標準偏差

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標準偏差 (ひょうじゅんへんさ、英語:Standard Deviation)は、分散の正の平方根である。統計値や確率変数の散らばり具合(ばらつき)を表す数値のひとつであり、σ や s で表す。例えば、ある試験でクラス全員が同じ点数であった場合(すなわち全員が平均値であった場合)、データにはばらつきがないので、標準偏差と分散は0になる。

二乗平均平方根 (RMS) と混同されることもある。両者の差異については、二乗平均平方根を参照。

母集団の標準偏差[編集]

N 個のデータ x1, x2, ..., xN からなる母集団を考える。その母集団の相加平均(母平均)は、次のとおりに定義される:

m = \frac{1}{N} \sum_{i=1}^{N}x_i

このとき、母平均 m を使って次式で得られる量を分散(または母分散)と定義する。

\sigma^2 = \frac{1}{N} \sum_{i=1}^{N}(x_i - m)^2

この分散の正の平方根σを、母集団の標準偏差と定義する。分散はデータの散らばり具合を表す量であるとはいうものの、元のデータを2乗しているので、元のデータや平均値と直接比較することができない。そこで平方根をとって標準偏差にすると、平均値と同じ単位になるので比較ができるようになる。

統計値の標準偏差[編集]

母集団の中から, n 個のデータ x1, x2, ..., xn からなる標本を抽出したとする。このとき、標本平均を次式で定義する:

\bar{x} = \frac{1}{n} \sum_{i=1}^{n}x_i

この標本平均を使って次式で定義される量を標本の分散と呼ぶ。

s^2 = \frac{1}{n} \sum_{i=1}^{n}(x_i - \bar{x})^2

標本の分散の正の平方根 s を標本の標準偏差と呼ぶ。

σ2 を母集団の分散、s2 を標本の分散とすると,

E[s^2] = \frac{n-1}{n} \sigma^2

となることが示される。つまり、標本の分散は母集団の分散よりも小さくなる傾向がある[1]。すなわち、標本の分散は母集団の分散の不偏推定量ではない。そこで、

u^2 = \frac{1}{n-1} \sum_{i=1}^{n}(x_i - \bar{x})^2

を考えると、この量の期待値は母集団の分散に等しく、分散の不偏推定量になっている。こうして定義される u2不偏分散という。標本分散と呼ぶこともある。

u2 の正の平方根 u標本標準偏差ということもある。

不偏分散の平方根 u は、標準偏差の不偏推定量ではない。例えば母集団が正規分布に従う場合、標準偏差の不偏推定量 D は次式で与えられる[2]

 D = \sqrt{ \frac{n-1}{2}} \frac{ \Gamma \left( \frac{n-1}{2} \right) }{ \Gamma \left( \frac{n}{2} \right)} u

ここで、u2 は不偏分散である。

標本サイズが大きくなれば,標準偏差の不偏推定量 D は,近似的に,平均からの偏差平方和をn-1.5で割った値の平方根として求められる[3]

 D = \sqrt{ \frac{1}{n-1.5} \sum_{i=1}^n(x_i - \bar{x})^2}

名称の混乱[編集]

統計の教科書によっては n-1 で割ったものが標本分散という名称になっており[4]、用語が混乱して使用されている場合がある。母平均が不明であって、代わりに標本平均を使用する場合には、期待値が母分散となる不偏分散を使用することが多い[5]。英語圏では、不偏分散による標準偏差のことをSample Standard Deviation(標本標準偏差)と呼ぶことが多いが,そうでない場合もある[6]。不偏分散u2の平方根を,不偏標準偏差(unbiased standard diviation)と教える大学教員も多い。例えば,兵庫大学・河野稔による健康統計学-散布度の解説が典型例であり,神戸大学・中澤港による高崎経済大学非常勤講義 第4回「記述統計(2):代表値」の解説も同じである。一方で,標準偏差の不偏推定量 D を不偏標準偏差と教える教員もいる。例えば,東北学院大学・ 根市一志による標準偏差の不偏性がそれである。このように,同じ用語でも教員によって定義が異なるので注意が必要である。Wikipedia英語版では,Unbiased estimation of standard deviationの項目で,標準偏差の不偏推定量が説明されている。

確率変数の標準偏差[編集]

離散型確率変数[編集]

X を離散型確率変数とする。X のとりうる値が x1, x2, ..., xnXxi をとる確率を pi で表す。ここで、

\sum_{i=1}^{n}p_i = 1

とする。このとき、

E[X] = \sum_{i=1}^{n} p_i x_i

を確率変数 X の期待値という。また,

V = E[(X-E[X])^2]=\sum_{i=1}^n p_i ( x_i - E[X])^2

を確率変数 X の分散という。この分散の正の平方根を標準偏差という。

連続型確率変数[編集]

X を連続型確率変数とする。連続関数 f(x) が

f(x) \geq 0, \int_{-\infty}^{\infty}f(x)dx = 1

を満たし、かつ X の値が区間 [x1, x2] に属する確率が

\int_{x_1}^{x_2}f(x)dx

のとき、f(x) を X の確率密度関数という。このとき,

 E[X] = \int_{-\infty}^{\infty}xf(x)dx

を確率変数 X の期待値という。また,

 V = \int_{-\infty}^{\infty}(x - E[X])^{2}f(x)dx

を確率変数 X の分散という。この分散の正の平方根を標準偏差という。

標準偏差の推定[編集]

母標準偏差が未知のときは、標本から得られた標本標準偏差から推定することができる。母標準偏差を σ、標本数 N の標本標準偏差を s とすると母集団分布が正規分布ならば σ2 は次の自由度 N - 1 の χ2 分布に従う。

\chi^2=Ns^2/\sigma^2

σ の推定値の95%信頼限界は P = 0.975 の χ2 から P = 0.025 の χ2 までの範囲で、s と σ の比は N = 5 では 0.31 から 1.49、N = 20 では 0.67 から 1.28 となり、標本が少数の場合はかなり範囲が広いことに留意すべきである。

脚注[編集]

  1. ^ 例えば、標本サイズが1の場合、ばらつきがないので標本の分散は必ず0となるが、母集団のばらつきは通常0ではない。
  2. ^ 吉澤康和『新しい誤差論 - 実験データ解析法』共立出版、1989年、pp. 78-79。
  3. ^ Richard M. Brugger, "A Note on Unbiased Estimation of the Standard Deviation", The American Statistician (23) 4 p. 32 (1969)
  4. ^ 例:東京大学教養学部統計学教室編『統計学入門』東京大学出版会、1991。ISBN 4-13-042065-8
  5. ^ 分散または標準偏差の図による解説と具体例は、村瀬洋一他『SPSSによる多変量解析』オーム社、2007、pp.52-53 (ISBN 4-27-406626-6) などを参照。
  6. ^ Wikipedia英語版のStandard deviationの説明では、不偏分散による標準偏差(平均からの偏差平方和を n-1で割った値の平方根)のことを Corrected sample standard deviationと表記し,平均からの偏差平方和を nで割った値の平方根をUncorrected sample standard deviationまたはThe standard deviation of the sampleと表記している。アメリカのFundamentals of Engineering (FE) の試験問題では、Sample Standard Deviationを求めよと書かれていたら n-1 で割るほうが答えである。しかしアメリカでも,異なる解説をする場合がある。例えば,ユタ大学(The University of Utah)のTom Malloyは,統計学の学習者向けウェブページEstimating Parameters Web Pageで, Sample standard deviationを大文字Sという記号で表し,平均からの偏差平方和を nで割った値の平方根,と解説している。

関連項目[編集]