ミノサイクリン

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ミノサイクリン
IUPAC命名法による物質名
(2E,4S,4aR,5aS,12aR)- 2-(amino-hydroxy-methylidene)- 4,7-bis(dimethylamino)- 10,11,12a-trihydroxy-

4a,5,5a,6- tetrahydro-4H-tetracene- 1,3,12-trione[1]
又は
(4S,4aS,5aR,12aS,Z)- 2-[amino(hydroxy)methylene]- 4,7-bis(dimethylamino)-10,11,12a- trihydroxy-4a,5,5a,6- tetrahydrotetracene-1,3,12(2H,4H,12aH)-trione

臨床データ
胎児危険度分類  ?
法的規制 Prescription Only (S4) (AU)
投与方法 経口
薬物動態的データ
生物学的利用能 100%
代謝
半減期 11-22 時間
排泄 おもに糞便排泄, 一部排泄
識別
CAS登録番号 10118-90-8
ATCコード J01AA08 A01AB23
PubChem CID 24960
DrugBank APRD00547
ChemSpider 16735907
KEGG D05045
化学的データ
化学式 C23H27N3O7 
分子量 457.477

ミノサイクリン塩酸塩(ミノサイクリンえんさんえん、minocycline hydrochloride)、またはミノサイクリンminocycline)は、広域スペクトル性のテトラサイクリン系抗生物質である。抗菌スペクトルは他のテトラサイクリン系抗生物質よりも広い。抗菌性は静菌的である。生体内半減期が長いため、血漿中濃度は他のテトラサイクリン系抗生物質よりも2-4倍高く保たれる(150mgを16回投与した後、24-48時間後における活性強度をテトラサイクリン250mgのものと比較した)。ミノサイクリンは米国のレダリー・ラボラトリーズ(後のワイス)により発見され、米国でミノシン(Minocin)[2]、日本でミノマイシンの商標名で販売されている。

使用法[編集]

ミノサイクリンの150mgカプセル。

ミノサイクリンは、テトラサイクリン系抗生剤の中でも第一選択となることが多い。これはドキシサイクリンと並び体内半減期が長い(=一日の服用回数が少なくてすむ)ことと、古いテトラサイクリン系抗生剤に対し耐性を持つ菌に対しても効果が期待できるためである。

主な適用としてニキビおよび他の皮膚感染症ならびにライム病の治療に用いられる。これは、服用が1回1錠(または1カプセル)を1日2回(1日あたり100mg)で済み、1日に4回服用する必要のあるテトラサイクリンオキシテトラサイクリンよりも患者の負担が少ないからである。

ミノサイクリンは、髄膜炎菌に対する活性も有するなど、他のテトラサイクリン系抗生物質と比較しても幅広い抗菌スペクトルを有するが、予防薬としての投与は、副作用(めまい)の問題や、耐性のつきやすさのために現在は勧められていない。

ミノサイクリンは、βラクタム系抗生剤に対して耐性のできた菌に対しても効果があることがあり、一部のMRSA感染による症状を治療するのに用いられたり、βラクタム耐性アシネトバクターによる疾患を治療するのに用いられたりすることもある。

他の適用については、テトラサイクリン系抗生物質およびオキシテトラサイクリンとほぼ同じであるため、これらの記事を参照されたい。

使用時における注意[編集]

大部分のテトラサイクリン系抗生物質(ドキシサイクリンは例外とする)とは異なり、ミノサイクリンは腎不全の場合でも使用されることがありうる。しかし全身性エリテマトーデスを引き起こす可能性もある[3]ミノサイクリンは自己免疫性肝炎を引き起こすきっかけになることもありうる[4]

また、ミノサイクリンは、ほかのテトラサイクリン系よりも高い頻度で、突発性頭蓋内圧亢進という症状を引き起こしうる。この症状の初期兆候としては、頭痛、視野の揺らぎ、めまい、嘔吐、混乱がある。脳浮腫や自己免疫性関節リウマチも、まれに現れうるミノサイクリンの副作用である[5]

ミノサイクリンは、他のテトラサイクリン系と同様、使用期限を過ぎると危険性が生じてくる。ほとんどの処方薬は、使用期限を過ぎると薬効が弱まっていくのみであるが、テトラサイクリン系は時間が経つに連れ、カプセル剤内に含まれるある種の化学物質の分解によって毒性が生じるようになる。もっとも、このことは先進国で製造される医薬品では問題になることはない。作られた時期が古くて使用期限の切れたテトラサイクリン系は、腎臓に重大な障害を起こす可能性がある。

ミノサイクリンの吸収は、カルシウムや鉄剤と同時に服用すると減弱する。ほかのテトラサイクリン系抗生物質とは異なり、ミノサイクリンは、たしかに吸収量をやや弱めはするものの、牛乳などのカルシウムの豊富な食品と同時に服用されることがある[6]。2007年11月23日付のサイエンスのニュース記事によれば、筋萎縮性側索硬化症の患者にミノサイクリンを投与することは危険であるとされている。ミノサイクリンを服用した患者はプラセボを患者した患者よりも衰弱するのが速かった。現時点ではこの副作用の機序は不明である。コロンビア大学の研究者によると、服用量が多いからといって服用量が少なかった患者よりも容態が悪化したわけではないため、この副作用は用量依存性ではないと考えられる[7]。ミノサイクリン服用時は、長時間または過剰の直射日光を浴びるのを避けるべきである。

ミノサイクリンは他のテトラサイクリン系抗生剤と同様に小児に対しては第一選択とならない。これは特に8歳未満の小児において歯牙の着色・エナメル質形成不全、また、一過性の骨発育不全などを起こす可能性があるためである。しかしながら耐性等の問題で本剤以外に選択肢がない場合は例外となりうる。

副作用[編集]

ミノサイクリンは腹痛下痢めまい、落ち着きのなさ、傾眠頭痛嘔吐を引き起こす可能性がある。ミノサイクリンは光線過敏症を増悪させる。また狼瘡の原因とされることもある。ミノサイクリンは経口避妊薬の効果を減弱させる可能性がある[8]。 ミノサイクリンを延長期間以上にわたって長く使用していると、皮膚が灰青色になったり、歯が着色したりする可能性がある。稀ではあるが重大な副作用には、発熱眼や皮膚の黄変、腹痛、咽頭炎、視覚症状、離人症を含む精神症状が挙げられる[9][10]

他のテトラサイクリン系には無くてミノサイクリンに特有の副作用には、めまい運動障害耳鳴といった前庭障害がある。 この副作用は男性よりも女性に格段に起きやすく、ミノサイクリンを服用している女性の50-70%に発症する。こういったかなり発症率が高くまた不快な副作用があるため、ミノサイクリンは女性患者に投与されることは滅多にない[11]

アレルギー反応の症状として発赤、掻痒、むくみ、激しいめまい、呼吸困難があることもある[9]。ミノサイクリンによって突発性頭蓋内圧上昇が起きた報告も成されている。

その他の適応症[編集]

抗炎症作用と神経保護作用[編集]

近年の研究結果では、ミノサイクリンが、神経変性疾患、とくに多発性硬化症関節リウマチ筋萎縮性側索硬化症ハンチントン病パーキンソン病[12]といった一連の神経変性疾患に対して、神経保護と抗炎症作用を示しうることが報告された[13][14][15]

ミノサイクリンの神経保護作用には、脳の老化に関係している炎症酵素の5-リポキシゲナーゼ阻害作用[16]がかかわっている可能性があり、アルツハイマー症患者への適用が研究されている[17]。ミノサイクリンは、エイズ患者のトキソプラズマ症に対する "土壇場"治療薬としても使用されている。ミノサイクリンは筋萎縮性側索硬化症やハンチントン病のモデルマウスで神経保護作用を示し、またヒトで2年間以上にわたってハンチントン病の経過を安定させることも示された。

抗炎症薬としては、ミノサイクリンは、炎症を起こす前のサイトカインの出力を抑制することによって腫瘍壊死因子 (TNF-α) のはたらきを減弱させ、これにより細胞のアポトーシスを阻害する。この効果は、活性化T細胞小膠細胞へミノサイクリンが直接作用することによってもたらされ、その結果、T細胞の小膠細胞との連絡能力を減衰させ、T細胞-小膠細胞シグナル伝達によるサイトカインの産生を減少させる[18]。ミノサイクリンは、NF-κBの核内転写を阻害することにより、小膠細胞の活性化も抑制する。

ミノサイクリンの神経保護作用は、その抗炎症能とは無関係に機能すると考えられている[19]

最近の研究で、24か月間にわたる非盲検のミノサイクリン治療による、多発性硬化症の患者における臨床上および核磁気共鳴画像法 (MRI) および血清免疫分子に対するミノサイクリンの効果が報告された。研究に先立ち、患者らがやや高い割合で疾患を再発したものの、6か月めから24か月めまでのあいだ、再発は一例も起きなかった。12か月めから24か月めまでの間MRIでガドリニウム強調病変を有していた唯一の患者は、ミノサイクリンの投与量が半量にされた。インターロイキン-12の血中濃度は、高いとIL-12レセプタに拮抗作用を示しうるが、治療期間の18か月にわたり上昇し、水溶性血管細胞接着分子-1 (VCAM-1) の血中濃度と同様の傾向を示した。マトリックスメタロプロテアーゼ-9の活性は治療によって減衰した。この研究での臨床上およびMRI結果は、全身性免疫学的変化によって支持されたものであり、多発性硬化症におけるミノサイクリンのさらなる考察が待たれる[20][21][19][22]

2007年の研究では、脳虚血発作を起こしてから24時間以内に200mgのミノサイクリンを5日間にわたり服用した患者では、プラセボを服用した患者と比較して、脳機能と発作の激しさが3か月以上にわたって改善されるという結果が出た[23]

商品名と入手方法[編集]

ミノサイクリンの特許期限は既に切れているため、複数の商標名で販売されている。

  • ミノマイシン (Minomycin)
  • ミノシン (Minocin)
  • ミノデルム (Minoderm)
  • シクリマイシン (Cyclimycin)
  • アレスチン (Arestin)
  • アカミン (Akamin)
  • アクネミン (Aknemin)
  • ソロディン (Solodyn)(ニキビ治療用)
  • ダイナシン (Dynacin)
  • セボミン (Sebomin)
  • ミノタブス (Mino-Tabs)
  • アクナミノ (Acnamino)

日本では以下の商標名で販売されている。

以下は後発品

  • クーペラシン®(高田製薬) 
  • ナミマイシン®(富士製薬
  • パルドクリン
  • ミノトーワ
  • ミノペン
  • ロバフィリン

ストーンブリッジ・ファーマ(米国)はミノサイクリンと眼瞼洗浄剤とを合剤にした薬剤を、酒さ眼瞼炎の治療用途として販売している。

脚注[編集]

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  1. ^ CARD=APRD00547.txt DrugBank: DB01017 (Minocycline)
  2. ^ [1]Lin, DW The Tetracyclines March 2005
  3. ^ Gough A, Chapman S, Wagstaff K, Emery P, Elias E (1996). “Minocycline induced autoimmune hepatitis and systemic lupus erythematosus-like syndrome”. BMJ 312 (7024): 169–72. PMID 8563540. http://bmj.bmjjournals.com/cgi/content/full/312/7024/169. 
  4. ^ Krawitt EL (January 2006). “Autoimmune hepatitis”. N. Engl. J. Med. 354 (1): 54–66. doi:10.1056/NEJMra050408. PMID 16394302. http://content.nejm.org/cgi/pmidlookup?view=short&pmid=16394302&promo=ONFLNS19. 
  5. ^ Lefebvre N, Forestier E, Farhi D, et al. (2007). “Minocycline-induced hypersensitivity syndrome presenting with meningitis and brain edema: a case report”. Journal of Medical Case Reports 1: 22. doi:10.1186/1752-1947-1-22. 
  6. ^ Piscitelli, Stephen C.; Keith Rodvold (2005). Drug Interactions in Infectious Diseases. Humana Press. ISBN 1588294552. 
  7. ^ Science Vol 318, 1227, 2007.
  8. ^ “MedlinePlus Drug Information: Minocycline Oral”. http://www.nlm.nih.gov/medlineplus/druginfo/meds/a682101.html 
  9. ^ a b MedicineNet: Minocycline Oral (Dynacin, Minocin) - side effects, medical uses, and drug interactions
  10. ^ Cohen, P. R. (2004). “Medication-associated depersonalization symptoms: report of transient depersonalization symptoms induced by minocycline”. Southern Medical Journal 97 (1): 70–73. doi:10.1097/01.SMJ.0000083857.98870.98. PMID 14746427. 
  11. ^ Sweet, Richard L.; Gibbs, Ronald S. (2001). Infectious Diseases of the Female Genital Tract (4th ed.). Page 635: Lippincott Williams & Wilkins. 
  12. ^ “Preliminary Study Shows Creatine and Minocycline May Warrant Further Study In Parkinson’s Disease” (プレスリリース), National Institute of Health, (2006年2月23日), http://www.nih.gov/news/pr/feb2006/ninds-23.htm 
  13. ^ Chen M, Ona VO, Li M, Ferrante RJ, Fink KB, Zhu S, Bian J, Guo L, Farrell LA, Hersch SM, Hobbs W, Vonsattel JP, Cha JH, Friedlander RM (2000). “Minocycline inhibits caspase-1 and caspase-3 expression and delays mortality in a transgenic mouse model of Huntington disease”. Nat Med 6 (7): 797–801. doi:10.1038/80538. PMID 10888929. 
  14. ^ Tikka TM, Koistinaho JE (Jun 15, 2001). “Minocycline provides neuroprotection against N-methyl-D-aspartate neurotoxicity by inhibiting microglia”. J Immunol 166 (12): 7527–33. PMID 11390507. http://www.jimmunol.org/cgi/content/full/166/12/7527. 
  15. ^ Nirmalananthan N, Greensmith L (2005). “Amyotrophic lateral sclerosis: recent advances and future therapies”. Curr. Opin. Neurol. 18 (6): 712–9. doi:10.1097/01.wco.0000187248.21103.c5. PMID 16280684. 
  16. ^ Song Y, Wei EQ, Zhang WP, Zhang L, Liu JR, Chen Z (2004). “Minocycline protects PC12 cells from ischemic-like injury and inhibits 5-lipoxygenase activation”. Neuroreport 15 (14): 2181–4. doi:10.1097/00001756-200410050-00007. PMID 15371729. 
  17. ^ Uz T, Pesold C, Longone P, Manev H (Apr 1, 1998). “Aging-associated up-regulation of neuronal 5-lipoxygenase expression: putative role in neuronal vulnerability”. Faseb J 12 (6): 439–49. PMID 9535216. http://www.fasebj.org/cgi/content/full/12/6/439. 
  18. ^ Giuliani F, Hader W, Yong VW (2005). “Minocycline attenuates T cell and microglia activity to impair cytokine production in T cell-microglia interaction”. J. Leukoc. Biol. 78 (1): 135–43. doi:10.1189/jlb.0804477. PMID 15817702. 
  19. ^ a b Maier K, Merkler D, Gerber J, Taheri N, Kuhnert AV, Williams SK, Neusch C, Bähr M, Diem R (2007). “Multiple neuroprotective mechanisms of minocycline in autoimmune CNS inflammation”. Neurobiol. Dis. 25 (3): 514–25. doi:10.1016/j.nbd.2006.10.022. PMID 17239606. 
  20. ^ Zabad RK, Metz LM, Todoruk TR, Zhang Y, Mitchell JR, Yeung M, Patry DG, Bell RB, Yong VW (2007). “The clinical response to minocycline in multiple sclerosis is accompanied by beneficial immune changes: a pilot study”. Mult. Scler. 13 (4): 517–26. doi:10.1177/1352458506070319. PMID 17463074. 
  21. ^ Zemke D, Majid A (2004). “The potential of minocycline for neuroprotection in human neurologic disease”. Clinical neuropharmacology 27 (6): 293–8. doi:10.1097/01.wnf.0000150867.98887.3e. PMID 15613934. 
  22. ^ Popovic N, Schubart A, Goetz BD, Zhang SC, Linington C, Duncan ID (2002). “Inhibition of autoimmune encephalomyelitis by a tetracycline”. Ann. Neurol. 51 (2): 215–23. doi:10.1002/ana.10092. PMID 11835378. 
  23. ^ Lampl Y, Boaz M, Gilad R, et al. (2007). “Minocycline treatment in acute stroke: an open-label, evaluator-blinded study”. Neurology 69 (14): 1404–10. doi:10.1212/01.wnl.0000277487.04281.db. PMID 17909152. 

外部リンク[編集]