村八分

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村八分(むらはちぶ)とは、村落村社会)の中で、秩序を破った者に対して課される制裁行為についての俗称であり、一定の地域に居住する住民が結束して交際を絶つこと(共同絶交)である。また、俗語としての「村八分」は集団行動主義の日本社会における代表的ないじめの代名詞でもあり、様々なシーンでしばしば引用される。

概要

楳垣実が説くところによると、『地域の生活における十の共同行為のうち、葬式の世話と火事の消火活動という、放置すると他の人間に迷惑のかかる場合(二分)以外の一切の交流を絶つことをいうもの』とされる。葬式の世話が除外されるのは、死体を放置すると腐臭が漂い、また伝染病の原因となるためとされ、また死ねば生きた人間からは裁けないという思想の現れともいう。また、火事の消火活動が除外されるのは延焼を防ぐためである。なお、残り八分は成人式結婚式出産病気の世話、新改築の手伝い、水害時の世話、年忌法要、旅行である。しかしながら、「はちぶされる」という言葉自体が、もともと村落生活とは無関係に発生した比較的新しい言葉であること[1]、江戸期の村落共同体において重要な機能であり、また、実際の村八分においてなされた入会地の利用の停止が含まれていないことなどを考慮すると、後世の附会であろうと主張されており、「八分」は「はぶく」や「はじく」(爪弾きにする)の訛ったものなどの諸説も唱えられている[2]。作家の八切止夫村八分の語源を村八部にあると唱えている。

入会地の使用が停止されると、薪炭や肥料(落ち葉堆肥など)の入手に窮するなど、事実上生活が出来なくなった。しかし、村落の中での掟や秩序は、合法的・客観的で公明正大なものとは程遠い、その地域の有力者の利益に沿うためのものも多く、公平な秩序維持活動とは言えない。1909年大審院判決で、村八分の通告などは脅迫あるいは名誉毀損とされた。

しかしこういった村八分行為は、第二次世界大戦後になっても存続した。戦後で有名になった事件としては、1952年昭和27年)に、静岡県富士郡上野村(現富士宮市)で起きた、参議院補欠選挙での村ぐるみの不正を告発した女子高校生が一家共々村八分にされた事件がある(静岡県上野村村八分事件[3]

近年では、2013年(平成25年)7月21日に、山口県周南市金峰(みたけ。旧鹿野町)で発生した(山口連続殺人放火事件)が、村八分による対人トラブルが原因とされる。多くの放送局では、「村八分」という言葉を放送自粛対象としている。

現代の村八分

法的評価

民事的責任

民事的には、村八分を受けることにより、社会的生活に困難を生ずるため権利侵害である違法な不法行為を構成し、差し止め請求や慰謝料を含めた損害賠償請求の対象となる。

新潟県岩船郡関川村沼集落
2004年春、お盆イワナのつかみ取り大会において「準備と後片づけでお盆をゆっくり過ごせない」と一部の村民が不参加を申し出た。
集落の有力者が「従わなければ村八分にする」と、11戸に山菜採りやゴミ収集箱の使用を禁じた。この村八分行為を受けて、村民11人は同年夏、「村八分」の停止などを求めて有力者ら3人を新潟地裁に提訴した。1審の新潟地方裁判所新発田支部では有力者側に不法行為の禁止と計220万円の損害賠償を命じた。有力者は、東京高等裁判所に控訴したが、2007年10月10日、東京高等裁判所も地裁の判断を支持し、控訴を棄却した。
兵庫県加西市教育長らが村八分
2011年5月、携帯電話の中継基地局の設置をめぐってトラブルがあり、兵庫県加西市の永田岳巳教育長らは、近隣との関係が改善されない限り「個人的な付き合いをしません」などとする「共同絶交宣言」の文書を男性ら4人に送った。
損害賠償を求めた訴訟となり、2013年3月26日神戸地方裁判所社支部の新宮智之裁判官は人格権の侵害を認め、支払いなどを命じた。旅行の積立金が一方的に解約されたり、近隣の葬儀の連絡がもらえなかったりしており、「社会通念上、許される範囲を超えた『いじめ』や『嫌がらせ』に当たる」とした。
2013年8月30日大阪高等裁判所は教育長らの控訴を棄却した。神戸地方裁判所社支部判決を支持し、「村八分ないし共同絶交宣言をしたもので、人格権を侵害する違法行為」などと認めた。

刑事的責任

村八分即ち、一定地域の住民が結束し交際を断つこと自体が刑事罰に触れるものではない(罪刑法定主義)。しかし、その旨を通告する行為は、被絶交者の人格を蔑視し、その社会的価値である名誉を毀損するものであって、名誉に対する脅迫罪を構成するものとされている[5]

脚注

  1. ^ 「ハチブサレタとはいかなる義ぞ。答、この俗語、ふるくは聞えず。寛政のはじめより、やうやく耳にふれしを、今は鄙俗の常談となれり」「人に物を云ふことあるに、そ人、拒みて遠ざくることをも、八分されたといひ、下郎の賤妓にふらるるをも、八分さるるといふ。いづれも拒み退るの義にて、彼雑費中の八分を省き退けしより、出たることなるべし」(曲亭馬琴『随筆・兎園小説別集』文政8年(1825年)成立)
  2. ^
    1. 蜂が刺して人に恐れられるところから、蜂吹くの意〔海録・世事百談〕。
    2. ハチブ(撥撫)の義〔一話一言・俚言集覧〕。
    3. ハブク、ハッチルなどと同様、仲間からはねのける意〔綜合日本民俗語彙〕。
    4. 十分の交際の中、葬式と火災の二分の他は絶交する意か〔江戸のかたきを長崎で=楳垣実〕。
    (日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典』第二版、小学館、「八分(はちぶ)」の項、語源欄より引用)
  3. ^ 事件史探求「静岡県上野村・村八分事件」
  4. ^ “厄介者”のレッテルを貼られて地縁の輪の外へ追放!「理不尽な村八分」の撤回を訴え続ける孤高の陶芸家ダイヤモンド・オンライン「相川俊英の地方自治“腰砕け”通信記」2012年6月26日
  5. ^ 大塚仁『刑法概説(各論)』有斐閣

関連項目