らしんばん座
Pyxis | |
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属格形 | Pyxidis |
略符 | Pyx |
発音 | 英語発音: [ˈpɪksɨs]、属格:/ˈpɪksɨdɨs/ |
象徴 | 航海に用いる方位磁針 |
概略位置:赤経 | 08h 26m 42.7s |
概略位置:赤緯 | −17.41° - −37.29° |
広さ | 221平方度[1] (65位) |
主要恒星数 | 3 |
バイエル符号/ フラムスティード番号 を持つ恒星数 | 10 |
系外惑星が確認されている恒星数 | 3 |
3.0等より明るい恒星数 | 0 |
10パーセク以内にある恒星数 | 1 |
最輝星 | α Pyx(3.68等) |
最も近い星 | HD 72673;(39.7光年) |
メシエ天体数 | 0 |
隣接する星座 |
うみへび座 とも座 ほ座 ポンプ座 |
らしんばん座(らしんばんざ、Pyxis)は、現代の88星座の1つ。18世紀半ばに考案された新しい星座である。航海に用いられる方位磁針がモチーフとされている[2][3]。日本国内のどこからでも星座の全域を見ることができるが、特に明るい星もないため目立たない星座である。
主な天体[編集]
4等星が南北に3つ並ぶ以外は目ぼしい天体がない。
恒星[編集]

2022年4月現在、国際天文学連合 (IAU) が認証した固有名を持つ恒星は1つもない[4]。
- α星:見かけの明るさ3.68等の青色巨星で4等星[5]。らしんばん座で最も明るく見える恒星。
- β星:見かけの明るさ3.954等の黄色巨星で4等星[6]。らしんばん座で2番目に明るく見える恒星。
- γ星:見かけの明るさ4.01等の橙色巨星で4等星[7]。らしんばん座で3番目に明るく見える恒星。
- T星:1890年以降、1902年、1920年、1944年、1966年、2011年に新星爆発が観測されている再帰新星[8]。
由来と歴史[編集]
らしんばん座は、18世紀中頃にフランスの天文学者ニコラ・ルイ・ド・ラカーユによって考案された。初出は、1756年に刊行された1752年版のフランス科学アカデミーの紀要『Histoire de l'Académie royale des sciences』に掲載されたラカーユの星図で、航海に使われる方位磁針の星座絵とフランス語で「羅針盤」を意味する la Boussoleという名称が描かれていた[3][9][10]。ラカーユの死後の1763年に刊行された『Coelum australe stelliferum』に掲載された第2版の星図では、ラテン語化された Pixis Nauticaと呼称が変更されている[3][11]。
ラカーユは、それまでのアルゴ座の領域の一部を切り離して、そこに Antlia pneumatica[注 1] と Pixis Nautica を設けた[12][注 2]。
1801年にヨハン・ボーデが刊行した『ウラノグラフィア』では、綴りが Pyxis Nautica と修正された。またボーデは、Pyxis Nautica を取り巻くように「測程儀[注 3]と縄」を意味する Lochium Funis (測定索)という星座を設けたが、これは広まらなかった[3]。
イギリスの天文学者ジョン・ハーシェルは、1844年のフランシス・ベイリー宛の書簡の中で、ラカーユの Pixis Nautica を「帆柱」を意味する Malus と改名し、これをアルゴ座の一部とし、アルゴ座を4分割することを提案した[3][13]。ベイリーは翌年の1845年に刊行した『British Association Catalogue』でMalusを採用したが、これも定着することはなかった[3]。
1922年5月にローマで開催されたIAUの設立総会で現行の88星座が定められた際にそのうちの1つとして選定され、星座名は Pyxis、略称はPyx と正式に定められた[14]。新しい星座のため星座にまつわる神話や伝承はない。
中国[編集]
中国の天文では、らしんばん座の星々は二十八宿の南方朱雀七宿の第二宿「鬼宿」に配されていた。鬼宿では、β・α・γ・δの4星が、不明の1星、ほ座の2星とともに「狸に似た想像上の獣」あるいは「天を守る狗」を表す星官「天狗」を成していた[15]。
呼称と方言[編集]
日本では、1910年(明治43年)2月刊行の日本天文学会の会誌『天文月報』第2巻第11号で星座名の改訂が示された際に「羅針盤」という呼称が使われている[16]。この訳名は、1925年(大正14年)に初版が刊行された『理科年表』にも「羅針盤(らしんばん)」として引き継がれた[17]。戦後の1952年(昭和27年)7月に日本天文学会が「星座名はひらがなまたはカタカナで表記する」[18]とした際に、Pyxis の日本語の学名は「らしんばん」と定められ[19]、これ以降は「らしんばん」という学名が継続して用いられている
天文同好会[注 4]の山本一清らは、既にIAUが学名を Pyxis と定めた後の1931年(昭和6年)3月に刊行した『天文年鑑』第4号で、星座名を Pyxis Nautica、訳名を「航海用羅針盤」と紹介し[20]、以降の号でもこの星座名と訳名を継続して用いていた[21]。
脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
- ^ “星座名・星座略符一覧(面積順)”. 国立天文台(NAOJ). 2023年1月1日閲覧。
- ^ “The Constellations”. 国際天文学連合. 2023年1月14日閲覧。
- ^ a b c d e f Ridpath, Ian. “Pyxis”. Star Tales. 2023年1月14日閲覧。
- ^ “IAU Catalog of Star Names (IAU-CSN)”. 国際天文学連合 (2022年4月4日). 2023年1月14日閲覧。
- ^ "alf Pyx". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年1月14日閲覧。
- ^ "bet Pyx". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年1月14日閲覧。
- ^ "gam Pyx". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年1月14日閲覧。
- ^ "T Pyx". SIMBAD. Centre de données astronomiques de Strasbourg. 2023年1月14日閲覧。
- ^ Ridpath, Ian. “Lacaille’s southern planisphere of 1756”. Star Tales. 2023年1月7日閲覧。
- ^ “Histoire de l'Académie royale des sciences” (フランス語). Gallica. 2023年1月7日閲覧。
- ^ “Coelum australe stelliferum / N. L. de Lacaille”. e-rara. 2023年1月7日閲覧。
- ^ a b Gould, Benjamin Apthorp (1879). “Uranometria Argentina: Brightness and position of every fixed star, down to the seventh magnitude, within one hundred degrees of the South Pole; with atlas”. Resultados del Observatorio Nacional Argentino 1: I-387. Bibcode: 1879RNAO....1....1G. OCLC 11484342 .
- ^ “Extract (translated) from a letter from Professor Bessel to Sir J. F. W. Herschel, Bart. dated Königsberg, January 22, 1844”. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society (Oxford University Press (OUP)) 6 (5): 60-61. (1844). Bibcode: 1844MNRAS...6...60R. doi:10.1093/mnras/6.5.60. ISSN 0035-8711.
- ^ Ridpath, Ian. “The IAU list of the 88 constellations and their abbreviations”. Star Tales. 2022年12月1日閲覧。
- ^ 大崎正次「中国の星座・星名の同定一覧表」 『中国の星座の歴史』雄山閣出版、1987年5月5日、294-341頁。ISBN 4-639-00647-0。
- ^ 「星座名」『天文月報』第2巻第11号、1910年2月、11頁、ISSN 0374-2466。
- ^ 東京天文台 編 『理科年表 第1冊』丸善、1925年、61-64頁 。
- ^ 『文部省学術用語集天文学編(増訂版)』(第1刷)日本学術振興会、1994年11月15日、316頁。ISBN 4-8181-9404-2。
- ^ 「星座名」『天文月報』第45巻第10号、1952年10月、13頁、ISSN 0374-2466。
- ^ 天文同好会 編 『天文年鑑』4号、新光社、1931年3月30日、6頁。doi:10.11501/1138410 。
- ^ 天文同好会 編 『天文年鑑』10号、恒星社、1937年3月22日、4-9頁。doi:10.11501/1114748 。