8トラック

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
8トラックカートリッジテープ
カートリッジの内部
センシングテープ 中央の銀色部分

8トラック(8トラック・カートリッジテープ)は、カートリッジ式の磁気テープ再生装置および媒体の一種を指す名称である。2トラックのステレオチャンネルが4つあり、合計8トラックの信号が録音されていたため、この名前がある。日本では略して俗に「8トラ」(ハチトラ)とも呼ばれた。

概要[編集]

自動車用ラジオを世界で初めて実用化し、その後ビジネスジェットで有名になったリアジェットの創業者、ビル・リアが中心となり、RCAビクター社をはじめとする数社のコンソシウムによって、1965年にステレオ録音された音楽を手軽に再生できるメディアとして開発された。主たる想定用途はカーオーディオでの使用である。

当時広く普及していたオープンリール式のテープレコーダーは自家用車で気軽に使うには取扱いが不便であり、また1962年に開発されていたコンパクトカセット(カセットテープ)は、テープ幅の小ささなどから当時は会議記録等の会話録音が想定用途で、音楽用メディアとして認識されていなかったことが、出現の背景にある。

本来の用途であるカーオーディオのほか、日本ではカラオケ装置での音楽再生や、バス車内放送など業務用途に用いられた。

構造面から再生専用に特化した傾向の強いメディアで、おもにミュージックテープとしてレコード会社から録音済みのカートリッジが発売されていた。据え置き型の録音再生機も一部メーカーから発売されていたが、一般化しなかった。

カートリッジの構造[編集]

右上にピンチローラーがある。リールは右回りに回転する
(比較) 4トラックの元となったフィデリパックカートリッジ。ピンチローラーはなく、穴が開いている

媒体は幅6.35mm(1/4インチ)の磁気テープの始端と終端をつないだエンドレス式テープである。テープは1個のリールに巻かれ、リール最内周から引き出されたテープが、カートリッジケースの再生用の窓部分を経てリール最外周に巻き取られる構造になっている。リールはテープの引き出しによって受動的に回転し、カートリッジ外部からは直接駆動されない。テープ速度は毎秒9.5cm(3.75インチ)に設定されている。

その構造上、テープとリールの逆回転は不可能である。ミュージックテープとして市販されていた初期のカートリッジには、持ち運ぶ際、VHSビデオカセットなどと同じく振動で弛まないように、リールハブロック機構があった。プレーヤーに差し込むと、解除される。1980年代に入ると、市場ではカラオケテープしか販売されなくなったので、頻繁に持ち運ぶ理由が無くなったためか、ハブロック機構は消滅した。

構造上早送りによる曲の頭出しができず、トラックを切りかえることで楽曲プログラムを選択する。4つのプログラムが1本のテープに平行して録音されている。カーステレオ用8トラックデッキの場合、再生ヘッドは2トラックのみであるが、テープをつなぐアルミ箔製のセンシングテープを検出して、再生ヘッドを自動的にテープ幅方向に移動する機構により、全トラックを連続的に再生する。

欠点として、エンドレス構造とテープを介したリール駆動が理由で、テープには恒常的に無理な負荷がかかりがちになり、切断が発生しやすい点があげられる。補修する場合でも、カートリッジ開封後にテープをリールへ正しくセットすることが難しいため、レコード会社などが8トラックテープを補修する業務を請け負っていた時期もあった。

4トラックやその元となったフィデリパックと異なり、カートリッジ内にピンチローラーを内蔵している。このローラー表面にある合成ゴムが経時的に劣化しやすく、テープに癒着しがちである。そのため、現存するテープも経年したものは再生不能に陥っている場合が多い。

衰退[編集]

1970年代後半以降、メディア・デッキとも8トラックより安価で長時間録音可能なコンパクトカセットが、音質や耐久性を向上させ、ステレオ録音も可能となって広く普及した背景もあって、カーステレオ用としては衰退した。それでも、巻き戻し不要(一方向回転のみで巻き戻し不可能)の特徴は、カラオケ用や業務用自動アナウンス(路線バスなどの車内放送)等に適していたことから、1980年代後半までは8トラックはまだ広範囲で用いられていた。

しかしその後、リピート再生が容易なコンパクトディスクレーザーディスクといった代替メディアが普及、またアナウンス用途でも8トラックより効率的な音声合成による自動放送が出現するに至った。その結果8トラックの用途はほとんど廃れ、録音・再生機器の生産は終了し、テープも業務用の一部を除き現在では生産されていない。

関連項目[編集]