医師不足
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医師不足(いしぶそく)とは、医師の数が、医療に必要とされる人数に比べて不足すること。本項では20世紀末以降の日本における医師不足について記述する。 [要出典]
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[編集] 歴史と背景
[編集] 医療費抑制政策
日本国内においては、医学部を卒業し医師国家試験に合格することにより医籍に登録され、医師として活動することが出来る。もし、その数が増えすぎた場合、医師及び病院の間で過当競争が生まれてしまう。1975年前後に各県一医大の構想及び私立新設医学部の急増により医学部入学定員が大幅に増やされ逆に現実的に医師過剰が危惧されたため、1984年以降、医学部の定員が最大時に比べて7%減らされることになった。この背景には、当時の厚生省保険局長・吉村仁が提示した「医療費亡国論」があったとされる[1]。開業医中心の日本医師会もこの政策に同調した。
[編集] 日本医師会、厚生労働省の見解の変容
医療費抑制政策に転換以降、厚生労働省は長らく、1948年の医師数算定法に定められた「標準医師数」に基づき「医師不足はなく、偏在しているだけである」という見解を守り通していた[2]。しかし、2003年からの新臨床研修医制度の影響などもあって、地域医療の崩壊(医療崩壊)が現実化するなかで、現場の勤務医の訴えが国民の耳に届くようになり、日本医師会も2007年2月になって「医療提供体制の国際比較」を発表し、「日医は偏在が医師不足の主たる原因であると言ってきたが、それに加え、絶対数も十分ではないことがわかった」[3]として、それまでの方針を転換。厚労省高官もまた2007年に入ると医師の絶対数の不足について言及するようになった[4]。そして、ついに、2008年6月、舛添要一厚労相のもと「安心と希望の医療確保ビジョン」が打ち出され、「医学部定員削減」閣議決定の見直しとともに、医師養成数の増加の流れが確かなものとなった。
[編集] 日本の医師不足の原因
日本の医師不足は以下の4点で構成される。
- 医師の絶対数の不足
- 病院での必要医師数の不足
- 地域偏在による不足
- 診療科に属する医師の需給不均衡による不足
[編集] 医師の絶対数の不足
日本国内における医師の数は2005年現在、約29万人と言われている[5]。この数値は、人口千人あたりでみると、OECD加盟国の平均以下であり[6]、OECDの平均と比較すると医師数の絶対数は大きく不足している。しかも日本の場合、就業の実態を問うことなく医師免許所有者をすべて医師数に含めており、実際に医療にフルに従事しているのは、21万3,000人にすぎない。この数値を人口千人あたりでみると、OECD諸国で68位の韓国や69位のクウェートと同水準になってしまう[7]。また女性医師が増えてはいるものの、結婚、出産、子育てなどと医療との両立させる環境が整っていない場合が多く、結果として臨床の現場に復帰できずに家庭に入ってしまうケースもあり、現場に出ている医師数の減少に拍車を掛けている。
他方で、WHOは日本の医療に対し高い評価(総合評価ほかで世界一)を与えており[8]、日本の医療水準の高さと現実の医師不足の問題の解決は、個々の医師の勤務時間の超過、頻回の当直などを個々の医療従事者の高い使命感や努力に支えられ、そして、頼られてきたのが実情である[9]。
[編集] 病院での必要医師数の不足
従来地域の総合病院が医師を確保する方法として、医局の人事による派遣が主であった。病院は医局から送られてきた医師を直接雇用し治療に当たってきた。医師の交代などの人事権は各科の医局の一存で決まっていた。このシステムによって地域の総合病院の人的資源は維持されていたが、その非民主主義的な側面を問題としたマスコミや官僚により医局解体が取りざたされるようになった。そして、2004年4月からの新医師臨床研修制度によって、実質的な医局解体の動きをもたらされることになった。
この新医師臨床研修制度の開始に伴い臨床研修指定病院の要件が緩和され、従来、大学病院など特定の病院においてのみ研修が可能であったのが、一般の民間病院においても研修ができるようになった。これにより、新人医師(研修医)は大学医局に属することなく初期研修を受けることができるようになり、医局の人事権は大きく損なわれることになったのである。さらに、新人医師は多彩な症例が多い病院を選択する傾向があり、薄給で下働きが多いとされた大学病院や地方の病院での研修を避けるようになった。しかも、都市部の民間病院でも医師不足は深刻な状態にあるため、研修後も大半は地方の大学病院に戻ることはなかった[10]。
そして、この一連の流れにより大学病院での医師が不足するようになり、大学病院は高水準の医療を維持するために地方の病院に派遣していた医師を引き上げる結果となった。こうして地域の総合病院などから医師が引き上げられたことで、地域病院の診療科が次々と閉鎖に追い込まれるなどの問題が日本国中で生まれるに至った。
[編集] 地域偏在による不足
上にみたように、新医師臨床研修制度の問題で僻地に派遣されていた医師が医局人事により引き上げとなり、新たな補充もなく、僻地から医師がいなくなるケースが生じている。そのため各病院は自力で医師を捜すことを強いられるようになった。しかし、僻地と呼ばれる病院に自主的に勤務するインセンティブはなく、結果として、地域偏在による医師の不足が顕在化し始めている。
都会の病院の方が症例数も多く、新たな技術を常に学ぶことができるなど自らのキャリア形成につながることから、やり甲斐があると思う医師が多い。居住する地域の利便性、子どもの教育環境を考え、都会の病院を選択することもある。また僻地の勤務状況によっては、ほぼ24時間365日の勤務を要求する病院もあり、「体が持たない」と、辞めるケースもみられるようになっている[11]。
さらに、一部の地方病院では非常に高額な報酬を設定して医師を招聘するなどの試みが行われているものの、ときとして、求めに応じた医師に対して中傷めいた発言が市議やマスコミからなされる。こうした社会的要因もまた、医師の就業環境を低下させ、医師の着任や定着を阻む要因となっている。たとえば、2006年に尾鷲総合病院に迎えた産婦人科医師との交渉が決裂した原因について、尾鷲市の伊藤允久市長は、報酬額の折り合いではなく医師の高額報酬に対する中傷が原因との見解を示し、当該の医師もそうした中傷を耳にして「残る気持ちをなくした」と述べた[12]。
[編集] 診療科に属する医師の需給不均衡による不足
外科、小児科、産科は過酷な勤務状態にあり、転科したり、そもそも志望する医学生が減ってきている。
2004年から始まった新医師臨床研修制度において2年間の臨床研修が事実上義務づけられた。今まではそのまま志望科の医局に入局していたが、希望の有無を問わず様々な科にも診療を行う必要が生じた。そのため、志望科の過酷な医療状況を目の当たりとし、志望を変えるケースもある。特に産科は福島県立大野病院産科医逮捕事件の影響から、「逮捕されるリスクがある」との認識が広がっており、産婦人科が婦人科のみにしたり、産婦人科を志望していた医学生がその志望の選択肢から除外する傾向が強くなっている。
また、従来の勤務医も、医局人事であるにもかかわらず、過酷な労働条件に耐えかねて退職や開業をしたり「フリーター化」する医師が増え、勤務条件の悪い総合病院等の特定診療科における医師不足の拍車をかけている[13]。たとえば、女性医師の増加により、家庭と育児の両立が可能な勤務形態が望まるなか、それが実現していない科はますます不人気になり、よりいっそう労働環境が悪化するといった悪循環が見られる。
この結果皮膚科(美容整形などと一般には思われている)、眼科等の診療科に医師が流れていると報道されることが多いが、これに対しては、日本眼科医会は、根拠のないものであるとして反論している。[14]
なお、病理診断科、臨床検査科は2008年4月から標榜診療科になったばかりであるが、そこに働く病理専門医や臨床検査専門医は絶対数が不足している。また監察医や解剖医の不足も医師不足の一種といえる。
[編集] 院長による病院経営の限界
そもその経営学を学生時代に一度として履修していない医師を病院や医院の経営責任者の院長とする現状の法体系が公立病院を中心に経営破綻を招く要因になっており、経営難から廃業する医師もいる。
[編集] 医師不足対策
- 医学部増員
厚生労働省は医師不足対策の一環として国立医学部の入学者を増員することを予定している。しかし、卒業生が現場で活躍できるまでには相当の年数を要し、現在の状況が改善に向かうのはすぐには期待できない。
- 女性の待遇改善
女性医師が現場復帰しやすいように育児と両立できる職場作りが模索されている。しかし、医療現場の現実はますます厳しさを増しており、ワークライフバランスを今すぐ確立するのは現実的とは言えない。
- 海外からの招致
医師・看護師を海外、特に途上国から招致しようという動きがある。しかし、日本で医師免許を取得するためには日本語検定1級以上の語学力がなければならない。また、アメリカ合衆国の医師免許であるUSMLEは世界30カ国以上に受験会場があるが、日本の医師免許はそのような整備がされていないなど、制度上の遅れがある。
- コメディカルの活用
医師の業務の多様化に伴い、医師の業務の一部を看護師・介護師・事務員・検査技師などが代行できるよう制度改革を行うことが検討されている。しかし、一部の公立病院などでは正規雇用の事務員や看護師の方が長時間超過勤務をしている非正規雇用の医師より実態時給が高いため、コメディカルに医師の仕事を一部代行させることは病院経営上必ずしも有利ではない。
- 医師の需給規制
勤務医を辞めて開業した医師に一時的な病院勤務を義務付けたり、院長になるために僻地勤務経験を義務付けたり、産婦人科・小児科の研修を義務付けたりしようという提案がなされている。しかし、診療所の多くが赤字経営をしている現在、開業医にさらなる負担をかけるのは地域医療を今まで以上に疲弊させる可能性がある。地域医療や産婦人科医療を義務付けたとしても、実際に現場で必要とされている技能を身につけるために必要な年数の他科勤務を義務付けるのは現実的ではない。さらに、これ以上のリスクを付加することは医療職希望者のさらなる減少につながりかねない。また、医師に対してある特定の診療科や地域での勤務を義務付けることは、職業選択の自由の侵害であるとの意見もある[要出典]。一方で医師という職業の選択ができており、これをもって、職業選択の自由の侵害というのは「著しく過度に要求する不当な権利の主張」(ドラフト会議同様)であって[要出典]実際には、職業選択の自由は完全に保障されている[要出典]という意見もある。
[編集] 関連項目
[編集] 脚注
- ^ 小川(2008: 35ff.)
- ^ 医師の需給に関する検討会報告書
- ^ 中川俊男常任理事による(『日本医事新報』4321号: 10)。
- ^ たとえば、2007年7月28日の日本医師会主催男女共同参画フォーラムにおける松谷有希雄医政局長の発言(『日本医事新報』4345号: 20)
- ^ 厚生労働省ホームページページ内 医療動態調査より。
- ^ www.kaseikyohp.jp 医師不足
- ^ 永田(2007: 51)
- ^ www.khk-dr.jp
- ^ 本田(2007)
- ^ 永田(2007: 41)
- ^ 永田(2007: 15ff.)
- ^ 「尾鷲市で産婦人科医消滅の危機」『スポーツニッポン』2006年9月1日
- ^ 永田(2007: 15ff.)
- ^ 眼科医が増えているというマスコミ報道への反論
[編集] 参考文献
- 本田宏(2007)『誰が日本の医療を殺すのか――「医療崩壊」の知られざる真実』洋泉社.
- 永田宏(2007)『貧乏人は医者にかかるな!――医師不足が招く医療崩壊』集英社.
- 小川道雄(2008)『医療崩壊か再生か――問われる国民の選択』NHK出版.

