やさしい日本語
やさしい日本語(やさしいにほんご、英: Easy Japanese)とは、簡易な表現を用いる、文の構造を簡単にする、漢字にふりがなを振るなどして、子どもや日本語に不慣れな外国人にもわかりやすくした日本語である。
減災のための「やさしい日本語」[編集]
1995年(平成7年)の阪神・淡路大震災では、多くの在日外国人も被災したが、その後の調査で避難所やライフラインの情報を理解できずに、困難な状況に置かれていたことが判明した。在日外国人の母語は様々であり、災害が起こった時、すぐに多言語に翻訳するのは非常に困難である[1]。
そこで弘前大学の佐藤和之らは、旧日本語能力試験3級程度の日本語(小学校3年生の学校文法)で理解できる、吟味した簡潔な日本語「やさしい日本語」を研究、考案した[2]。
1999年(平成11年)3月、弘前大学社会言語学研究室のウェブサイトは、やさしい日本語で、災害や避難を伝える具体的な案文や地図をまとめた「災害が起こったときに外国人を助けるためのマニュアル(弘前版)」を公開した。このマニュアルは、地名等入れ替えることで、全国どこでも使えるよう配慮されている[3]。
2005年(平成17年)、2013年(平成25年)と増補改訂され[4]、計画停電や節水の呼びかけなども盛り込まれた[要出典]。この他、やさしい日本語を解説したパンフレットや、作成ガイドラインがダウンロード印刷できる様、無償提供されている[5][6]。
2016年(平成28年)には、災害発生から72時間以上経過した場面で、生活情報に必要な用語をテーマに計約7600語を収録した『やさしい日本語用字用語辞典』を作成、無料公開した[7]。
共通言語としての「やさしい日本語」[編集]
2019年12月現在の日本に在留する外国人の数はおよそ30年前の3倍余りにも増えているが、2008年の時点で独立行政法人国立国語研究所の日本語教育基盤情報センターが定住外国人を対象に行った「生活のための日本語」全国調査によれば、定住外国人にとっての「日常生活に困らない言語」として「日本語」を上げた割合が62.6%であったのに対して、「英語」は44.0%であった[8]。庵功雄らの研究グループは、これから日本社会を支えるのに必要不可欠になっていく外国人移住者に「補償教育(compensatory education)」が必要であるとし、日本人側も外国人に一方的な日本語習得を求めるのではなく、調整過程で最低限の「やさしい日本語」を共通言語とすることを提唱している[9]。
2010年、地域日本語教室向けのテキストとして『日本語これだけ!』が出版。執筆陣は各地で講演・ワークショップを行っている。
出入国在留管理庁と文化庁は、2020年(令和2年)8月、「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」を発表した。これはやさしい日本語の中でも、特に書き言葉に焦点を当てたガイドラインである[10]。
医療現場における「やさしい日本語」を実践するためのコツとしては、10のポイントが紹介されている[11]。
- 話し出す前に整理する
- 一文を短くし、語尾を明瞭にして文章を区切る(「です」、「ます」で終える)
- 尊敬語・謙譲語を避けて、丁寧語を用いる
- 単語の前に「お」をつけない(可能な範囲で)
- 漢語よりも和語を使う
- 外来語を多用しない
- 言葉を言い換えて選択肢を増やす
- ゼスチャーや実物提示
- オノマトペは使わない
- 相手の日本語の力が高い場合は「やさしい日本語」をやめる
活用例[編集]
現在、日本全国の各自治体や様々な団体・コミュニティFMなどが、外国人向けの情報誌や、防災マニュアルなどに「やさしい日本語」を利用している[12]。
日本放送協会(NHK)報道局では、2012年(平成24年)4月1日から、やさしい日本語を用いた公開実験ウェブサイト「NEWS WEB EASY」を立ち上げ、NHKニュースの提供を始めた。これには、日本だけでなく、世界からも好意的な反応があったという[13]。
NTTドコモは、2015年(平成27年)9月10日から、災害情報を配信するエリアメールを「やさしい日本語」に対応、設定できるようにした[14]。
脚注[編集]
- ^ 佐藤和之 (2015年9月29日). “災害下の外国人住民に適切な情報を――「やさしい日本語」の可能性”. シノドス. 2016年4月15日閲覧。
- ^ “やさしい日本語 Q&A”. 弘前大学人文学部社会言語学研究室. 2019年11月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年2月3日閲覧。
- ^ “災害マニュアル 99年版”. 弘前大学人文学部社会言語学研究室. 2019年10月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年4月15日閲覧。
- ^ “増補版災害が起こったときに外国人を助けるためのマニュアル”. 弘前大学人文学部社会言語学研究室. 2019年9月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年4月15日閲覧。
- ^ “減災のための「やさしい日本語」”. 弘前大学人文学部社会言語学研究室. 2019年11月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年3月28日閲覧。
- ^ “増補版「やさしい日本語」作成のためのガイドライン”. 弘前大学人文学部社会言語学研究室. 2019年10月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年3月28日閲覧。
- ^ “災害時はやさしい日本語で 弘前大生HP公開”. 河北新報 (2016年3月22日). 2016年3月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年4月15日閲覧。
- ^ 「第1章 はじめに」 『在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン』出入国在留管理庁・文化庁、2020年8月、2-3頁。
- ^ “「やさしい日本語」とは何か”. 2016年2月3日閲覧。
- ^ “在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン | 出入国在留管理庁”. www.moj.go.jp. 2021年3月17日閲覧。
- ^ “聖心女子大学現代教養学部日本語日本文学科教授 岩田一成先生講演(2021年6月5日)”. 兵庫県保険医協会. 2022年9月3日閲覧。
- ^ “「やさしい日本語」に対する社会的評価”. 弘前大学人文学部社会言語学研究室 (2016年2月6日). 2019年12月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年4月15日閲覧。
- ^ “やさしいニュースの公開実験” (PDF). NHK報道局 NHK技研R&D No.139. 2016年2月3日閲覧。
- ^ “報道発表資料 エリアメールが「やさしい日本語」に対応”. 株式会社NTTドコモ. 2016年2月3日閲覧。
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
- 在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン - 文化庁
- 弘前大学人文学部社会言語学研究室(2020年1月17日閉鎖)
- 弘前大学人文学部社会言語学研究室 - ウェイバックマシン(2019年12月29日アーカイブ分)
- 「やさしい日本語」目次(2020年1月17日閉鎖)
- 「やさしい日本語」目次 - ウェイバックマシン(2019年10月27日アーカイブ分)
- 「やさしい日本語」研究グループのホームページ
- NEWS WEB EASY - NHKオンライン「やさしい日本語で書いたニュース」
- Easy Japanese - Mazii.netが運営する「やさしい日本語」でのニュースを編集したサイト