自衛隊病院

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自衛隊阪神病院(兵庫県川西市)

自衛隊病院(じえいたいびょういん)とは、防衛省が設置・運営する陸・海・空自衛隊の共同機関であり、自衛隊中央病院や陸海空幕僚長を通じて指揮監督を受ける自衛隊地区病院の総称。共同機関以外に防衛省が設置する病院として防衛医科大学校病院がある。

自衛隊福岡病院 正面入口

概要

自衛隊熊本病院の救急車

共同機関の自衛隊病院には自衛隊中央病院と陸・海・空それぞれの幕僚長を通じて指揮監督を受ける自衛隊地区病院(10病院)がある。

基本的に利用対象者を防衛省職員とその家族、つまり自衛官診療証保有者[1]防衛省共済組合の被保険者に限定している。ただし、中央、札幌福岡の3自衛隊病院では、2006年10月から、前述の防衛省職員・家族以外の一般外来受診を開始し、防衛医科大学校病院、自衛隊横須賀・富士・阪神[2]・福岡病院も一般外来受診を行っている。

陸海空の管轄に関わりなく最寄の病院で受診できる。各基地駐屯地からは職員送迎のための車両が定期運行されている[注 1]

また、防衛省(旧防衛庁防衛施設庁を含む)及び自衛隊を退官した者も診察券を所持していれば受診が可能である。ただし、一般外来受診を行っている自衛隊病院以外では、退官後も継続して防衛医官を主治医とする治療が必要と判断された場合に限定され、それ以外の場合は受診できない。

院内で診察治療看護研究等にあたる者も同様に防衛省職員である。すなわち、自衛隊病院の医師歯科医師のほとんどが自衛官(防衛医官)であり、看護師も多くが隊内で養成した自衛官である。病院長はまたは将補、もしくは1佐の階級にある自衛官並びに医療職技官をもって充てられる。具体的には、自衛隊中央病院では将から防衛技官に転官した医官が、那覇病院では医官たる一等陸佐が充てられる。

自衛隊中央病院では、防衛医科大学校と連携して医師臨床研修を受け入れており、中央病院、横須賀病院、入間病院では歯科医師臨床研修の受け入れも行っている。ただし、臨床研修の対象を自衛官(防衛医官)採用者に限っている。

これらの病院は総合病院として運営されているが、別府病院のみリハビリテーション病院として運営されており、隊員のリハビリ目的での入院を受け入れていた[3]

一般開放および自衛隊病院の再編

2009年、防衛省は全国に16カ所ある自衛隊病院を10カ所に集約した上で、現在は一部に限定している自衛隊関係者以外の一般国民の利用をすべての病院で認めることを決めた[4][5][6]。2022年(令和4年)3月17日に以下の再編が行われた[7][8][9]。これにより、10病院(陸:7院、海:2院、空:1院)へ再編された。

  • 入間病院の開設に伴い、三沢病院、岐阜病院を廃止(各基地の診療所化)。
  • 横須賀病院・呉病院の機能強化に伴い、大湊病院、舞鶴病院、佐世保病院を廃止(地方隊衛生隊隷下の診療所化)。
  • 那覇病院を航空自衛隊から陸上自衛隊に移管。
  • 別府病院を廃止。

自衛隊病院は総合病院に匹敵する診療科を備える病院がほとんどであるが、利用者が自衛隊関係者に限定されていることに加えて、有事に負傷者を収容することを前提として、常に一定の空きベッドを確保して運営されている。非効率な運営を改めるため、2008年に財務省が一般開放などを要請し、防衛省も患者が増えることは医官の技術向上にも役立つとして、2008年11月に省内に委員会を設け見直し作業を本格化させていた。委員会では、いくつの病院を一般開放するか、地元医師会の意向も聞きながら検討。既に開放している病院でも利用率が上がらない(中央病院でさえ平成16年度外来患者数が延べ約13万人と、同規模の公私病院の約2分の1の患者数:平成17年度政策評価書)ことから、どうすれば一般患者が使いやすい病院になるかや、地元の医療機関との連携も模索している。

近年は僻地医療における医師不足が深刻化していることから、自衛隊病院の医官が地方の公立病院に派遣される例もあり(札幌病院、舞鶴病院など)、僻地医療に対する医師供給源としても重要になっている。その逆に、隊内で医師不足となるケースも存在し、中小の駐屯地等では医官が常駐しておらず、付近の民間病院の医師が駐屯地委託医師となる場合がある。

入院患者への見舞いに関しては、自衛官身分証明書・防衛共済組合員証等を所持していなくても可能[注 2]である。

自衛隊病院の収支

防衛省は平成21年に自衛隊病院の運営について、収支比率が著しく悪い病院では病床数が少ないなどとする分析結果(20年度予算執行調査を基に、全国に16ある自衛隊病院の19年の病床規模別の収支比率などを試算して財政制度等審議会に提出されたもの)を公表した[10]。同省は、病床利用率の改善により収支の改善も期待できるとし、病床数の見直しや、現場におけるコスト意識の醸成などの改善が必要だとしている。

自衛隊病院全体では、歳入106億円に対して歳出は323億円に上っており、入院患者をどれだけ受け入れているかを示す「病床利用率」は28%で、自衛隊病院以外の76%(07年病院運営実態分析調査の概要=全国公私病院連盟)を大きく下回った。

自衛隊病院全体の改善の方向性として財務省は、▽収支データの収集分析を続け、コスト意識を醸成する、▽地域にあった医療を提供することができるよう各病院の位置づけを見直す、▽一般の患者を受け入れる「オープン化病院」への移行を推進し、地域医療に貢献する―ことなどを提案した。また、同年度の人件費が歳出全体の87.8%を占め、歳入の5.59倍に上った自衛隊病院もあり、収支の悪い病院で人件費の負担が重く、財務省では「統廃合を含む抜本的な見直しが必要」だと指摘している。

自衛隊病院では、自衛官は私傷病でも自己負担なしに診療を受けられる一方、俸給の1.6%があらかじめ控除されている。防衛事務官の場合には私傷病であっても俸給からの控除もなく[注 3]、国民の理解が得られないとして財務省は「改善が必要」としている。なお、防衛事務官に対するこの制度は平成22年4月1日から自己負担3割になった。しかし医療費の計算方法は一般国民・他省庁の公務員が1点10円で計算されるのに対し、自衛隊病院において防衛省職員等は1点7円で計算される。即ち一般国民に比べて3割引であり、その差額は公費によって賄われる。

自衛隊員の部外診療

自衛隊員が部外医療機関を利用する件数は、外来で自衛隊病院の3倍、入院についても全自衛隊病院の50%を越えるに至っている。部外診療委託費のうち10万点(100万円)を越える高額医療は、年々増加傾向を示し、平成18年度595件、平成19年度719件、平成20年度は3/四半期までで653件となっている。これらの高額医療を必要とする疾患の内訳として、心臓疾患(15%)、白血病(10%)の順となっている。

また、自衛隊病院ではなく部外の医療機関に受診している傾向が強い傷病は、感染症ウイルス性肝炎等)、腫瘍等)、血液及び造血器の疾患(免疫障害等)および循環器系疾患(心筋梗塞等)である。

自衛隊中央病院

自衛隊中央病院の指揮監督は防衛大臣陸上幕僚長を通じて行う体制であり[11]、病院長は各自衛隊の医官(自衛官)から転官した防衛技官が就任している。

自衛隊地区病院

1988年(昭和63年)4月8日、陸上自衛隊地区病院(7院)[12]、海上自衛隊地区病院(5院)[13]、航空自衛隊病院(2院)[14]を共同機関化し、自衛隊地区病院が開設された[15]

2022年現在、10病院(陸:7院、海:2院、空:1院)が設置されている。

陸上幕僚長を通じて指揮監督を受ける病院[11]

各方面隊に1病院(西部方面隊のみ3病院)が設置されている。

かつて存在した病院

海上幕僚長を通じて指揮監督を受ける病院[11]

海上自衛隊員の集中する主要な基地は、地方総監部の所在地となっているので、各地方総監部所在地に1つずつ、海上幕僚長を通じて指揮監督を受ける自衛隊地区病院が置かれていたが、2022年(令和4年)3月17日、横須賀、呉病院以外は地方隊隷下の衛生隊「診療所」に縮小改編された。

かつて存在した病院

航空幕僚長を通じて指揮監督を受ける病院[11]

2022年(令和4年)3月17日、航空自衛隊では病院を入間病院に集約し、他の病院は診療所への縮小改編及び陸上自衛隊に移管された。

かつて存在した病院

脚注

注釈

  1. ^ 移動に関する所要時間2時間の範囲かつ駐屯地域に高度な治療が可能な医療機関が存在しない駐屯地に限られ、2002年度までは自衛隊病院に通院する隊員は傷病の状態に問わず通院日も公務として事務処理されていたが、制度改革により所属長による公務による傷病等若しくは病状等を考慮し真にやむを得ない理由があり必要と判断した場合を除き年次休暇若しくは代休による休日処置を受ける事になった。
  2. ^ 基本的に駐屯地・基地内は自衛官・防衛省職員・共済組合員証・陸海空幕長や方面総監・駐屯地(基地)司令等の発行による身分証・入門証等が無ければ入出門はできないが、見舞いに関しては営門にて入院患者名と見舞いである旨を伝えると面会証を発行してくれるので、それを携帯し病室まで向かうことは可能。細部は要問い合わせ。
  3. ^ 他省庁の事務官にはそのような私傷病の医療費無料の制度はない。

出典

  1. ^ 自衛官自衛官候補生防衛大学校等の学生
  2. ^ 自衛隊阪神病院 (2011年3月12日). “自衛隊阪神病院公式サイト。”. 2011年3月12日閲覧。
  3. ^ ようこそ、自衛隊別府病院へ!”. 自衛隊別府病院. 2020年6月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年2月2日閲覧。
  4. ^ “自衛隊病院、一般開放へ/札幌など10カ所に集約”. 四国新聞. (2009年8月28日). http://www.shikoku-np.co.jp/national/medical_health/20090828000390 2022年7月4日閲覧。 
  5. ^ 自衛隊病院在り方検討委員会報告書 平成21年8月28日”. 防衛省 (2009年8月28日). 2010年4月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年11月10日閲覧。
  6. ^ 自衛隊病院在り方検討委員会報告書(要約版)”. 防衛省 (2009年8月28日). 2010年4月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年1月26日閲覧。
  7. ^ 我が国の防衛と予算-令和3年度予算の概要”. 防衛省 (2021年3月30日). 2021年4月20日閲覧。
  8. ^ “自衛隊病院を再編 首都圏3拠点、中核に 感染症・災害対応を強化”. 日本経済新聞. (2021年1月17日). https://www.nikkei.com/article/DGKKZO68243370X10C21A1MM8000/ 2021年4月27日閲覧。 
  9. ^ a b c d e f g h i j 自衛隊法施行令及び防衛省の職員の給与等に関する法律施行令の一部を改正する政令(令和4年政令第57号)官報号外51号(令和4年〈2022年〉3月11日)
  10. ^ 隊員の自衛隊病院の利用状況防衛省報道資料
  11. ^ a b c d 自衛隊中央病院及び自衛隊地区病院の組織等に関する訓令
  12. ^ 陸上自衛隊地区病院組織規則(昭和46年陸上自衛隊訓令第9号)
  13. ^ 海上自衛隊の病院の組織に関する訓令(昭和42年海上自衛隊訓令第7号)
  14. ^ 航空自衛隊病院組織規則(昭和54年航空自衛隊訓令第6号)
  15. ^ 自衛隊中央病院及び自衛隊地区病院の組織等に関する訓令(昭和63年防衛庁訓令第16号)防衛省情報検索サービス
  16. ^ a b c d e f g h 朝雲新聞社編集局 編『波乱の半世紀 - 陸上自衛隊の50年』朝雲新聞社、2000年9月15日。 
  17. ^ 平成22年度政策評価書(事前の事業評価)
  18. ^ 自衛隊法施行令の一部を改正する政令(昭和40年12月27日政令第381号)国立公文書館デジタルアーカイブ
  19. ^ 病院紹介-自衛隊阪神病院のホームページ 自衛隊阪神病院、2015年6月5日アーカイブ
  20. ^ “自衛隊那覇病院、陸自が管理主体に 再編の一環で空自から移管”. 沖縄タイムス. (2022年3月22日). https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/929587 2022年4月8日閲覧。 
  21. ^ “自衛隊別府病院と南別府駐屯地、来年3月末に廃止”. 大分合同新聞. (2021年9月6日). https://www.oita-press.co.jp/1010000000/2021/09/06/JD0060607021 2021年12月2日閲覧。 
  22. ^ 海上自衛隊大湊地方隊【公式】 [@JMSDF_orh] (2022年3月18日). "【大湊衛生隊改組記念行事】". X(旧Twitter)より2022年3月21日閲覧
  23. ^ 自衛隊法施行令(昭和29年政令第179号)
  24. ^ <自衛隊舞鶴病院>自衛隊舞鶴病院廃止へ 来月中旬 衛生隊診療所に 海自会見 /京都”. gooニュース. 毎日新聞 (2022年2月26日). 2022年2月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年3月16日閲覧。
  25. ^ 舞鶴地方総監部【公式】 [@JMSDF_mrh] (2022年3月19日). "自衛隊舞鶴病院が舞鶴衛生隊診療所になります。". X(旧Twitter)より2022年3月22日閲覧
  26. ^ “自衛隊病院を廃止、衛生隊診療所に移行 病床数大幅減、京都・舞鶴”. 京都新聞. (2022年3月21日). オリジナルの2022年3月21日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20220321093254/https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/752263 2022年3月23日閲覧。 
  27. ^ 自衛隊佐世保病院、衛生隊と統合 全国的な組織改編の一環”. 長崎新聞 (2022年3月19日). 2022年3月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年3月22日閲覧。
  28. ^ 海上自衛隊佐世保地方総監部【公式】 [@jmsdf_srh] (2022年3月18日). "3月17日、「自衛隊佐世保病院」と「佐世保衛生隊」が統合され、新しい「佐世保衛生隊」となりました。". X(旧Twitter)より2022年3月22日閲覧
  29. ^ “自衛隊入間病院が開院、3病院を集約し高機能化 一般市民の2次救急患者も受け入れ 10診療科で60病床”. 埼玉新聞. (2022年3月18日). https://www.saitama-np.co.jp/news/2022/03/18/10_.html 2022年3月22日閲覧。 
  30. ^ 自衛隊法施行令の一部を改正する政令(昭和36年政令第260号)”. 国立公文書館デジタルアーカイブ (1961年7月15日). 2022年4月18日閲覧。
  31. ^ 自衛隊岐阜病院閉鎖のご挨拶”. 航空自衛隊岐阜基地 (2022年3月17日). 2022年3月22日閲覧。

関連項目

外部リンク