縦四方固

縦四方固(たてしほうがため)は、柔道の固技の抑込技の一つ。講道館や国際柔道連盟 (IJF) での正式名。IJF略号TSG。別名馬乗固(うまのりがため)[1]、仮固(かりがため)[1]。
概要
[編集]相手の上半身に跨がって抑え込む技。
基本形は仰向けの相手の胴に両脚でまたいだ「馬乗り」状態から胸を密着させ両腕で相手の頭を抱え抑え込む。相手の首や肩を腕で、相手の両脚を脚でコントロールし、ブリッジや脚を絡む動きを封じる。跨がっていても相手の足のほうを向いて抑え込む場合は崩上四方固となる。相手の両腕が脚の下にある場合は抑込技として認められない。ブラジリアン柔術でもマウントポジションとしてはポイントは得られない。アドバンテージは得られる。
- 試合での実例
- 2018年世界柔道選手権大会バクー女子70 kg級2回戦
- ×ミカエラ・ポレレス(オーストリア) (07:59 縦四方固) ミーガン・フレッチャー(アイルランド)○[2]
- 抑え込みが主審により宣せられたが『IJFレフェリング・アンド・コーチング・セミナー2019』でポレレスの両腕がフレッチャーの脚の下になっていたので抑え込みは成立せず誤審であると判断された[3]。
神道六合流では長く抑え難い技ととらえ、「仮固」と呼んでいる [1]。
変化
[編集]肩固併用縦四方固
[編集]肩固併用縦四方固(かたがためへいようたてしほうがため)は肩固のように相手の片腕と頭を抱えながら抑える縦四方固[4]。映像作品『講道館柔道 固技 分類と名称』では縦四方固の一種だとしている[5]。YouTube KODOKANチャンネルの縦四方固の動画はこの縦四方固のみをあつかっている[6]。柔道以外の格闘技では肩固扱いされることが多い。
崩縦四方固
[編集]崩縦四方固(くずれたてしほうがため)は両腕で相手の頭を抱えず、片方の肩もしくは腕を抱え、やや自ら襷型になって抑える縦四方固[7]。
相手の左腕を制しながら左脚を相手の右肩と頭の間まで踏み込んだ崩縦四方固もある。映像資料『講道館柔道 固技 分類と名称』で柏崎克彦の試合映像を含め紹介されている[8][9]。
- 試合での実例
- グランドスラム・パリ2015女子70 kg級2回戦
- ○田知本遥(日本) (02:24 三角固 (AJJF) [10]) アネット・ブレテンバッシュ(ハンガリー)×[11]
- 全日本柔道連盟(AJJF)は「三角固」としてるが縦四方固の崩縦四方固である[11]。
腕固め縦四方
[編集]腕固め縦四方(うでがためたてしほう)は腕挫腕固を掛けながらの崩縦四方固。片脚を絡まれたハーフマウントから腕挫腕固を掛けはじめ、抑え込みに入っていく場合もある。また、そのまま腕挫腕固に極める場合もある。
シバロック
[編集]シバロックとは仰向けになった相手の右腕を固めながら相手の右側面に付いて抑え込む崩縦四方固。その際に相手の背後に自らの両脚が入り込んだ状態になる。この抑え込みは縦四方固に分類される。国士舘大学の学生柴田道秀によって2007年に編み出された[12][13]。なお、2018年からIJFは腕を覆わない形のシバロックを認めなくなった[14]。別名4869(しばろっく)。
三角絞併用縦四方固
[編集]三角絞併用縦四方固(さんかくじめへいようたてしほうがため)は前三角絞を掛けながら抑える縦四方固[4]。胸を相手に密着させずに手を畳についたりして返されないようにする。そのまま、前三角絞で参ったをとってもよい。ひっくり返された場合は前三角絞で参ったを狙う。七大柔道では下からの前三角絞から逆転した形は抑込技として認められない[15]。ブラジリアン柔術ではマウントポジションとしてポイントもアドバンテージも得られない。柔道家の川石酒造之助は通常とは両脚を左右逆に組んだ三角絞併用縦四方固を縦三角固(たてさんかくがため)と呼んでいる[16]。
合掌縦四方固
[編集]合掌縦四方固(がっしょうたてしほうがため)は右手で相手の左上腕を上方に伸ばして左肘を圧迫し、左手で相手の右上腕を上方に伸ばして右肘を圧迫し、右内腿で相手の左腋下から左上腕を圧迫し、左内腿で相手の右腋下から右上腕を圧迫する縦四方固[17]。
枕縦四方固
[編集]枕縦四方固(まくらたてしほうがため)はガードポジションから右手で後帯を取り、左腕で左腋下に相手の頭部を抱え、相手の右腋下を通して相手の背を抑え、左足先を相手の右腿の内側に当て、右脚で相手の右膝の上を蹴り、股間を上げ相手の動きに応じで相手を返して上になり、右手で相手の後帯を掴んだまま、左上腕を枕に相手の後頭部を押して動きを殺す縦四方固[18]。
脚三角からの縦四方固
[編集]脚三角からの縦四方固とは、ヒラメ(体を伸ばしながらのうつ伏せ状態)になった相手の背後から両脚を自らの両脚で絡ませながら相手を仰向けに横転させ返して自らの両脚を持ち上げ相手の両脚が効かないようにして抑え込む技。木戸慎二や田代未来が多用することで知られる[19]。レスリングの股裂きを思わせる動きだが[20]、両脚で相手の片脚ではなく両脚をとらえるのでそのまま抑え込に入ることができる。
特徴
[編集]縦四方固はブラジリアン柔術、総合格闘技ではマウントポジションと呼ばれている。マウントポジションは打撃技、絞め技、関節技へ展開しKOやタップアウトを狙うための体勢のため、抑え込み続けることを目的とする場合と違い、胸の密着をさせないことが多い。詳細はグラウンドポジションを参照されたい。
脚注
[編集]- ^ a b c 帝国尚武会 編『神道六合流柔術教授書』(龍虎之巻 第三期)帝國尚武會、日本、1917年1月31日、225-228頁。「假固(馬乗固、縦四方)」
- ^ World Championships Seniors Baku 2018 / Round 2 -70 kg Austria POLLERES Michaela VS Ireland FLETCHER Megan (YouTube). 国際柔道連盟. 2019年11月10日閲覧.
- ^ Judoチャンネル IJF Refereeing and Coaching Seminar 2019: Day 1 #79 (YouTube). 国際柔道連盟. 14 January 2019. 該当時間: 5h9m10s. 2019年11月10日閲覧.
- ^ a b 『高専柔道の真髄』 原書房
- ^ NHKサービスセンター(協力)、エルコム(販売). 講道館柔道 固技 分類と名称 (VHS). 講道館柔道ビデオシリーズ. 日本: 講道館(制作・企画・監修). 該当時間: 26m0s.
縦四方固
- ^ 縦四方固 / Tate-shiho-gatame. YouTube. KODOKAN. 8 March 2021. 2025年10月28日閲覧.
- ^ 記録映画『柔道の真髄 三船十段』(日本映画新社)縦四方固(その二)
- ^ NHKサービスセンター(協力)、エルコム(販売). 講道館柔道 固技 分類と名称 (VHS). 講道館柔道ビデオシリーズ. 日本: 講道館(制作・企画・監修). 該当時間: 25m20s.
縦四方固
- ^ NHKサービスセンター(協力)、エルコム(販売). 講道館柔道 固技 分類と名称 (VHS). 講道館柔道ビデオシリーズ. 日本: 講道館(制作・企画・監修). 該当時間: 27m20s.
縦四方固
- ^ “グランドスラム・パリ(フランス) 大会結果掲載 (15.10.17-18)”. 全日本柔道連盟 (2015年10月19日). 2019年10月27日閲覧。 “70 kg級 田知本 遥 2回戦 ブレテンバッシュ(ハンガリー)一本勝(三角固)”
- ^ a b Grand Slam Paris 2015 / Round 2 -70 kg Japan TACHIMOTO Haruka VS Hungary BREITENBACH Anett (YouTube). 国際柔道連盟. 2019年10月27日閲覧.
- ^ 「第27回全国体育系学生柔道体重別選手権大会」近代柔道 ベースボールマガジン社、2016年4月号 55頁
- ^ 矢嵜雄大『まったく新しい柔道の寝技の教科書』ベースボール・マガジン社、2022年6月30日、59-60頁。ISBN 4583114222。「シバロック」
- ^ Detailed Explanation of the IJF Judo Refereeing Rules effective from 01 January 2018
- ^ “七大学柔道試合審判規定 第6回修正版”. 東京大学運動会柔道部公式サイト 赤門柔道. p. 7 (2016年4月25日). 2019年4月20日閲覧。 “また、前三角から逆転し馬乗りとなった形の抑え込みは認めない。”
- ^ Mikinosuke KAWAISHI (1955). Ma méthode de judo. Jean Gailhat(仏訳、イラスト). フランス: Judo international. pp. 152-153. "TATE-SANKAKU-GATAME"
- ^ 尾形源治 著「第二章 固業 二、抑込業に就いて 合掌縦四方固」、森谷善治郎 編『柔道神髄』大仁堂、日本、1930年5月、95頁。
- ^ 尾形源治 著「第二章 固業 二、抑込業に就いて 枕縦四方固」、森谷善治郎 編『柔道神髄』大仁堂、日本、1930年5月、105-106頁。
- ^ 小室宏二『柔道 固技教本』晋遊舎、2011年2月19日。ISBN 978-4863910058。
- ^ 矢嵜雄大『まったく新しい柔道の寝技の教科書』ベースボール・マガジン社、2022年6月30日、44-45頁。ISBN 4583114222。「脚三角」
