機長

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ボーイング757の操縦席。左の人物が機長(ATA航空、2008年)

機長(きちょう、: Pilot in command)とは、航空機乗員のうちの最高責任者・管理者である。

概要[編集]

訓練生向けのフライトコンピュータ

一般的に機長とは、航空機の機長を指す。操縦、他の乗員に対する命令と指揮、機内における最終責任の3つが主な役目である。

旅客機または貨物機では、船舶と同じくキャプテンと呼ばれる。小型機や自家用機、ビジネスジェットの機長は、PIC(ピーアイシー。PILOT IN COMMANDの略で指揮操縦士)と呼ばれる。

法的に座席の指定はないが、機長が左席、副操縦士が右席に着席するのが一般的となっている。これは船舶は必ず左舷で接岸することから、船長の席が常に見通しの良いブリッジの左寄りにあった時代の名残りである[1]

ヘリコプターでは逆に、右が機長席になる。これは、計器盤のスイッチなどを操作する際、スロットルレバーを扱う左手を一時的に離せば済むため。飛行機と異なり、右手は操縦桿を保持し続けなければならないので離すわけにはいかない(左隣の副操縦士席も配置は全く同じで、スロットルレバーは座席左側に付いている)。

日本の場合、旅客機貨物機の機長の殆どは「定期運送用操縦士の資格」を要し、更に技能限定証明(操縦できる機種や路線などが個別に細かく分かれている)も必要。

なお、その他のフライトでは、事業用操縦士自家用操縦士の資格のみでも機長業務を行うことができる。

勤務中に携帯しているトランク(副操縦士も同じ物を持つ)は「フライトケース」または「フライトバッグ」といい、中には免許証(定期運送用操縦士の航空従事者技能証明書、航空身体検査証明書、航空無線通信士無線従事者免許証、技能限定証明書(研修を終え、審査にも及第し動かせる機種の証明)の4つ。さらに国際線では2008年(平成20年)3月5日から航空英語能力証明書も必要になった)、航空図、運用する機体に関するマニュアル、社内規定集、通信用のヘッドセット(個人用が貸与されている場合)、手袋サングラスなどが収められている。

免許証と証明書以外は、全て勤務先からの貸与品である。さらに、フライトコンピュータ(航法計算盤。計算尺の一種)を持つ場合もある。フライトケース自体も、一般的なトランクとは構造が違い、操縦席でいつでも参照など出来るよう、鞄同様に立てた状態で開けられるようになっている。

目的地で一泊する勤務の場合には、これにオーバーナイトバッグ、ステイバッグなどと呼ばれる、着替えや私物を入れた鞄が荷物に加わる。乗務員だからといって、空港ターミナルビルでの出入国審査航空保安検査が、フリーパスや全く検査が無いということはなく、従業員専用の通路で、保安検査を受ける(当然パスポートも持っている)。

21世紀に入ってからは、規定集や航空図がタブレット端末に記録され、電子化・軽量化が進んでいる[2]

団体として「日本航空機操縦士協会」がある。

航空法上の機長[編集]

航空法では機長(英訳はPILOT IN COMMAND)と呼び、小型機・大型機等で名称上の違いはない。自家用飛行でも自家用操縦士が、使用事業でも事業用操縦士が機長となる。航空運送事業において、操縦に2人を要する航空機の機長は定期運送用操縦士の資格が必要であるが、1人で操縦できる航空機は事業用操縦士であっても機長となれる。

ただし、航空運送事業の機長は単に定期運送用操縦士等の技能証明を受けているだけでは足らず、軽量機を除きさらに別途機長認定が必要である。

機長認定[編集]

日本の場合、航空運送事業の一定以上の大きさの航空機に乗り組む機長は、必要な知識及び能力を有することについて国土交通大臣の認定を受けなければならない。[3]

機長認定は事業者や型式ごとになされ、初期認定審査と、所定の定期審査及び訓練がある。機長資格を維持するためには審査・訓練を受け続けなければならない。[4]

具体的には次の事項に関して審査が行われる。

1. 航空機の運航に関する次の事項に係る知識及び能力
イ 出発前の確認
ロ 航空機の出発及び飛行計画の変更に係る運航管理者の承認
ハ 航空機乗組員及び客室乗務員に対する指揮監督
ニ 安全阻害行為等の抑止の措置、危難の場合の措置その他の航空機の運航における安全管理
2. 通常状態及び異常状態における航空機の操作及び措置

上記の1.に関する審査は路線審査、2.に関する審査は技能審査と呼ばれ、それぞれ個別に行われる。

米国では基本的に航空会社の社内審査により機長資格を認定しているが、初期審査時には国の運航審査官が同乗する。

その他国でも概ね、上記と同様の制度が取られている。

他の輸送機関の長との違い[編集]

航空機では、最高指揮者である機長が自ら操縦も行うのが普通であるが、航法装置の発展していなかった時代の大型機では『機長』は爆撃手や航法士であった。多くの軍隊では副操縦士として経験を積み指揮操縦士へ昇格、その後は機長である航法士や爆撃手になるというキャリアが一般的であった[5]

現代では航法装置の進化により自動化されたため、航法士は通信手と統合された『航法・通信員』の任務となり、操縦士とはキャリアが別れている。哨戒機救難機などでは、任務に関する専門的な教育を受けた搭乗員が指揮操縦士と階級が同じ場合、機長扱いになるため『任務機長』とも呼ばれる。また機長ではなくても専門的な判断において指揮操縦士よりも命令優先権がある。海上自衛隊では戦術航空士(哨戒機)や捜索救難調整官(救難機)が任務機長として戦術的な判断を下し、指揮操縦士は任務機長の指示に基づいて航路を設定する。

なお航空機以外では最高指揮者が操縦するとは限らない。

  • 船舶
    • 小規模な船舶(ヨット)では『船長』(: Sea captain)が操縦者であることも多い。このように最高責任者と操舵手が兼任の場合、また軍艦の場合は『艇長』(: skipper)とも称される(英語では区別なくcaptain)。
    • 大型船の場合、船長は他の乗組員への指示など指揮に専念し、個別の業務は操舵手や航海士などの専門職員が担当している。
    • 漁船では船長ではなく漁労長が責任者。
  • 列車
    • 通常、列車の長は車掌である。ただし、これは業務上の指示命令系統上の取扱いであって、職制上は運転士が上の場合もある。運転指令所からの指示は車掌が受け、それを車内電話で運転士に伝える。ワンマン運転の場合は運転士が長となる。
  • 宇宙船
    • 有人宇宙船の場合も最高責任者は船長と呼称するが、英語ではキャプテンではなくコマンダー: Commander(CDR))である。
    • 業務は乗組員の指揮であり、航空機よりも大型船舶の船長に近い。

脚注[編集]

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  1. ^ http://answer.google.com/answers/threadview?id=285050 (19 Dec 2007)
  2. ^ このタブレット端末は、高度1万メートル以上を飛行中のみに使用されることを条件に、耐空証明の取得が不要
  3. ^ 国土交通省・航空:機長の認定制度(航空法第72条)
  4. ^ ボーイング787のバッテリー問題による運航停止中は、この定期審査を受けられないために機長資格が失効したパイロットが問題となり、機長認定の柔軟な運用を行うなどの特例措置がとられた。
  5. ^ 戦車でも同じで、操縦手が車長を兼ねるわけではない。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]