コンテンツにスキップ

ちょうこくしつ座

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ちょうこくしつ座
Sculptor
Sculptor
属格 Sculptoris
略符 Scl
発音 英語発音: [ˈskʌlptər]、属格:/skəlpˈtɒrɨs/
象徴 彫刻家アトリエ
概略位置:赤経  23h 06m 43.4s -  01h 45m 50.1s[1]
概略位置:赤緯 −24.80° - −39.37°[1]
広さ 474.764平方度[2]36位
バイエル符号/
フラムスティード番号
を持つ恒星数
18
3.0等より明るい恒星数 0
最輝星 α Scl(4.27
メシエ天体 0
隣接する星座 くじら座
みずがめ座
みなみのうお座
つる座
ほうおう座
ろ座
テンプレートを表示

ちょうこくしつ座(ちょうこくしつざ、Sculptor)は、現代の88星座の1つ。18世紀半ばに考案された新しい星座で、彫刻家アトリエがモチーフとされた[注 1]。明るい星がなく、日本からは南天の低いところに見えるため、目立たない星座である。

主な天体

[編集]

南天にあるためメシエ天体こそないが、特徴のある銀河があることからアマチュア天文家の観測対象となっている。この星座の領域には銀河南極があるなど銀河円盤が相対的に薄い領域であるため、遠方の銀河を天の川銀河内の天体の影響を受けずに観測することができる。

恒星

[編集]
ALMAによって撮像されたちょうこくしつ座R星とその周囲の奇妙な渦巻構造。

2022年4月現在、国際天文学連合 (IAU) によって1個の恒星に固有名が認証されている[4]

  • HD 4208:国際天文学連合の100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」でニカラグアに命名権が与えられ、主星はCocibolca、太陽系外惑星はXolotlanと命名された[5]

その他、以下の恒星が知られている。

星団・星雲・銀河

[編集]
渦巻銀河NGC253。

流星群

[編集]

2014年に58年ぶりに観測されたほうおう座流星群放射点はこの星座の領域にあるとされた[25]

由来と歴史

[編集]
19世紀イギリスの星座カード集『ウラニアの鏡』に描かれたちょうこくしつ座。

ちょうこくしつ座は、18世紀中頃にニコラ=ルイ・ド・ラカイユによって考案された。ラカイユが考案し現在も使われている14の星座の中では最も大きい[26]

1756年に刊行された1752年版のフランス科学アカデミーの紀要『Histoire de l'Académie royale des sciences』に掲載されたラカイユの星図の中で、フランス語で「彫刻家のアトリエ」を意味する「l’Atelier du Sculpteur」として描かれたのが初出である[26][27][28]。のちの1763年にラカーユが刊行した著書『Coelum australe stelliferum』に掲載された第2版の星図では、ラテン語化された「Apparatus Sculptoris」と呼称が変更されている[26][29]

現在の「Sculptor」という学名は、イギリスの天文学者ジョン・ハーシェルが提案したものである。ジョン・ハーシェルは、1844年のフランシス・ベイリー宛の書簡の中で、Apparatus Sculptoris を「Sculptor」と短縮することを提案した[26][30]。それを受けたベイリーが、翌年の1845年に刊行した『British Association Catalogue』において「Sculptor」と改めたことにより、以降この呼称が定着することとなった[26]

1922年5月にローマで開催されたIAUの設立総会で現行の88星座が定められた際にそのうちの1つとして選定され、星座名は Sculptor、略称は Scl と正式に定められた[31]。新しい星座のため星座にまつわる神話や伝承はない。

中国

[編集]

現在のちょうこくしつ座の領域は、中国の歴代王朝の版図から見える位置にあったが、この領域の星が二十八宿星官に充てられていたか否かは説が分かれている[26]

呼称と方言

[編集]

日本では、1910年(明治43年)2月刊行の日本天文学会の会誌『天文月報』第2巻第11号で星座名の改訂が示された際に「彫刻室」という呼称が使われている[32]。この呼称は、1925年(大正14年)に初版が刊行された『理科年表[33]1928年(昭和3年)に天文同好会の編集により新光社から刊行された『天文年鑑』第1号[34]にもそのまま引き継がれている。戦後の1952年(昭和27年)7月、日本天文学会は「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」[35]とした。このときに、Sculptor の訳名は「ちょうこくしつ」と定まり[36]、以降この呼び名が継続して用いられている。

京都帝国大学山本一清は、Sculptorは「彫刻室」或は彫刻家の工作室の意味であるが,こうした藝術家の作業室を,近年我國では,フランス語を其のまゝ「アトリエ」と一般に呼ぶやうになつてゐる.だから今の吾々の場合にも,彫刻室などギコチない言葉を用ゐないで,「アトリエ」といふ新日本語を其のまゝ採用して置くのが良いと思はれる.[37]としており、自らが妥当と考える星座名の一覧では「アトリエ」という邦訳を充てていた[38]

現代の中国では玉夫座と呼ばれている[39]

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ Sculptorというラテン語の学名を直訳すると「彫刻家」である[1]が、モチーフとなったのは彫刻家のアトリエである[3]

出典

[編集]
  1. ^ a b c The Constellations”. 国際天文学連合. 2023年2月20日閲覧。
  2. ^ 星座名・星座略符一覧(面積順)”. 国立天文台(NAOJ). 2023年1月1日閲覧。
  3. ^ 原恵『星座の神話 - 星座史と星名の意味』(新装改訂版4刷)恒星社厚生閣、2007年2月28日、195頁。ISBN 978-4-7699-0825-8 
  4. ^ IAU Catalog of Star Names”. 国際天文学連合 (2022年4月4日). 2023年2月20日閲覧。
  5. ^ Approved names” (英語). Name Exoworlds. 国際天文学連合 (2019年12月17日). 2020年1月5日閲覧。
  6. ^ "alp Scl". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年1月7日閲覧
  7. ^ Samus’, N. N.; Kazarovets, E. V.; Durlevich, O. V.; Kireeva, N. N.; Pastukhova, E. N. (2017). “General catalogue of variable stars: Version GCVS 5.1”. Astronomy Reports 61 (1): 80-88. Bibcode2017ARep...61...80S. doi:10.1134/S1063772917010085. ISSN 1063-7729. https://vizier.cds.unistra.fr/viz-bin/VizieR-5?-ref=VIZ63f35e511e36f3&-out.add=.&-source=B/gcvs/gcvs_cat&recno=51532. 
  8. ^ "bet Scl". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年2月20日閲覧
  9. ^ "R Scl". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年1月7日閲覧
  10. ^ アルマ望遠鏡が見つけた不思議な渦巻き星 - 新たな観測でさぐる、死にゆく星の姿”. 国立天文台 (2012年10月11日). 2023年1月7日閲覧。
  11. ^ a b "HD 4113". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年2月20日閲覧
  12. ^ "HD 4113B". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年2月20日閲覧
  13. ^ "HD 4113C". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年2月20日閲覧
  14. ^ a b "HD 225213". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年2月20日閲覧
  15. ^ "NGC 55". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年2月20日閲覧
  16. ^ 藤井旭『全天星雲星団ガイドブック』誠文堂新光社、1978年、[要ページ番号]頁。ISBN 4-416-27800-4 
  17. ^ a b c Frommert, Hartmut (2006年8月22日). “The Caldwell Catalog”. SEDS Messier Database. 2023年2月20日閲覧。
  18. ^ a b "NGC 253". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年2月20日閲覧
  19. ^ "NGC 300". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年2月20日閲覧
  20. ^ "Sculptor Dwarf Galaxy". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年2月20日閲覧
  21. ^ "IC 5332". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年2月20日閲覧
  22. ^ ハッブル&ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した渦巻銀河「IC 5332」”. sorae.info (2022年9月29日). 2023年2月20日閲覧。
  23. ^ a b 近赤外線で見た5万の天体 ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した「パンドラ銀河団」”. sorae 宇宙へのポータルサイト (2023年2月18日). 2023年2月20日閲覧。
  24. ^ 「パンドラ」と名付けられた銀河団の複雑な構造”. sorae.info (2018年12月1日). 2023年2月20日閲覧。
  25. ^ 佐藤幹哉「~幻の「ほうおう座流星群」ふたたび~ よみがえるフェニックス」『星ナビ』、アストロアーツ、2014年12月、42-47頁。 
  26. ^ a b c d e f Ridpath, Ian. “Sculptor”. Star Tales. 2023年2月20日閲覧。
  27. ^ Ridpath, Ian. “Lacaille’s southern planisphere of 1756”. Star Tales. 2023年1月7日閲覧。
  28. ^ Histoire de l'Académie royale des sciences” (フランス語). Gallica. 2023年1月7日閲覧。
  29. ^ Coelum australe stelliferum / N. L. de Lacaille”. e-rara. 2023年1月7日閲覧。
  30. ^ “Extract (translated) from a letter from Professor Bessel to Sir J. F. W. Herschel, Bart. dated Königsberg, January 22, 1844”. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society (Oxford University Press (OUP)) 6 (5): 62-64. (1844). Bibcode1844MNRAS...6...62.. doi:10.1093/mnras/6.5.62. ISSN 0035-8711. 
  31. ^ Ridpath, Ian. “The IAU list of the 88 constellations and their abbreviations”. Star Tales. 2023年1月5日閲覧。
  32. ^ 星座名」『天文月報』第2巻第11号、1910年2月、11頁、ISSN 0374-2466 
  33. ^ 東京天文台 編『理科年表 第1冊丸善、1925年、61-64頁。doi:10.11501/977669https://dl.ndl.go.jp/pid/977669/1/39 
  34. ^ 天文同好会 編『天文年鑑』1号、新光社、1928年、3-6頁。doi:10.11501/1138361https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1138361 
  35. ^ 『文部省学術用語集天文学編(増訂版)』(第1刷)日本学術振興会、1994年11月15日、316頁。ISBN 4-8181-9404-2 
  36. ^ 星座名」『天文月報』第45巻第10号、1952年10月、13頁、ISSN 0374-2466 
  37. ^ 山本一清天文用語に關する私見と主張 (3)」『天界』第14巻第161号、東亜天文学会、1934年8月、406-411頁、doi:10.11501/3219882ISSN 0287-6906 
  38. ^ 山本一清天文用語に關する私見と主張 (4)」『天界』第14巻第162号、東亜天文学会、1934年9月、447-451頁、doi:10.11501/3219883ISSN 0287-6906 
  39. ^ 大崎正次「辛亥革命以後の星座」『中国の星座の歴史』雄山閣出版、1987年5月5日、115-118頁。ISBN 4-639-00647-0