ポンプ座

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ポンプ座
Antlia
Antlia
属格 Antliae
略符 Ant
発音 英語発音: [ˈæntliə]、属格:/ˈæntlɪ.iː/
象徴 真空ポンプ
概略位置:赤経  09h 26m 56.2s -  11h 05m 55.0s[1]
概略位置:赤緯 −24.54 - −40.42[1]
広さ 239平方度 (62位
主要恒星数 3
バイエル符号/
フラムスティード番号
を持つ恒星数
9
系外惑星が確認されている恒星数 1
3.0等より明るい恒星数 0
10パーセク以内にある恒星数 1
最輝星 α 星(4.25
最も近い星 DEN 1048-3956;(13.2光年)
メシエ天体 0
隣接する星座 うみへび座
らしんばん座
ほ座
ケンタウルス座
テンプレートを表示

ポンプ座(ポンプざ、Antlia)は、現代の88星座の1つ。18世紀半ばに考案された新しい星座で、真空ポンプをモチーフとしている[1][2]

主な天体[編集]

渦巻銀河NGC 2997

恒星[編集]

4等星が1つある以外は5等星以下の暗い星だけの、目立つところのない星座である。

2022年4月現在、国際天文学連合 (IAU) によって1個の恒星に固有名が認証されている[3]

  • HD 93083[4]。国際天文学連合の100周年記念行事「IAU100 NameExoworlds」でコロンビアに命名権が与えられ、主星はMacondo、太陽系外惑星はMelquíadesと命名された[5]

この星座には最初からβ星が設定されていなかった[6]

星団・星雲・銀河[編集]

由来と歴史[編集]

ヨハン・ボーデが1801年に出版した『ウラノグラフィア』に描かれたポンプ座
19世紀イギリスの星座カード集『ウラニアの鏡』に描かれたポンプ座(中央右寄り下)。

モチーフとなったポンプは、水を汲み上げるポンプではなく、科学実験において真空状態を作り出すための真空ポンプである[8]。ラカーユは、実験物理学を象徴するものとしている[2][9]

ラカーユは、それまでのアルゴ座の領域の一部を切り離して、そこに Antlia pneumatica と Pixis Nautica[注 1]を設けた[10][注 2]。初出は、1756年に刊行された1752年版のフランス科学アカデミーの紀要『Histoire de l'Académie royale des sciences』に掲載されたラカーユの星図で、真空ポンプの星座絵と la Machine Pneumatique というフランス語の名称が描かれていた[2][11][12][13]。ラカーユの描いたポンプは、フランスの発明家ドニ・パパンが1670年代前半に使用した単気筒式のタイプであった[14][15]。ラカーユの死後の1763年に刊行された著書『Coelum australe stelliferum』に掲載された第2版の星図では、ラテン語化された「Antlia Pneumatica」と呼称が変更されていた[2][16]

1801年にドイツの天文学者ヨハン・ボーデが刊行した星図『ウラノグラフィア』では、パパンがパリからロンドンに渡ってロバート・ボイルと共同で改良した2気筒式の真空ポンプが描かれている[2]。現在の Antlia という学名は、イギリスの天文学者ジョン・ハーシェルが提案したものである。ジョン・ハーシェルは、1844年のフランシス・ベイリー宛の書簡の中で、Antlia Pneumatica を Antlia と短縮することを提案した[2][17]。それを受けたベイリーが、翌年の1845年に刊行した『British Association Catalogue』において Antlia と改めたことにより、以降この呼称が定着することとなった[2]

1922年5月にローマで開催されたIAUの設立総会で現行の88星座が定められた際にそのうちの1つとして選定され、星座名は Antlia、略称は Ant と正式に定められた[18]。新しい星座のため星座にまつわる神話や伝承はない。

この星座の由来について「ロバート・ボイルが、ドイツの物理学者オットー・フォン・ゲーリケの考案した真空ポンプを改良した記念として設定した」とする説明が流布されたことがあった[15][19]が、これは事実とは異なる。

呼称と方言[編集]

日本では、当初「排気器」という訳語が充てられていた。これは、1910年(明治43年)2月に刊行された日本天文学会の会誌『天文月報』の第2巻11号に掲載された、星座の訳名が改訂されたことを伝える「星座名」という記事で確認できる[20]。この訳名は、1925年(大正14年)に初版が刊行された『理科年表』にも引き継がれ[21]、戦後も継続して「排気器(はいきき)」の呼称が使われた[22]1952年(昭和27年)7月、日本天文学会は「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」[23]とした。このときに、Antlia の訳名は「ポンプ」に変更され[24]、以降この呼び名が継続して用いられている。

天文同好会[注 3]山本一清らは異なる訳語を充てていた。天文同好会の編集により1928年(昭和3年)4月に刊行された『天文年鑑』第1号では星座名Antliaに対して「ポンプ」の訳語を充てていた[25]が、既にIAUが学名をOctansと定めた後の1931年(昭和6年)3月に刊行した『天文年鑑』第4号では星座名を Antlia Pneumatica、訳名を「空気ポンプ」と改め[26]、以降の号でもこの星座名と訳名を継続して用いていた[27]

脚注[編集]

[脚注の使い方]

注釈[編集]

  1. ^ 現在のらしんばん座
  2. ^ ラカーユは、残ったアルゴ座の領域内に現在のりゅうこつ座ほ座とも座の元となる名前を付けたが、アルゴ座を分割した訳ではない。たとえば19世紀アメリカの天文学者ベンジャミン・グールドラカーユがアルゴ船座とケンタウルス座が占める広大な領域に新しい星座を導入しなかったことは非常に残念なことである。と明言している[10]
  3. ^ 現在の東亜天文学会

出典[編集]

  1. ^ a b c The Constellations”. 国際天文学連合. 2023年1月15日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g Ridpath, Ian. “Antlia”. Star Tales. 2023年1月15日閲覧。
  3. ^ IAU Catalog of Star Names”. 国際天文学連合. 2023年1月15日閲覧。
  4. ^ "HD 93083". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年1月15日閲覧
  5. ^ Approved names” (英語). Name Exoworlds. 国際天文学連合 (2019年12月17日). 2019年12月31日閲覧。
  6. ^ Coelum australe stelliferum / N. L. de Lacaille”. e-rara. 2023年1月7日閲覧。
  7. ^ "alf Ant". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年1月15日閲覧
  8. ^ Allen, Richard H. (2013-2-28). Star Names: Their Lore and Meaning. Courier Corporation. p. 42. ISBN 978-0-486-13766-7. https://books.google.com/books?id=vWDsybJzz7IC 
  9. ^ Histoire de l'Académie royale des sciences” (フランス語). Gallica. 2023年1月15日閲覧。
  10. ^ a b Gould, Benjamin Apthorp (1879). “Uranometria Argentina: Brightness and position of every fixed star, down to the seventh magnitude, within one hundred degrees of the South Pole; with atlas”. Resultados del Observatorio Nacional Argentino 1: I-387. Bibcode1879RNAO....1....1G. OCLC 11484342. https://articles.adsabs.harvard.edu/pdf/1879RNAO....1D...1G#page=67. 
  11. ^ Ridpath, Ian. “Lacaille’s southern planisphere of 1756”. Star Tales. 2023年1月7日閲覧。
  12. ^ Histoire de l'Académie royale des sciences” (フランス語). Gallica. 2023年1月7日閲覧。
  13. ^ 『フラムスチード天球図譜』(新装版)恒星社厚生閣、1980年、図29頁。 
  14. ^ Ridpath, Ian. “Lacaille’s Antlia”. Star Tales. 2023年1月15日閲覧。
  15. ^ a b 村山定男 『キャプテン・クックと南の星』(初版)河出書房新社、2003年5月10日、44-45頁。ISBN 978-4-309-90533-4 
  16. ^ Coelum australe stelliferum / N. L. de Lacaille”. e-rara. 2023年1月7日閲覧。
  17. ^ “Extract (translated) from a letter from Professor Bessel to Sir J. F. W. Herschel, Bart. dated Königsberg, January 22, 1844”. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society (Oxford University Press (OUP)) 6 (5): 62-64. (1844). Bibcode1844MNRAS...6...62.. doi:10.1093/mnras/6.5.62. ISSN 0035-8711. 
  18. ^ Ridpath, Ian. “The IAU list of the 88 constellations and their abbreviations”. Star Tales. 2023年1月15日閲覧。
  19. ^ 原恵 『星座の神話 - 星座史と星名の意味』(新装改訂版第4刷)恒星社厚生閣、2007年2月28日、88-89頁。ISBN 978-4-7699-0825-8 
  20. ^ 星座名」『天文月報』第2巻第11号、1910年2月、 11頁、 ISSN 0374-2466
  21. ^ 東京天文台『理科年表 第1冊』丸善、1925年、61-64頁https://dl.ndl.go.jp/pid/977669/1/39 
  22. ^ 東京天文台『理科年表 第22冊』丸善、1949年、天 34頁頁https://dl.ndl.go.jp/pid/1124234/1/61 
  23. ^ 『文部省学術用語集天文学編(増訂版)』(第1刷)日本学術振興会、1994年11月15日、316頁。ISBN 4-8181-9404-2 
  24. ^ 星座名」『天文月報』第45巻第10号、1952年10月、 13頁、 ISSN 0374-2466
  25. ^ 天文同好会『天文年鑑』1号、新光社、1928年4月28日、4頁。doi:10.11501/1138361https://dl.ndl.go.jp/pid/1138361/1/7 
  26. ^ 天文同好会『天文年鑑』4号、新光社、1931年3月30日、6頁。doi:10.11501/1138410https://dl.ndl.go.jp/pid/1138410/1/11 
  27. ^ 天文同好会『天文年鑑』10号、恒星社、1937年3月22日、4-9頁。doi:10.11501/1114748https://dl.ndl.go.jp/pid/1114748/1/12