太財弥七は、黄金のありかを聞き出すべく、妹お峰をシュマリの許にさしむける。一冬を過ごすうちに、すっかり妻となってしまったお峰だったが、自分がシュマリの以前の妻お妙と瓜二つであることを知る。自分は身代わりであったと憤慨したお峰は、シュマリを開拓使に売る。

集治監の囚人となったシュマリは、脱獄を試みた十兵衛といつしか深い友情を築く。黄金にこだわり続ける太財弥七により、鉱山にもらいうけられたシュマリと十兵衛は、大落盤を契機に自由の身となる。ようやく、お峰とポンションの待つ、開拓されたシュマリ牧場に戻る2人。しかし、そこにはアイヌの財宝を狙う野盗団がまっていた。銃で武装した野盗との死闘の末に、十兵衛は討ち死にをし、シュマリも山にこもってしまう。

山から毛皮を売りに下りてきたシュマリの前に、お妙を妻とした郡書記官、華本男爵が現れる。お妙への愛が忘れられないシュマリは山を降り、また牧場を開こうとする。一人で産んだシュマリの実子、弥三郎を連れたお峰は、シュマリの妙への思いを知りながら、押しかけではあっても女房の幸せを一時味わう。しかし、歴史の流れはシュマリたちを置いていってはくれない。華本を潰そうとする薩摩閥の陰謀の前に弥七が倒れ、弥七の鉱山で再び死闘を演じたシュマリは行方不明となる。

そして歳月は流れ、ポンションは大人になり、日清戦争に従軍した。そのポンションから、お峰に手紙が届く。「朝鮮半島で生きていた父シュマリと再会した。老いてなお壮健なシュマリは北海道に帰る気はなく朝鮮も文明化されて住みづらくなったから、さらなる北の辺境を目指す」と…。

登場人物[編集]

シュマリ
主人公。江戸で旗本であったが、妻を追って北海道へ渡る。シュマリとは、アイヌ語で狐の意味。出せば人を殺してしまうため、右手に常に包帯を巻いている。アイヌ人や蝦夷の地をこよなく愛し、和人ながらも常にアイヌの側に立ち続けた。そのため、内地から明治政府が開拓という圧迫を加えていくことに生涯反抗し続け、自分の生き方に忠実であった。
もとの名前は作中では一切登場せず、指名手配書等でも通称「シュマリ」として扱われている。
お妙
シュマリの元妻。旗本であったシュマリが官軍についたことが許せず、大月祥馬と一緒になる。大水で大月が流された後、一人で残された農地で生きていこうとする。しかし、度重なる災難に耐えきれず、華本男爵の妻となる。
大月祥馬
旗本。榎本艦隊に加わり蝦夷に逃れ、「安芸山」と名を変えて開拓農民となっていた。
関口金吾(演:アセチレン・ランプ
佐賀藩一のピストルの使い手。シュマリを案内人として榎本武揚の隠した軍用金探しを行う。シュマリに殺害される。
クーチンコロ
アイヌの長老(エカシ)。「シュマリ」の名付け親。
太財兄弟の父
会津藩士。幌内炭鉱に目をつけ、「エゾ共和国」を建設する野心を抱いている。1875年、石川幌内熊尻に太財炭鉱会社を設立。1876年病死。
太財弥十
太財兄弟の長男。太財炭鉱副社長。人殺しをも厭わない狂暴な性格。
太財弥七
太財兄弟の次男。父の死後、太財炭鉱を受け継いで社長。賢明で狡猾な性格。
シュマリの黄金を譲り受け、炭鉱主として一定の成功を収める。しかし、お妙の真摯な願いにより、薩摩閥に反発して華本の味方をしたことから、体制側の扇動により鉱山労働者の激しい暴動に遭い、心臓発作で命をおとす。
家族を作らない主義で、義理の甥であるポン・ションを自分の後継者にしようとしていた。
太財峯
弥十・弥七の妹で、シュマリの2人目の妻。養子であるポン・ションを実子のように育て上げ、シュマリの実子・弥三郎を生み育てた。
お妙と瓜二つの端正な顔立ちだが性格は正反対。娘時代には、色目を使った小作人を猟銃で撃ち殺すなど、そうとうな女傑。
ポン・ション(首麻里 善太郎)
アイヌ人。シュマリの牧場の近くに住んでいた酒作りの女の息子。太財の父に母が殺されてしまったために、シュマリの家に転がり込む。乳の替わりにどぶろくで育てられたため、天性の酒豪。後に、札幌農学校に進み、父とあおぐシュマリの牧場を発展させようとする。のちに徴兵され、日清戦争に参戦した。従軍中に大陸でシュマリとしばしの再会を果たす。
「ポン・ション」は「小さなウンコ」の意で、病魔に嫌われるようにつけられた仮の名である。血のつながりのない峯を母親として深く慕っている。
弥三郎
シュマリと峯の子。シュマリは「ション・タク」(ウンコの固まり)と呼んでいる。
十兵衛
集治監でシュマリと知り合った剣豪。「南無阿弥陀仏」と唱えながら切り伏せる。野盗団との戦いで複数の銃弾を受け瀕死の重傷を負いながらも、自ら仕掛けた罠で残党を巻き込み、死んでいった。
天然理心流の使い手であり、その正体はひそかに生き延びていた新選組土方歳三であることが示唆されているが、本人は一貫して否定し続けている。
なつめ
柳橋の遊女で、土方歳三の愛人。土方を追って北海道に渡り、十兵衛の正体が土方であると考えて、男装して太財炭鉱に潜入した。
華本要(はなもと かなめ)
男爵、郡書記官(どの郡かは不明)。被災した妙を見初め、結婚する。
公卿華本実篤の次男。木戸孝允らの知己を得、若くして中央の官界に身を置く。明治初年にカリフォルニアに渡り、教養と開拓精神を身につけて帰国。クリスチャン。育ちがよく物腰がおだやかである一方で、プライドが高く、あまり感情を顔に出そうとしない。カリフォルニアで人種差別を受けた経験がトラウマとなっており、ときおり錯乱して奴隷主のように尊大な態度をとったり、奴隷のように卑屈な態度をとったりする。こうした性格のため、妻の妙を深く愛しながらも、互いに心が通じ合えずにいた。
北有社の大株主であったため、薩摩閥の堀基らと対立し、書記官を解任される。妻の妙と弥七との密通に気づき(妙の目的は窮地にあった華本を救うためであったのだが)、許すことができず妙を射殺、殺人罪で収監される。
仮出獄後は農民として第二の人生を歩む。弥七亡きあとのポン・ションの後見人ともなっている。

実在の人物[編集]

島義勇
開拓督務補佐役、判官。榎本武揚の隠した御用金の捜索をシュマリに依頼する。のち失脚。
村田
北有社社長。幌内炭鉱開発のため田中平八と組んで北有社を設立するが、田中と組んだ堀基の北海道炭礦鉄道会社に吸収合併を仕掛けられ、北有社の大株主である華本男爵と組んで抵抗しようとする。
堀基(ほり もとい)
北海道庁理事官、のち北海道炭礦鉄道会社社長。黒田清隆長官の後ろ盾を得て北海道炭礦鉄道を設立し、北有社と空知集治監の事業合併を画策する。作中では北海道を牛耳る薩摩閥の中心人物として描かれている。
なお、北海道炭礦鉄道の設立が1892年となっている(史実では1889年設立)のをはじめ、黒田清隆が現職の長官として描かれている(黒田の開拓長官在任期間は1874年 - 1882年)、「道開拓庁」という架空の役所が登場するなど、史実との間に大幅な違いがある。
田中平八
田中銀行頭取。当初は村田の北有社に出資していたが、のちに堀と手を組む。薩摩閥の一員として薩摩弁を話す。
なお、実在の田中平八(初代の田中平八信州伊那出身で、1884年に没しており、北有社や北海道炭礦鉄道に出資したのは2代目)は、横浜に拠点を置いた実業家である。
川田竜吉
男爵イモ」の産みの親。華本とは貴族院で面識があり、そのつてで、カリフォルニアから男爵イモの原型となったアーリイ・ローズ種を輸入する。ポン・ションとも面識がある。

単行本[編集]

外部リンク[編集]