海嶺

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海嶺(かいれい)には、以下の2つの用法がある。

  • 広義では、海洋底において海盆を分けているような、細長い山脈状の地形のこと。海洋の底において傾斜を伴った地形の高まりが細長く連なっている、いわば海底山脈のような場所全般を指す。海面下の地殻プレートマグマホットスポットの上を移動しているあいだに、海山が次々と生成されることにより海底山脈(seamount chain)となっている(諸島となることもある)。
  • 狭義では、海洋プレートが両側に引っ張られるために生じた地表の割れ目が直下のマントル(固体)の上昇によってうめられ、マントルの断熱上昇のために部分融解が起こりマグマが発生し、火山活動が起こり、新しいプレートと海洋地殻が生成される大規模な海底山脈のこと。中央海嶺(oceanic ridge)。

中央海嶺

海嶺の構造
大西洋中央海嶺

中央海嶺(ちゅうおうかいれい、Mid-Oceanic ridge)は、大洋の中央部を走る比高2~3km, 長さ数千kmの海底山脈。プレートテクトニクスでは、マントル対流スラブプル英語版リッジプッシュ英語版などよってプレートが引き裂かれ、マントルが地下深部から上がり、新たな海洋地殻が形成されている場所と解釈される。海嶺軸は左右対称的で、軸に向かって直角方向にトランスフォーム断層断裂帯)が発達する。この中央海嶺は地殻熱流量が大きく、固体地球内部から放出される熱エネルギーの大部分は中央海嶺から火山活動として放出される[1]

主な中央海嶺

海洋底拡大

地球表面の地殻の下にあるマントルは、地球中心部のに近い部分が温められ、表面に近い部分が冷却されるため、お椀に注がれた熱い味噌汁が対流しているようにゆっくり対流している(注意すべきはマントルは決して軟らかい液体でなく硬い固体である)。対流の速度と位置はほぼ一定しており、マントルの上昇してくる場所は決まっている。上昇してきたマントルは左右に分かれて、地殻の下を水平に動き、やがて冷やされて沈んでゆく。海洋底はマントルの動きに乗って、拡大し、移動し、ぶつかり合い、沈む。この海洋底が生成され、拡大している場所が中央海嶺に相当する。なお、陸塊は海洋底に比べて比重が小さく、ぶつかり合っても沈むことはない。1972年まではこのような海洋底拡大説が信じられていたが、海嶺に大きなフリーエア重力異常がないため、海嶺がマントル対流が上昇する場所であるという考えは否定された。重力異常があるのはホットスポットであり、ホットスポットこそがマントル対流が能動的にマントル中部やマントル下部から上昇する場所である。この意見は1990年以降のマントルトモグラフィーで証明された。海嶺でおこるマントル上昇は消極的なものであり、両側から引っ張られた空隙を埋める活動である。そのため、マントルトモグラフィーから観察される上昇流の根は100kmに達しない浅いものである。

プレートテクトニクスの証拠

以上述べてきた地殻の動きやぶつかり合いは、プレートテクトニクスとして理論化されている。海嶺での海洋底拡大は、プレートテクトニクスの有力な証拠とされる。海洋底の拡大はどのようにして確認されたか以下に述べる。

地磁気の逆転と海洋底拡大

中央海嶺を挟んで対称的に拡がる磁気異常帯
  • 地球は中心部の溶融金属核の対流により磁気を帯びている。これを地磁気という。地磁気は数万年単位で方向が逆になる事を繰り返している。
  • 岩石中に一般的に含まれる鉱物である磁鉄鉱は、その名の通り常温で磁気を帯びている。磁鉄鉱を加熱していくと、キュリー温度で磁気がなくなり、冷却すると再度磁気を帯びる。このとき磁鉄鉱が帯びる磁気は周辺の磁場(地磁気)の方向に従う。海洋底鉱物にも微量の磁鉄鉱が含まれており、海嶺でマントル成分が冷やされて、海洋底が生成された時の磁気を帯びている。
  • 第二次大戦後、海中にひそむ潜水艦を探索するための磁気探査機器の性能が上がり、海洋底の磁気の分析が進んだ。その結果、海嶺の両側で岩石の磁気が全く対称的に逆転を繰り返していることが判明した。これは『海嶺で海洋底が拡大している』証拠とされた。

海嶺(広義)

海嶺(かいれい、ridge)は、長くて狭い海底の高まりのうち両側斜面が急峻でかつ不規則な地形をいう[2]。傾斜が緩やかで幅の広いものは海膨(Rise)という[2]。また、成因には関係しない。

成因

プレートの沈み込みに起因する海嶺は、背弧海盆の拡大によってできる。

プレートが沈み込むと、沈み込み帯大陸プレート側(上側)には付加体火山活動によって島弧ができる。このとき、マグマも島弧に沿って細長く分布するため、これをマグマ弧という。何らかの原因でマグマ弧が分裂すると、島弧も同様に分裂し、その間で海洋底の拡大が始まる。このとき、沈み込み帯に近いほうは火山前線を伴う島弧として残り、もう1方は火山活動が停止して厚い地殻が残るだけの海嶺となって、その真ん中で拡大する背弧海盆を挟んでお互いに離れていく。

このほかの成因としては、さまざまなものが考えられる。火山活動によって形成され、やがて活動が停止して海底下に沈んだ島弧の跡、古い時代に形成された地塁、周囲のプレートの活動に伴う海底の隆起によってできたものなどがある。

海嶺の片側に厚い地殻があり、片側だけが急な斜面となったような地形も、海嶺とする。

主な海嶺

インド洋
北極
太平洋
日本近海

関連項目

脚注

  1. ^ 地熱エネルギーよりも地球に当たる太陽光の熱エネルギーのほうが遥かに大きいので、地熱放出によって地球全体の海水温や大気温度は基本的にほとんど影響はない。
  2. ^ a b 跡部治「海底地名の決定」『地学雑誌』第84巻第1号、東京地学協会、41-45頁、2019年12月16日閲覧 
  3. ^ Scientific Party of cruise SO-65 of F.S. Sonne「Active Pitcairn hotspot found」。1990年。
  4. ^ Gunn Interactive「Pacific Oceanic Island OIBS」。2005年アーカイブ。
  5. ^ オレゴン州立大学地球科学講座「Volcanoes - Hawaii and Yellowstone)」。2015年アーカイブ。

参考文献