ベータ崩壊

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ベータ崩壊(べーたほうかい、beta decay)は、弱い相互作用によって起きる放射性壊変の一群を意味する。この中にはベータ粒子と反電子ニュートリノを放出するβ崩壊(陰電子崩壊)、陽電子と電子ニュートリノを放出するβ+崩壊(陽電子崩壊)、軌道電子原子核に取り込み電子ニュートリノを放出する電子捕獲二重ベータ崩壊二重電子捕獲 (double electron capture) が含まれる。

いずれのモードで崩壊しても、質量数は変化しない。つまり、ベータ崩壊は同重体を推移する現象である。

目次

[編集] ベータ崩壊の各モード

各種ベータ崩壊のメカニズムを記す。

ここでは電子\mathrm{e}^{-}\,、陽電子を \mathrm{e}^{+}\,陽子\mathrm{p}\,中性子\mathrm{n}\,電子ニュートリノ\nu_{\mathrm{e}}\,アップクォーク\mathrm{u}\,ダウンクォーク\mathrm{d}\,、負電荷を持つWボソン\mathrm{W}^{-}\, と表記する。なお、反粒子は(例えば \bar{\nu}_{\mathrm{e}} のように)アッパーバーであらわす。

[編集] β崩壊

クォークレベルでのβ崩壊

中性子が電子(ベータ粒子)と反電子ニュートリノを放出して陽子になる現象。単にベータ崩壊といった場合これを指す。一般的に、安定同位体よりも中性子の多い核種でβ崩壊が発生する。

\mathrm{n} \to \mathrm{p}^{+} + \mathrm{e}^{-} + \bar{\nu}_{\mathrm{e}}

クォークのレベル(右図参照)では、次のように表される。

\mathrm{d}^{(1/3)-} \to \mathrm{u}^{(2/3)+} + \mathrm{e}^{-} + \bar{\nu}_{\mathrm{e}}

原子核内で起こった場合、原子番号が1つ大きい元素に変化する。

{}_{18}^{42}\mathrm{Ar} \to {}_{19}^{42}\mathrm{K}アルゴン42からカリウム42(半減期 32.9年)。

[編集] β+崩壊

陽子が陽電子(ベータ粒子)と電子ニュートリノを放出して中性子になる現象。陽電子崩壊とも呼ぶ。一般的に、安定同位体よりも中性子の少ない核種でβ+崩壊が発生する。

\mathrm{p}^{+} \to \mathrm{n} + \mathrm{e}^{+} + \nu_{\mathrm{e}}

クォークのレベルでは、次のように表される。

\mathrm{u}^{(2/3)+} \to \mathrm{d}^{(1/3)-} + \mathrm{e}^{+} + \nu_{\mathrm{e}}

原子核内で起こった場合、原子番号が1つ小さい元素に変化する。

{}_{\ 60}^{132} \mathrm{Nd} \to {}_{\ 59}^{132} \mathrm{Pr}ネオジム132からプラセオジム132(半減期 1.75分)。

[編集] 電子捕獲

陽子が軌道上の電子を捕獲して中性子に換わり、電子ニュートリノと特性X線を放つ現象。ベータ粒子は放出しない。ε または EC (electron capture) と略される。書籍によって「軌道電子捕獲」と記述されることもある。

\mathrm{p}^{+} + \mathrm{e}^{-} \to \mathrm{n} + \nu_{\mathrm{e}}

原子番号が1つ小さい元素に変化する。崩壊のメカニズムは大きく異なるものの、原子番号が1つ小さい同重体となる結果だけを見れば、β+崩壊と電子捕獲は同じものといえる。

{}_{18}^{37} \mathrm{Ar} \to {}_{17}^{37} \mathrm{Cl}アルゴン37から塩素37(半減期 36日)

電子捕獲に関しての詳細は記事電子捕獲を参照のこと。

[編集] 二重ベータ崩壊

ベータ崩壊が、ほぼ同時に2回起きる現象。1回のベータ崩壊が原子核の質量が増える変化であるため起こらず、ベータ崩壊が2回起きると質量が減る原子核に起きる。非常にまれにしか起きない現象であるため、半減期は非常に長い。

[編集] ニュートリノを放出する場合

単に、通常のβ崩壊などが二重に起きる。

[編集] ニュートリノを放出しない場合

ニュートリノが粒子と反粒子が同じであるマヨラナ粒子である場合などに起きる現象。標準理論では起きない現象であり、2006年現在未検証である。この崩壊を観測することにより、ニュートリノの質量やスピンについての不明な点が解明できる可能性があるため、研究が進められている。なお、前述のマヨラナ粒子が関係するもの以外に、超対称性などが関係して起きる可能性も示されている。

ニュートリノがマヨラナ粒子である場合、例えば次のように二重ベータ崩壊が起きる可能性がある。

\mathrm{n} \to \mathrm{p}^{+} + \mathrm{e}^{-} + \bar{\nu}_{\mathrm{e}} (1つめのベータ崩壊)
\bar{\nu}_{\mathrm{e}} \to \nu_{\mathrm{e}}? (反電子ニュートリノと電子ニュートリノは同一?)
\mathrm{n} + \nu_{\mathrm{e}} \to \mathrm{p}^{+} + \mathrm{e}^{-} (2つめのベータ崩壊)

結局、全体では次のようになるので、ニュートリノは放出されない。

2\mathrm{n} \to 2\mathrm{p}^{+} + 2\mathrm{e}^{-}

二重ベータ崩壊に関しての詳細は記事二重ベータ崩壊を参照のこと。

[編集] 二重電子捕獲

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[編集] 複数の崩壊モードを持つ核種

核種によっては2つ以上の崩壊モードを持つものがあり、特有の確率でいずれかのモードで崩壊する。

[編集] β崩壊と電子捕獲

{}_{17}^{36} \mathrm{Cl} \to \beta^{-} \to {}_{18}^{36} \mathrm{Ar}塩素36からアルゴン36(半減期 30万1000年)。
{}_{17}^{36} \mathrm{Cl} \to \varepsilon \to {}_{16}^{36} \mathrm{S}、塩素36から硫黄36。
{}_{\ 77}^{192} \mathrm{Ir} \to \beta^{-} \to {}_{\ 78}^{192} \mathrm{Pt}イリジウム192から白金192(半減期 73.83日)。
{}_{\ 77}^{192} \mathrm{Ir} \to \varepsilon \to {}_{\ 76}^{192} \mathrm{Os}、イリジウム192からオスミウム192。

[編集] β+崩壊と電子捕獲

{}_{13}^{26} \mathrm{Al} \to \beta^{+} \to {}_{12}^{26} \mathrm{Mg}アルミニウム26からマグネシウム26(半減期 71万7000年)。
{}_{13}^{26} \mathrm{Al} \to \varepsilon \to {}_{12}^{26} \mathrm{Mg}、アルミニウム26からマグネシウム26。
{}_{25}^{52} \mathrm{Mn} \to \beta^{+} \to {}_{24}^{52} \mathrm{Cr}マンガン52からクロム52(半減期 312.1年)。
{}_{25}^{52} \mathrm{Mn} \to \varepsilon \to {}_{24}^{52} \mathrm{Cr}マンガン52からクロム52

[編集] β崩壊とβ+崩壊と電子捕獲

{}_{19}^{40} \mathrm{K} \to \beta^{-} \to {}_{20}^{40} \mathrm{Ca}カリウム40からカルシウム40(半減期 12億7700万年)。
{}_{19}^{40} \mathrm{K} \to \beta^{+} \to {}_{18}^{40} \mathrm{Ar}、カリウム40からアルゴン40。
{}_{19}^{40} \mathrm{K} \to \varepsilon \to {}_{18}^{40} \mathrm{Ar}、カリウム40からアルゴン40。
{}_{\ 53}^{126} \mathrm{I} \to \beta^{-} \to {}_{\ 54}^{126} \mathrm{Xe}ヨウ素126からキセノン126(半減期 13日)。
{}_{\ 53}^{126} \mathrm{I} \to \beta^{+} \to {}_{\ 52}^{126} \mathrm{Te}、ヨウ素126からテルル126。
{}_{\ 53}^{126} \mathrm{I} \to \varepsilon \to {}_{\ 52}^{126} \mathrm{Te}、ヨウ素126からテルル126。

[編集] α崩壊とβ崩壊

{}_{\ 83}^{210} \mathrm{Bi} \to \alpha \to {}_{\ 81}^{206} \mathrm{Tl}ビスマス210からタリウム206(半減期 5.013日)。
{}_{\ 83}^{210} \mathrm{Bi} \to \beta^{-} \to {}_{\ 84}^{210} \mathrm{Po}、ビスマス210からポロニウム210。
{}_{\ 89}^{227} \mathrm{Ac} \to \alpha \to {}_{\ 87}^{223} \mathrm{Fr}アクチニウム227からフランシウム223(半減期 21.77年)。
{}_{\ 89}^{227} \mathrm{Ac} \to \beta^{-} \to {}_{\ 90}^{227} \mathrm{Th}、アクチニウム227からトリウム227。

[編集] ベータ崩壊による壊変系列

ベータ崩壊後の原子核が不安定な場合、さらに崩壊を行うことになり、数種の同重体を経由する壊変系列を形成する。特に核分裂によって生じた核分裂生成物は、陽子数と中性子数との均衡を欠いており、両者の均衡を保てるところまでベータ崩壊を繰り返す。

{}_{\ 8}^{20} \mathrm{O} \to \beta^- \to {}_{\ 9}^{20} \mathrm{F} \to \beta^- \to {}_{10}^{20} \mathrm{Ne}酸素20からフッ素20、さらにネオン20。

[編集] 関連項目