ツングース語族

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動
ツングース語族
話される地域シベリア, 満州
言語系統世界の基本となる語族の一つ。
下位言語
  • 北ツングース語群
  • 南ツングース語群
ISO 639-5tuw
Glottologtung1282[1]
Linguistic map of the Tungusic languages (en).png
ツングース諸語の分布図
  北ツングース諸語
  南ツングース諸語ナナイ語群
  南ツングース諸語満州語群
ツングース諸語の言語分布の詳細
     1. エヴェン語
     2. エヴェンキ語
     3. ネギダール語
     4. オロチョン語
     5. キリ語

     6. オロチ語
     7. ウデヘ語

     8. 満州語
     9. シベ語
     10.ナナイ語
     11.ウィルタ語
     12.ウルチ語
中国国内の言語分布図。ツングース諸語は、     Tungusicで示される。

ツングース語族(ツングースごぞく)は世界の基本となる語族の一つ。主にシベリア東部・沿海地方満州(中国東北部)に住むツングース系民族の言語である。

言語類型論的には膠着語であり、複雑なシステム(多くの言語に一致がある)や時制の区別が発達した言語が多く、所有接辞も用いられる。また母音調和が顕著であり、語頭にRが立たない傾向がある。これらはチュルク語族モンゴル語族と共通する部分が多いため、合わせてアルタイ語族とも呼ばれてきた。しかし、これらの間には基礎語彙の音韻対応がほとんど見られないことから、語族とは証明されていない。将来的に「アルタイ語族」が成立すると証明されれば、ツングース語派と呼ばれるようになるが、未だアルタイ語族は立証されていないため、ツングース語族が正しい。しかしこのような経緯から単にツングース諸語(-しょご)と呼ばれることが多い。

満州語の支配階級の出身言語として文字満州文字)で書かれ多くの記録が残されたが、その他の言語については最近まで文字記録に乏しかった。

構成[編集]

原郷と拡散[編集]

ツングース語族の原郷について、かつてはバイカル湖近くにあったとする説(Menges 1968、Khelimskii 1985)[2]もあったが、最近は中国北東部やアムール川流域に求める見方が優勢である。

Janhunen 2012、Pevnov 2012は、紀元前500年から西暦500年頃に満州のどこかで話された共通祖語ツングース祖語)からツングース諸語が拡散したと推定している[3]

アレキサンダー・ボビン(2015)[4]は、ツングース語族北部語群にはツングース語族南部語群に見られないエスキモー・アレウト語族系の借用語があり、エスキモー・アレウト語がかつてはシベリア東部ではるかに広く話されていたことを示しているとし、2,000年前にツングース語族がアムール川の中流域の原郷から北方に広がっていき、それ以降にツングース語族北部語群にエスキモー・アレウト語からの借用語が入ったと推定している。

Wang and Robbeets (2020)[5] は、ツングース祖語の原郷をハンカ湖地域に設定した。

Li et al (2020)[6]は、ツングース祖族が紀元前3500年頃に中国東北部の遼西地域から内陸ルートで沿海州に雑穀を持ち込んだ農耕集団であったとし、この移住に伴い沿海州に先住していたニブフ祖族の一部はツングース語への言語交替を起こした可能性があるとしている。

Liu et al. (2020) [7]は、ツングース語族話者を特徴付ける遺伝子として、Y染色体ハプログループC-F5484とその下位系統を特定し、これがツングース語族話者の誕生と各民族集団への分化を反映するとした。このタイプは3,300年前に誕生し、1,900年前から徐々に下位系統へ分化したと算出され、ツングース語族の誕生、分化のおよその年代が遺伝子から示されたことになる。

祖語再構[編集]

祖語の概形は娘言語の類似性から明らかだが、詳細な再構についてのコンセンサスは無い。2012年時点でもまだ、学者は再構のために共有語彙を確立しようとしている[8]

ツングース語族には提案された音対応がいくつかある。たとえばNorman(1977)は、外来語から生じる例外を除いて、同じ語幹で「*j」が後に続く場合に「ツングース祖語*t > 満州語 s」という変化が起きたことを支持している[9]。一部の言語学者は、ツングース祖語母音調和と隣接する非ツングース語のいくつかとの間に関係があると考えている。例えば、舌根調和に基づき、朝鮮祖語モンゴル祖語チュルク祖語の母音調和の間で、地域的または遺伝的な対応があると提案されている[10]。これはいくつかの論争中の提案の1つであり、一方で、語根調和なしにツングース祖語を再構する提案もある[10]

他の語族との関係[編集]

ツングース語族は今日、独立した語族と見なされている。特に過去には、一部の言語学者は、ツングース語族をアルタイ諸語チュルク語族およびモンゴル語族と関連付けてきたが、地域的特徴とは対照的に、これらの語族間の遺伝的関係は証明されていないままである。他の研究者は、ツングース語族が朝鮮語族日琉語族、またはアイヌ語族にも(おそらく側系統群として)関連している可能性があることを示唆している。

2017年、ツングース語族は、マーティン・ロベーツによって、「トランスユーラシア語族」(マクロ・アルタイ語族の別名)として、再びチュルク語族モンゴル語族に関連付けられた。ロベーツによれば、ツングース語族はモンゴル語族に最も近い[11]

ツングース語族と朝鮮語族の間にはいくつかの類似点があるが、Alexander Vovin (2013)[12]は、ツングース語族と朝鮮語族を、高句麗語女真語の相互影響を通じて、遺伝的共通性ではなく地域的特徴を共有する別個の無関係な言語グループと見なしている。

歴史記録[編集]

いくつかの文献には、紀元前7世紀から紀元前2世紀にかけて満州に居住した東胡がツングース祖語を話していたと書かれている[13]。他の文献では、「東胡」と「ツングース」との発音の類似性は偶然だとして、東胡=ツングース説が鋭く批判されているが、この批判も実際には根拠がない[14]

百済新羅の歴史記録には、1世紀と2世紀の満州靺鞨と戦ったことが記録されている。一部の学者はこの靺鞨が後の女真と密接に関係していると示唆しているが、これは論争中である。

アヴァール可汗国を生み出したヨーロッパのアヴァールの言語はツングース語族であると考える学者もいる[15]

出典[編集]

  1. ^ Hammarström, Harald; Forkel, Robert; Haspelmath, Martin et al., eds (2016). “Tungusic”. Glottolog 2.7. Jena: Max Planck Institute for the Science of Human History. http://glottolog.org/resource/languoid/id/tung1282 
  2. ^ Immanuel Ness (29 Aug 2014). The Global Prehistory of Human Migration. p. 200. ISBN 9781118970584. https://books.google.com/books?id=TyJlBAAAQBAJ&q=tungusic+history&pg=PA200 
  3. ^ Martine Robbeets. "Book Reviews 161 Andrej L. Malchukov and Lindsay J. Whaley (eds.), Recent advances in Tungusic linguistics (Turcologica 89). Wiesbaden: Harrassowitz, 2012. vi + 277 pages, ISBN 978-3-447-06532-0, EUR 68" (PDF). Retrieved 25 Nov 2016.
  4. ^ Vovin, Alexander. 2015. Eskimo Loanwords in Northern Tungusic. Iran and the Caucasus 19 (2015), 87-95. Leiden: Brill.
  5. ^ Wang, C.-C.; Robbeets, M.: The homeland of Proto-Tungusic inferred from contemporary words and ancient genomes. Evolutionary Human Sciences 2, e8 (2020). doi:10.1017/ehs.2020.8
  6. ^ Tao Li, Chao Ning, Irina S. Zhushchikhovskaya, Mark J. Hudson, Martine Robbeets, Millet agriculture dispersed from Northeast China to the Russian Far East: Integrating archaeology, genetics, and linguistics, Archaeological Research in Asia, Volume 22, 2020, 100177, ISSN 2352-2267, https://doi.org/10.1016/j.ara.2020.100177. (https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2352226719300534)
  7. ^ Bing-Li Liu, Peng-Cheng Ma, Chi-Zao Wang, Shi Yan, Hong-Bing Yao, Yong-Lan Li, Yong-Mei Xie, Song-Lin Meng, Jin Sun, Yan-Huan Cai, Sarengaowa Sarengaowa, Hui Li, Hui-Zhen Cheng, Lan-Hai Wei (2020) Paternal origin of Tungusic-speaking populations: Insights from the updated phylogenetic tree of Y-chromosome haplogroup C2a-M86  American Journal of Human Biology 33(2) https://doi.org/10.1002/ajhb.23462
  8. ^ Martine Robbeets. "Book Reviews 161 Andrej L. Malchukov and Lindsay J. Whaley (eds.), Recent advances in Tungusic linguistics (Turcologica 89). Wiesbaden: Harrassowitz, 2012. vi + 277 pages, ISBN 978-3-447-06532-0, EUR 68" (PDF). Retrieved 25 Nov 2016.
  9. ^ JERRY NORMAN (1977). “THE EVOLUTION OF PROTO-TUNGUSIC *t TO MANCHU s”. Central Asiatic Journal 21 (3/4): 229–233. JSTOR 41927199. 
  10. ^ a b Seongyeon Ko, Andrew Joseph, John Whitman. “Paradigm Change: In the Transeurasian languages and beyond (Ch. 7)”. 2021年4月21日閲覧。
  11. ^ Austronesian influence and Transeurasian ancestry in Japanese: A case of farming/language dispersal” (英語). ResearchGate. 2019年3月26日閲覧。
  12. ^ Vovin, Alexander. 2013. Why Koreanic is not demonstrably related to Tungusic?. Proceedings of the conference Comparison of Korean with Other Altaic Languages: Methodologies and Case Studies, November 15, 2013, Gachon University, Seongnam, Republic of Korea.
  13. ^ Barbara A. West (19 May 2010). Encyclopedia of the Peoples of Asia and Oceania. p. 891. ISBN 9781438119137. https://books.google.com/books?id=pCiNqFj3MQsC&q=donghu+tungusic&pg=PA891 2016年11月26日閲覧。 
  14. ^ Pulleyblank, Edwin G. (1983). "The Chinese and Their Neighbors in Prehistoric and Early Historic China," in The Origins of Chinese Civilization, University of California Press, pp. 411–466.
  15. ^ Helimski, E (2004). "Die Sprache(n) der Awaren: Die mandschu-tungusische Alternative". Proceedings of the First International Conference on Manchu-Tungus Studies, Vol. II: 59–72.

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]