新方言

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新方言(しんほうげん)とは、日本各地の方言で比較的新しく成立した表現などのことである。共通語や他方言との接触による変化、特定の地域のみで広まる新語、の2つに大きく分けられる。

概要[編集]

井上史雄が提唱した概念で、井上は「新方言」を次のように定義している。

  1. 共通語(標準語)として認められている形と違う。
  2. 若い人の間で使用者が増えている。
  3. 話し手が共通語と思っておらず改まった場面では使わない。

流行語俗語との違いが分かりにくいが、井上は、新方言と流行語では伝播や忘却のスピードが違い、また俗語と違って新方言には使用層に社会的偏りが認められないとしている。

共通語や他方言との接触による変化の例[編集]

(例)よかんべ、よかっぺ、いいべ、いいっぺ→いいべに統一される傾向
  • 東北・越後・関東北部および九州北部で「しれ/すれ/せれ」「食べれ」「やめれ」「掃除しれ/掃除すれ/掃除せれ」のように一段・サ変動詞でも命令形語尾が「」に統一される傾向がある。
  • 東海東山方言には打消の助動詞に東日本的な「ない(ねえ)」と西日本的な「ん」を併用する地域がいくつかあるが「…じゃないか」の「ない」が打消の助動詞と混同され、「…じゃんか」という形が生まれた。それが横浜を経て東京に伝播したことで一気に全国区となったが、伝播の過程で「か」が取れて「…じゃん」と短縮された形で広まった(「…じゃん」は東海東山方言の一つである三河弁から伝播したとする説もある)。
  • 関西弁では「来ない」に相当する「きやへん」から変化した「けーへん」(大阪)と「きーひん」(京都)があるが、「けえへん」と共通語「来ない」が合わさってできた「こーへん」という表現が若者を中心に広まっている。もとは神戸から広まりだしたともいう。
  • 関西弁の影響を受けて、岐阜県四国などで伝統的な「じゃ」が「」に取って代わられつつある。
  • 西日本に多い否定の助動詞「ん」の過去表現は本来「…なんだ」であるが「ん」と共通語「…なかった」が交じり合って「…んかった」という形が生まれ、「…なんだ」に取って代わりつつある。
(例)知らなんだ→知らんかった
  • 同様に、近年では共通語「ない」の連用形「なく」と否定の助動詞「ん」を混合させた「んく」という新方言が広まりつつある。
(例)分からなくなった→分からんくなった(旧来の表現は「分からんようになった」等)
  • 西日本各地では「する」の未然形は文語「せ」を用いるが、共通語文法の「」と混同される例が増えてきている。
(例)せん→しん せないかん→しないかん

新語としての新方言の例[編集]

ア行[編集]

  • いっすんずり大分弁でなかなか前に進まない様子を表す表現だが、現在は主に「渋滞」を指す言葉として用いられる。
  • 山形弁では数字を丸で囲んだものを「まるn」ではなく「nまる」(nは自然数。1であれば「いちまる」)、括弧で囲んだものを「かっこn」ではなく「nかっこ」(1であれば「いちかっこ」)と表現する。
  • 1号線沖縄本島の一部で向こう脛(弁慶の泣き所)を指す言葉。「1号線を打った」のように用いる。脛骨琉球政府時代の政府道1号線(現在の国道58号)に見立て、向こう脛を打って悶絶した状態を、1号線が不通になって島内の交通に大打撃を与える様子に例えた。

カ行[編集]

  • 川中島かわなかじま):福岡県を中心とした北部九州地域における、運動会騎馬戦の名称。川中島のある長野県ではこの表現は用いられない。
  • ケッタ:名古屋を中心に東海地方の広い範囲で自転車を言う。「ケッタマシン」とも。もと「ケッタカー」と言ったか。鳥山明が作品中で使用したことにより、全国的な認知度が上がった。
  • 汽車・電車大都市圏以外の主に高齢者層において、「汽車」はJR列車、「電車」は私鉄の列車を意味する。特に私鉄が路面電車インターアーバンなどのように、早い段階から電車で運行されていた(電鉄であった)のに対し、JRが国鉄だった時代から長らく非電化だった、あるいは現在も非電化の地方などでは国鉄時代からそのように呼び分ける傾向があり、その後電化民営化された以降もそのままの表現が残っている。
  • げん金沢弁に代表される石川県の新方言。共通語では「…なのだ」。伝統的な「…がや」が関西弁「…ねん」の影響で変化したものと思われる。富山県でも氷見市などで一部使われている。一方石川県でも、加賀市では元々「…がや」という用法自体がまれなため「げん」も広がっていない(そうなのだって⇒そうなんだって⇒そうながやって⇒そうなげんて⇒そうねんて⇒せぇんて)。サッカーのJ3リーグに「ツエーゲン金沢」というクラブチームがあるが、「強いんだぞ」という意味が込められている。
注)「…げん」は金沢を中心に広く使われていた方言である。最近では若い世代があまり使わなくなったため,やや廃れた感があるが,未だに根強く残っている。したがってこの表現を「新方言」として分類するのは間違いである。
  • ごみステーション北海道富山県東部における「ゴミ捨て場」の呼称。また、他の地域ではカラスなどからの被害を防ぐために金網などで囲われたボックスケージをごみステーションという。ゴミステーションという言葉自体は、全国的なものである[1]

サ行[編集]

  • ザラ板(ざらいた):名古屋弁で、学校の下駄箱前に設置されたすのこを表す言葉。
  • しない、…だしない長野県長野市周辺で1970年代頃に発生したとされる新方言。勧誘ではなく、「…じゃない?」「…だよね(よね)?」という確認の意味を持つ。語源は古い松代藩方言(俗に松代の「ま」抜け言葉といわれる)の転訛(誤用)からの発生など諸説ある。当地の古い文法では「行きす(行きます)」「行きしね(行きません)」「行きしょ(行きましょう)」などのように、「ま」が脱落する表現があった。
  • 死にかぶる:熊本弁で難儀な目に遭うことを、若い世代がこの様に言う。
  • 自校(じこう):富山弁で自動車教習所(自動車学校)を言う。
  • 車校(しゃこう):東海地方の広い範囲で自動車教習所(自動車学校)を言う。宮城県など、東海地方以外でも用いることがある。
  • ジャス(じゃす):仙台弁ジャージーの意味。
  • ジャッシー(じゃっしー):甲州弁ジャージーの意味。
  • じゃみじゃみ福井県で、テレビ放送終了後のいわゆる「砂嵐」画面を表現する言葉。
  • 自練(じれん):ウチナーヤマトグチで自動車教習所を言う。
  • スチロパール:長野県の長野市周辺で1960年代に定着した「発泡スチロール」の新方言。長野市内の企業の登録商標だが、一般名詞として使用されるようになった。

タ行[編集]

  • ちかっぱ(い):主に福岡県筑前地方で「非常に」「大変」の意味で使用される、元は「力一杯」という言葉から省略化された若者言葉。地元テレビ局の深夜番組の番組名にも使用される(『ちかっぱ!』)などしている。
  • 〜でした北海道の一部や山形県などで、電話に出た直後に名前を名乗る際に使用される表現。「〜です」ではなく「〜でした」(〜部分は名前)と名乗る。
  • テンパール中国地方の年配者を中心に、住宅用ブレーカのことを指して呼ぶ人が存在している。

ハ行[編集]

  • 入る富山県青森県でテレビ番組の放送が始まる、あるいは番組にある人物が登場することを指して使われる(「(番組名)が入る」=番組が始まる。「(人物名)が入る」=人物がテレビ番組に登場する 等)。
  • バレーシューズ:和歌山県で、上履きを指す言葉。用途はバレーボールのみではなく、教室用・体育館用全ての上履きの総称である[2]
  • パンザマスト千葉県柏市および我孫子市の一部、大阪府松原市で夕刻に防災行政無線で児童の帰宅を促す放送をいう[3]。本来は防災行政無線機などを設置する柱(継ぎ足し式の鋼管柱)のことを指すが、柏市では市内の小・中学校で「パンザマストが鳴ったら帰宅」するよう指導するほか[4]、市の広報でも以前は「パンザマスト(防災行政無線)」と記載していた。また、松原市は市のホームページで「防災行政無線(通称:パンザマスト)」という表現を用いている[5]。防災行政無線そのものを「パンザマスト」と呼称する市町村は現在のところ、これら3市で確認されているのみである[6]
  • 絆創膏(ばんそうこう):絆創膏を意味する名詞には商品名から転じて「新方言」になるものがいくつかあり、北海道・広島県和歌山県ではサビオ、富山県ではキズバン熊本県および周辺地域ではリバテープ佐賀県長崎県などではカットバンといった商品名がそれぞれ「絆創膏」を表す一般名詞的に使用されている。
  • B紙(びーし):東海地方で、模造紙を指す言葉。
  • フレッシュ:関西・中京地方で、コーヒーなどに入れるミルク(コーヒーフレッシュ)を指す表現。大阪府八尾市メロディアンが販売したコーヒー用ミルク「コーヒーフレッシュ・メロディアン・ミニ」の名称が一般名詞化かつ短縮化したもの。
  • 放課 (ほうか):名古屋弁で、学校の授業の合間の休み時間のこと。休みの種類によって20分放課(長放課)や昼放課など、前置修飾の語句を伴い用いられる。放課後の意味ではない。「放課」という表現が一般化している地域の一部では「放課後」という表現がなく、業後または授業後と表現される地域もある。
  • ボンゴ 広島ワンボックスカーのこと。もともとはマツダの車種だが、高齢世代はワンボックスカーやミニバン全般を指して言うこともある。

マ行[編集]

  • マクド:関西地方で、マクドナルド略語として使われる言葉。他地域で略語表現される場合「マック」と呼ばれるケースが多いため、新方言の一種と言える。ただし商品名に「マック」と入るものについては関西地方でも名称は変化せず、「マック」という呼称のままである。
  • 水雪駄:和歌山県で、ビーチサンダルを指す言葉[2]
  • モータープール:主に大阪府を中心とする関西地方で駐車場を意味する言葉。太平洋戦争後、進駐軍の配車場を意味するMotor Poolがそのまま駐車場を意味する言葉として転用されたもの。

ラ行[編集]

  • ラーフル宮崎県鹿児島県愛媛県の一部などで黒板消しの意味で使われている用語。本来は商品名だったが同県内では一般名詞化している。
  • 離合(りごう):西日本で、主に幅員の狭い道路で自動車がすれ違うことを言う。自動車教習所でもこの用語を教えることがあるほか、道路標識にも使用されている(車2台分の幅のない狭い道の一部広い場所に「離合場所」、途中に「離合注意」などと表示)。本来は鉄道や交通で「車両のすれ違い」や「行き違い」を意味する用語のため、鉄道などでは全国的に使用される。

参考文献[編集]

脚注[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]