劣化ウラン弾

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劣化ウラン弾(れっかウランだん、Depleted uranium ammunition、略称DU)とは、弾体として劣化ウランを主原料とする合金を使用した弾丸全般を指す。

劣化ウランの比重は約19と大きく、の2.5倍、の1.7倍である。そのため合金化して砲弾に用いると、同サイズ、同速度でより大きな運動エネルギー(質量に比例する)を得られるため、主に対戦車用の砲弾・弾頭として使用される。

対戦車用砲弾であるAPFSDSのサボが分離する瞬間。形状からはそれが劣化ウラン合金かタングステン合金かは判別できないが、中心のダーツ状の金属棒の材質が争点となっている。

特徴[編集]

セルフ・シャープニング[編集]

劣化ウラン弾は目標の装甲板に侵徹する過程で先端部分が先鋭化しながら侵攻する自己先鋭化現象(セルフ・シャープニング現象)を起こす。このため一般的な対戦車用砲弾であるタングステン合金弾よりも高い貫通能力を発揮し、劣化ウランの侵徹性能は密度の違いも含めてタングステン合金よりも10%程優れているとされる。

焼夷効果[編集]

劣化ウラン弾やタングステン弾が命中すると砲弾の持つ運動エネルギーが熱エネルギーへと変換される。これは侵徹体金属の結晶構造が変形して高温を発するためであり、摩擦で発生する熱はあまり関与していない事が判明している。

劣化ウラン弾は穿孔過程で侵徹体の先端温度は1,200度を越えて溶解温度に達する。装甲板を貫通した後で侵徹体の溶解した一部が微細化して撒き散らされる。金属ウラン成分は高温下で容易に酸素と結びついて激しく燃焼するため、劣化ウラン弾は焼夷効果を発揮する[1]。 この性質のために、劣化ウラン弾は鍛造加工できないので不活性ガス中で低速切削加工により製造される[2]

毒性[編集]

劣化ウラン弾は以下の2つの点で人体に被害を与える恐れがあるため、実戦や演習・射撃訓練で劣化ウラン弾を使用し、自然環境に劣化ウランを放散させることの是非について、たびたび議論される。

重金属毒性[編集]

ウランは化学的な毒性を持つ重金属である。

放射性[編集]

劣化ウランは、主体を占めるウラン238、ウラン濃縮過程で取りこぼされたウラン235、それらの子孫核種により、放射能を持つ。 劣化ウランの放射能は14.8 Bq/mgであり[3] 天然ウランの25.4 Bq/mgと比較すると約6割と低い。

価格[編集]

劣化ウラン弾はタングステン弾に比べて材料費が安いので価格も安いに違いないという誤解が存在するが、前述のように加工コストが大きいために、製品価格ではタングステン弾と同等である。なお劣化ウラン弾の価格についてはAPFSDSを参照のこと[1]

使用しているとされる兵器[編集]

M829E3砲弾とその構造(右)。白で示された矢状の飛翔体の中心にウラニウム合金製の侵徹体(弾芯)が収納されている。
PGU-14/B
アメリカ空軍の30ミリ砲弾。約 300g の貫通芯のうち 99.25% が劣化ウラン。フェアチャイルドA-10AサンダーボルトII攻撃機GAU-8/Aで使用される。
M735A1
アメリカ陸軍105ミリ砲弾。約 2.2kg の劣化ウラン貫通体を持つ。M1戦車およびM60パットンの主砲が使用。
M774
約 3.4kg の劣化ウラン貫通体を持つ。使用は M735A1 に準じる。
M829・M829E1・M829E2
約 4.9kg の劣化ウラン貫通体を持つ。アメリカ陸軍の120ミリ砲弾。M1A1戦車およびM1A2戦車の主砲が使用。
M833
約 3.7kg の劣化ウラン貫通体を持つ。アメリカ陸軍の105ミリ砲弾。EX35 の105ミリ砲のシステムで使われる。
XM919
約 85g の劣化ウラン貫通体を持つ。アメリカ陸軍の25ミリ砲弾。主としてM2ブラッドレー歩兵戦闘車で使われる。
XM900E1
約 10kg の劣化ウラン貫通体を持つ。アメリカ陸軍の105ミリ砲弾。
MK149-2 20ミリ砲弾
艦艇のファランクス対空迎撃システムに利用。使用は Block0 のみ。1988年以降タングステン弾芯に移行。

これら以外にも、防御用としてM1A1(HA)戦車、M1A2戦車の装甲用構成部品として劣化ウラン装甲が使用されている。

トマホーク巡航ミサイルにも劣化ウランが使われているとの疑惑があったが、1999年に米国防総省が不使用を明言しており、トマホークの運用上・特性上も使用する意味は希薄なものとなっている。新型のタクティカル・トマホークの地下貫通型については可能性があるが、2005年春の時点で未配備であるため確認は取れていない。

バンカーバスターにおいては、BLU-109/B についてロッキード社の特許申請に使用が明記されている[要出典]

アメリカ以外で劣化ウラン弾を装備している国は、イギリスフランスロシア中国カナダスウェーデンギリシャトルコイスラエルサウジアラビアヨルダンバーレーンエジプトクウェートパキスタンタイ台湾韓国、などがある[2]

このうちイギリスは、主力戦車チャレンジャー2の主砲換装に伴い、使用砲弾も砲製造会社のものに変更すると決定し、劣化ウラン弾の生産を停止した。チャレンジャー2の主砲には、ラインメタル社(ドイツ)もしくは RAUG Land Systems 社(スイス)の生産する 120mm 滑腔砲が採用予定であるが、両社とも劣化ウラン弾は生産していないため、イギリスは将来的には、主力戦車の主砲弾としては劣化ウラン弾を装備しなくなる。

ドイツ(旧西ドイツ)は、環境汚染を理由に冷戦時代から今日までレオパルト2戦車でタングステン砲弾を使用し続けている。

日本の自衛隊も2007年の時点ではタングステン砲弾を配備しており、劣化ウラン弾は保持していない。海上自衛隊が保有する護衛艦の一部に搭載されている対空迎撃システム、ファランクス CIWS の最初の量産モデルである Block0 のメーカー純正弾頭には劣化ウラン弾が採用されていたが、海上自衛隊では弾薬を国産化し、アメリカ製の劣化ウラン弾は当初(くらま搭載時)より使用していない。また、アメリカにおいても後継の量産モデルである Block1(1988年)からは劣化ウラン弾の使用を止めている。

実戦での使用実績[編集]

1991年の湾岸戦争で、米軍がイラク戦車部隊に使用した。使用量は公式には約300トンである。

その後、NATO による PKF 多国籍軍がボスニア紛争およびコソボ紛争に介入し、ボスニアで約1万発、コソボでは約3万発の劣化ウラン弾を使用したことを公式に認めている。

また、2003年3月以降のイラク戦争でも、米軍は劣化ウラン弾を大量に使用したといわれている。人道支援・戦後復興支援のためにイラクに派遣された陸上自衛隊が駐留したサマーワ郊外においても、米軍がイラク戦争時に使用したものとみられる劣化ウラン弾が複数発見されている。

健康被害[編集]

劣化ウラン弾頭が着弾し、あるいは劣化ウラン装甲に被弾することによって劣化ウランが燃焼すると、酸化ウランの微粒子となり周囲に飛散する。これが体内に取り込まれた場合、内部被曝や化学的毒性による健康被害を引き起こすとして、その影響が懸念されている。

湾岸戦争後の米軍の帰還兵などに「湾岸戦争症候群」と呼ばれる健康被害が確認されており、劣化ウランがその原因の一つではないかとする説がある[要出典]。また過去にも劣化ウラン弾頭が使用されたボスニアやコソボ等の地域においては、白血病の罹患率や奇形児の出生率が増加した等と主張する健康被害が報告されている[要出典]

これらの懸念や報告に対して、劣化ウラン弾頭や劣化ウラン装甲を使用する当事者であるアメリカ政府は反論し、劣化ウラン弾による健康被害を否定、さらにこれら症状は劣化ウラン弾による影響ではなく、フセイン政権がかつて用いた化学兵器の残留物の影響という公式見解を発表した。

また「湾岸戦争症候群」についても、イラク軍による油田破壊によって放散した化学物質の影響や、戦争前に兵士に投与された対化学戦用ワクチンの副作用によるものであるとする説もある[要出典]。湾岸戦争に限定したそれらの説に加え、ボスニアやコソボを含む「白血病の罹患率や奇形児出生率の増加」に関するデータも、当事者として医療現場が主張する統計的な根拠や信頼性に対しては疑問があり[要出典]UNEP の公式報告書でも、ボスニア・コソボにおける劣化ウラン弾使用の放射線による影響を懸念・重要視しておらず[要出典]WHO は UNEP の収集したデータを基に「DU が紛争で使われた地域の住民や滞在していた民間人に対して、DU 毒性に関する医学的スクリーニングを行う健康上の理由はない」と結論づけている[要出典]。これらは主に、DUの汚染が現場から数十m単位に限局されており一般住民が継続的にDUに曝露される可能性が極めて低いことが理由である[要出典]

これらの指摘・症状と劣化ウランとの因果関係の証明には、疫学的に有意なデータを得るだけでも膨大なサンプル数の確保と時間が要求されるため、標本の量・質とも決定的に不足している現段階ではシロ・クロのいずれとも結論を出すのは困難であるという指摘がある[要出典]。また、性質上その被害が発展途上国に集中しやすく、軍事衝突でのみ被害が発生するため、企業による研究資金の拠出がほとんどないこともこの分野の研究の困難さに拍車をかけている。

ただし、劣化ウラン弾頭や劣化ウラン装甲を使用する当事者からの反論である「化学兵器の残留物質説」「油田破壊により発生した化学物質説」「対化学戦用ワクチンの副作用説」等の主張のいずれも、同様に背景となるサンプル数や根拠について科学的・医学的判断が難しい点では同様なため、双方の主張と反論は互いにその信頼性・妥当性のレベルで水掛け論の様相を呈している実状もある。

また、環境・人体への悪影響が懸念される以上、少なくとも安全性を明確に確認するまでは予防原則に基き保有および行使は規制・禁止されるべきであるとする慎重な指摘もある[要出典]

是非をめぐって[編集]

劣化ウラン弾頭の扱いの是非をめぐっては、目下のところもはや科学的・医学的な知見と判断による理性的な世界からは大きく乖離し、イデオロギー対決の様相を帯びてしまっている。

対立点は、およそ以下の4項目に整理できる。

  1. 劣化ウランの物性
  2. 健康被害の影響の有無
  3. 劣化ウラン弾頭の兵器としての分類
  4. 実効性

1. 劣化ウランの物性は化学毒性をもつ重金属であり、また放射性物質でもある。弾頭や装甲に用いられているものを除けば、劣化ウランは他の低レベル放射性物質と同じく、環境への漏洩や放散といった事態が発生しないような管理下におかれて運用されている。したがって、管理下におかれていない弾頭や装甲に利用された劣化ウランだけが特別に安全であり問題ない、という判断や主張は多分に恣意的なものであると言わざるをえない。

2. の健康被害への影響の有無については、2005年現在ではサンプルも追跡件数・年数も不足しており、疫学上有意な結論を導くことができる状態には無い。すなわち、統計的に有意差の判断が可能となるデータが不足しているということである。すなわち現状、影響に関しては科学的な判断ができない。

一般論として、放射性物質が人体に及ぼす放射線の影響の強さは総合的に考える必要があり、過度の危険視も、過度の軽視も、それにより事実を見誤る可能性がある。

放射性物質としての特性と比べ、劣化ウランの重金属としての化学的毒性とそれによる健康的・遺伝的影響力に関する言及・研究は乏しい。

劣化ウラン粉塵の吸入や経口摂取で人体に吸収される質量は少なく、放射能は多くないため、放射線障害のうち、確定的影響を考慮する必要はない。問題となるのは確率的影響によるガン性のものであるが、確率を推定するためには多数の症例が必要である。ところが、前述のように当該地域での使用前の疫学データが乏しい。これまでなされた、ICRPなどによる確率的影響の評価でも、劣化ウランによるような低線量被曝はカバーされておらず、2007年時点で妥当とされる理論の構築に至っていないのが現状である。

3. の劣化ウラン弾頭の兵器としての分類に関しては、二つの側面を持つ。

一つは、劣化ウランが放射性物質としての性質をもつ点を極度に危険視するあまり、劣化ウラン弾頭を熱核兵器大量破壊兵器と混同する論調である。劣化ウラン弾頭の焼夷効果は熱核反応によるものではないため、この点を混同する批判者には劣化ウランの物性および核分裂に関する知見がないものと判断することができ、明確に否定できる。

もう一つは、劣化ウラン弾は使用することで、低レベルであるとはいえ放射性物質である重金属の粉塵や微粒子を環境に放散させ汚染する兵器である、という側面である。このことは物性から明らかであり、したがって、「劣化ウラン弾頭は核兵器や大量破壊兵器に分類されない以上は通常の兵器であり、通常の兵器である以上は無害であるから、懸念そのものが存在しえない」といった論調もまた、明確に否定できる。

2005年初夏の段階で、国連その他の公的機関では、劣化ウラン弾を大量破壊兵器には分類していない。ただし、国連人権小委員会は1996年に、大量破壊兵器(核兵器・化学兵器・生物兵器)と並び、「燃料気化爆弾ナパームクラスター爆弾、劣化ウランが含まれる兵器」を「無差別的な効果のある (indiscriminate effect) 兵器」とし、これらの生産と拡散の制限と、間接的・累積的な効果等の情報収集を国連事務総長に要請している。

4. の実効性については、単純に砲弾としての優劣の問題である。

劣化ウラン弾はタングステン弾に質量において勝るため、対象に与える運動エネルギーでは有利だが、硬度ではタングステン弾の方が有利で、したがって充分に装甲された対象への貫通力はタングステン弾の方が有利であるというものである。

この論点については、上述のように、劣化ウラン弾芯とタングステン系弾芯の侵徹を比較した研究において、自己鋭利化 (self sharpen) が起きる劣化ウラン弾芯の方が高い侵徹性能をもつことが示されており、弾芯材料としてタングステン系素材より優秀なことが証明されている。

また、タングステンは高価な稀少金属であり、廃棄物である劣化ウランは極めて安価であるため「数が揃う」こと、及びタングステンは中国に偏在しているため、兵器の原料を特定の国に依存することの軍事的可否も問われている。もちろん、西側諸国と共産圏との関係も問題となっている。つまり劣化ウラン弾を禁止すると、代替材のタングステンを独占する中国に有利になってしまうため、劣化ウラン弾禁止運動に中国の資金援助が流れているのではないか?という疑惑である。類似の国際人権団体による兵器禁止運動に於いても、クラスター禁止条約・対人地雷禁止条約に中国は参加せず、日本と欧州だけが軍事的に不利になった結果を招いている。

推進論者の中には、そもそも戦争とは健康被害以前に生死を賭けた危険なものであり、敵国に軍事的に圧倒されるよりは劣化ウラン装甲で低レベル被曝をしたほうがましではないか、という意見もある。特に当事者である軍人にとって、当事者でない者たちの禁止運動によって劣化ウラン装甲を取り上げられるのは傍迷惑なのではないかという意見である。ただし、この意見においては敵国の軍人はともかくとして、内戦地域の住民の被害も考慮されていない。

「政治的な主張」の問題[編集]

劣化ウラン弾の辞書的定義を語る際には、その物質的特性と並んで、「政治的な主張」をめぐる言及を回避することは難しい。

現在、公的に劣化ウラン弾の使用を認めているのがアメリカ政府と NATO であること、および劣化ウランが放射性物質であることの2点から、しばしば劣化ウラン弾の「被害」については、ボスニアやコソボやイラクその他の小児白血病患者を中心にした「子どもの画像」が、反米・反核をイデオロギーとして持つ団体によってプロパガンダ素材として使われているのではないか、という指摘もある。

出典[編集]

  1. ^ a b 一戸祟雄著 『現代戦車砲の主用砲弾 APFSDS』 「軍事研究」2008年8月号 (株)ジャパン・ミリタリー・レビュー 2008年8月1日発行
  2. ^ 平成13年度、ダイキン工業株式会社による高速飛翔体の比較実験より
  3. ^ 国際原子力機関 劣化ウラン Q&A[1]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]