放射線医学

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放射線医学(ほうしゃせんいがく)とは、放射線を用いた診断や治療等を中心とした医学の一分野である。医学放射線学とも言われ、医療機関の診療科名は「放射線科」とするところが多い。

高輝度高精細モニタで画像診断を行う放射線診断医。マイクに口述している
シャウカステンにかけたフィルムで画像診断を行う放射線診断医
Dr. Macintyre's X-Ray Film (1896)

歴史[編集]

分類[編集]

大まかに以下の三つに分類される。

放射線診断学[編集]

放射線治療学[編集]

進歩の著しい放射線診断技術、要は画像診断を用いて、主に注射針や細いカテーテルと呼ばれる細い管を用いて、従来の手術治療と比べ比較的体にやさしい方法で、手術と同等の効果を目標とする治療方法の総称。以前は、血管造影や超音波、透視が中心であったが最近ではCT、MRI等も応用されている。治療対象および方法はかなり広範であり、日進月歩の著しい分野である。

核医学[編集]

核医学とは、放射性同位元素 (radioisotope; RI) やその化合物の生体内(in vivo)や試験管内(in vitro)の挙動を追跡し、診断・治療を行う医学分野である[1]

  • 核医学検査
核医学検査においては、放射性を放出するアイソトープを含んだ薬品(放射性医薬品)を使って、ガンマカメラで体内の状態を検査する[2]。アイソトープ検査、RI検査ともいわれる。
  • 核医学における検査・計測条件と目的による分類[3]
  • in vivo(インビボ)
非密封RIを体内に注射し、各種臓器の機能や動態を直接計測する。
  • in vitro(インビトロ)
生体から採取した血液や尿などからホルモンなどの微量物質を生体外で測定する。

医療被曝[編集]

OECD各国の人口100万人当たりCT/MRI台数

医療の目的で被曝する場合、被曝の限度量が法的に定められていない。これは、診断や治療によるメリットが被曝するデメリットを上回ると判断されるからである。ただし、被曝が必要最小限となるように行われる必要がある。

放射線医療は病気の特定および治療の為に行われるもので、それに伴う医療被曝はある意味副作用である。放射線医療は治療による疾病者の得る利益と害(リスク)を考慮して、医療関係者が有益と判断して施されるもので、その他の被曝と同列に比較されるべきではない。しかしながら結果論ではあるが、放射線診断で健康と診断された場合は被曝という害と健康であるという安心のみが残される事になる。予防検診における放射線診断では、被曝によるリスクを考慮したガイドラインが設定されている。

放射線診断、放射線治療の進歩と普及に伴い日本を含む一部の医療先進国では医療被曝の実効線量が自然放射線からの被曝より大きくなっている[4]原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)の2008年の報告によると、全世界での放射線診断は1988年には13.8億回、一人あたりの平均線量は0.35mSvであったが、2008年には31億回、平均線量は0.62mSvとなった。医療先進国の平均は1.92mSvとなっているが日本では2.3mSv[5]、米国は3.0mSv[6]と推定されている。放射線治療に関しては1991~1996年の間は年間470万回であったが、1997~2007年の間では510万回に増加している。直線加速器による治療も増えてきている。医療先進国では放射線治療は1千人あたり年間2.4回(世界平均は0.8回)となっており、頻度は増え続けている。

日本においてはCT機器の普及率が他国より突出しており[7]、人口百万人あたり92.6台(2002年)、2位がオーストラリアで45.3台(2004年)、3位アメリカ32.3台(2004年)であった。この普及率の高さにより、容易に悪く言えば安易に検査を受けることが可能である。CTを1回受けるだけで6.9mSv、胃のX線検査では0.6–2.7mSvの医療被曝がある[8]

放射線診療における代表的なX線検査での被曝量は、胸部 0.04mSv、腹部1.2mSv、上部消化管 8.7mSv、胸部CT 7.8mSv、腹部CT 7.6mSvである[9][10]。なお、骨髄移植のために行われる全身照射の一回の照射量は2,000mSvで、1日2回の照射を3日間行い、総量で12,000mSvを照射する[11][12]。肺がんに対する定位放射線治療では1回10,000mSv以上の大線量を4回から5回照射して1週間で終了させている[13]

一方、自然放射線による被曝量は、概ね年間1.0~13mSvの間で世界平均は約2.4mSvである。UNSCEARでは10mSv以上の被曝のある地域を特筆している。 イランブラジルインドでは、30mSvを超えるようなホットスポットもあり[9][10][14]、インドのケーララ州で家系内遺伝調査をしたところ、高線量地域では統計的に有意に生殖細胞由来の点突然変異が高い傾向にあることが報告されている[15][16]。ブラジルのガラパリでは内部被曝によるものと思われる末梢血リンパ球の染色体異常[17]や、対照地域に比べて癌の死亡率の高さが報告されている[18]が、癌死亡率の報告については他の因子を考慮しておらず、予備的研究の結論とみなすべきだと研究者自身が記述している。

不必要な画像診断[編集]

CTのような高額な装置の場合、検査が過剰に行われる懸念が指摘されている[19]

実際、低線量の放射線被ばくによる影響には不明な点が多いが、低線量の被ばくも発がんを生じるという仮説(LNT仮説)にも基づき15ヵ国で放射線検査の頻度にともなう発癌リスクを調べた結果によれば、日本の医療被曝による発癌リスクは3.2%(年7587件の発癌数に相当)と最も高く[20]、これは欧米諸国に比べても3倍程高い数字であり、特徴としてCT検査による被曝が大きな比重を占めており、他国に比べてCT装置の設置台数が多い事などが背景にあるのではと指摘されている[21]

アメリカ食品医薬品局では画像診断法における不要な放射線照射を減ずる方針が提示されている[22]。一方、被曝を抑えるために装置の改良も行われており、低線量ヘリカルCTなどが開発され、ヘビースモーカーに対して成果を挙げているが、偽陽性などの問題も指摘されている[23]

しきい線量と影響の事例[編集]

しきい線量 (threshold dose) とは、放射線をある一定レベル以上の被曝を受けると、確定的放射線影響が起きるしきい値となる線量のことであるが[24]、しきい線量のある確定的影響と、しきい線量はないと仮定されている確率的影響とがある[9]

確定的影響の例には、胎児への影響、器官形成期の被曝による奇形の発生があり、そのしきい線量は100mGy(ミリグレイ)とされている[9]。しかしながら、放射線診断での胎児の平均被曝量は、腹部撮影 1.4mGy、注腸造影検査 6.8mGy、腹部CT 8.0mGy、骨盤CT 25.0mGyなどとなっており、このしきい線量100mGyより小さい被曝であり、顕著な影響があるとは考えられないとされている。

確率的影響の例には、複数回のX検査による被曝で白血病またはがんになる可能性がある。米国では、CTスキャンによる検査が年間7000万件以上行われており、そのうちの2万90000件が将来的にCTに関連した癌の発症を引き起こすと推定されている[25]。なお、この確率的影響にはしきい線量はなく、被曝量に比例するとされる。この仮定によると、影響の確率は0にはならないが、日常的な通常の放射線検査での被曝量は、問題となるようなものではないという主張がある。一方、妊娠女性が放射線診断を受ける場合、X線検査の回数と胎児の相対リスクには比例関係があるという報告などもあり[26]、胎児へのリスクをまったく考慮する必要がないとまでは言い切れない不確かさがあり、確定的な結論は出ていない。また、白血病では50〜200mGy以下の被曝では発生率の増加は統計的に明かではない[9]。通常のX線検査では、胸部0.04mGy、腹部0.4mGy、腰椎1.4mGy、上部消化管8.2mGy程度であり、極端な回数の検査をしないかぎり、心配する必要はないという主張もある[9]

脚注・参考文献[編集]

  1. ^ PETの部屋 核医学の基礎 核医学(Nuclear Medicine)とは
  2. ^ 核医学会による一般向け説明
  3. ^ PETの部屋 核医学の基礎 3つの核医学の分類
  4. ^ 放射線医学総合研究所「UNSCEAR2008年報告書」閲覧2011-10-22
  5. ^ 文部科学省 「身の回りの放射線」 閲覧2011-10-22
  6. ^ Princeton.edu 「Background Radiation」 閲覧2011-10-22
  7. ^ Health at a Glance 2013 (Report). OECD. (2013-11-21). p. 87. doi:10.1787/health_glance-2013-en. 
  8. ^ 東嶋和子著 『放射線利用の基礎知識』 講談社、2006年12月20日。ISBN 4-06-257518-3
  9. ^ a b c d e f 医療被曝について│聖マリアンナ医科大学
  10. ^ a b 草間朋子『あなたと患者のための放射線防護Q&A』医療科学社ISBN 978-4900770522
  11. ^ この照射方法が主に利用されている(井上俊彦「診療 1990年以前の国内における初期の全身照射」『臨床放射線』2008, p.1254)
  12. ^ がんの放射線治療──その2 全身照射
  13. ^ 西村恭昌 『肺がん』 2011, p.90
  14. ^ 世界の高自然放射線地域
  15. ^ Lucy Forster et al. (2002). “Natural radioactivity and human mitochondrial DNA mutations”. PNAS 99 (21): 13950-13954. doi:10.1073/pnas.202400499. http://www.pnas.org/content/99/21/13950.full. 
  16. ^ 翻訳:伊澤 (2011年5月3日). “自然放射線とヒトミトコンドリア遺伝子の突然変異”. 名古屋生活クラブ. 2011年5月28日閲覧。
  17. ^ ブラジルの高自然放射線地域における住民の健康調査 (09-02-07-03) - ATOMICA -
  18. ^ Lene H.S. Veigaa and Sérgio Koifman (2005). “Pattern of cancer mortality in some Brazilian HBRAs”. International Congress Series 1276: 110-113. doi:10.1016/j.ics.2004.11.046. 
  19. ^ キャサリン・コーフィールド 『被曝の世紀 放射線の時代に起こったこと』 友清裕昭訳、朝日新聞社、1990年11月、328-329頁。ISBN 4022562277。「CAT装置は非常に高価である。この支払いのために医師や病院はCATを利用しすぎる傾向が、CATの普及とともに出てきたと心配されている。」
  20. ^ Amy Berrington de González and Sarah Darby (2004). “Risk of cancer from diagnostic X-rays: estimates for the UK and 14 other countries”. The Lancet 363 (9406): 345-351. doi:10.1016/S0140-6736(04)15433-0. http://www.imre.ucl.ac.be/rpr/lancet-363.pdf. 
  21. ^ 澤田聡, 渡邉直行, 五十嵐均 (2011). “"Risk of Cancer from Diagnostic X-rays : estimates for the UK and 14 other countries" : Lancet論文レビューと診療放射線技師による放射線防護の立場からのCT検査妥当性についての考察”. 群馬県立県民健康科学大学紀要 6: 73-76. NAID 110008148682. "日本においてCT検査数が多い理由として、CT装置の設置台数が他国に比べてとびぬけて多いという事実がある7)。…(中略)…医療機関側に立てば、高額医療機器の導入コストをどう減価償却するかという背景を含んでいる。" 
  22. ^ FDAが画像診断時における不要な放射線照射を減らすための方針を発表, “海外癌医療情報リファレンス”, 一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ, (2010年2月15日), http://www.cancerit.jp/2010-02-15/1871.html 2011年6月8日閲覧。 
  23. ^ 2010/11/16号◆クローズアップ「肺癌検診における低線量CTがヘビースモーカーの死亡率に明らかな有効性をもたらす」, “海外癌医療情報リファレンス”, 一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ, (2010年11月23日), http://www.cancerit.jp/2010-11-23/650.html 2011年6月8日閲覧, "肺癌検診のリスクが潜在的利益と並んで存在し、それも将来の推奨に織り込む必要がある。この試験のスキャン全体の約25%が偽陽性結果を示しており、これは、認められた異常が経過観察時に癌でないと判明したということである。偽陽性と判定された患者は全員、高線量の放射線を用いる診断用CTから肺生検にわたる、何らかの診断法を経過観察時に追加で受け、中には開胸術(胸部の外科的切開)を受けた患者もいる。これらはいずれもリスクをもたらすものであると Giaccone氏は説明した。" 
  24. ^ しきい線量(threshold dose) - 緊急被ばく医療研修
  25. ^ Amy Berrington de González et al. (2009). “Projected Cancer Risks From Computed Tomographic Scans Performed in the United States in 2007”. Archives of Internal Medicine 169 (22): 2071-2077. doi:10.1001/archinternmed.2009.440. http://archinte.ama-assn.org/cgi/content/full/169/22/2071. 
  26. ^ R. Doll and R. Wakeford (1997). “Risk of childhood cancer from fetal irradiation”. The British Journal of Radiology 70 (830): 130-139. http://bjr.birjournals.org/cgi/reprint/70/830/130. "It is concluded that radiation doses of the order of 10 mGy received by the fetus in utero produce a consequent increase in the risk of childhood cancer." 

関連項目[編集]