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日本語の方言のアクセント

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日本語の方言のアクセント概観
  京阪式およびその亜種
  東京式
  二型
  無型
  京阪-東京 中間型
  東京-無 中間型

日本語の方言のアクセント(にほんごのほうげんのアクセント)では、日本語アクセントの地域による違いや分布、またアクセントの歴史について記述する。

日本語の多くの方言は高低アクセントを持っており、英語のような強弱アクセントではない。代表的なものに東京式アクセント(乙種アクセント)と京阪式アクセント(甲種アクセント)がある。京阪式アクセントは近畿を中心とした地域に分布し、東京式アクセントはそれを東西から挟むように東日本や中国地方など広い範囲に分布する。東京式アクセントでは音の下がり目の位置によってアクセントを区別するが、京阪式アクセントでは下がり目だけでなく語頭が高いか低いかも区別する。また九州西南部などに分布する二型アクセントでは、アクセントが2種類に限定されており、下がり目の位置は有意味ではないと考えられている。一部の方言では音韻的に有意味なアクセントがなく、無アクセントと呼ばれる[1][2]

アクセントは地域間で規則的な対応関係があり、このことから全国のアクセントは過去の同一のアクセントが変化したものと考えられている。

日本語アクセントの体系と表記[編集]

有アクセントの多くの方言では、音の下がり目がどこにあるかが区別される。例えば東京方言で「雨が」は「めが」と発音され「あ」の後に下がり目がある(高く発音する部分を太字で表す。以下同じ)。「足が」は「あが」と発音され「し」の後に下がり目があり、「風が」は「かぜが」と発音され下がり目がない。下がり目の直前の拍には、アクセント核と呼ばれる、ピッチ変動をもたらす特徴があると考えられる。東京の場合、アクセント核はその次の拍を下げる働きがあるため、下げ核と言い、で表す[3]。東京方言の「雨」は○型を持ち、「足」は○型で、「風」は○○型(下げ核がない)である。

上がり目は単語固有のアクセントではない[3]。東京方言では、間を区切らずひとまとまりに発音した部分の第1拍と第2拍の間に音の上昇がみられ、これを句音調と呼ぶ(第1拍にアクセント核がある場合は、第1拍の前に上昇がある)[3]。「こ、かぜが」「こ、あが」と区切って発音すればそれぞれの最初に句音調が現れるが、区切らずに発音すれば「このかぜが」「このあしが」のように最初にしか句音調は現れない。を使った表記は、アクセントだけを取り出し抽象化したものであり、「かぜが」「あが」のような表記は、アクセントと句音調の性質を同時に表記したものである。発話における実際の発音では、アクセントだけでなく、句音調や、焦点となる語の最初に現れる上昇(プロミネンス)、疑問文での文末の上昇(イントネーション)が加わって音調が決まる。

○○型と○型のように、東京方言ではアクセント核のない型と、最後の拍にアクセント核がある型は、そのままの形では発音の区別はつかない。たとえば、「鼻」と「花」はどちらも「は」で違いはない。しかし、「が」などの助詞を付けると、「はなが」(鼻が)と「はが」(花が)で区別できる。「が」のような助詞は固有のアクセントを持たず、自立語のアクセントに従属する。以上のことから、以下では音調を表すときに可能な限り助詞付きの形で示している。

京阪式アクセントなどでは、拍内で下降が聞かれることがあり、拍の最初が高く最後が低い。例えば京阪では「雨」には第2拍に拍内下降があるが、これを「あぇ」のように表記する。

方言間の対応関係[編集]

日本語のアクセントは地方によって異なっているが、無秩序に異なっているのではなく、規則的な対応関係がある。たとえば「風が」「鳥が」「牛が」を東京で「低高高」と発音し、京都で「高高高」と発音する。「足が」「犬が」「月が」を東京で「低高低」、京都で「高低低」と発音する。「雨が」「秋が」「声が」を東京で「高低低」、京都で「低高低」と発音する。このような規則的な対応関係は、東京と京都だけでなく全国の方言間にあり、このことは、全国の方言アクセントが一つの祖アクセント体系から分かれ出たことを意味する[4]。そして、文献資料や現代方言の比較から、記録に残る平安時代の京都アクセントが祖アクセントに最も近い体系を有していたと考えられている。祖体系に見られるアクセントの型区別に従い単語を分類した各グループを(語類)と呼ぶ。2拍名詞には1類から5類までの5つの類があり、前述の「風・鳥・牛」は1類、「足・犬・月」は3類、「雨・秋・声」は5類である。現代諸方言のアクセントは、平安期京都アクセントに近いものが様々な変化をしてできたものと考えられ、各地とも変化の過程ではいくつかの類が統合して同じ型になっている。現代諸方言のアクセントは、各類がその地でどのような組み合わせで統合しているか、また各類がどういう型になっているかによって比較することができる。

各種のアクセント[編集]

日本語のアクセント分布

東京式アクセント[編集]

東京式アクセントが分布するのは、北海道東北北部、関東西部・甲信越東海三重県除く)、奈良県南部、近畿北西部・中国地方四国西南部、九州北東部である。東京式アクセントは、大きく内輪東京式中輪東京式外輪東京式に分けられる。内輪式は名古屋岡山など近畿に近い地域に分布し、その外側の西関東や広島などに中輪式、さらに外側の長野大分などに外輪式が分布する。東京方言の場合、二拍名詞の1類は「うしが」、2・3類は「いが」、4・5類は「とが」と発音する。これらはそれぞれ、抽象化すると○○型、○型、○型と表される。東京式アクセントでは、下げ核()がどこにあるかが弁別される。東京式各タイプの、各類のアクセント型は次のとおりである。

東京式アクセント
  語例 内輪 中輪 外輪
一拍名詞 1類 子・戸・血
2類 名・葉・日
3類 木・手・目
2拍名詞 1類 牛・風・鳥 ○○
2類 石・音・紙 ○○
3類 足・犬・月
4類 糸・笠・何
5類 雨・猿・春
2拍動詞 1類 行く・着る ○○
2類 有る・見る

東京方言の句音調は第1拍と第2拍の間に上昇があるが、地域により他のパターンもある。北奥羽方言では3拍以上の語で「おと」「みずみ」のようにアクセント核の直前で上昇する[5]。名古屋・岐阜では「ともだち」のように第2拍の直後で上昇する[5]

上記の他、東京式にはいくつかの変種アクセントがある。北海道および北奥羽方言(三陸沿岸を除く)では二拍名詞で○型が少なく○型の語が多い[6]。岩手県南部・宮城県北部では二拍名詞1・2類が○○型なのは外輪東京式と同じだが、3・4・5類が○型で、○型がない[7]。福岡県筑前地方では○型と○型のみで○○型がない[8]

島根県出雲市大社町付近では、二拍名詞の4類と5類の区別が見られる。4類のほとんどは○型(ただし2拍目に狭母音[i、u]を含む場合、助詞付きでは「まつ」のように高い部分が助詞へ移る)であるが、5類のうち2拍目に狭母音を含む場合は○型となる傾向がある[9]

京阪式および類似の諸アクセント[編集]

京阪式[編集]

京阪式アクセントは近畿大部分から福井県小浜市付近と、岐阜県揖斐川町、四国の大半に分布する。京阪式アクセントは、下がり目の位置だけでなく、語頭の高低も弁別する。語頭の高いものを高起式、低いものを低起式と言い、高起式をH、低起式をLと表す。たとえば二拍名詞にはH○○型(かぜが)、H○型(しが)、L○○型(いと/いとが)、L○型(あが)がある。高起式は、高く始まり下げ核まで(核が無ければ文節末まで)平らに発音するので、平進式とも言う。低起式は、低く始まり上昇するので、上昇式とも言う[3]。低起式は近畿中央部では「かまり」(L○○○)のように核のある1拍のみ高く、核がない場合は「うさ」「うさぎ」(L○○○)のように文節末が高く、ただし次に高起式の語が続く場合は「うさぎがる」のように文節末まで低い[10][11]。一方、高知市などでは「かまきり」「うさぎ」のように2拍目から高くなる[11][12]。京阪式では拍内での音の下降(拍内下降)が聞かれることがあり、近畿中央部などでは二拍名詞5類(L○)は助詞を付けない単独の発音では「あぇ」のように2拍目に拍内下降がある。類別体系では、京阪式では2拍名詞に4類と5類の区別があるところが東京式との大きな違いである。

京阪式アクセント
  語例 アクセント型
一拍名詞 1類 子・戸・血 H○
2類 名・葉・日 H
3類 木・手・目 L○
二拍名詞 1類 牛・風・鳥 H○○
2類 石・音・紙 H
3類 足・犬・月 H
4類 糸・笠・何 L○○
5類 雨・猿・春 L○
二拍動詞 1類 行く・着る H○○
2類 有る・見る L○○

和歌山県那智勝浦町や、三重県度会郡南部では、高起式の語の第一拍が低く発音される。たとえば、主流の京阪式で「かぜが」「さくらが」「あたまが」と発音するものを、「かぜが」「さくらが」「あまが」のように発音する。ただ、その前に下げ核のない語がつくと、「このかぜが」「このさくらが」「このあたまが」のように語頭が高くなる。一方、低起式の語は語頭が低いままであり、この地域のアクセントも高起式と低起式を区別する体系を持っている。[13]

三重県熊野[編集]

三重県尾鷲市早田村から熊野市海岸部・御浜町紀宝町にかけてのアクセントは、山口幸洋によるとほぼ同質のアクセント(熊野式)で、二拍名詞では1類が○○型、2・3類は○型、4類は上昇性のない平板な発音、5類は○型である[14]。ただし2・3類は、単独では「し」だが助詞付きでは「あしが」となる傾向が強い。1類は「かぜが」「かぜが」「かぜ」の全てがありえ、しかし4類とは区別される。一方で1・4類ともに「ぜが」「」のような音調が現れることもある[14]。4類には珍しい現象があり、前に語が付くと「このいと」と発音され、この点で「このうし」(この牛)となる1類とは異なっている[15]

石川県能登[編集]

石川県能登のアクセントは地域による変異が激しいが、能登主流のアクセントでは、2拍名詞の1類は「か」「かぜが」のように発音され、2・3類は「い」「いが」となり、4類は「うみ」「うみが」で低く平板、5類は単独では「あ」だが、助詞が付くと「あめ」になる[16]。したがって能登では、「低高高」と「低低高」と「低低低」は区別される。ただし能登では、2拍目の母音の広狭によって発音の違いがある[17]金田一春彦は、この能登のアクセントは京阪式から東京式に変化する途中のアクセントであると考えた[17]

垂井式[編集]

京阪式から、高起式と低起式の区別をなくしたようなアクセントが、近畿周縁部や四国山間部、北陸の一部に分布している[18]

このうち、兵庫県赤穂市相生市たつの市や和歌山県新宮市・旧本宮町などのアクセントをC型アクセントと呼び、二拍名詞5類を「あめが」または「あが」と言い、1類と4類が統合して「いとが」または「いとが」と言い、2・3類は「しが」となる。これらは、下げ核だけを弁別する東京式と同じ体系であり、1・4類が○○型、2・3類が○型、5類が○型である。

一方、岐阜県垂井町や福井県大野市勝山市京都府福知山市、兵庫県丹波市などでは5類は○型になっている。これらの地域では1・4類が○○型で2・3・5類が○型であり、B型アクセントと呼ばれる[19][20]。富山県のアクセントでは、B型アクセントから、さらに母音の広狭に応じて変化が起きている。2・3・5類のうち、二拍目が広母音のものは○型で、二拍目が狭母音のものだけ○型でとどまっており、表面上はかなり東京式に近いアクセントになっている[21][22]

東京式と垂井式B型、C型の接触地域の一部、具体的には兵庫県赤穂市福浦や佐用町末包、奈良県五條市大塔町阪本・天川村中谷、岐阜県海津市南濃町境・松山などでは、二拍名詞の1類のみ○○型で、2・3・4・5類が○型である[19][20]。これはA型アクセントと呼ばれ、垂井式に分類されることもあるが、4類が1類とは別になっている。

岡山県寒河など[編集]

岡山県備前市日生町寒河は、二拍名詞は1類が○○型、2・4・5類が○型、3類が○型である。東京式に近いが、1類と2類と3類の区別をもつ点が珍しい[23]。また新潟県村上市の旧三面村奥三面・山形県鶴岡市の旧東田川郡大泉村大鳥も、同様の類別体系を持つ[24]

讃岐式[編集]

香川県徳島県北西部、愛媛県東部には、讃岐式アクセントが分布する[25]。讃岐式は京阪式に似るものの、二拍名詞で3類が1類と統合している点が異なる。観音寺市などの香川県西部では、京阪式の高起平進式と低起上昇式ではなく、下降式低接式の対立がある[3]。下降式を ! 、低接式を & で表すと、2拍名詞1・3類が!○○型、2類が!○型、4類が&○○型、5類が&○型である。下降式では、2拍目と3拍目の間(2拍語では1拍目と2拍目の間)に小幅な下降がある。そのため1・3類は「いぬが」に近いが「が」がやや低くなる。2類は「しが」。低接式では、4類「いとが」は平板な音調あるいは最初が低く2拍目から少し高くなるが、必ずしも最初が低いとは限らず、高く平板な音調の場合もある。ただ、その前に語を付けると「このいと」のように必ず低くなる[26]。5類は「あが」[27][28]

讃岐式は内部に様々な変異があり複雑な分布をしている。高松市などの香川県東部では二拍名詞1・3類は「いぬが」であり、2類のうち「音」など2拍目が広母音(a, e, o)のものは「おぉが」(2拍目に拍内下降)となる[28]塩飽本島粟島、愛媛県四国中央市川之江、徳島県旧山城町、徳島県旧一宇村では、二拍名詞は2類は○型、4類は○○型だが、1・3・5類が○型になる[29][30][31]。また徳島県三好市出合では、1・2・3類が○型、4類が○○型、5類が○型である[32][30]

真鍋島式[編集]

岡山県の真鍋島のアクセントでは、二拍名詞は、1・5類が「か」、4類が「い」、2類が「ぃ」(二拍目に拍内下降あり)、3類が「いぬ」型となっている[33]。香川県佐柳島のアクセントもこれに似るが、複雑な体系を持っており、型の種類が全国で最も多い[33]

伊吹島[編集]

香川県の伊吹島では、全国で唯一、二拍名詞の5つの類を全て区別している。そのため平安時代の京都アクセントに最も近いと言われるが、それぞれの類がどういうアクセントであるかには研究者でも見方が分かれている。金田一春彦によれば1類「かぜ」、2類「わ」、3類「やまぁ」、4類「か」、5類「あぇ」である[33]上野善道によれば、平進式 H 、下降式 ! 、上昇式 L の対立があり、1類はH○○型、2類はH○型、3類は!○○型、4類はL○○型、5類はL○型である[26]

石川県加賀、福井県今庄[編集]

石川県旧白峰村のアクセントでは、下降式 ! と平進式(あるいは非下降式。ここでは無印とする)の対立がある[26]。白峰の下降式音調は、二拍目が最も高く、三拍目以降は緩やかに下降していく。ただし助詞の付かない二拍語では一拍目がやや高く二拍目には小さな拍内下降が聞かれる[34]。二拍名詞の1類が!○○型、2・3類が○型、4・5類が○○型である(5類には○型の語も混じる[35][26]。三拍語では室町時代の京都アクセントでH○○○型だったものが!○○○型に、H○○型が○○型に、H○○が○○に、L○○○型とL○○型が統合して○○○型になっている[34][33]

加賀地方の平野部では、これが母音の広狭に応じて変化している。例えば加賀市大聖寺では、二拍名詞の1・2・3類のうち、二拍目が狭母音(i、u)を持つものは○型で、二拍目が広母音(a、e、o)を持つものは○型である[36]。一方で金沢市(昭和生まれ)では、1・2・3類のうち、二拍目が有声子音かつ狭母音のもの(犬など)が○型で、二拍目が無声子音または広母音のもの(池・山など)は○型である。ただし、金沢市の明治生まれを中心に大正中ごろまでに生まれた世代では、1類はすべて○型で、2・3類とは区別される[37][35]。2・3類の大部分が○型になるので、やや東京式に近い[33]。なお金沢における○型などの語末に核のある型は最終拍に拍内下降がある[37]。金沢市でも4・5類は○○型である(5類には○型、○型の語も混じる)[35][36]

福井県旧今庄町では二拍名詞の1・2・3類が○型、4・5類が○○型(5類の半数は○型)になっている[20][38]福井市東部の美山町芦見川流域(吉山・籠谷・西中)にも、1・2・3類○型、4類○○型(5類はまとまりなし)で○型の無いアクセントがある[39]

佐渡島、関ヶ原、八幡浜[編集]

新潟県佐渡島のうち、北端部と南西部では二拍名詞の1・5類が○型、2・3類が○型、4類が○○型である。佐渡中央部では、1・4・5類が統合して○○型、2・3類が○型である[19][33]

岐阜県関ケ原町今須[20]や、愛媛県八幡浜市のアクセントでも、1・4・5類が○○型、2・3類が○型である。三拍語を見ると、室町時代の京都アクセントでH○○○型(桜)、L○○○型(うさぎ)、L○○型(いちご)だったものが統合して○○○型になり、室町時代京都でH○○型(頭)だったものは○○型、H○○型(命)だったものは○○型になっている[33]

三重県尾鷲・紀北[編集]

三重県紀北町のアクセント(長島式)では、二拍名詞は、1類が○○(下がり目なし)、2・3類が○、4・5類が○という体系を持っている[14]。また同種のアクセントが奈良県下北山村池原にもある[14]

尾鷲市中心部・九鬼のアクセント(尾鷲式)は紀北町のものに近いが、複雑な体系を持っており、研究者によって解釈も分かれる。1類は○○型、2・3類は○型である。1類は「う」、「うっしゃ」(牛が)のように発音される(この地域の方言として助詞は前の語と融合して発音される)。4・5類は、単独では「いと」と発音されるものの、○○型の「この」が前に来ると、「こいと」のように低く発音される。また、4・5類の後に付く語は「いときる」のように低く発音される。ただし、4・5類の後の助詞は低くならず、「あんみゃふる」(雨が降る)のように助詞の後が低く発音される。金田一春彦はこれを、4・5類には語頭の直前に下がり目があるため「こいと」のようになり、また二拍目の直後にも下がり目があるため「いときる」のようになると解釈した[13]

奈良県下北山村の大瀬・音枝(いずれもすでに水没して現存せず)と、三重県尾鷲市古江のアクセントでは、二拍名詞は1類が○○型、2・3・4・5類が○型である[14]

各方言の比較表[編集]

2拍名詞のアクセント
語例 京阪式 垂井式
C型
垂井式
B型
垂井式
A型
伊吹島
[注 1]
西讃岐 粟島
川之江
など
徳島県
出合
石川県
白峰
福井県
今庄
佐渡両端 佐渡中央
関ヶ原
八幡浜
三重県
長島式
三重県
古江
岡山県
寒河
内輪
中輪
東京式
1類 牛・風 H○○ ○○ ○○ ○○ H○○ !○○ !○○ ○○ ○○ ○○ ○○ ○○
2類 石・音 H H !
3類 足・犬 H !○○ !○○
4類 糸・笠 L○○ ○○ ○○ L○○ &○○ ○○ ○○ ○○ ○○ ○○ ○○
5類 雨・猿 L○ L○ &○ ○○ ○○ ○○

上がり目を弁別するアクセント[編集]

日本語の多くの方言では、音の下がり目の位置を区別するが、上がり目の位置を区別する方言もある。

奈良田のアクセント[編集]

山梨県早川町奈良田がその代表で、奈良田のアクセントでは上げ核を弁別する。上げ核は、その次の音を上げるはたらきを持つ。上げ核の位置は、周辺の中輪東京式アクセントの下げ核の位置とほぼ同じで(中輪東京式から変化したため)、しかし核の種類が違うため高低はまったく違ってくる。無核の場合は「ぜが」(風が)のように1拍目が高くなる。このように、1拍目に上げ核がある場合を除いて1拍目が高くなるが、これはアクセントの弁別的特徴ではない。有核の場合、上げ核の後の高い部分は、原則として一拍である。○型の「猿」は「さが」、○型の「山」は「」と発音される。三拍語になると、○○○型(くらが)、○○型(かとが)、○○型(が)、○○型(がみ)のようになる[40]

埼玉県東部にも似たアクセントがあり、「埼玉特殊アクセント」と呼ばれるが、型の区別が曖昧である。(後述)

青森などの昇り核アクセント[編集]

同じく音の上がり目を区別するアクセントで、昇り核を弁別するものがある。昇り核は、その音節・拍が上がるというものである。昇り核によるアクセント体系は、青森県の青森市弘前市、岩手県雫石町から報告されている[40][41][42]。これらの方言では、単語の言い切りの形では東京式アクセントと同じ音調であるため東京式アクセントに分類されていたが、文中での接続の形から、下がり目を弁別しているのではないことが明らかになった。たとえば弘前市では、「猿」は言い切りの形では「る」であるが、文がつながっていく場合では「さるも…」となる。「山」の言いきりでは「や」(ただし二拍目に拍内下降がある)だが、接続の形では「やまも…」となる。弘前市のアクセントで弁別されるのは上がり目であり、下がるのは言い切るときの最後の一つ前と決まっている。「猿」は○型、「山」は○型であり、昇り核のあるところから高くなる。三拍語では、○○型では「きつねも…」、○○型は「うさぎも…」、○○型では「おとこも…」のようになる[40]

N型アクセント[編集]

以下で解説する、三型アクセント、二型アクセント、一型アクセントを総称して、N型(エヌけい)アクセントと呼ぶ。N型アクセントとは、アクセントの対立数が一定数以下(多くの場合は3以下)に限定されているアクセント体系を指し、対立数に応じて三型、二型、一型と呼ぶ[43]

九州西南部式[編集]

九州西南部には、拍数が増えてもアクセントの型が2種類しかないアクセントがある。このようなものを二型アクセントと呼び、後述の三国式アクセントもそうである。九州の二型アクセントは九州西南部式アクセントとも呼ばれる[44]。単語はA型とB型のどちらかに属しており、一拍名詞では1・2類がA型、3類がB型に属し、二拍名詞では1・2類がA型、3・4・5類がB型に属す。二型アクセントでは単語単独と助詞付きでは高い部分の位置が異なり、助詞付きのときはその助詞付きの形と同じ長さの名詞と同じ音調になる。この現象を「系列化」と呼ぶ[43]。たとえば長崎県南部では、A型は「ぜ」「かぜが」「からだ」「からだが」「かまぼこ」のように2拍では1拍目を高く3拍以上では2拍目までを高く発音し、B型は「か」「かさ」「から」「からす」「かみな」のように最終拍を高く発音する[45][46]。また鹿児島県大部分では、A型は「ぜ」「かが」「さら」「さくが」のように句末から2音節前の音節が高く発音され、B型は「か」「かさ」「あた」「あたま」のように最終音節を高く発音する[46][47]。鹿児島県枕崎市では高低の様相がかなり違い、A型は「か」「」、B型は「さ」「かが」(ただし最終拍の前の下降幅は小さい)のように言う[43]種子島北部も枕崎のアクセントに似る[33]

隠岐のアクセント[編集]

島根県隠岐諸島のアクセントは、狭い範囲で激しい地域差がある。大きく分けても知夫西ノ島中ノ島島後南部、島後北部(都万・五箇・中村)の3つに分けられ、それぞれも集落による違いがある。下表はそれぞれの代表地点として知夫・別府・五箇のアクセントを示したもので、/で区切られた左側が助詞を付けない単独形、右側が助詞を付けた形である(例えば知夫での「池」は「け」「いけが」)[48]。知夫以外では拍数が増えてもアクセントの型の種類は3種類のみで、三型アクセントである。知夫では2種類のみで、二型アクセントである[33]。隠岐でも九州西南部式と同じく、系列化の現象がみられる[43]

隠岐のアクセント
二拍名詞 語例 知夫 別府 五箇
1類 風・口 低高/中低-高 低高/低高-低 低高/中低-高
2類・3類 池・石 高低/高高-低 高低/高高-低 高低/低高-低
4類・5類 雨・息 低高/中低-高 低高/低高-高 中低/中低-低

一型アクセント[編集]

宮崎県都城市・鹿児島県旧志布志町のアクセントでは、すべての単語・文節において、最後の音節を高く発音する。例えば、「き」(木が、気が)、「あ」(雨、飴)、「あめ」(雨が、飴が)、「おと」(男)、「おとこ」(男も)など[12]。全ての語のアクセントが同じであり、このようなアクセントを一型アクセントと呼ぶ。一型アクセントでは、アクセントによって単語を弁別する機能はないが、文節のまとまりを示す機能をもつ[12]

曖昧アクセント[編集]

型の区別が曖昧なアクセントを総称して曖昧アクセントと呼ぶ。話者のアクセントが一定せず、同じ語を複数の型で発音する傾向がある。アクセント体系が崩壊して無アクセントに変化する途中であるとする説と、逆に無アクセント話者がアクセントを獲得しようとする途中のアクセントであるとする説がある。

埼玉特殊アクセント 等[編集]

埼玉県東部には奈良田方言のアクセントに似たアクセントがあり、「埼玉特殊アクセント」と呼ばれる。音の高低が中輪東京式とほとんど逆になるが、中輪東京式アクセントと無アクセントの中間形のアクセントと考えられる。埼玉特殊アクセントの中でも、地域による違いが大きく、例えば蓮田市では「あめが」(雨が)、「いしが」(石が)、「あが」(秋が)、加須市では「あめが」(雨が)、「しが」(石が)、「あきが」(秋が)のようなアクセントであり[49]、型の区別があいまいである。戦前は東京都足立区江戸川区、(現在の)千葉県浦安市まで分布していたが、戦後は東京式アクセントの範囲が広がった[33]

栃木県佐野市群馬県館林市板倉町付近にも中輪東京式と無アクセントの間の曖昧アクセントが分布する。

また、宮城県北部から山形県北東部にかけても埼玉東部に似たアクセントが分布している。外輪東京式と無アクセントの間の曖昧アクセントであり、音の高低が外輪東京式とほとんど逆になり、型の区別が曖昧である[50]

福井嶺北[編集]

福井県嶺北の平野部には、坂井市三国町あわら市永平寺町松岡などに、三国式と呼ばれる二型アクセントがある[51][52][53]。二拍名詞では、1・4・5類を「ぜ」「かが」、2・3類を「い」「いしが」のように発音する[33]。これは下がり目の有無のみが区別されており、1・4・5類が下がり目あり、2・3類が下がり目なし、という体系である。拍数が増えても、二拍目から高く最後の拍の直前で下降する有下降型と、最後まで下降しない無下降型の2種類の型からなる[7][53]。ただし型の区別はあいまいで、調査方法によって、無アクセントとされる福井市内でも三国式アクセントが現れることもあれば、三国町での調査で全員が無アクセントとされたこともあり[7][51]山口幸洋は調査でアクセントの区別が現れたとしても方言としての自然な姿は無アクセントではないかと指摘している[7]

最近の調査では、嶺北の沿岸部で、多種の三型アクセントが発見されている。あわら市には3種類の三型アクセントを含む多様なアクセント体系が複雑に分布しており[53]、福井市沿岸部には4種の三型アクセントがあり[39]、坂井市三国町安島、越前町厨・小樟も三型アクセントである[54][55]。これらはいずれも型区別は明瞭である。地区により音調の違いがあるものの、各型の所属語彙は共通しており、二拍名詞はおおむね1類と2・3類と4・5類が区別されている[54][55][39]

無アクセント[編集]

東北南部・関東北東部や八丈島、静岡県大井川上流域、福井県嶺北地方平野部、九州中部(宮崎県など)などでは、単語のどこを高くするという決まりが無い。これを無アクセントと言う[12]

琉球方言のアクセント[編集]

琉球方言のアクセントは多様性が大きいが、これまでの研究によれば、類の統合の仕方から見て、二拍名詞で1・2類/3類/4・5類となる外輪東京式の系統が徳之島沖縄本島北部などに、1・2類/3・4・5類となる九州西南部式の系統が沖縄本島南部や八重山列島などに存在するとされている。他に、1・2・3類/4・5類のアクセントや、一型、無アクセントの地域があるが、いずれにしろ九州に存在する諸アクセントと同じ各系統が入り乱れて分布しており、本土方言と大きく対立する特徴はないとされている[56][57][33]。また型の体系から見ると、多くは二型または三型のN型アクセント体系を有する[58]

一方で、服部四郎や松森昌子によると、琉球方言のアクセントでは本土方言には見られない語群の分裂と統合をしている。二拍名詞の3・4・5類は、琉球方言では各類が分裂して別々の型に属している。琉球の各方言の比較により、琉球祖語(琉球方言全ての祖語)では、A系列(1・2類)、B系列(3類の殆どと4・5類の半数)、C系列(3類の少数と4・5類の半数)の3つの系列が区別されていたと想定される。また三拍語でもA、B、Cの3系列に分かれる。琉球の三型アクセント方言にはA/B/Cの区別がみられる地域があり、二型アクセント方言にはA/B・CやA・B/Cの形で統合している地域がみられる[59]

アクセントの類型[編集]

方言アクセントの種類[60]





弁別特徴
(アクセント
核・声調)
下位分類
(名称)
型の区別 型の数 地域 人口比












核あり・
声調なし
昇り核
アクセント
昇り核の
位置
n拍につき
n+1
東北北部 5%前後
下げ核
アクセント
下げ核の
位置
東北北部を除
く「東京式アク
セント」地域
60%以上
核あり・
声調あり
下げ核+声調
アクセント
下げ核の
位置と、
開始の音調
1拍語は3種、
2拍語は4種、
3拍語以上は
n拍につき
2n-1
「京阪式アク
セント」地域
20%強
N





核なし・
声調あり
2型アクセント 全体の
ピッチパ
ターン
2 九州西南部、
琉球
5%前後
3型アクセント 3 島根県隠岐、
琉球
1型アクセント 1 宮崎県都城
市・小林市、
鹿児島県志布
志市・曽於市
10%強












不定 無型アクセント なし 不定 東北南部・関
東北部、九州
中部

どの語類がどのアクセント型に属すか、という対応を離れて、各方言でどのようなアクセントの弁別体系を持っているのかを見る。

東京式アクセントや京阪式アクセントでは、拍数が増えるとそれだけアクセントの型の種類も増える。たとえば東京では、2拍語には○○、○、○の3種類、3拍語には○○○、○○、○○、○○の4種類のアクセントがある。つまりn拍語にはn+1種類のアクセントの型がある。このような、拍数が増えるに従ってアクセントの型が増えるものを、多型アクセントと呼ぶ[3]

一方、九州西南部式などの二型アクセントでは、拍数が増えても型の区別は2種類である。また、島根県隠岐諸島(知夫を除く)では、拍数が増えても型の種類は3種類までである[61]。このような、拍数が増えても型の区別が一定数以上に増えないものを、N型アクセントと呼ぶ[3]

東京式アクセントでは下げ核の位置のみが有意味であり、「位置のアクセント(狭義のアクセント)」とみなされる。一方、京阪式アクセントやN型アクセントにみられる音調を、語声調(トーン)とみなす説もある。語声調(トーン)とは、各語・文節はどのパターンを持つか、が有意味なものである(中国語のような音節ごとの声調とは異なる)[47]。語声調は、単語・文節全体にかかる音調パターンであり、その方言においてどのパターンがあるかが決まっている。例えば鹿児島方言では、最後から2音節目が高く最後に下降するA型と、最後の1音節が高いB型の2種類の語声調を持っている[注 2]。京阪式アクセントは、この語声調と位置アクセントの両方を持ち、高起式・低起式の2つの語声調(トーン)と、下げ核の位置が組み合わさったものである。

歴史[編集]

京都アクセントの変遷[62]
  語例 名義抄式
(平安後期)
補忘記式
(室町)
現代
一拍
名詞
1類 子・戸 高(高)〜高高(高)
2類 名・日 降(低)〜高低(低)※
3類 手・目 低(高)〜低低(高)
二拍
名詞
1類 風・鳥 高高(高)
2類 石・音 高低(低)※
3類 犬・月 低低(高) 高低(低)
4類 糸・笠 低高(高) 低低(高)
5類 猿・雨 低降(低)※
三拍
名詞
1類 形・桜 高高高(高)
2類 小豆・女 高高低(低)※ 高低低(低)
3類 力・二十歳 高低低(低)※
4類 頭・男 低低低(高) 高高低(低) 高低低(低)
5類 朝日・命 低低高(高) 高低低(低)
6類 雀・兎 低高高(高) 低低低(高)
7類 薬・便り 低高低(低)※
二拍
動詞
1類 行く・着る 高高
2類 有る・見る 低高
三拍
動詞
1類 上がる・明ける 高高高
2類 動く・起きる 低低高 高低低 高高高
低低高[注 3]
三拍
形容詞
1類 赤い・暗い 高高降 高高低 高低低
2類 白い・高い 低低降 高低低

日本語のアクセントの歴史については、京都のアクセントの記録が平安時代から残っており、今の京阪式アクセントになるまでにどのような変化をしてきたかが明らかになっている。代表的な資料に、平安時代後期の辞書『類聚名義抄』や、室町時代のアクセントを記した『補忘記[注 4]がある。平安時代の京都アクセントは、現代よりも型の種類が多い、複雑なものだった。京都のアクセントは、南北朝時代に大きな変化をしており、それより前の時代のアクセントを名義抄式アクセント、それより後の室町時代のアクセントを補忘記式アクセントと呼ぶ。各類の、名義抄式アクセントから補忘記式アクセント、現代京都アクセントまでの変遷は表のようになっている(「降」は拍内下降。カッコ内は助詞。ただし※を打った類については、平安時代にはむしろ、助詞は高く発音されることが多かったと考えられる)。南北朝時代の変化では、以下の通り、語頭に「低」が二拍以上続く語が変化し、語頭が高くなった。

名義抄式から補忘記式への変化
  • 低低→高低(二拍名詞3類)
  • 低低低→高高低(三拍名詞4類)
  • 低低高→高低低(三拍名詞5類、二拍名詞3類+一拍助詞、三拍動詞2類)
  • 低低降→高低低(三拍形容詞2類)

この変化により補忘記式では低起式は1拍目のみ低い語しかなくなったが、その後の変化で現代では上がり目が後退している。

名義抄式アクセントに見られるアクセントの区別を類という。京都では南北朝期の変化によって類が統合し、二拍名詞では1類/2・3類/4類/5類という区別をするようになり、三拍名詞では1類/2・4類/3・5類/6類/7類という区別体系になった。例えば二拍名詞では「低低」だった3類が「高低」になって2類と統合した。アクセントの変化においては、一度統合してしまった類は、その区別を再び獲得することはできない。「音・月・犬・石・足・紙 」などの語彙が同じアクセントになってしまったら、このうち「石・音・紙」が「高低(低)」で「月・犬・足」が「低低(高)」だったという区別を復元するのは不可能である。ところが、外輪東京式アクセントでは、二拍名詞は1・2類/3類/4・5類という類の区別をしており、三拍名詞では1・2・3類/4類/5類/6・7類となっている(それぞれ○○○/○○/○○/○○)。外輪東京式では、京阪式では失われた二拍名詞2・3類や三拍名詞2・4類の区別があり、しかも外輪東京式は東北地方や大分県など日本の離れた地域に散在している。また、讃岐式アクセントでは、二拍名詞は1・3類/2類/4類/5類という区別体系である。こうした事実から、比較言語学の手法を用いることにより、全ての類を区別する名義抄式アクセントを祖アクセントとして想定し、これが各地で別々の変化・類の統合を起こして現代方言のアクセントができたと考えることができる。

金田一春彦の説[編集]

京阪式[注 5]から中輪東京式への変化(金田一説)
  語例 京阪式 >中間形 >東京式
一拍
名詞
1類 子・戸 こが
2類 名・日
3類 手・目 てが
二拍
名詞
1類 風・鳥 かぜが ぜが
2・3類 石・犬 しが
4類 糸・笠 いと いとが とが
5類 猿・雨 さる るが
三拍
名詞
1類 形・桜 かたちが たちが
2・4類 小豆・頭 あずきが ずき
3・5類 力・心 からが らが
7類 薬・便り りが くす すりが
二拍
動詞
1類 行く・着る いく
2類 有る・見る ある
三拍
動詞
1類 上がる・明ける あがる がる
2類 動く・起きる ごく
三拍
形容詞
1類 赤い・暗い あか かい
2類 白い・高い ろい
三拍一段動詞2類+て 起きて・掛けて おき きて
三拍形容詞2類連用形 白く・高く しろ ろく

金田一春彦は、全国のアクセントの成立過程を推論し、京阪式アクセントが変化して東京式アクセントを生じ、外輪東京式が変化して九州の二型式アクセントを生じたなどとしている。金田一が推論した、京阪式(江戸時代京都・現代和歌山アクセント)から東京式への変化は次のようなものである[17][63]

  1. まず、高い部分が一拍後ろにずれた(山の後退)。(例)高高>低高、高低>低高、低高>低低、高高高>低高高、高高低>低高高、高低低>低高低、低低高>低低低、低高低>低低高
  2. 次に、語頭に低い拍が続く語は、語頭が高くなった(語頭隆起)。(例)低低>高低、低低低>高低低、低低高>高低高>高低低

1の変化は、高い部分を後ろに送ることにより、発音を楽にしよう、発話の負担を減らそうとする変化である。2の変化は、低い拍が続くことを嫌い、明晰な発音をしようとして起きた変化である。金田一は、これらの変化は起きやすい変化であり、日本の複数の地域で同じような変化をして、東京式を生じたと考えた。内輪・中輪東京式はこの変化で説明でき、ほとんどの類・品詞で同様に考えると京阪式から東京式への変化が導ける(ただし、三拍名詞6類だけは例外で、京阪式「うさ」に対し東京式「うさぎ」であり、上記の法則で導けない)[33]

外輪東京式アクセントは、補忘記式以降の京阪式とは類の統合の仕方が違うため、補忘記式からの変化ではなく、名義抄式からの変化である。外輪東京式の地域では、まず名義抄式で高起式の語が全て無核型になった(しが>いしが)後、京都で南北朝期に起こった変化(いぬぬが)が起き、その後内輪・中輪東京式と同じように山の後退、語頭隆起の変化を起こして東京式になった。また、中輪東京式と内輪東京式の違いをみると、内輪東京式の地域では、一拍名詞二類は型(が)である。これは、「あが>なが」の変化をした後、短音化が起きて「が」になったと考えた。逆に中輪東京式の地域では、先に短音化が起きて「あが>が」となった後、アクセント変化が起きて「な」になったとした。また五段動詞に「て」のついた形は、京阪式の「んで」に対し中輪東京式で「とんで」になっている。これは、中輪東京式の地域では「飛んで」が二拍だったため[注 6]、「んで」から高い部分が後退すると「で」に高音部が移ることになったためと考えた。以上が金田一の、京阪式から東京式が生まれたとする推論である[33]。なお、石川県の能登半島のアクセントは、二拍名詞1類「かぜが」、2・3類「いが」、4類「いとが」、5類「さる」というアクセントだが、金田一はこれを、京阪式から山の後退だけが起き東京式アクセントになりかけているアクセントだと考えた。

金田一は他方言のアクセントについてもその成立過程を推論している。讃岐式アクセントは、名義抄式が直接変化したもので、補忘記式アクセントを経ていないと考えられる。名義抄式から、語頭に低い拍が続く語で変化が起こり、低低→高高(二拍名詞3類)、低低低→高高高(三拍名詞4類)、低低高→高高高(二拍名詞5類、二拍名詞3類+一拍助詞)の変化が起こって讃岐式ができたと考えた。垂井式アクセントについては、京阪式が高起式と低起式の区別を失ってできたと考えた。また、九州の二型については、現代の大分県にある外輪東京式からさらに山の後退と語頭隆起を起こし、「か>かぜ>ぜ」「と>い」のような変化でできたものと考えた。金田一の推論するアクセント変化は、山の後退と語頭隆起を繰り返すという点が中心である。たとえば、鹿児島県の枕崎市種子島のアクセントは、鹿児島主流アクセントからさらに「ぜ>か」「い>いと(>と)」の変化を起こしてできたと推論している[33]

分岐の時期[編集]

内輪・中輪東京式が補忘記式以降の京阪式から変化したと言っても、それは京阪式からの分岐時期が室町時代以降であったことを意味するわけではない。東京式アクセントが京阪式から分岐したのはもっと古い可能性があり、分岐後、補忘記式に近いアクセントを経て東京式になっただろうということである。「良く(良う)・まず・もし」などのアクセントは、京阪式・東京式ともに「高低」で一致する。これらのアクセントは、平安時代の京都では「昇低」(第一拍に拍内上昇があり、第二拍が低い)だったが、鎌倉時代には京都で「高低」になった。もしこの変化が起きた後に京阪式から東京式が分岐したなら東京式ではこれらは「低高」になるはずであり、東京式は鎌倉時代より前の京阪式から分岐したと考えられる[64]

また、奥村三雄は、古くからある日常的に使う漢語が、現代方言で和語と同じ対応関係を結ぶことを指摘している。つまり、二拍名詞1類に相当する「客・急・敵・得…」が京阪式でH○○型、東京式で○○型、九州西南部式でA型であり、3類に相当する「熱・肉・菊・毒…」が京阪式でH○型、東京式で○型、九州西南部式でB型に属す。このことは、これらの諸アクセントが分岐した時期が、漢語が話し言葉の中に浸透して以降、つまり平安時代以降であることを意味する[64]

このほか、室町時代の能楽師金春禅鳳の「毛端私珍抄」に、「犬」のアクセントが坂東・筑紫で「い」、四国で「いぬ」だとあり、現代方言と一致している(四国の「いぬ」は讃岐式と一致する)。

他の説[編集]

名義抄式、補忘記式、外輪東京式、九州二型のアクセント体系(木部説)
  語例 名義抄式 補忘記式 外輪東京式 九州二型
二拍名詞 1類 風・鳥 H○○ H○○ ○○ A型
2類 石・音 H H ○○ A型
3類 犬・月 L○ H B型
4類 糸・笠 L L B型
5類 猿・雨 L L B型
三拍名詞 1類 形・桜 H○○○ H○○○ ○○○ A型
2類 小豆・女 H○ H○ ○○○ A型
4類 頭・男 L○○ H○ ○○ B型
5類 朝日・命 L○ H○○ B型
6類 雀・兎 L○○ L○○ ○○ B型
7類 薬・便り L L ○○ B型

木部暢子は、個々のアクセント型の変化だけでなく、アクセント体系の変化をとらえている。例えば、名義抄式アクセントは右のように高起式と低起式、上げ核(次の拍を上げる。)と下げ核()の組み合わせだったが、現代京都に至るまでに上げ核を失ったとしている。名義抄式から補忘記式への変化は、語頭から低い拍が2拍以上続くものに起こったが、この変化の過程では、上昇の一拍前に下降が生じ、上昇の前で低くくぼむ型を経ている。たとえば、低低高→高低高→高低低(犬が・朝日)、低低低高→高高低高→高高低低(頭が)、低低高高→高低高高→高低低低(朝日が)のような変化である。これは、上昇を確実にするためにその直前に下降が生じたことが原因と考えられ、これによって上げ核の一拍前に下げ核が生じ、それより後の拍の上げ核は消失した。木部は、外輪東京式の成立についても似たような変化が起きたと推定している。名義式から、まず下げ核が消えてH○→○○(二拍名詞2類)、L○(二拍名詞5類)となった後、上昇の直前の拍に拍内下降が生じることで、○→○(二拍名詞3類)、○→○(二拍名詞4・5類)のように上げ核だった位置に下げ核が生じて外輪東京式が成立したとしている。中輪東京式については、補忘記式から下げ核・上げ核が一拍後退する変化、すなわちH○→H○(二拍名詞2・3類)、L○→L○(二拍名詞4類)、L→L○(二拍名詞5類)の変化が起きた後、名義抄式から補忘記式への変化と同じ変化が起きた(L○→H○、二拍名詞4・5類)と推定している[65]

また木部は、九州の二型アクセントにおけるA型・B型の区別が名義抄式の高起・低起に対応していることから、二型アクセントは名義抄式から直接、高起→A型、低起→B型の変化を起こして成立したと推定している。金田一説では二型は東京式が変化したものとしているが、木部説では東京式を経ていない。A型は下がり目の有る型であり、下記のように高起下降式音調から自然に導き出すことができる[66]

名義抄式で高起式無核(下がり目がない)のもの(二拍名詞1類、三拍名詞1類など)が、九州の二型アクセントや石川県加賀地方などでは有核(下がり目あり)になっている。このことから上野善道は、祖アクセント[注 7]の高起式は、現代京阪式のような平進式ではなく、香川県観音寺市のような下降式の音調を持っていたと推定している。例えば3拍名詞1類なら「高高中」のような小幅な下降があったとする。祖アクセントの高起式に下降式を想定することで、九州西南部や加賀地方などで、下降式が下がり目に変化したという自然な推定が可能だとしている。たとえば白峰のアクセントの成立過程について、金田一説では、二拍名詞1類が高高→低低→低→低[注 8]、4・5類が低高/低→低低→高高→低高という大がかりな変化をしたと推定しているが、上野説では1類は下降式音調を保ったままほとんど変化せず(白峰以外の加賀地方では○型に変化)、5類だけが低→低高という単純な変化をしたと推定している[67]。島根県隠岐についても、金田一は東京式が山の後退・語頭隆起を起こしてできたものとしている[48]が、上野は祖体系からの簡単な変化で説明している。すなわち、2拍名詞1類が高降(下降式無核)→低降、2類が高低のまま変わらず、3類が低低→高低、4類が低高のまま変わらず、5類が低降→低高という変化によって、隠岐の祖アクセント(前述の表の別府のものに近い)が生じたとしている[43]

金田一らの説に応用されている比較言語学の手法は、それぞれの方言が他の方言から影響を受けたり混じりあったりせず自律的に変化することを前提にしている。一方で山口幸洋は、言語地理学の手法を用い、中央から外側へ向かって順番に京阪式、垂井式、内輪東京式、中輪東京式、外輪東京式、二型、無アクセントが分布するのを方言周圏論で解釈している[68]。方言周圏論とは、語彙などが中央から地方へ次々と伝播し、中央から離れるほど古いものを保持するという見方である。金田一は、地方では教育の遅れや他地域との交渉の少なさからアクセントの変化が進みやすかったと考えた[17]が、山口は逆に、地方では中央のアクセントを習得しようと努めただろうとしている。ただし山口の説は中央の京阪式が一番新しいというものではない。山口は、元々中央に京阪式、地方に無アクセントがあり、無アクセントの人が中央アクセントを習得しようとしたものの完全にはできず、変換作用によって二型アクセントが生まれ、その後中央に近い地域ではさらにアクセント型の区別を獲得し東京式、垂井式に変化したと考えた[68]

参考文献[編集]

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    • 上野善道「第4章 アクセントの体系と仕組み」
    • 中井幸比古「第5章 アクセントの変遷」
    • 上野和昭「第14章 アクセント研究の動向と展望(文献中心)」
    • 松森昌子「第15章 アクセント研究の動向と展望(現代語中心)」
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  • 金田一春彦(2005)『金田一春彦著作集第七巻』玉川大学出版部(金田一(1995)『日本の方言:アクセントの変遷とその実相』を収録。)
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    • 「東西両アクセントの違いができるまで」
    • 「熊野灘沿岸諸方言のアクセント」
    • 「佐渡アクセントの系統」
    • 「讃岐アクセント変異成立考」
    • 「隠岐アクセントの系譜:比較方言学の実演の一例として」
  • 中井幸比古(2002)『京阪系アクセント辞典』勉誠出版 ISBN 978-4-585-08009-1
  • 新田哲夫(1985)「石川県白峰方言のアクセント体系」『金沢大学文学部論集 文学科篇 5』 NAID 110000976288
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  • 松森昌子(2009)「沖縄本島金武方言の体言のアクセント型とその系列:「琉球調査用系列別語彙」の開発に向けて」『日本女子大学紀要 文学部』58 NAID 110007097760
  • 山口幸洋(1997)「日本語諸方言のアクセント」杉藤美代子監修、佐藤亮一ほか編『日本語音声1 諸方言のアクセントとイントネーション』三省堂。
  • 山口幸洋(2003)『日本語東京アクセントの成立』港の人。
    • 「日本語東京アクセントの成立」
    • 「垂井式諸アクセントの性格」
    • 「能登のアクセント」
    • 「三重県南牟婁郡のアクセント」
    • 「南近畿アクセント局所方言の成立」
    • 「準二型アクセントについて」

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 上野善道による。
  2. ^ ただし鹿児島アクセントを位置のアクセントで解釈する説もある。
  3. ^ 五段活用動詞は高高高、一段活用動詞は低低高。
  4. ^ 真言宗の論議に用いる語句の発音が記されている。17世紀の書だが、記されたアクセントは室町時代のものを反映している。
  5. ^ 江戸時代の京都、または現代の和歌山県や徳島県南部のアクセント。近畿中央部では幕末以降に用言のアクセントが変化しているためこの通りではない。
  6. ^ 「とん・で」と分けられる。古い日本語では拍と拍は一致しており、「ん」「っ」「ー」を一拍に発音しなかった。
  7. ^ 名義抄式も含めた全ての日本語本土方言の祖となったアクセント
  8. ^ 上野によれば白峰の1類は下降式無核だが、金田一は○型とみていた。

出典[編集]

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