軍事政権

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軍事政権(ぐんじせいけん、英語:military dictatorship)は、当該国の軍隊が統治を行う形の政権。さらに広く、軍の武力を背景に政治を行う国家という意味で軍事国家(ぐんじこっか)等とも呼び、また軍を中心に行われる政治は軍閥政治(ぐんばつせいじ)と言う。当記事では主に近代以降について説明する。

なお、外国軍による占領行政を意味する「軍政」は軍事政権統治ではない。「自国の軍人が自国の文民に代わって全権を掌握し執政を行なう」のが軍事政権である。

概要

軍事政権は軍首脳が直接的に政権担当を行うことで、文民統制などの一般的な抑止装置が働かない状態にある。具体的には戒厳令を布告したり憲法を停止するなどして、行政権立法権司法権を一手に掌握する。軍部が政権に多大な影響を与えている場合でも、立憲主義的法秩序が維持されている場合は軍事政権の枠組みには含まれない(末期の大日本帝国など)[独自研究?]。またイデオロギーに基づく独裁的支配が憲法によって認められている場合も、軍事政権とは異なる形体として類別される。ただしイデオロギー色の薄い軍事政権が名目的に社会主義独裁を標榜することもあり、境界は曖昧である。

一般的に、現役予備役にある軍人が、憲法上の手続きを踏まずに大統領首相などの政治の要職を占める(具体的には集団で銃を突きつけて脅迫し、全権を自分に譲渡させたのち退任させる)か、「**評議会」のような最高機関を設けて統治を行うといった形をとることが多い。

軍事政権は自らを非常時における過渡的政権として正当化を図ることが多い。実際に公約どおり短期間で民政移管がなされる場合もあるが、そういった国ではその後もたびたびクーデターが起って政局が不安定になることがある。また民政移管を約束しながら数十年にわたり政権に居座る場合や、自由選挙を行っても結果が自分達の気に入る者(軍部出身者や軍人の候補が当選する、軍部大臣現役武官制が認められる)でなければ「不正があった」などの理由をつけて民政移管を中止する例もある。

官僚組織の一種である軍隊は選挙や市場原理などによる自浄作用が働かず、国の利益より軍組織や軍首脳の利益を優先しがちになる欠点がある。職業政治家にやる民主政に対して効率性等で劣る為、現在先進国で軍事政権をとる国家はない。ただし、民政の形をとりながら、文民統制が働かず、軍が政治に強い影響力を持つ戦前・戦中期の日本トルコタイ国防委員会第1委員長が事実上の元首である朝鮮民主主義人民共和国のような場合もある。

現在の例

現在軍事政権が統治する国

現在民政移管の途上にある国

本節では現在民政移管の手続きを進めている国について記述。

2011年エジプト革命により独裁を敷いていたホスニー・ムバーラク大統領が辞任したため、議会選挙と大統領選挙が実施されるまでエジプト軍最高評議会が暫定的に統治している。11年3月19日に憲法改正を問う国民投票が行われ、77%の賛成票で改憲草案が承認された。議会選挙も実施されており、軍政主導の権力移行プロセスに則れば、大統領選は2012年に実施され、同年内に文民政権に権力が移譲される。
2012年3月に起こったマリ国軍の反乱士官によるクーデターによりトゥーレ大統領を追放。軍政側は憲法を停止し、軍事政権の樹立を宣言した。しかし、国際社会やアフリカ連合西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)加盟国はマリ軍政を承認せず、経済制裁や国境封鎖を行い、ECOWASは軍事介入までちらつかせて軍政に退陣圧力をかけた。一方、マリ政治の混乱に乗じて北部ではトゥアレグ族の反政府武装組織「アザワド解放国民運動」やアル=カーイダとの関係を指摘される「アンサール・ダイン」が北部三州を制圧した。この事態を受け、マリ軍政は4月6日、文民政権に権力を移譲すると表明した。

過去の例(近代以降)

注:歴史上の大多数の体制は軍事政権に分類されるため、以下の一覧は近代以降を記載する。

アフリカ

モーリタニアでは、タヤ政権による独裁体制が続いていたが、タヤ大統領に反発する軍の一派が蜂起。タヤ政権を打倒して、軍事政権を樹立。民主化プロセスを推進して、新憲法制定、自由選挙を行い、民主政権へと移行した。軍政が民主化を達成したというケースである。同様のケースとしてはポルトガルカーネーション革命がある。2008年8月、文民政権が腐敗、強権政治を行なっているとして、再び軍事クーデターが発生。2009年に大統領選挙が実地された。

アメリカ大陸

アジア

スカルノ軍事政権・ハジ・ムハンマド・スハルト軍事政権が主な例。
韓国については、職業軍人出身の朴正煕全斗煥盧泰愚大統領であった時期を「軍事(独裁)政権」と呼ぶことも多い。しかし、あくまで形式的に解釈するならば、「軍事政権」に分類できるのは朴が軍事クーデターで政権を奪取後、現役軍人の身分を保持したまま「国家再建最高会議議長」として執政した1961年から1963年までに限られる、という捉え方もある。
ラオスの歴史ラオス内戦も参照。
パキスタンについては隣国インド中国との軍事・外交的衝突が非常に多く、特に軍事面では核実験やカシミール領土問題が印象的である。

ヨーロッパ

ギリシャ軍事政権
イオン・アントネスク政権。
フランシスコ・フランコ政権。なお、この時期立憲君主ではなく独裁君主(総統)制であった。

オセアニア

参考文献

  • Finer, S. E. 1969. The man on horseback: The role of the military in politics. London: Pall Mall Press.
  • Huntington, S. P. 1969. Political order in changing societies. New Haven: Yale Univ. Press.
    • 内山秀夫訳『変革期社会の政治秩序 上下』サイマル出版会、1972年
  • Janowitz, M. 1964. The military in the development of new nations. Chicago: Univ. of Chicago Press.
  • Janowitz, M. 1977. Military institutions and coercion in developing nations. Chicago: Univ. of Chicago Press.
  • Kennedy, G. 1974. The military in the third world. London: Duckworth.
  • Stepan, A. 1971. The military in politics: Changing patterns in Brazil. Princeton: Princeton Univ. Press.
  • Stepan, A. 1988. Rethinking military politics: Brazil and the southern Cone. Princeton: Princeton Univ. Press.

関連項目