中性子

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古典的なリチウム原子の原子模型 青い球体が中性子を表す。原子核や電子、軌道の縮尺は正しくなく、実際に定まった軌道を回っているわけでもない

中性子(ちゅうせいし、neutron)は、バリオンの一種。原子核の構成要素の一つ。陽子1個でできている1Hと陽子3個で出来ている3Liの2つを例外として、すべての原子の原子核は、陽子と中性子だけから構成されている。陽子と中性子を核子と呼ぶ。質量数は1、電荷は0、1/2のスピン、-1/2のアイソスピン、0のストレンジネス、1/2の超電荷を持つ。原子核内で核子同士をまとめておく力についてはパイ中間子に詳しい。

特徴[編集]

中性子は、電荷がゼロ(中性)の粒子で、質量は1.674 927 351(74)×10-27kg[1] (939.565 379(21)MeV[2])であり、同じ核子である陽子よりわずかに大きいだけである。そこで、陽子と中性子をあわせて、アイソスピンが1/2の核子と呼び、+1/2の状態が陽子、-1/2の状態が中性子であるとする。

直径は約1fm。原子核の外ではわずかな例外を除いて中性子は不安定であり、陽子と電子および反電子ニュートリノに崩壊する。平均寿命は886.7±1.9秒(約15分)、半減期は約10分。

\mathrm{n}\rightarrow\mathrm{p}+\mathrm{e}^-+\bar{\nu}_e + 0.78\,\mathrm{MeV}

同様な崩壊(ベータ崩壊)が何種類かの原子核においても起こる。核内の粒子(核子)は、中性子と陽子の間の共鳴状態であり、中性子と陽子は互いにパイ中間子を放出・吸収して移り変わっている。中性子はバリオンの一種であり、ヴァレンス・クォーク模型の見方をとれば、2個のダウンクォークと1個のアップクォークで構成されている。

中性子の最大の特徴は、電荷が0であるということである。電荷を持たないため直接観測することが難しく、中性子の発見は電子や陽子と比べて遅れた。電磁気力の影響を受けないため、中性子線は透過性が高く原子核の核種変換に使う物質として重要である。通常の状態では荷電していない原子は中性子と同じようには利用できない。なぜならば、原子は中性子よりも約1万倍も大きく、正電荷を持つ原子核の周りに負電荷を持つ電子が広く分布しているという系になっているためである。

荷電粒子(陽子、電子やアルファ粒子など)や(ガンマ線のような)電磁波は、物質中を通過する際にエネルギーを失う。電磁気力によって通過する物質の原子をイオン化するためである。イオン化に費やされたエネルギーはすなわち、荷電粒子の失ったエネルギーであり、その結果、荷電粒子は減速し、ガンマ線は吸収される。しかし、中性子は、そのような過程でエネルギーを失わない。

中性子と原子との相互作用は、非常に短距離でのみ働く核力によるものがほぼすべてである。核力の到達範囲は中性子の直径と同程度しかない。従って、物質中を移動する自由な中性子は、原子核と「正面」衝突するまで直進する。原子核の断面積は非常に小さいため衝突はまれにしか起こらず、中性子は衝突までに長い行程を飛ぶことになる。生成した中性子が他の原子核と衝突するまで移動する距離を平均自由行程 (mean freepath) という指標で表す。空気中で220m、軽水の場合は0.17cm、重水では1.54cm、ウランでは0.035cmである。

弾性衝突を起こすような場合、運動量保存則に従い、ビリヤードのボールが互いに衝突するようにふるまう。もし衝突された核が重い場合は核の加速は比較的少ない。中性子とほぼ等しい質量をもつ陽子(水素原子)と衝突した場合、陽子はもともとの中性子が持っていた運動量のほとんどを受け取りはじき出される。一方中性子はほとんどの運動量を失う。この衝突の結果生じる二次的に放射された粒子が電荷を持っている場合、電離作用があるため検知することが可能である。

電気的に中性であるため、観測だけでなく中性子を制御するのも難しい。荷電粒子に対しては電磁場によって加速、減速、軌道修正が可能であるが、中性子には使えない。さらに、自由な中性子は核分裂反応からのみ得られ、自然界には存在しない。

自由中性子を制御し、減速、進路の変更、吸収などの結果を得るには進路に原子核を配置するしかない。このことは平均自由行程と併せて原子炉核兵器を設計する際、非常に重要である。

発見[編集]

1930年ドイツW・ボーテH・ベッカーは、放射性の強いポロニウムから発せられるアルファ線をいくつかの軽い元素に当てた際に、ベリリウムホウ素リチウムからは特に強い透過力をもった放射線が放出されることを発見した。

最初はこの放射線はガンマ放射であると考えられていたが、これはそれまでに知られていたどんなガンマ線よりも透過力が強く、実験結果はガンマ線説とは非常に異なっていた。次の重要な発見は、1932年パリイレーヌ・ジョリオ=キュリーと夫のフレデリック・ジョリオ=キュリーによって報告された。

彼らはこの謎の放射線がパラフィン もしくは他の水素を含んだ化合物に当たると非常に高エネルギーで陽子をはじき出すことを発見した。

この事自体は新しい放射がガンマ線由来であることを否定するものではないが、詳細にデータの量的な分析がなされた結果、次第にガンマ線仮説とは一致しなくなった。

そして1932年以降にイギリスの物理学者ジェームズ・チャドウィックが行った一連の実験でこのガンマ線仮説は主張しがたいものとなった。

彼は、この新しい放射は陽子と等しい質量を持ち、かつ電荷を持たない粒子によりなされるという事実を示唆した。そして彼はその仮説を証明する一連の実験を行った。この電荷を持たない粒子は現在では中性子と呼ばれている。

現在の進展[編集]

4つの中性子による安定したクラスター、またはテトラニュートロンの存在が、CNRS原子核物理学研究ユニットのFrancisco-Miguel Marquésらのチームによってベリリウム-14 の核の消失を観察することから提唱されている。これは特に興味深い事項である。なぜなら現在の理論では、これらのクラスターは安定することができない、もしくは存在し得ないとされているからである。

関連記事[編集]

外部リンク[編集]