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ブラックボックス (航空)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ブラックボックスの例。手前が説明のためにケースを開けた状態、中がフライトデータレコーダ、奥がコクピットボイスレコーダ

ブラックボックスとは、フライトデータレコーダー(FDR)およびコックピットボイスレコーダー(CVR)の通称である。

航空事故に関してブラックボックスと表現する場合は、FDRないしはCVRそれぞれ、あるいは双方をまとめて指している。航空事故の原因調査に大きな役割を持つ。一定以上の乗客を乗せる旅客機では装備が義務づけられているが、自家用の小型機には一般に装備されない。軍用機は装備しない国が多いが、自衛隊機にはほぼ搭載されている。自家用機や軍用機の事故の場合は、生存者からの聞き取りや機体分析で原因究明を行うことになる。

このブラックボックスにはウォーターロケータビーコン(アコースティック・ビーコン)が取り付けられ、水没した場合でもソナーによる捜索が可能なように配慮されているものも多い。このビーコンの寿命は当初30日ほどのものが一般的だったが、2014年に発生したマレーシア航空370便墜落事故を契機に90日ほどに延長された。

最新のブラックボックスは、コックピットボイスレコーダー (CVR) とフライトデータレコーダー (FDR) を1つにした、コックピットボイスフライトレコーダー (CVFDR) がある[1]

ブラックボックスとは内容物が隠蔽ないしは封印されていること、内部構造を知る必要はないことの比喩的形容であり、形状は円筒形や球形の物もあるほか、事故後に発見・回収しやすいよう、赤色やオレンジ色に塗装されている。

概要

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ATR 42の胴体外部に示されたフライトレコーダーの搭載位置
SH-60Jに搭載されたドラム形のFDR。「危険ではありません。拾った方は最寄りの自衛隊へ御連絡下さい。」と日本語と英語で書かれている。墜落した場合は確実に回収出来るよう、機体外側に取り付けられている
Tu-22M3に搭載された球形のFDR

事故が発生した際、乗員・乗客が全員死亡することも珍しくない航空事故では、事故原因究明の手掛かりを得ることが大変難しい。そのため、飛行中のコックピット内で操縦士たちが交わした会話や航空交通管制機関との交信内容、機体の飛行状況を記録し続けることにより、事故原因究明のための手掛かりとするべく旅客機に搭載されていることが多く、法によって搭載装備を義務付ける国もある。アメリカなど国によっては軍用機にも搭載義務がある。

すべてを記録すると記録量が膨大になるため、古いデータを上書きで消しながら直近の出来事をエンドレスに記録する。このため、一定時間以前のデータは記録に残らない。

外装は墜落に伴う衝撃や火災、海没に耐えられるよう高い耐衝撃性・耐熱性・耐水性を備えた密閉容器である。搭載位置は、比較的破損が及びにくいとされる機体尾部に設置される例が多く、ヘリコプターでは外部に露出させ機体に大きな衝撃が加わった際に脱落させる設計もある[2]

破損はないが事故発生時に電源が喪失したために墜落前に記録が停止し、事故原因解明に支障をきたす場合もある(アメリカン航空191便墜落事故大韓航空機撃墜事件スイス航空111便墜落事故など)。

ブラックボックスの解析ができる国は、アメリカ合衆国、イギリス、フランス、ドイツなどに限られている[3]

日本の搭載義務

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日本では、1966年2月の全日空羽田沖墜落事故を教訓に、航空法「第六十一条第一項」および航空法施行規則「第百四十九条」(航空機の運航の状況を記録するための装置)に搭載が義務づけられている航空機および記録内容が定められている。

搭載が義務づけられている航空機は航空機の種別(飛行機回転翼航空機)、最大離陸重量、最初の耐空証明が行われた年月等で異なる。 飛行機の場合は最大離陸重量が5,700kg[注釈 1]を超えるもの、回転翼航空機の場合は最大離陸重量が3,180kgを超えるもの(CVRのみ、FDRは最大離陸重量が7,000kgを超えるもの)が搭載を義務づけられている。

消防防災ヘリコプターに採用される機種の多くは最大離陸重量の制限を超えないため[注釈 2]FDRの搭載義務は無く、工事期間中に出動できないことや1000万円以上と高価なことがネックとなり[4]導入している自治体は30%以下とされる[5]

日本での航空機事故ではヘリコプターについで小型の固定翼機が多い(約28%)ものの、価格の他にも計器との接続が複雑で重量もあり義務化のハードルが高いとされてきた。近年では軽量で小型機にも搭載しやすい簡易型FDRが登場していることから、国交省ではボランティアを募って検証実験を行う予定[4]

自衛隊は対象外であるが、おおむねCVRとFDRが搭載されている[6]。海上自衛隊と航空自衛隊のヘリコプターは洋上飛行を想定し外部に設置し、ウォーターロケータビーコンも追加している[2]

フライトデータレコーダー

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ハネウェル社製のFDR。「フライトレコーダー 開けるな」とフランス語で大書されている(裏側には全く同じ文言が英語で記されている)。右側の箱型の部分は水中ロケータービーコン収められている。
FDRと人間(BEA職員)の大きさ比較。後ろは解析装置。

フライトデータレコーダーFDR、Flight Data RecorderまたはADR、accident data recorder)は、搭載された航空機の電子システムに送信された命令を記録する電子機器である。現在該当する FAA TSO(Technical Standard Order) は、「C124b」(Flight Data Recorder Systems)である[7]

FDRに記録されたデータから航空機の安全性の問題、疲労、およびエンジン性能を分析して、主に事故調査のために使用される。また、フライトに最適な燃料消費および危険な運航乗務員の習慣分析に、飛行監視データプログラムが利用される。記録されたデータは事故調査のために使用するものと同じ技術で定期的に解析される。

米国の連邦規制で記録が必要なパラメータは、2002年までは29個であったが、アメリカ同時多発テロ事件を引き金に88個へと大きく引き上げられた。また、いくつかのシステムでは、より多くの変数を監視する。

現在のFDRは、フライトデータ取得ユニット(FDAU:Flight Data Acquisition Units)から特定のデータフレームを介して、パラメータを受け取る。それらが操作の入力、アクチュエータの位置、エンジンの状態、時刻といった重要な飛行パラメータを記録する。

一般に各パラメータはその重要度に応じて設定された毎秒数回の頻度で記録されている。データが急激に変化を始めた場合、一部のユニットストアは通常よりはるかに高い周波数でデータの「バースト」が起こる。全ての必須パラメータが記録されていることを確認するFDRの検証確認(読み出し)を毎年行うことが義務付けられている。

FDRのデータは携帯型半導体記録装置に記憶されるか、無線や衛星を介して事業者の本社にある航空機のクイックアクセスレコーダー(QAR:Quick Access Recorder)へ転送され、通常時は事業者の安全対策[8]に活用されている。

事故調査などで重要となるため、ICAOで規制された装置は慎重に設計され、高加速度の衝撃および高温の火災などに耐えられるような構造をしている。現代のFDRは、高耐腐食性のステンレス鋼および高耐熱性、高強度のチタンによる二重構造となっている[9]

ウォーターロケータビーコンは、FDRの前面固定ブラケットにボルトで取り付けられている。これは、最大30日間、最大6000メートル(2万フィート)の深さに沈んでも、超音波で「ピング(ピンガー)」(音波信号。pingと同じ)を放出するよう設計されている[9]

また「ブラックボックス」と呼ばれるのに反し、残骸の中でも高い視認性を持たせるため、FDRの外面は耐熱の「レスキューオレンジ[注釈 3]」で塗装されている事が多い。一般に、ユニットは深刻なクラッシュによる破損をしにくい航空機の尾翼(尾部)に装着される。

事故後、記録されたパラメータの分析は多くの場合原因や要因を特定できるため、FDRの解析は調査の優先度が高い[10]

FDRの試作機は、航空機事故で亡くしたオーストラリアの科学者デイヴィッド・ウォーレン英語版(1925年3月20日 - 2010年7月19日)が、1956年に初めて設計した。開発当初は、ステンレスなど金属製のテープにダイヤモンド製の針で飛行高度、飛行速度などのデータを刻印する方式だったが、1980年代までにデジタル化され、最低でも(事故による)動作停止前400時間の詳細なデータ(機体に加わった加速度やエンジン回転数など)が記録できるようになった。

コックピットボイスレコーダー

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コクピットボイスレコーダの例(フェアチャイルド・A100型) 「ボイスレコーダ/開けるな」と右側面にフランス語で大書されている(左側は英語表記) 操作面は左から、記録再生のための保護カバー付きスピーカージャック、電池残量計、再生ボタン

コックピットボイスレコーダー(CVR)は、航空事故の原因究明に役立てるため、主にコックピット内の音声と管制官との交信内容を録音するために使用される。

最も古いCVRでは、ワイヤーレコーダーを使っており、のちに磁気テープ(エンドレステープ)へ記録するアナログ方式へ移行した。現在では、内蔵されたフラッシュメモリにデジタル情報を記録する方式が主流で、墜落の衝撃や、火災の高温、深海の高水圧に耐えられるよう設計されている[11]。デジタル方式は、同じテープを繰り返し使用するアナログ方式より衝撃に強く壊れにくいのが特徴である[12]

フライトレコーダーと同様、CVRには電池が組み込まれており、電波超音波を発信する装置が付属している[12]。深海に沈んだ場合は発信された信号をソナーで探知することで捜索するが、信号が送信される期間はフライトレコーダーと同様に約30日であり、時間との戦いとなる。信号が途切れてから発見される場合もあり、2009年に発生したエールフランス447便墜落事故では、水深約4000mの深海から、事件の1年11ヶ月後にブラックボックスの回収に成功した[13]

回収

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海没した場合に発見を容易にするため位置通報用のウォーターロケータビーコン(アコースティック・ビーコン)を内蔵しているものもあるが[注釈 4]バッテリーが30日しか持たない[14]。そのため、引き上げ準備に手間取った場合、バッテリー切れで捜索が困難になることもある。

ごくまれにではあるが、ブラックボックスのうちどちらか一方もしくは両方とも発見できない場合がある(→w:List of unrecovered flight recorders)。

から引き揚げた場合、海水の塩分によるで電子部品を傷めてしまうため、まず真水で海水を洗い流し、空気(すなわち酸素)との接触を絶ち、錆の発生や進行を抑えるべく、純水を張ったクーラーボックスに入れられ、解析当局にクーラーボックスごと送られる。

事故以外

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新型機のテスト飛行ではFDRに記録されたデータが利用される。テストパイロットはFDRの情報と操縦した感覚を照らし合わせながら技術者に説明を行う。

レッドブル・エアレース・ワールドシリーズでは機体に搭載されたEFISのデータをリアルタイムに伝送することで、機体の高度、速度、加速度が実況画面に表示されるようになっている。また参加チームはこのデータを解析し次回のフライトに活かしている。

脚注

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注釈

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  1. 参考として、新日本航空が使用する乗客19名乗りのターボプロップ機ドルニエ 228」の最大離陸重量は6,400 kg
  2. ベル 412は5,397kg、BK117は2,850 kgである。7,000kgを超えるのはCH-47のような大型ヘリコプターであり、日本では自衛隊以外の導入例は少ない。
  3. 消防服や救難機などに使われる明るいオレンジ色
  4. 2014年マレーシア航空機、南東インド洋。

出典

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  1. 会社沿革”. 東京計器航空株式会社公式サイト. 2015年12月14日閲覧。
  2. 1 2 洋上事故想定外、発信機能なく フライトレコーダー―陸自ヘリ事故:時事ドットコム”. 時事ドットコム. 2023年4月20日閲覧。
  3. 墜落機ブラックボックス、米国への引き渡し否定”. AFP (2020年1月9日). 2020年1月9日閲覧。
  4. 1 2 国交省:小型機にフライトレコーダー 実証実験へ - 毎日新聞
  5. 河北新報 2018年8月12日 3面
  6. 佐賀・神埼の陸自ヘリ墜落:飛行データ異常なし 陸自調査長期化へ - 毎日新聞
  7. Flight Data Recorder Systems (PDF). Federal Aviation Administration (2007年4月10日). 2010年4月8日閲覧。
  8. 飛行データ解析技術(FDM/FOQA)の動向”. (公財)航空機国際共同開発促進基金. 2021年8月20日閲覧。
  9. 1 2 Flight Data Recorder OSA”. 2015年5月6日閲覧。
  10. Section 3 Point B of TSO-C124b
  11. 航空事故を技術的に考察してみる(3)事故の経過を再現する”. マイナビニュース (2020年6月30日). 2026年2月7日閲覧。
  12. 1 2 飛行機の「ブラックボックス」:現状と未来”. WIRED (2009年3月10日). 2026年2月7日閲覧。
  13. ブラジル沖墜落のエールフランス機、レコーダー回収”. 日本経済新聞 (2011年5月2日). 2026年2月7日閲覧。
  14. フライトレコーダのはなし (PDF). 海上保安庁. 2015年5月6日閲覧。

関連項目

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