航空用エンジン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動先: 案内検索

航空用エンジン (こうくうようエンジン、英語:Aircraft engine)または航空エンジンは、航空機に搭載され、航空機の飛行に必要な推力(推進力)を生み出すエンジンである。補助動力装置ラムエア・タービンなど電源や油圧を確保するエンジンは含まれない。

現在使われている航空機用エンジンは全て内燃機関であるが、研究用又はデモンストレーション用に電動機などを使ったものが存在する(後述)。

概要[編集]

基本構造は自動車船舶に使用されるものと同等であるが、飛行機はエンジンが停止すると墜落するため、革新的な先端技術よりも信頼性が最重要視される。また重量が性能に大きく影響するため、パワーウエイトレシオ推力重量比燃料消費率が重視される。多くの国の航空法では、一定の飛行時間ごとにオーバーホールが必要となることや、エンジンのみを性能の向上した新型と交換することも多いため、メンテナンス性も考慮される。また旅客機では空港周辺への騒音被害を軽減するため静粛性も考慮される。飛行機は中古機の売買が盛んであり、長期にわたって部品が入手できれば資産価値の低下が防がれる。

基本的に離発着は整備スタッフが常駐する定められた場所(飛行場空港)に限られ、出発時間などスケジュールも決められているため、始動や暖気に時間や手間がかかっても問題とされない。また要件が厳しいため高価であるが、コストより安全性が重視されることから容認される。

黎明期には個人や小規模な工房による製作も多かったが、安全性が要求されるようになると技術力を有する大企業が優位となり、現代ではジェットエンジン市場はGE・アビエーションロールス・ロイスプラット・アンド・ホイットニーの三大メーカーがシェアを独占している[1]レシプロエンジンライカミング・エンジンズコンチネンタル・モータースのシェアが大きい。

分類[編集]

作動流体の種類、圧縮方法、推進力を発生させる流体の種類で分類すると次のようになる。

航空用エンジンの分類
エンジンのタイプ エンジン作動流体 圧縮の方法 推進力を発生させる流体
レシプロエンジン 燃料・空気混合気 ピストンの往復運動 空気
ターボジェットエンジン タービンで駆動する圧縮機の回転 燃焼ガス
ターボファンエンジン 空気/燃焼ガス
ターボプロップエンジン 空気+タービン後排気ガス
ターボシャフトエンジン 空気
ラムジェットエンジン 飛行により生じる動圧 燃焼ガス
パルスジェットエンジン 燃焼から生じる圧力と弁の開閉
ロケットエンジン 酸化剤・燃料混合気 燃焼から生じる圧力

タービンで駆動する圧縮機により混合気を圧縮するタイプ(排気タービン過給式ピストンエンジンを除く)のエンジンを、ガスタービンエンジンと総称することもある。

歴史[編集]

レシプロエンジン[編集]

ピストン機関を利用したエンジン。基本的には自動車用と共通し、個人レベルでも製作できることから、動力付き航空機の誕生時から使用されてきた。

第二次世界大戦中に飛躍的に発展、2,000馬力超のエンジンが実用化され、3,500馬力を発揮するエンジンまで出現した[2]。しかし、ジェットエンジンの発達とターボプロップエンジンの登場に加え、音速を超えると推力が著しく低下するので、プロペラ機は時速750km程度が限界[3]であることから、20世紀後半以降は小型機向けのみが生産されている。このため多数存在したレシプロエンジンのメーカーは廃業や統合が相次ぎ、2017年現在ではライカミング・エンジンズコンチネンタル・モータースがシェアを二分している。

初期にはロータリー式の星形が使われていたが、次第に空冷では星型液冷ではV型が主流となった。ロータリーエンジンを搭載した機体も存在する。

燃料は航空用ガソリンを使用するガソリンエンジンが主流だが、軽油を使用する航空用ディーゼルエンジンも存在する。また代替燃料の研究も行われている。

操縦士や整備士の資格では『ピストン』に分類される。

ジェットエンジン[編集]

操縦士や整備士の資格では、圧縮にタービンで駆動する圧縮機の回転を使うもの(ターボジェットエンジンターボファンエンジンターボプロップエンジンターボシャフトエンジン)は『タービン』に分類される。

その他[編集]

有人飛行するマルチコプターの試作機
世界一周を達成したソーラープレーンの有人実験機ソーラー・インパルス

現在の航空法では航空機のエンジンはレシプロとタービンのみが想定され、これ以外の動力について法的な区分は明確にされていない。現状では実験機のみであるため、操縦資格などは試験飛行等の許可で個別に審査される。

ラムジェット[編集]

ラムジェットエンジンはターボジェットに比べ構造が単純で軽量であり超音速での効率が高い利点があるが、静止状態から始動できない(単独で離陸できない)ため補助用や他のエンジンと組み合わせた統合型の実験が行われている。

パルスジェット[編集]

パルスジェットは構造が単純なため量産のハードルが低かったが、性能が高度に影響されやすいなどの問題から実験のみで終了した。

構造が単純で市販レベルの材料でも制作できるため、個人の趣味や原理を学ぶための教材として製作されている。

ロケット[編集]

ロケットエンジンを利用するロケット飛行機は、航空機の黎明期に存在したが、ジェットエンジンに置き換えられた。

離陸時の補助として使うJATO用として一部に使われていた。

原子力[編集]

核エネルギーを利用するものは原子力飛行機と呼ばれ、アメリカとソ連で研究が行われていた。

X-6計画では機内に小型原子炉を搭載し、取り出した熱で原子力ターボジェットエンジン4基を駆動し推進する予定だった。またラムジェットエンジンの熱源に原子力を用いる計画も存在した。

電動機[編集]

プロペラ機のエンジンを電動機に変更した機体は電気推進式、電動推進、電動飛行機などと呼ばれている。

JAXAでは『航空機用電動推進システム』の飛行実証機としてモーターグライダーHK36TTC-ECO)を改造した電動航空機を製作、飛行実験を行った[4]。JAXAでは電動機と内燃機関のハイブリッド推進システムの研究も行っている。

NASAでは電動航空機の技術実験"LEAR Tech"のためテクナムのP2006Tを母体とした18基のモーターを搭載した改造機を製作した[5]

2011年にはドイツの企業E-voloが16の回転翼を持つ電動の有人マルチコプターを試作した[6]

2017年3月23日にはエクストラが自社のEA-300に出力260kWのシーメンス製モーターを搭載した改造機により約340 km/h に到達、電動飛行機の速度記録を樹立した。また翌日には、世界で初めてグライダーを牽引した電動飛行機となった[7]

モーターグライダーには電動機でプロペラを回す機種が存在する(免許は内燃機関と共通)。

太陽電池を使用した電動機はソーラープレーンと呼ばれ、無人機だけでなく有人機も製作されている。

搭載パターン[編集]

旅客機には、さまざまな航空用エンジンの搭載パターンがある。このうち、エンジンを後部に搭載するものをリアエンジン方式とよぶ。航空機に取り付けられたエンジンは通常「発(はつ)(発動機)」で数え、エンジンを2基搭載する旅客機は双発機(そうはつき)、3基取り付けるときは3発機、4基の場合は4発機などとよばれる。

航空機のエンジンは左右でバランスが取れるように配置する。2発や4発の偶数では、一般的には、両主翼下もしくは後部の両端に同じ数ずつのエンジンを配置する。3発では、2発の配置に加えて垂直尾翼基部に1基を配置する。

以前は、双発機の場合、エンジン1基が停止した場合に備え、最寄の空港から120分以上離れたところを飛ぶことが出来ず、大洋を最短経路で飛ぶことは許されなかった(これをETOPS 120という)。そのため、3発機は、双発機ではできない洋上飛行が可能でありつつも、4発機よりエンジンを1つ少なくすることができ、大型旅客機市場でそれなりの地位を占めていた。

しかし、3発機ではDC-10のように垂直尾翼の根元付近にエンジンを設けると位置が高いため整備が難しくなり、L-1011のようにS字ダクトにすると吸気効率が犠牲となる。また双発機でも十分な推力のエンジンが登場し、最寄の空港から180分 (ETOPS 180) や207分 (ETOPS 207) 離れた地点を飛ぶことが可能との認定を受けた信頼性の高いエンジンが登場すると、双発機での大洋横断も可能になった。このことによって、3発機はその活躍の場を大きく狭めることとなった。しかし、そうした3発機は旅客機としては数が少なくなってきているものの、貨物機としてフェデックスなどに中古で買い取られるケースが増えている。

HondaJetは主翼の上面にエンジンを配置するOver The Wing Engine Mount(OTWEM)を採用した。

出典[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]