アナンダミド

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

アナンダミドの構造式

アナンダミド (anandamide) またはアナンダマイドは、アラキドノイルエタノールアミド (arachidonoylethanolamide, AEA) とも呼ばれる、神経伝達物質あるいは脂質メディエーターの一種で、内因性のカンナビノイド受容体リガンド(内因性カンナビノイド)として最初に発見された物質である。動物体内にあり、特にに多い。快感などに関係する脳内麻薬物質の一つとも考えられるが、中枢神経系および末梢で多様な機能を持っている。構造的にはアラキドン酸に由来するエイコサノイドの一種である。

1992年、ヘブライ大学の Raphael Mechoulam の研究室において、チェコの分析化学者 Lumír Ondřej Hanuš とアメリカの分子薬理学者 William Anthony Devane によって分離・構造決定が行われ、命名された。アナンダミドとは、サンスクリットアーナンダ(法悦、歓喜の意)とアミドを合わせた造語である。

[編集] カンナビノイド受容体

アナンダミドは中枢神経系のほか、末梢の各種器官・組織でも機能している。これらは神経系においてはCB1カンナビノイド受容体、末梢(主として免疫系)ではCB2カンナビノイド受容体を介して行われる。CB1受容体は神経系にあるG蛋白質共役受容体で最も多いものの一つである。

カンナビノイド受容体は初め、大麻に含まれる主要な向精神性カンナビノイドであるΔ9-テトラヒドロカンナビノール (THC) に対して感受性のある受容体として発見された。しかし体内(内因性)にもCB1およびCB2受容体に影響する物質があるに違いないとの予想から研究が進められ、その結果アナンダミドが発見されたのである。

なおその後、構造的にはアナンダミドに類似した2-アラキドノイルグリセロール (2-AG) やパルミトイルエタノールアミド (PEA) が発見され、CB1では2-AGが、CB2ではPEAが、それぞれアナンダミドよりも主要な役割を担っていると考えられるようになった。

[編集] 機能

アナンダミドは中枢神経系では、ワーキングメモリー睡眠パターン、鎮痛、摂食の調節、動機づけや快感の形成など、心理・行動に対する多彩な役割があると考えられている。子宮での着床にも重要とされる(従ってTHCなどは妊娠初期に悪影響を及ぼす可能性もある)。また免疫抑制作用を示し、白血球などを介して免疫・炎症の調節に関与すると考えられる。さらにアナンダミドは、痛みのシグナル伝達に関係するバニロイド受容体の内因性リガンドでもあると考えられている。

[編集] 合成と分解

体内では、ホスファチジルコリンsn-1位に存在するアラキドン酸がホスファチジルエタノールアミンのアミノ基に転移されてN-アラキドノイルホスファチジルエタノールアミンが作られ、これからアナンダミドが合成される。脂肪酸アミド加水分解酵素 (FAAH) によってエタノールアミンとアラキドン酸へ分解される。ゆえにFAAH阻害剤によりアナンダミドのレベルが上昇する。これについては医療への応用も研究されている。また、マクロファージに発現するN-アシルエタノールアミン水解酸性アミダーゼ (NAAA) も同様の分解反応を触媒する。