海洋国家

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海洋国家(かいようこっか Maritime State )とは19世紀後半以降において発達した地政学上の概念。

客観的、保守的、共存認容的な志向を有するとされ、地理的には島国か沿岸国であり、過去に海洋通商及び軍事で覇権を確立したことがある国をいう(日本と海洋国家との関わりについては日本の海洋国家論を参照)。

目次

[編集] 概要

通商力と海運力、海軍力など国家の海洋における影響力を総合してシーパワーと定義されるが、海洋国家の要件を満たす国とは、それら強固なシーパワーを有する国を指す。即ち、通商国であると同時に先進海運国であり、海軍国(大海軍国)でもある国を海洋国家という。とりわけ、地政学から派生した概念であることから、軍事的側面からの視点が重視されることが多い。

海洋国家の特性として大陸の外縁部や島嶼部を故郷とし土地支配よりも交易を重視し、交易のために必要な情報を尊び、先進的、開放的性格を有し、個人的、合理的形質を備える。また、主観的革新的な陸軍中心の志向である大陸国家は対義語である。とりわけ、海洋国家として認識される国として代表的な国にイギリス、日本などがあげられる。

今日の日本などにおいては総合安全保障のあり方を考える上で軍事的コストを最小限化(適正化)するとともに経済安定やエネルギー供給の安定、環境保護といった軍事・非軍事双方の視点からの国家の平和及び安定化に向けた国家戦略が問われる中で、海洋国家という指標及び概念が用いられることが多い(日本の海洋国家論参照)。

[編集] 歴史

古くはフェニキアが海洋国家として成立して交易などで栄えた。古代ローマ帝国もまた共和制ローマ時代のポエニ戦争によるカルタゴ征服以降は海洋国家的な側面を持ち、今日に伝える栄華を築いている。

大航海時代以降、エンリケ航海王子らの活躍により飛躍的成長を遂げたポルトガル海上帝国オランダ海上帝国などが栄えた。近代以降においては無敵艦隊を率いるスペインバルチック艦隊を率いるロシアなどの多くの強力な海軍国があった中、七つの海を制する国として成長した大英帝国勢力均衡と植民地拡大による世界戦略を展開し、19世紀に世界屈指の海洋帝国へと成長した。

この帝国主義の時代における海洋国家の安全保障としては、まさに制海権を手中にすることであった。とりわけ、イギリスは世界に植民地を開き、インドに東インド会社を設立、アジア進出の拠点とすることによって軍事・通商・輸送ネットワークの拡大に努めていった。しかし、アメリカの軍事力・経済力の飛躍的成長にしたがって太平洋、中東、アフリカにつながる海洋の利権を築き、一躍「海洋の盟主」へと成長した。その結果、海域世界屈指の海洋国家イギリスをも凌ぎ、海洋国家の代表格はアメリカが受け継ぐことになる。

[編集] 海洋国家とされる(された)国家

[編集] 近代地政学における海洋国家論

海洋国家の理論は19世紀後半における米英を中心とした地政学の世界で発達した。このことから、地政学の世界ではしばしば米英の地政学を海洋国家系地政学と位置づけられることが多い。

[編集] アルフレッド・セイヤー・マハン

海洋国家の理論の先駆者としてしられるのが、アメリカ海軍大学校の校長であったアルフレッド・セイヤー・マハンである。マハンは1890年に『The Influence of Sea Power Upon History, 1660-1783 (シーパワーが歴史に及ぼした影響)』を著し、日本では『海上権力史論』として刊行され、日本の地政学や軍事戦略にも大きな影響を与えた。

マハンは世界の強国となるための前提条件として制海権を握ることと説き、軍事展開により国力の消費を避ける傾向を持つ、海洋国家の理論の中では攻撃性を持つ主張である。これはマハンの祖国アメリカが遅れた海外発展を遂げたことが背景にあるとされ、欧州の拡大に対して挽回を図るという観点からそうした志向をとったともいわれている。そうした志向は幕末当時、マシュー・ペリー率いる東インド艦隊が黒船来航によって日本に砲艦外交をもって開国を迫ったことにも表れる通り、時として強硬な姿勢で臨むものであった。

マハンは強い海洋国家となるために必要なシーパワーの条件として、

  1. 国家の地理的位置、自然的構成
  2. 国土の面積
  3. 国民人口
  4. 国民の性質
  5. 政府の性質

などを挙げた。とりわけマハンの主張の中で特筆すべきは海洋国家は大陸国家を兼ねることは出来ないというものであるが、この主張には裏づけとなる証明がなされておらず、未だ仮説の域を出ないといわれているが、その仮説は今日未だ破られていない。

[編集] ハルフォード・J・マッキンダー

マハンについで地政学に大きな影響を与えた人物にイギリスの政治家 ハルフォード・マッキンダーがいる。彼は学者でもあり、ハートランド論を唱え、ユーラシアを基点とした国際関係の力学を地理的に分析した地政学の先駆者である。

マッキンダーは自身の理論を一度も地政学と称したことはないが、今日における地政学という体系はほぼマッキンダーの理論をその祖と仰いでいるといっていい。そのマッキンダーが主張した代表的な仮設が次の4点であり、

  1. 世界は閉鎖された空間となった。
  2. 人類の歴史はランドパワー(陸上権力)とシーパワー(海上権力)の闘争の歴史である。
  3. これからはランドパワーの時代である。
  4. 東欧を制するものは世界を制するとした。

海洋国家イギリスに生まれ育ちながらマッキンダーがランドパワー論者となったのは、大陸国家の勢力拡大への脅威から海洋国家イギリスを如何に守るかという戦略のあり方について研究の重きを置いたことによる。よって、海洋国家の戦略を見出すためのランドパワー脅威論というのが正しい解釈であろう。

マッキンダーの理論では、そもそも大陸国家と海洋国家は相性が悪いということが基本原理となっている。海洋国家はけして攻撃性の強いものではないが、隣国の勢力が強くなることを忌み嫌う。大陸国家は外洋に出て、新たな交通ルートや権益の拡大をしようとすれば、海洋国家はそれを防ぐべく封じ込めを図ろうとする傾向を持つ。そうしたことから大陸国家と海洋国家の交わる地域での紛争危機はより高まることになる。

マッキンダーは1900年代初頭の世界地図をユーラシア内陸部を中軸地帯(ハートランド)、内側の三日月地帯、外側の三日月地帯とに分け、「東欧を支配するものが、ハートランドを支配し、ハートランドを支配するものが世界本島を支配し、世界本島を支配するものが世界を支配する」とした上でイギリスを中心とした海軍強国が陸軍強国によるワールド・アイランド支配を阻止すべきだと論じた。

さらにマッキンダーはドイツ・ソ連の覇権闘争を予見し、イギリスやアメリカなどの海洋国家の脅威になると述べ、ドイツとソ連の膨張を恐れ、独ソ間に緩衝地帯を設けよと主張し、さらに海洋国家によるミッドランド・オーシャン連合を提唱した。マッキンダーの理論は地政学の世界に大きな功績と影響をもたらしたが、その理論は大艦巨砲主義の思考に留まるものであり、次第に注目された航空機戦力などによる空軍力のシーパワーへの影響を軽視しため、マッキンダーのハートランド論は時代遅れであるという批判を受けることになる。とりわけ空襲という戦法がとられるようになった第一次世界大戦以降、強力な艦隊を以って制海権の維持を志向する海軍国の戦艦中心の戦略論は大きな転換期を迎えた。

[編集] ニコラス・スパイクマン

マッキンダーのハートランド論をさらに発展させ、海洋国家の対ランドパワー戦略を論じた人物にオランダ移民のアメリカ人政治学者イェール大学国際関係研究所教授のニコラス・スパイクマンがいる。スパイクマンはハートランド周辺から、囲むユーラシア大陸一帯、即ちマッキンダーのいう「中軸地帯を囲む内側の三日月地帯」とほぼ同じ地域をリムランドと名づけた。

スパイクマンは「リムランドを治めたものが世界を制する」として資源に恵まれているハートランドに対して、不毛地帯ではありながらもリムランド地帯に人口と産業を支える国々が集中していることに着目したことにより、リムランドの重要性を指摘した。

とりわけ、世界の紛争の中でもランドパワーとシーパワーの衝突するこのリムランド一帯に紛争が集中していることも指摘され、外洋に出ようと勢力拡大を図る陸軍国に対して、アメリカの防衛を如何に図るかという点がスパイクマンの大きな問題意識であって、リムランドという定義によって、その地帯一帯をランドパワー封じ込めのための戦略的な地域としてとらえているのが特徴である。

スパイクマンはリムランドにある国々が結託してアメリカに対抗することを恐れ、リムランド分裂戦略を主張した。つまり、この理論に基づけばこれらリムランドに該当する極東の国々つまり中国、朝鮮、日本の間でそれぞれが分裂した状態であることが望ましいということになると指摘する研究者もおり、現代のアメリカ戦略を客観的に分析する立場の人々の指標としてとらえられる概念でもある。

[編集] ルドルフ・チューレン

ちなみに、大陸国家と海洋国家の領土拡張の思考において重要な示唆を与えた政治学者にルドルフ・チューレンがいる。チューレンは国家を有機体のひとつとみなし、国家有機体論を唱えた。チューレンのいわんとするところは、国家は生存のための闘争をし、誕生、成長、老化のサイクルがあるとしている。

チューレンは国家の行動を精神と肉体の二つからなるものとし、国家の精神は国民や民族により具現化するとした。また、国家の肉体である領土については、地理的個性化の法則を論じ、国家の理想的な姿を自然の範囲、自然的境界と自然の領土にあるとした。自然的境界として最も理想的なものは海であり、大陸国家もまた大洋を目指してその領土を拡大しようとする理由は主にそこにあるとした。一方で自然的領土については河川ないし河川囲繞と海洋囲繞であるとした。

いずれの場合も人の居住において調和がとれ、域内交通を容易にし、また自給能力を高めることができるとした。その上でチューレンは理想的な国家の姿は自給能力のある有機体でなければならないと述べている。

[編集] カール・エルンスト・ハウスホーファー

また、ドイツのの陸軍将校で地理学者であるカール・エルンスト・ハウスホーファーもシーパワーとランドパワー論に影響を与えた一人である。

ハウスホーファーの理論で主張される5つの柱は

  1. ラッツェルの「リーベンラウム」(生存圏)と国家拡大理論
  2. チェーレンの「アウタルキー」(経済自足論)
  3. マッキンダーのハートランド論による「ランドパワーとソフトパワーの対立」
  4. パン・リージョン(統合地域)
  5. ソ連とのランドパワーによる世界支配

であるとされる。ハウスホーファーのいわんとするところは世界をいくつかのブロックにわけて、アメリカ、ソ連、日本、ドイツなどがそれぞれの地域で主要な地位を占め、秩序を維持すべきであるというものである。いわば勢力均衡理論に基づいて世界視野での勢力均衡を確立することを提唱しているものといえよう。また、それらをとりまとめる国がドイツであるとし、ドイツの帝国主義の時代ならではの理論ともいえる。

[編集] 海洋国家の戦略傾向

[編集] 古典的な海洋国家戦略

海洋国家はその隔離された環境から他の地域の影響が及びにくく、国内の団結力を維持し、海上交通力と制海権を握ることで、貿易によって国家の発展と存立に必要なエネルギーを取得できるとされる。そのためには今日も同様であるが、とりわけ太平洋戦争前以前の世界情勢にあっては強固な海軍力を有し外敵を防ぎ、エネルギー供給の妨害を排除するとともに海上交通(シーレーン)の拠点(チョークポイント)を押さえておけば領土を拡大する必要はなく、むしろ他国を占領すればそれだけ防衛における国力のエネルギーを分散かつ消費させるだけとなってしまう傾向にある。それだけに外部勢力が極端に強くなることは当然にして避けたい事態であり、大陸制覇を試みるよりも、むしろ大陸諸勢力を競合させることが得策と考えられる。

海洋国家における防衛上の利点は海洋が天然の城壁の役割をし、常に外敵の脅威を受けやすい大陸国家に対して外国からの領土侵攻の危機も少ないことにある。他国の領域を通過することなく比較的自由な交易が可能であり、必要な物資や文化を導入を図ることで国家の繁栄を築いてきたのが古来からの海洋国家の戦略である。

このため、社会システムや思想は開放的で、自由主義的となる傾向が強いといわれ、海洋を通じた海外貿易により富を容易に得る上で、その安全性を確保するために海軍、商船隊や漁船隊などのシーパワーを重視する国家が多いことが主な特徴である。

また、大量の兵員を必要とすることはなく、さらに船を操るには特別の知識と体験を必要とするところから、兵制は志願兵制度を取る国が多い。また、艦艇は高価で建造に年月が必要なことから、戦争では努めて武力戦を避け、外交交渉や威嚇により目的を達する傾向が強いともいえる。シーレーン防衛については、とりわけ、海上封鎖などによる不当な経済制裁通商破壊といって、その国の交易活動、経済活動を大きく混乱させることから、早くから経済と安全保障の関わりは指摘されてきた。

海洋国家に求められる戦略の基本原則とは、海洋交通の要衝における戦略的な姿勢や、海軍基地の戦略的展開、国民の海洋民族性、政権の海洋戦略が重要であるとされる。主に海洋国家的な国家戦略とは国際的な関わりの中で国民的生存・繁栄を手にする生き方であるとされ、国際的な協調があって、自国の平和と繁栄が確保されるという。こうした海洋中心の戦略を海洋戦略といい、地政学的に島国であり、資源のない日本にとってそのあり方は現実的な国家安全保障を考察するにあたって非常に大きなキーワードのひとつでもある。

[編集] 近年の海洋国家戦略

海洋の秩序を維持するにおいて旧来の海洋国家戦略の重要性は往々にして今日においても普遍的である。しかし、一国が広い公海を独占的に保有する制海権を握る必要性はあまりなく、国際社会の協調と協力による国際社会全体による海洋秩序を図る環境が整ったことで、近年はより多国間の連携による海洋秩序が志向されることとなった。

しかし、テロや海賊、また極東にあっては冷戦後も北朝鮮の工作活動が活発になされてきたことが明らかになるとともに台湾海峡をめぐる紛争課題が残る中では、海洋秩序は必ずしも安定的とはいいきれないのが現状である。

その意味において、シーレーン防衛の重要性は今日においても変わりないが、その代わり強大な軍事力による防衛体制の整備を図るよりも情報通信技術の活用に基づくシーコントロールのあり方が問われつつあり、海洋秩序をめぐる情報通信技術の重要性が問われてきている。

国際社会の平和機能と複数国間の経済的な相互依存関係の中でパートナーシップの形成が今日的な海洋国家戦略のあり方として志向されてきており、とりわけ合同軍事演習を中心とした軍事的協力に基づくハード面での連携と、紛争の多い地域不安を抱える地域の貧困撲滅などに向けた予防外交の重要性と予防外交におけるODAの活用の道が唱えられるなど、今日における国際社会、地域、日本国内においては、とりわけソフト・ハードによる秩序維持のための協力と平和構築のための非軍事的なツールの活用が重視されつつある。

[編集] 関連項目