自動販売機

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ドリンクの自動販売機。3種類。
スナック菓子の自動販売機
新聞自動販売機(米国シカゴ
プールの更衣室付近に設置されている自動販売機。ゴーグルや水着を販売。
1952年製造のアメリカの菓子自動販売機。現役で動いている。
1961年の白黒写真に写されたドイツの自販機

自動販売機(じどうはんばいき、: vending machine)とは、不特定多数の人間が通貨貨幣)もしくはそれに代替するカードなどを投入して対価を払うことで自動で商品(物品)の購入やサービスの提供を受けることができるようにした機器[1][2]自販機(じはんき)とも略される。乗車券食券などの券を販売する機械については「(自動)券売機」とも言う。

概説

自動販売機とは、お金を支払うと(例えば、現金(硬貨や紙幣)や電子マネーのカードをタッチするなどして)押しボタン操作等をする事により、自動的に(=人手を介さずに)商品(物品や情報やサービス)を購入することができる機械である。代金を投入し、機械を操作すれば、商品を受け取り、(釣りを用意する機構が伴う機械では)釣り銭を受け取ることができる。

ただし、公衆電話機や娯楽機(ジュークボックスアーケードゲーム機など)は(サービスを無人で自動で提供しているものの)自動販売機の範疇には含めないのが一般的である[3]

商品の販売者の側から見れば、自動で販売を行ってくれる機械である。人手不足や人件費高騰の対応策として効果があり、休日夜間も営業できる利点がある[3]。自販機はロボットの一種であるとも言える。自動販売機は、商品の買い手の側から見れば、有人の店が閉まっている休日や夜間でも商品を提供してくれるわけである。

世界最古の自動販売機は、アレクサンドリアのヘロンの著書に記述されている古代エジプトの聖水販売機だった、とされる。近代の、硬貨で煙草が買える自動販売機としては1615年のイギリスのものが現存している。日本では、1890年に、小野秀三、俵谷高七それぞれが自動販売機の特許を得た。

自動販売機は大別すると物品自動販売機と自動サービス機に分けられる。

現代の自動販売機は、一般的には、「金銭装置」「指示装置」「貯蔵・加工装置」「販売装置」から構成されている。

自動販売機の多くは電気式、もしくは硬貨の重量や購入者による操作による機構で作動する[4]

近年では、電子マネーカードで購入時にカードにポイントを加算する機能を持つものもある。また最近では、災害時に飲料を無償で提供する機能や、AEDの機能、無線LANのアクセスポイント機能など、特殊な機能を追加したものもある。

自動販売機は、消費電力の大きさ、光害問題、未成年の喫煙や飲酒への影響、窃盗問題 等々、様々な問題に直面し、だが問題に対処すべく対策が打たれ、進化した機種の新登場を繰り返してきた。現在もキャッシュレス決済に対応した機種の開発や導入が徐々に行われている。(日本ではない)

歴史

最初の自動販売機

世界初の自動販売機は、古代エジプトの寺院に設置された聖水を販売するための装置である[5]。この装置は完全自動で5ドラクマ硬貨を投入すると、硬貨の重みで栓が開き、蛇口から水が出る構造であった[5]。この記述図解はアレクサンドリアのヘロン著『気体装置(Pneumatika)』にある(原本は失われているが1587年の写本がイタリア国立図書館に所蔵されている)[6]。しかし、ヘロン自身の発明なのか彼の師の発明を記述したものかは分かっておらず、この装置の発明者は不明である[5]。また、どのくらい広く用いられていた装置なのかもよくわかっていない[5]

イギリス

1931年イギリスのたばこ販売機

現存している最古の自動販売機は、1615年のイギリスの煙草自販機で、居酒屋や宿屋に設置されていたものである[5]。箱の上部の硬貨投入口から半ペンスコインを投入すると蓋が開いて商品を取り出すことができる仕掛けであるが、蓋が開いたあとは手動で閉じる必要があり、宿の主人や使用人が蓋を閉めていたため実用的なものではなかった[6]

イギリスでは1857年にデンハムの郵便切手自販機に対して、初めて特許が付与された[7]

アメリカ

アメリカ合衆国では1884年にフルーエンの自動引出装置に対して特許が与えられた[7]

1888年にはトーマス・アダムスが自社製のガムを販売するための機械を開発して駅に設置した[6]。また、販売を促進するゲーム性を自動販売機に追加するアイデアは、1897年にPulver Manufacturing Companyによって小さなフィギュアオマケ付きのものが設置された。このアイデアは売買活性機(trade stimulator)として知られる新しい仕組みとして広まってゆき、スロットマシーンピンボールの誕生につながることになる。

1925年にはウィリアム・ロウによって異なる価格の多品種の商品を販売できる煙草自動販売機が開発され、一般にはこれによって近代自販機の歴史が始まったとされている[8]

日本

現存する日本最古の自動販売機「自働郵便切手葉書売下機」(展示はレプリカ)。1904年(明治37年)に発明家の俵谷高七が作成した。逓信総合博物館の展示。
1960年頃の紙コップ式ジュース販売機(大英堂製パン店不動前

日本では、物品の販売機ではないが、1876年(明治9年)に上野公園内にあった新聞縦覧所に自動体重測定器が設置された記録があるものの製造者や設置期間などは不明である[6]

物品販売の自動販売機としては、1890年(明治23年)、小野秀三による自動販売機の特許(1888年3月出願、特許第848号)と俵谷高七による自動販売機の特許(1888年12月出願、特許第964号)の2件の特許がなされた[7][9]。このうち俵谷高七は、郵便局からの依頼を受けて器具類を製作していた長州藩(現山口県)の下関の指物師で、1890年の第3回内国勧業博覧会への出品を果たした[9]。俵谷の自動販売機には既にスラグリジェクター(偽貨排除)やコインリターン(売切時の硬貨返却)の機能が搭載されており、当時の欧米の機器にも見られない先駆的なものであった[10]。俵谷が1904年(明治37年)に発明した「自働郵便切手葉書売下機」は、現存する日本最古の自動販売機とされ、逓信総合博物館に所蔵されており、また前述の煙草自動販売機が博覧会に出品されたことから、日本最初の自動販売機発明者としては俵谷の名前が広く知られている。

明治時代には様々な自動販売機が製作されたが、単発的・実験的なものがほとんどで、一般に定着するレベルのものではなかった[11]

1924年大正13年)には中山小一郎が、袋入菓子の自販機を製作し、これが日本初の普及型の自動販売機とされている[12]

1951年朝日新聞では、アメリカ特派員の記事として、ニューヨークタイムズ社のオフィスに存在したカップ式の清涼飲料水自動販売機が取り上げられている。25セント銀貨を入れると5セント銅貨が4枚お釣りとして出てくること、カップが自動的にセットされて清涼飲料水が定量出てくることが味気ないとして報じられており、同時期に日本にはこの種の販売機が存在しなかったもしくは一般的ではなかったことが伺える[13]

昭和30年代前半になると、自動販売機は物珍しい機械から本格的な実用化の時代へ移行した[14]

自動販売機は昭和40年代に急速に普及した。その要因として、1967年(昭和42年)に100円50円新硬貨(白銅貨)が発行されたことが挙げられている[15]

特に1967年に、国鉄が合理化の一環として、都市部で近距離乗車券発行用自動券売機の全面的な導入に踏み切ったことが、大きな影響を与えたといわれている。

日本全国の自動販売機設置台数は、20世紀中は増加の一途を辿り、2000年平成12年)には560万台とピークを迎えた。21世紀に入ってから減少傾向に転じ、2007年(平成19年)末には日本自動販売機工業会の調査によれば540万5,300台でうち48.8%が飲料販売用、2008年(平成20年)12月末には526万台とその傾向が続いている[16]。自販機による売上も、2000年の7兆円から2008年(平成20年)には5兆7,000億円へと減少した[16]。日本での購買者の比率は男性9:女性1とされる[16]。日本国内で自動販売機の工業製品出荷金額が最も高いのは、三重県である[17]。自動販売機の生産台数が最も多いのは四日市市[注 1]で、年間で約12万台が生産されている。

ではキヨスクなどが閉店した後に利用客の不便を減らすため、または人件費カットを目的にキヨスクを自動販売機に置換している事も多い。また近年ではSuicaなどの交通系電子マネー支払い専用とした自動販売機も登場した。これは貨幣を扱う可動部を省く事で、機械の維持コスト低下に貢献している[18]

分類・種類

自動販売機は大別すると物品自動販売機と自動サービス機に分けられる[3]

国際的なHSコードでは、自動販売機はほとんどが物品の自動販売機(847619)に分類され、飲料の自動販売機、その他の自動販売機、部分品に分類される(以下は加熱機能または冷蔵機能を自蔵するか否かのみの分類となっている)。

日本標準商品分類では非常に細かく分類されており、自動販売機及び自動サービス機(58)のうち自動販売機(581)に分類される。自動販売機は物品等自動販売機(5811)とサービス情報自動販売機(5812)に大別され、さらに以下に細かい分類が設けられている。

物品等自動販売機

一般には、冷やしたり温めたりした様々な容器(ペットボトル・紙パッケージ・カップ)入り飲料、カップめん菓子パン菓子類、煙草、雑誌新聞など保存の簡単なものが多い。また特殊なところでは、その都度に豆から挽いて抽出するコーヒー冷凍食品(焼きおにぎり、焼きそばなど)を内蔵電子レンジなどで温めて提供する自販機もある。麺類では、茹でられた麺を湯がいてからスープを入れて提供するタイプがある。カップ麺の場合は、湯で戻して提供され、箸がついてくるものもある。

交通機関の乗車券特急券遊園地テーマパークなどの入場券、各種プリペイドカードなど、券の形をした商品を販売するものは特に自動券売機ともいう。

近年では、ガソリン等の油脂類を顧客自らが給油機で注文を行い、給油までの操作をすべて自分自身で行う「セルフ式」といわれる方式を採用するガソリンスタンドが多くなった。これも、給油機そのものが一種の自動販売機といえる。

手動式の自動販売機で取り扱われる商品はチューインガムチョコレートなどの駄菓子や新聞などが多い。

新聞の販売機(上記画像参照)は、硬貨を金額分投入するとケースの鍵が開くので、手動でケースを開けて、中に積んである新聞の束から一部をつかんで取り出す方式である。新聞の一面を陳列するために、一部だけはケースの透明な窓を内側から覆う形で置いてあるので、最後の購入者はその新聞を取り出す。以降はケース内が空であることがわかるようになる。一度に複数部を取り出す不正行為を防ぐための機構はない。電気を要さないこともあり管理コストがほとんどかからず、また販売機も商品原価も安価であることから窃盗被害の影響もあまり受けず、市街地の路上に多数設置されて新聞の主要な販路の一つとなっている。

サービス情報自動販売機

ソフトベンダーTAKERU(3代目の機種)

日本標準商品分類では自動販売機(581)は物品等自動販売機(5811)とサービス情報自動販売機(5812)という分類を用いており、サービス情報自動販売機は自動販売機の一種とされている。日本標準商品分類では就職情報自動販売機やパソコンソフト自動販売機が例示されている。なお、国際的なHSコードではこのような細かい分類を設けていない。

  • 就職情報自動販売機
  • パソコンソフト自動販売機 - かつて「ソフトベンダーTAKERU」(旧名「武尊」)があった。ダウンロードしたり内蔵光ディスクメディアから読み出したりしたソフトウェアを、ブランクディスクメディアロムカセットに書き込んで販売した。

自動サービス機

自動販売機のような有形の物を提供する代わりに無形のサービスを提供する機械を特に自動サービス機と呼ぶ[19]。国際的なHSコードでは「物品の自動販売機(例えば、郵便切手用、たばこ用、食料品用又は飲料品用のもの。両替機を含む)」(8476)というカテゴリになっており両替機等と区別していないが、日本標準商品分類では自動販売機(581)と自動サービス機(582)は別の機器としている。

日本標準商品分類による自動サービス機の分類(数字は商品コード)

日本における、細かい分類と取扱品目

基本的には、1990年(平成2年)6月改訂の日本標準商品分類(一部追記)に沿って記載する。物品の場合、食品系(食品・飲料)と非食品系に分かれる。

コンビニエンスストアや24時間営業のスーパーマーケットの出店増加などにより、一昔前と比較すると販売する品目は減少してきている。現在、日本の自販機でよく見られるのは券売機や需要の多い飲み物・アイス、対面では買い難いコンドームである。

デジタルサイネージ自動販売機 JX34(富士電機
JR東日本ウォータービジネスが「次世代自動販売機」の名称で提供。
ボタン操作を排し、47インチ液晶ディスプレイに付いたタッチパネルで操作する。
前面にカメラを内蔵しており、客の接近や自動認識した客の属性判断から、おすすめの商品を動的に変化させる機能を持つ。周囲に客がいない場合は、デジタルサイネージとしてWiMAX経由で配信された広告や各種情報を表示している。
比較的大柄な筐体から、本機の側面はしばしば広告に用いられている。

珍しい自動販売機

今は珍しくなった手動レバー式(ナプキンマスクティッシュ
加西サービスエリアに設置されている復刻堂商店の自動販売機
  • 映画の始祖のキネトスコープにはコイン式のものも存在したが、日本においては子供向けに同形式の8ミリフィルム映画が見られる遊具やグリコの自動販売機が存在した。
  • いくつかのクレープ専門店が自動販売機を設置している。ただし、日持ちがしないため毎朝補填・廃棄する必要があり、親店舗の休店日には販売を行わないこともある。
  • 岐阜市に日本で唯一の缶ビールケース売り自動販売機が存在する。
  • 中華人民共和国南京市には、上海ガニの自動販売機が存在する。市場価格より安い1杯10〜50元で活きたカニを購入できる。中はカニの鮮度を保つため、5〜10℃に保たれており、補充の際に死んだカニがいないかチェックしている。万一死んだカニが出てきた際には生きたカニを3杯無償で提供する[21]
  • 2011年1月19日に、霞ケ関駅にリンゴの自動販売機が登場した。食べやすいサイズにカットされており、皮付きと皮無しを選べる[22]
  • ドン・キホーテなどには、書体を選択すればその場で彫ってくれる判子の自動販売機が設置されている店舗がある[23]
  • 嘗てのパチンコ・パチスロ店には、紙幣や硬貨ではなく、パチンコ玉やメダルでタバコや飲料を購入する形式の自動販売機が存在したが、1円パチンコが普及し始めたころから額面の異なるパチンコ玉やメダルを不正利用して購入する事例が多発したため、現在は殆ど使用されていない。

販売制限・設置制限

商品によっては自動販売機に制限が設けられている場合がある。日本では、タバコビールなどアルコール飲料類の自動販売機については販売時間や設置場所の制限がある。また、紙コップ式の飲料自動販売機は、上水道に直結していることなどもあり、所轄の保健所の営業許可(喫茶店営業)が必要である。近年スーパーマーケットなどに設置されている水の自動販売機も同様である。牛乳などの乳製品も、やはり保健所の営業許可(乳類販売業)が必要となる。

構成と構造

構成

『大日本百科全書』では、自動販売機の構成は、金銭装置指示装置(制御装置)、貯蔵・加工装置販売装置からなると説明されている[3]

  • 金銭装置 : 挿入された通貨の真偽判別や金種選別を行い、金額を計数し、必要に応じて釣銭を出す装置。「自動販売機の心臓部分」とも。硬貨はその直径・厚み・重量・材質等をチェックし、紙幣は縦横寸法などの外形的要素と肖像・模様・すかし・印刷インキの色 等々を組み合わせて総合判別する、と説明されている。カードの場合は、カードの照合判別、金額確認を行う[3]
  • 指示装置: 押ボタンで商品を選択すると、その販売指示を出す[3]
  • 貯蔵・加工装置:商品を貯蔵し、必要に応じて調理等の加工を行う[3]
  • 販売装置:(指示装置から出された)販売指示を受けて、選択された商品を「取出し口」へ送り出す[3]

『自動販売機20年史』では、自動販売機の基本的な機能(およびそれを荷うユニット)としては主に次のものから成る、と説明されている[24]

  • セレクター」(「アクセプター」「正貨受入」とも)や「リジェクター」(「偽貨排除」ともいう):投入硬貨の真偽をチェックし貨幣の種類を判別する[24]
  • チェンジャー」:投入硬貨の係数や販売信号の発信、釣銭の排出などを行う[24]

商品をお客に渡す構造

広くとられたコインの投入口
低位置にもボタンがある例
復刻された1940年代型の瓶用自動販売機(合羽橋道具街通り、2009年5月9日撮影)
瓶を引き出すタイプの自動販売機

ものによって種類は多々あり、一概にこれだけが自動販売機とは呼べない。

商品が落下する構造の物

缶・ペットボトル飲料自動販売機

本体部・商品棚の後ろ側には商品のストックが入っている。コインを入れボタンを押せば内部の電磁コイル等が通電し、商品を出す。また、下にベルトをつけ、一度落下させた商品を上に持ってくることで取り出しやすくした自動販売機も存在する。しかし、このベルト式は一度下に落ちた物体をまた上に運ぶという重力に逆らった方法から、開発当初から故障が後を絶たない。

以前は販売する商品にあわせ機械側の調整が必要なものだったが、昨今その調整を自動で行う無調整機構というものも開発されている。この方式であれば、仮に間違って商品を投入しても詰まることなく商品が払い出され、故障の低減に一役かっている。

また、小型ペットボトル容器が登場し、ペットボトル自体の素材から投入の際に詰まり易いという弊害も出てきている。しかし蓋をして持ち運べるという観点から、その需要は今も急速に伸び続けている。

通常、屋外にある販売機では取り出し口は手前引きとなる。これは雨水などの浸入を防ぐ衛生上の配慮である。

瓶飲料自動販売機

缶飲料同様の自動販売機も存在する。仕組みは缶飲料の自動販売機とほぼ同じだが、ペットボトル同様詰まりやすいという欠点を持っていた。缶と異なり、瓶が横方向に滑るように落下するのではなく、買い手の手前方向に落下する。

汎用型自動販売機

パン類や菓子類の自動販売機の場合、前面がショーウインドー状になっておりスイッチを押すと選択した商品の載った渦巻状のラックが回転し商品を前方の取出口に落下させるスパイラル式のものがある。他にもバケットが受け取りに向かい、バケットにコンベア上の商品を掻き出すものもある。これらは汎用性が高く、パン類や菓子類以外にも使用される。特異な例としては入院着というものもある。

商品を引き出す構造の物

瓶飲料自動販売機

近年ではあまり見かけないが、コインを投入し、買い手自らストックされた瓶を引き出す構造の物もある。金銭を投入することにより、金額に達した商品のロックが外れ、引き出せる構造になっている。缶飲料が普及する以前は、飲料の販売機はこの形式が主流だった。瓶の栓抜きが販売機前面に固定されており、瓶の王冠を引っかけ、てこの原理で瓶を下げることにより、王冠が外れる仕組みである。また外れた王冠は、自動的に王冠のホルダーに落下する仕組みとなっている。

現在は一部のドン.キホーテの他、個人経営の酒屋駄菓子屋の店先などで稀に見かけることがある程度。

また、かつての瓶飲料の販売機と似た構造を持った販売機を宿泊施設の冷蔵庫などに見ることができる。この場合、後払い方式が採用されている。基本的にはストックされた飲料のストッカーにスイッチが付いており、それを引き出すことにより、スイッチが働く仕組みとなっている。冷蔵庫には通信機能があり、それを宿泊施設のコンピューターなどが検知、チェックアウト時に精算する。ストッカーの形状に合わせて、瓶飲料のみならず、缶飲料など多種の飲料を販売している。

扉を開けて商品を引き出す構造の物

落下などの衝撃を与える事のできない商品、多種の商品を選択させる場合、大型の商品を扱う場合などに用いられる。

円盤に商品が乗っている物

構造は、数段の円盤上の棚に、商品が並べられ商品と商品との間は仕切り板で仕切られている。1つの円盤上には6〜8程度の商品が並べられ、回転ボタンを押すことにより商品が循環する仕組みとなっている。希望の商品が手前に来た時点で回転ボタンを放し、扉を開け、希望の商品を取り出す仕組みである。大衆食堂や、ドライブイン、学生食堂、社員食堂などでは、おかずやおつまみの販売、鉢植えの花などの販売に用いられている。

コインロッカー型の物

農作物の無人販売スタンドなどでは、前面の扉を透明な樹脂にしたコインロッカーのようなキャビネットを設置し、内部に商品(野菜や果物、鶏卵など)を入れ「利用料金を支払って施錠する」コインロッカーとは逆転の発想をした「代金を支払うことによって商品を取り出せる」料金徴収方法を採っている。ただし、支払い以前に商品を手にとって鮮度を確認することはできない。

多機能化

Tポイントをためることができる自動販売機
AEDを内蔵した飲料の自動販売機
災害対応型自動販売機e-40

ポイント加算機能

商品を購入した際にカードのポイントを加算する機能のある自動販売機が存在する。ダイドードリンコでは磁気カードにポイント加算する「CLUB DYDO」[25]というシステムを設置している自動販売機がある。ほかに、Tポイントの加算ができる自動販売機もある。

災害時・緊急時対応

災害時には炊き出しの一種として、自動販売機の中の飲料を無料で提供可能なフリーベンド機能も導入が始まっている。これは、地域で災害が発生し自治体などと設置業者の間に結ばれた協定に基づいた状況になった時に、徒歩などで帰宅する者(→帰宅困難者)や断水などにより飲料水を絶たれた地域住民の急場の需要を満たすもので、内部スイッチを手動・遠隔操作・自動で切り替えることで内蔵された飲料を無料で提供することができる[26]。中には電光掲示板を設置したタイプもあり、インターネット回線を介してメッセージの変更が可能となっており、災害時に情報提供を行えるようになっている[26]。商品の提供方法については、通常の販売と違って金銭を投入しなくてもボタンを押すだけで商品が出るというだけに過ぎず、基本的に停電の場合には自動販売機そのものが動作しないため、飲料提供は困難となる。

ただこういった停電により停止した自動販売機内の商品も、メンテナンス業者や店舗側の好意で被災者に提供される可能性もある。南海電気鉄道は2007年9月1日に同社の管理する自動販売機のうち、なんばCITYにフリーベンド機能付きのもの13台を設置したほか、同社が商品として各売店などに一定量在庫している計約1万本の飲料を災害発生時に提供する意向を発表している[27]。また自家発電設備のある施設以外に設置するためのフリーベンド対応機種として、バッテリーなど内部電源をもち、外部電源が切断した場合には電力消費の激しい飲料の冷却・保温と表示用照明を停め、飲料提供機能のみ動作させる自動販売機も登場している[28]

2005年1月から飲料系の自動販売機には設置場所の住所が記載されたステッカーが貼り付けられている。これは緊急時に通報者が必ずしも今いる場所を把握している訳ではない為、現在地を伝達する事を目的に、全国消防長会が自動販売機業界に「自販機の住所表示」を依頼した事に始まる[29][30]

自動体外式除細動器

自動体外式除細動器 (AED) を搭載した自動販売機も増えている。

無線LANアクセスポイント

公衆無線LANアクセスポイントを搭載した自動販売機も増えている。愛知万博[31]で試験が行われ、タケショウはFree Mobileの名称でアサヒ飲料の自動販売機への無線ルーター搭載をすすめている。

防犯カメラ

東京都足立区では、防犯カメラを内蔵して街頭を撮影する飲料自販機が設置されている。キリンビバレッジ警視庁西新井警察署と協力して運用している[32]

問題点と対策

太陽光発電を活用した自動販売機
世界遺産石見銀山では景観に配慮し木目外装を施している
重要文化的景観大沢・上大沢では間垣に囲まれる

待機電力

飲料の自動販売機は消費電力が大きく、ひとつの家庭に匹敵するほどの電力を要する。省エネルギーの観点からは問題があるため、エネルギー効率の改良も続けられている。

筐体上部にソーラーパネルを設置して日中に太陽光発電を行い、夜間照明電力を賄う自動販売機もある。

景観問題

光害の問題や景観に対する悪影響も指摘されている。特定商品の自動販売機では製品の宣伝を兼ねる関係から色彩や形態に意匠が凝らされる傾向もあるが、この意匠が景観を損なうことがある。このため景観に配慮した自動販売機も見られ、設置の際に目立たないように工夫される場合もある。

通行障害

自動販売機は私有地から公共地である道路にはみ出して設置してある場合があり、通行の障害となることがある。これに対しては、設置者側の対応や機器メーカー側も薄型の販売機を開発し導入している。

ごみ問題

飲料の自動販売機では周囲に空缶などが散乱してしまう問題がある。空缶回収ボックスの設置と回収管理と共に利用者のモラル向上が大変重要となる。

煙草・酒類の販売

認証機能やインターホンを備えた酒類自動販売機
成人認証機能を備えていないため、販売時間制限のある酒類自動販売機

煙草の自動販売機による販売は、日本・ドイツ以外のほぼ全ての国で規制されている。酒については、自動販売機で売られているのは世界では、ほとんど日本でしか見られない[33]

日本では、煙草、ビールなどアルコール飲料類の自動販売機の販売時間や設置場所に制限を設けている。煙草やアルコール飲料の販売機は国税庁の認可や免許が必要なほか、成人識別自動販売機以外の自販機では、自主規制で23時から翌朝5時まで販売停止されており、市町村や都道府県レベルの自治体による条例で、設置場所や販売時間に制限が課されていることが多い。

アルコール飲料の自動販売機の場合、成人識別自動販売機以外の自販機については、深夜から翌朝の間の販売停止については罰則がある。タバコの自動販売機は2008年7月以降、全部成人識別自動販売機となったことで、1996年4月1日より行っていた屋外設置のたばこ自動販売機の深夜(午後11時から午前5時まで)稼働自主規制について、2008年8月1日から解除された[34]。なお、販売停止されていた場合は、押しボタンが全て「売切」の点灯状態になっていた。

煙草自販機は、設置を禁止する旨の提言がなされた[35]。これらの問題点に対して、日本はWHOなどから名指しで批判されていることから、たばこ自販機は2008年より社団法人日本たばこ協会(TIOJ)らはtaspoによる成人識別自動販売機の導入を開始した。しかし、カードの貸し借りや無断使用の可能性もある。実験的に導入した種子島では補導数が減少と増加の両面が見られたことから、同カードによる効果に疑問が呈されている。

煙草自動販売機については、地方税法上は設置業者から日本たばこ産業とその関連会社が発注を受け、設置業者(店舗か自動販売機かは問わない)の所在する自治体に対し市町村たばこ税を納税することになっている。これについて、大阪府泉佐野市など一部の自治体が、企業誘致条例に基づき、自動販売機設置業者が別の自治体内で大量に販売した煙草]を、行政区域内に1台のみ設けられた煙草自販機から発注したように書類操作し、多額の税収を得ていたことが判明している。該当の自治体が、見返りに業者に対し奨励金を支払っていることも判明している。地方税法上、この手の書類操作には罰則規定は無いが、総務省では、「地方税法上の趣旨を逸脱している」としており、実態調査を実施したいとしている[36][37]

窃盗問題

自動販売機が普及すると、これを標的にした窃盗も現れた。自動販売機窃盗は加害者から被害者の顔が見えないため、心理的な障壁が低い。窃盗は機械に誤認識させる知能的な窃盗と機械を破壊する暴力的な窃盗に分かれる。

1990年代前半には護身用のスタンガンの高周波を悪用し、自動販売機内部の硬貨選別装置を誤動作させ硬貨を盗み出すという手口まで現れた。現在は対策が施されており不可能である。その他、コイン投入口から洗剤を入れて内部回路にダメージを与える等の多彩な攻撃手法が試みられている。

また、韓国の500ウォン硬貨を変造し500円硬貨として不正利用する事件が相次ぎ、500円硬貨は改鋳を余儀なくされた。当時の価値で500円硬貨のおよそ10分の1だった500ウォン硬貨(発行開始日:1982年6月11日)は500円硬貨(発行開始日:1982年4月1日)と比べて重さが0.5gほど重いだけであり、素材金属の混合比や外径は同じだった。そのため、貫通しない程度に穴をあけたり表面を削り落とすなどして重量を調整してやると自動販売機が500円と誤認識した。紙幣の場合、犯罪を減らすため紙幣を投入可能なものでは紙幣識別機が搭載されている。

機械の破壊に対して、頑丈な鍵と扉を設置するなど物理的対策が取られることもある。これは完全に破壊されるまでの時間稼ぎに過ぎず、その間に犯罪の発覚を期待するか犯罪遂行を断念させるかでしかなく、決定的な防犯対策とはなっていない。なお、現在では携帯電話PHS無線LANを利用して在庫情報の管理や機械の破壊に対しての緊急通報を行う機能を持つものも存在する。このような犯罪行為を防止するため、自動販売機は通常、人の目が届く場所に設置される。例外的に日本では屋外での設置が広く普及しており、日本の景観上の特色にもなっている。

2000年代に入り、現金(紙幣硬貨)やクレジットカードキャッシュカードなどの偽造が増えたため、識別器(紙幣センサー、コインセンサー)の能力の強化が図られている。

2000年代あたりから、一部には電子プリペイドカード、(また2010年代あたりから)携帯電話機でのみのキャッシュレス決済を行う自動販売機が設置されつつある。これらには自動販売機内部に金銭を置かないことで窃盗犯に狙われにくくする副次的な効果もある。ただし、キャッシュレス決済手段自体がまだその普及を急いでいる段階であり、現時点では逆に小銭しか持っていない顧客を取りこぼすデメリットを抱えている。

一方で、2010年代終盤あたりから、機械に衝撃を与えて機器を誤作動させ、釣銭を盗み出す新手口の窃盗が相次ぐようになっている[38]

多様な決済やキャッシュレス化への対応

(現金目当ての窃盗対策も兼ねている面があるが) 2010年代ころから、現金やクレジットカード以外の支払方法として携帯電話FeliCaを利用した決済方法Cmodeや、EdySuicaなどの電子マネー、iDPiTaPaなどのポストペイで支払う販売機も登場した。特に煙草の自動販売機では、年齢認証付きの電子マネー専用とすることで、20歳未満への販売を防止できる効果もある。

中国では2010年代後半になり(有人販売だけでなく)自動販売機も急速なキャッシュレス化が進み、現金を受け付けない自動販売機も増えた。

上記の犯罪以外にも、販売商品の中身を毒物に入れ変えた瓶飲料を取り出し口に置き去りすることによる殺人事件も過去に発生している。

主な製造者

脚注

注釈

  1. ^ 飲料自動販売機国内第1位である富士電機の自動販売機(を始めとした食品系電気機器各種)の製造拠点である三重工場がある。
  2. ^ 近年[いつ?]運転免許証を翳すなどして、20歳以上であることの証明が求められる機能が搭載されている。

出典

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  2. ^ 意匠分類定義カード(J5) 特許庁
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参考文献

  • 金木有香(著)『三重あるある』黒茶鯖虎(イラスト)、TOブックス、2014年10月15日。OCLC 892332455 ISBN 4-86472-300-1ISBN 978-4-86472-300-8
  • 黒崎貴(cf.' Webcat Plus[1])『自動販売機―世界に誇る普及と技術』日本食糧新聞社、2012年3月。OCLC 785068367 ISBN 4-88927-226-7ISBN 978-4-88927-226-0
  • 鷲巣力『自動販売機の文化史』集英社集英社新書 0187〉、2003年3月14日。OCLC 674895882 ISBN 4-08-720187-2ISBN 978-4-08-720187-1
  • 日本自動販売機工業会『自動販売機20年史』日本自動販売機工業会(現・日本自動販売システム機械工業会)、1983年12月1日。ASIN B000J73P10 全国書誌番号:84058251

関連項目

笑点』内の持ちネタで、「自動販売機下の小銭拾い」というものがある。
1000円自販機に挑戦する回が不定期に放送されている。
1000円自販機にひたすら挑戦するだけのコーナーが存在する。

外部リンク