奇子

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奇子』(あやこ)は、手塚治虫漫画作品。小学館ビッグコミック』に1972年1月25日号から1973年6月25日号まで連載された。

あらすじ[編集]

昭和24年、戦争から復員した天外仁朗はGHQスパイになっていた。ある時、命令で共産主義者の男の殺人(通称 淀山事件)に関与するが、その男は仁朗の妹・天外志子の恋人であった。

さらに事件関与後、血のついたシャツを仁朗が洗っている時、近所に住む知的障害者の少女・お涼と、自分の父親と兄嫁との間にできた少女奇子がそれを見てしまう。仁朗はお涼を口封じのため殺し逃亡する。奇子は一族の体面のために肺炎で死亡したことにされ、天外家の土蔵の地下室に幽閉されたまま育てられる。

登場人物の性格と利害関係が複雑に絡み合い、世間に知られることなく時は過ぎる。 やがて戦後の不穏な空気は薄れ、高度経済成長の時代を迎え、道路計画が持ち上がる。 これを機に、物語は大きく展開する。

登場人物[編集]

主人公[編集]

天外仁朗(てんげ じろう)
東北地方の大地主・天外家の次男。復員後はGHQの工作員となり、江野正殺害に関与する。事件後は逃亡し、“祐天寺富夫(ゆうてんじとみお)”として朝鮮戦争の特需をきっかけに裏社会で名を上げ、やがて暴力団「桜辰会」を設立、それを政界に影響力を及ぼすまでに成長させる。自分が原因で奇子が土蔵に閉じ込められてしまったことを悔やみ、その償いとして、正体を隠したまま奇子あてに送金を続けていた。天外家から逃げてきた奇子の身を引き受け、彼女を社会復帰させる為に尽力する。
天外奇子(てんげ あやこ)
表向きは天外ゐばが47歳で産んだ末娘とされているが、実際は作右衛門が長男の嫁であるすえに産ませた私生児(仁朗の異母妹)。4歳の時、仁朗の証拠隠滅工作を目撃してしまい、一族から犯罪者を出す事を恐れた市郎から、警察による聞き取りを防ぐ為に病死した事にされて、以後戸籍を失ったまま20年以上土蔵の地下室に幽閉される。長年の幽閉生活の内にやがて土蔵から出る事を怖がるようになるが、土蔵が取り壊されることになり、家の中に移された後、土蔵へ戻ろうとして天外家から抜け出す。隔絶された環境で成長したために禁忌に疎く、唯一接する事のできる男性である伺朗を異性として求め、肉体関係を結んでいた。

天外家[編集]

400年続く旧家。多くの土地・財産を持っていたがGHQの主導する農地改正法特別措置法農協などにより衰退している。

天外作右衛門(てんげ さくえもん)
天外家の当主。傲慢、不遜、放蕩、淫乱、冷酷非情。すえとの間に生まれた奇子を溺愛している。幽閉された奇子を蔵の外へ出してやろうとしていたが、後に脳卒中を起こし、数年間植物状態となった末に死亡。
天外ゐば(てんげ いば)
作右衛門の妻。家の男には従順で、天外家存続への強い意志があった。
天外市郎(てんげ いちろう)
日和見主義な天外家の長男で、父の衰えに乗じて天外家の実権を掌握する。仁朗の兄。奇子を土蔵へ幽閉することを提案した張本人。天外家の遺産を相続する事と引き換えに作右衛門に妻のすえを渡したが、その約束を破られ、遺産はすえが相続する事になった際、すえを殺害する。しかし遺産を手にしたものの悪夢に悩まされるようになる。
天外すえ(てんげ すえ)
作右衛門によって選ばれた市郎の嫁。市郎との子供はいないが、関係を強いられた作右衛門との間に奇子を生む。戸籍上は奇子の義姉となっており、奇子に対して母と名乗れない事を思い悩んでいる。後に作右衛門が亡くなった際、彼の遺産を奇子の母として受け継ぎ、奇子を連れて天外家を出ようとするが、市郎によって殺害される。
天外志子(てんげ なおこ)
天外家の長女。仁朗の妹で伺朗の姉。殺害された江野とは恋人。共産主義と関わった事で作右衛門から勘当された。
天外伺朗(てんげ しろう)
天外家の三男。仁朗の犯罪を告発しようとするなど、天外家では強い正義感の持ち主。奇子の幽閉に憤り、彼女のために尽力していたが、後に成長した奇子に求められて近親相姦を交わしてしまい、父・佐右衛門の血が目覚めてしまったのか、以後自らも奇子を求めるようになる。
お涼(おりょう)
天外家の小作人の子で、女中として天外家に仕えている知的障害のある娘。実際は奇子同様に作右衛門の私生児だが、奇子と違って全く愛情を注がれていない。幽閉前の奇子の良い遊び相手だった。彼女と一緒に目撃した奇子の口から仁朗の犯行が露見したため、口封じに殺害されてしまう。
山崎 
親類の町医者。土蔵の中で暮らす奇子に強い興味を持つ。

その他[編集]

下田波奈夫(げた はなお)
仁朗と淀山事件の関わりを探る警視庁捜査一課長・下田警部の一人息子で検察庁に勤めている。後に奇子と愛し合う。
江野正
志子と共に革新派政党民進党に所属する青年で淀山支部長。「組織」に暗殺され、遺体は仁朗によって線路に運ばれた(淀山事件)。その後、史実の下山事件をモデルとした国鉄総裁死亡事件が起きており(霜川事件)、淀山事件は霜川事件の予行演習だった事が示唆されている。
フレッド・キノシタ 
GHQ参謀本部第二部所属の中尉。日系二世で仁朗の上司。
加東
CICのキャノン少佐の組織で働く日本人。
霜川則之
国鉄公社初代総裁。GHQのシャグノンから95,000人の削減を迫られていたが、一ヵ月の苦悶の末34,000人の人員整理を発表する。
下田警部
波奈夫の父親で刑事。霜川事件の捜査担当。天外仁朗(祐天寺富雄)と桜辰会をマークしており、彼と過去に起きた淀山事件との関わりを探っている。
田沼
淀山事件を捜査していた刑事。下田警部とは旧知の間柄で下田夫人の恩人でもある。逃亡した仁朗の行方を追っている。
金城呉成
仁朗に暗殺命令を伝えた人物。後に桜辰会副会長となる。

単行本[編集]

章タイトル[編集]

第1章 帰郷 / 第2章 祝殿 / 第3章 加東という男 / 第4章 時の亀裂 / 第5章 轢死体 / 第6章 烙印 / 第7章 擬態 / 第8章 窖(あなぐら) / 第9章 証言 / 第10章 生ける屍 / 第11章 動乱の翳(かげ) / 第12章 さなぎ / 第13章 人形の家 / 第14章 泥流 / 第15章 光陰 / 第16章 桜辰会 / 第17章 合歓(ねむ)の花 / 第18章 人間回路 / 第19章 暗黒

エピソード[編集]

  • 担当編集者が、題名の変更をしつこく迫っており、手塚が訳を聞くと、妻の名前と一緒だったからだと話している。[1]
  • 作品と直接の関係はないが、作者は戦後間もない頃に言葉が通じないことで酔っ払った米兵に殴り倒された経験をもち、鉄腕アトム執筆のきっかけとなった[2]

舞台[編集]

手塚治虫生誕90周年記念事業の一環として、2019年に水戸、東京、大阪で上演。

キャスト[編集]

スタッフ[編集]

関連項目[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 『奇子 手塚治虫漫画全集』あとがき
  2. ^ 手塚治虫 『ぼくはマンガ家』1979年、大和書房、第二章廃墟のあちこちで、p.43

外部リンク[編集]