ブラックボックス (航空)

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ブラックボックスの例。手前が説明のためにケースを開けた状態、中がフライトデータレコーダ、奥がコクピットボイスレコーダ

ブラックボックスとは、フライトデータレコーダー (FDR) とコックピットボイスレコーダー (CVR) の通称である。

航空事故に関してブラックボックスと表現する場合は、FDRないしはCVRそれぞれ、あるいは双方をまとめて指している。航空事故の原因調査に大きな役割を持つ。旅客機に装備され、個人所有の軽飛行機には一般に装備されず、軍用機にも装備しない国が多い。そのため、自家用機や軍用機の事故の場合は、生き残った乗員からの聞き取りや機体分析に原因究明を待つことになる。

日本の自衛隊が運用する航空機には、大体搭載されている。最新のブラックボックスは、CVRとFDRを1つにしたコックピットボイスフライトレコーダー (CVFDR) がある。

ブラックボックスとは内容物が隠蔽ないしは封印されていることの比喩的形容であり、形状は円筒形や球形の物もあるほか、事故後に発見・回収しやすいよう、赤色やオレンジ色に塗装されているなど、実際には「」ではない。

概要[編集]

SH-60Jに搭載された円筒形のFDR。「危険物ではない。拾った場合は自衛隊に連絡」と日本語と英語で書かれている。
Tu-22M3に搭載された球形のFDR

事故が発生した際、乗員・乗客が全員死亡することも珍しくない航空事故では、事故原因究明の手掛かりを得ることが大変難しい。そのため、飛行中のコックピット内で操縦士たちが交わした会話や航空交通管制機関との交信内容、機体の飛行状況を記録し続けることにより、事故原因究明のための手掛かりとするべく旅客機に搭載されていることが多く、法によって搭載装備を義務付ける国もある。アメリカなど国によっては軍用機にも搭載義務がある。

すべてを記録すると記録量が膨大になるため、古いデータを消しながら直近の出来事をエンドレスに(記録を書き換えながら)記録する。このため、一定時間以前のデータは記録に残らない。

外装は、墜落に伴う衝撃や火災、海没に耐えられるよう高い耐衝撃性・耐熱性・耐水性を備えた密閉容器である。搭載位置は、比較的破損が及びにくいとされる機体尾部が多い。ただし、事故発生時に電源が喪失したために墜落前に記録が停止し、事故原因解明に支障をきたす場合もある(アメリカン航空191便墜落事故大韓航空機撃墜事件スイス航空111便墜落事故など)。

日本の搭載義務[編集]

日本では、航空法「第六十一条第一項」および航空法施行規則「第百四十九条」(航空機の運航の状況を記録するための装置)に搭載が義務づけられている航空機および記録内容が定められている。

搭載が義務づけられている航空機は航空機の種別(飛行機回転翼航空機)、最大離陸重量、最初の耐空証明が行われた年月等で異なる。 飛行機の場合は最大離陸重量が5,700kgを超えるもの、回転翼航空機の場合は最大離陸重量が3,180kgを超えるもの(CVRのみ、FDRは最大離陸重量が7,000kgを超えるもの)が搭載を義務づけられている。

自衛隊機は航空法の対象外であるが、おおむねフライトデータレコーダーが搭載されている。

日本の製造メーカー[編集]

日本国内で開発、設計、製造販売しているのは東京航空計器1社のみである。※輸入販売しているメーカーは数社ある。

フライトデータレコーダー(FDR)[編集]

フライトデータレコーダの例。「フライトレコーダ/開けるな」とフランス語で大書されている

フライトデータレコーダー(FDR、またはADR:accident data recorder)は、航空機の様々な電子システムに送信された命令を記録する電子機器である。搭載した航空機の飛行記録を記録する。現在該当する FAA TSO(Technical Standard Order) は、「C124b」(Flight Data Recorder Systems)である[2]

FDRに記録されたデータは、航空機の安全性の問題、疲労、エンジン性能を分析するなどして、事故調査のために使用する。事故調査で重要となるため、ICAOで規制された装置は慎重に設計され、高速の衝撃による力と強烈な火災に耐えられるように、しっかりと構成されている。

一般的に「ブラックボックス」と呼ばれるのに反し、残骸の中で高い視認性を持たせるため、FDRの外面は耐熱の明るいオレンジ色塗料が散布されている。ユニットは一般的に、深刻なクラッシュから破損しにくい、航空機の尾翼(尾部)に装着されている。

事故後、記録されたパラメータの分析は多くの場合原因や要因を特定できるため、FDRの解析は調査の優先度が高い[3]

現在のFDRは、フライトデータ取得ユニット(FDAU:Flight Data Acquisition Units)から特定のデータフレームを介して、入力を受け取る。それらがコントロール、アクチュエータ位置、エンジン情報、時刻を含む重要な飛行パラメータを記録する。

現在の米国の連邦規制では最低限88個の必要なパラメータがある。2002年までは29個だけ必要だった。しかし、いくつかのシステムでは、より多くの変数を監視する。

一般に各パラメータは毎秒数回記録されている。データが急激に変化を始めた場合、一部のユニットストアははるかに高い周波数でデータの「バースト」が起こる。全ての必須パラメータが記録されていることを確認するために、FDRの検証確認(読み出し)することが毎年規制によって必要である。

また、フライトに最適な燃料消費と危険な運航乗務員の習慣を分析することに、飛行監視データプログラムが利用される。FDRからのデータはその場で半導体記録装置に転送され、事故調査のために使用する同じ技術で定期的に解析する。

他のケースでは、携帯型半導体記録装置に転送するか、無線や衛星を介して事業者の本社に直接アップロードすることによって、どちらかの方法で、データを航空機のクイックアクセスレコーダー(QAR:Quick Access Recorder)からダウンロードする。

また、現代のFDRは、強い耐腐食性ステンレス鋼やチタンと内側は高温断熱で二重構造になっている。ウオータロケータビーコンは、FDRの全面にボルトで固定ブラケットに取り付けられている。これは、最大30日間、最大6000メートル(2万フィート)の深さに沈んでも、超音波で「ピング」を放出するよう設計されている[4]

FDRの試作機は、航空機事故で亡くした、オーストラリアの科学者デイヴィッド・ウォーレン(1925年3月20日 - 2010年7月19日)が、1956年に初めて設計した。開発当初は、ステンレスなど金属製のテープにダイヤモンド製の針で飛行高度、飛行速度などのデータを刻印する方式だったが、1980年代までにデジタル化され、最低でも(事故による)動作停止前400時間の詳細なデータ(機体に加わった加速度やエンジン回転数など)が記録できるようになった。

コックピットボイスレコーダー(CVR)[編集]

コクピットボイスレコーダの例 右側面に「ボイスレコーダ/開けるな」とフランス語で大書されている

コックピットボイスレコーダー(CVR)は、航空機事故や事件の捜査のため、旅客機のコックピット内の音声を録音するために使用する。

旅客機のコックピット天井に会話収音用マイクロフォンが装備されているとともに、航空無線機の音声信号(航空交通管制)も簡易なミキサーを通じて収録される。 該当するFAA TSOはC123b「Cockpit Voice Recorder Equipment」である。[5]

ほかの場所に記録されない限り、航空機はCVRを携帯する必要があり、CVRは航空交通管制との通信を記録することが要求される。 2008年現在、記録時間が2時間以上であることがFAAの要件である。[6]

標準的なCVRは、2時間に4チャネルのオーディオデータを記録することができる。 以前の要件では記録は30分間だったが、調査に必要な音声データの重要な部分は記録終了の30分以上前にあるなど、多くの場合に不十分だった。

最も古いCVRでは、アナログワイヤレコーディングを使っており、のちにアナログ磁気テープに変わった。 テープユニットでは、テープは自動的に終端部で反転し、2つのリールを使用していた。

ほかのユニットでは、8トラックカートリッジと同じサイズのエンドレステープの単一のリールを使用していた。 テープが一巡すると古いオーディオ情報は30分ごとに上書きされる。 レコーダが水中から回収され、媒体が破れている場合は、磁気テープからの音声の回復が困難になることがある。 そのため、最新のデザインでは固体メモリを採用して、デジタル記録技術を使用し、衝撃、振動、湿気に耐えられるようにしている。

バッテリーをユニットに組み込むことが多く、その結果、航空機の電気系統が故障しても飛行終了まで記録を継続することができる。

回収[編集]

海没した場合に発見を容易にするため位置通報用の音響発信機(アコースティック・ビーコン)を内蔵しているものもある[7]。ただし、バッテリーが30日しか持たない[8]。そのため、引き上げ準備に手間取った場合、バッテリー切れで捜索が困難になることもある。

ごくまれにではあるが、ブラックボックスのうちどちらか一方もしくは両方とも発見できない場合がある(→w:List of unrecovered flight recorders)。

から引き揚げた場合、海水の塩分によるで電子部品を傷めてしまうため、まず真水で海水を洗い流し、空気(すなわち酸素)との接触を絶ち、錆の発生や進行を抑えるべく、純水を張ったクーラーボックスに入れられ、解析当局にクーラーボックスごと送られる。

出典[編集]

  1. ^ 会社沿革”. 東京計器航空株式会社公式サイト. 2015年12月14日閲覧。
  2. ^ Flight Data Recorder Systems (PDF)”. Federal Aviation Administration (2007年4月10日). 2010年4月8日閲覧。
  3. ^ Section 3 Point B of TSO-C124b
  4. ^ Flight Data Recorder OSA”. 2015年5月6日閲覧。
  5. ^ Cockpit Voice Recorder Equipment (PDF)”. Federal Aviation Administration (2006年6月1日). 2015年9月5日閲覧。
  6. ^ Federal Aviation Regulation Sec. 121.359(h)(i)(2), amendment 338 and greater - Cockpit voice recorders”. Risingup.com. 2015年9月5日閲覧。
  7. ^ 2014年マレーシア航空機、南東インド洋。
  8. ^ フライトレコーダのはなし (PDF)”. 海上保安庁. 2015年5月6日閲覧。

関連項目[編集]