褐色矮星

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褐色矮星[1](かっしょくわいせい、:brown dwarf[1])とは、その質量が木星型惑星より大きく、赤色矮星より小さな超低質量天体の分類である[2]軽水素 (1H) の核融合を起こすには質量が小さすぎるために恒星になることができない天体

概要[編集]

褐色矮星と恒星、惑星の大きさの比較。左から太陽(主系列星)、グリーゼ229A(主系列星)、Teide1(褐色矮星)、グリーゼ229B(褐色矮星)、木星(惑星)。

原始星において軽水素の核融合が始まるためにはの温度が300万-400万Kを超えなければならず、そのためには最低でも太陽の8%以上の質量が必要である。それ以下の質量しか持たない星では軽水素による核融合反応は起こらないが、軽水素よりも低温で核融合を起こす重水素 (2H) の核融合は起こる。これに必要な質量はだいたい太陽の1%程度、木星の13倍程度と考えられている。しかし重水素の存在比率は低いため核融合反応は短期間で停止し、そのまま冷却していくことになる。これが褐色矮星であり、分類上は恒星にも惑星にも入らない。およそ木星質量の13-75倍程度の星が褐色矮星となるとされている。

一般的に、恒星が星雲から誕生する際には大質量星よりも小質量星の方が多く誕生する。この傾向が褐色矮星にまで延長して当てはめられるかどうかについては互いに矛盾する観測結果が報告されており、星形成領域ごとに褐色矮星の誕生しやすさに差がある可能性も含めて結論は出ていない[3]

他の天体との区別[編集]

褐色矮星と主系列星を区別する判定方法の一つとして「リチウムテスト」が使われてきた。これは、天体のスペクトル中にリチウムの吸収線が見られるか否かでその天体が褐色矮星であるか否かを判別する手法である[4]。リチウムは、ビッグバンの際に水素やヘリウムとともに合成されて宇宙に広く存在するため初期の星にも含まれる元素であるが、軽水素核融合が起きる温度(3×106K)よりも低い温度(2.5×106K)で核融合反応が起こってヘリウムに変わるため、軽水素核融合が起こるような通常の恒星では星内部の対流によって星全体のリチウムが短期間で消費し尽くされており、リチウムのスペクトルは見られない。従ってこのスペクトルが見られる場合には褐色矮星である可能性が高い。ただし、中後期T型星では、リチウムが分子になり、境界が曖昧であるため、このテストはあまり使われなくなっている。

木星型惑星との違いは、形成初期に重水素による核融合反応が起きたときの余熱で赤外線を放射していることである。表面温度は800度から2500度程度である。

最近では、他の主系列星の周囲に形成される原始惑星系円盤から誕生したものでなく、主系列星と同様に星雲から直接誕生するものが(真の)褐色矮星とされている。更に、褐色矮星と思われる星の観測によれば、猛烈な嵐により掻き乱される熱い内部を見え難くする、冷たい不透明な雲を示す発光パターンがあることが明らかになった。褐色矮星の嵐は、木星より激しいと考えられている。

研究の歴史[編集]

1962年にアメリカのクマー (Shiv S. Kumar) は、主系列星となる天体には質量の下限値があることを発見した[5][6]。1963年には林忠四郎中野武宣がクマーとは独立に、0.08太陽質量よりも軽い星は水素核融合を起こさず、高い電子縮退状態に向けて収縮することを発見した[7]。1960年代にこれらの予想が成されたときには名称が定まっておらず、black dwarf などと呼ばれていた[6]。褐色矮星 (brown dwarf) という呼び名は、1975年にジル・ターター英語版によって使われたのが最初である[6]。この brown は実際の色そのものを示しているのではない[6]

1992年にエリック・ベックリンとベンジャミン・ザッカーマンによって、白色矮星 GD165 を周回する褐色矮星の候補天体が発見され、これがL型褐色矮星の最初の報告であるとされている[8]。1995年には中島紀のグループが、赤色矮星Gl229の伴星であるT型褐色矮星Gl229Bの直接撮像と分光観測に成功し、そのスペクトルが恒星よりむしろ木星に近いことを示した[8]

主な褐色矮星の一覧[編集]

グリーゼ229星系の画像、左はパロマー山天文台、右はハッブル宇宙望遠鏡での撮像。小さいほうの光点は伴星で、木星質量の20-50倍の褐色矮星である。
主な褐色矮星の一覧
名称 距離 スペクトル型 質量(太陽比) 星座 特徴
WISE J104915.57-531906.1 A / B 6.52 ± 49 L8 ± 1 / L-T境界  ? ほ座 最も近い褐色矮星。最も近い褐色矮星の連星系。
WISE J085510.83-071442.5 7.175± 0.7 Y  ? うみへび座 単独の褐色矮星としては最も近く、最も表面温度が低い。
WISEPC J150649.97+702736.0 11.1 +2.3/-1.3 T6  ? こぐま座
インディアン座ε星 Ba 11.8 T1V 0.043- インディアン座 メタンの吸収線を持つ
UGPS 0722-05 13 T10? 0.005-0.03 いっかくじゅう座 メタンと水の吸収線を持つ[9]
インディアン座ε星 Bb 11.8 T6V 0.028- インディアン座 メタンの吸収線を持つ
SCR 1845-6357 b 12.6 ± 0.7 T4.5-6.5V 0.009-0.065 くじゃく座 メタンの吸収線を持つ
DEN 1048-3956 13.2 ± 0.1 M8.5V 0.06-0.09 ポンプ座 赤色矮星の可能性がある
DEN 0255-4700 16.2 ± 0.3 L7.5V 0.07 エリダヌス座 NOAO プレスリリース
LP 944-20 16.3 M9.0V 0.056-0.064 ろ座 閃光星
2MASS 1835+3259 18.5 ± 0.05 M8.5V 0.07 ヘルクレス座 RECONS
2MASS 0415-0935 18.7 ± 0.3 T8V  ? エリダヌス座 メタンの吸収線を持つ
グリーゼ229 B 18.8 T6.5V 0.025-0.065 うさぎ座 A-b間距離39AU、メタンの吸収線を持つ
グリーゼ570 d 19.3 T7-8V 0.03-0.07 てんびん座 ABC-d間距離1500AU、メタンの吸収線を持つ
2MASS 0937+2931 20.0 ± 0.5 T6Vp  ? ろくぶんぎ座 メタンの吸収線を持つ
2MASS J15074769-1627386 23.9 ± 0.1 L5V  ? てんびん座
2MASS J00361617+1821104 28.6 ± 0.2 L3.5V  ? うお座
2MASS 0727+1710 29.6 ± 0.5 T7V  ? ふたご座
2MASS 0559-1404 33.4 ± 0.4 T5V  ? うさぎ座 メタンの吸収線を持つ
2MASS 1237+6526 34.0 +1.8/-1.6 T6.5Ve  ? りゅう座 メタンの吸収線を持つ
2MASS 1047+2124 34.4 +1.3/-1.4 T6.5V  ? しし座 メタンの吸収線を持つ
2MASS J08251968+2115521 34.4 ± 0.4 L7.5V  ? かに座
2MASS J02431371-2453298 34.8 +1.3/-1.4 T6V  ? くじら座 メタンの吸収線を持つ
WISEPA J182831.08+265037.8 36.5 +4.2/-3.3 > Y2 0.0029 - 0.0057 こと座 表面温度25℃と推定される、最も低温の褐色矮星。
LHS 102bc 42.4 ± 2.2 L5V  ? ほうおう座 GJ 1001bc
へびつかい座ν星 bc 150.7 ± 1.8  ? b: 0.0209
c: 0.0234
へびつかい座 1:6の軌道共鳴をしている。

出典[編集]

  1. ^ a b 『オックスフォード天文学辞典』 Ian Ridpath、岡村定矩訳、朝倉書店2003年11月、初版第1刷、88頁。ISBN 978-4254150179
  2. ^ 田村元秀 2015, p. 71.
  3. ^ 国立天文台・広報室 (2009年2月10日). “褐色矮星の人口調査 恒星になりそこなった星たちはどのくらい生まれたの?”. 国立天文台アストロ・トピックス. http://www.nao.ac.jp/nao_topics/data/000446.html 2010年2月22日閲覧。 
  4. ^ 田村元秀 2015, p. 277.
  5. ^ Kumar, Shiv S. (1962). “Study of Degeneracy in Very Light Stars.”. The Astronomical Journal 67: 579. Bibcode 1962AJ.....67S.579K. doi:10.1086/108658. ISSN 00046256. 
  6. ^ a b c d 田村元秀 2015, p. 72.
  7. ^ Hayashi, Chushiro; Nakano, Takenori (1963). “Evolution of Stars of Small Masses in the Pre-Main-Sequence Stages”. Progress of Theoretical Physics 30 (4): 460-474. doi:10.1143/PTP.30.460. ISSN 0033-068X. 
  8. ^ a b 田村元秀 2015, p. 73.
  9. ^ Lucas, P. W. et al. (2010). “The discovery of a very cool, very nearby brown dwarf in the Galactic plane”. Monthly Notices of the Royal Astronomical Society: Letters 408 (1): L56-L60. arXiv:1004.0317v1. Bibcode 2010MNRAS.408L..56L. doi:10.1111/j.1745-3933.2010.00927.x. ISSN 17453925. 

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]