ボレロ (ラヴェル)
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『ボレロ』(Boléro )は、モーリス・ラヴェルの作曲したバレエ音楽である。初演は1928年11月22日にパリ・オペラ座で行なわれた。同一のリズムが保持されるなかで2種類のメロディーが繰り返されるという特徴的な構成を有しており、現代でもバレエの世界に留まらず広く愛される音楽の一つである。
日本初演は、1931年1月28日に日本青年館にて、ニコライ・シュフェルブラッドと新交響楽団(NHK交響楽団の前身)により行われた。
目次 |
[編集] あらすじ
セビリアのとある酒場。一人の踊り子が、舞台で足慣らしをしている。やがて興が乗ってきて、振りが大きくなってくる。最初はそっぽを向いていた客たちも、次第に踊りに目を向け、最後には一緒に踊り出す。
[編集] 楽曲
この曲は、バレエ演者のイダ・ルビンシュタインの依頼により、スペイン人役のためのバレエ曲として制作された。当初、ラヴェルはイサーク・アルベニスのピアノ曲集『イベリア』から6曲をオーケストラ編曲することでルビンシュタインと合意していたが、『イベリア』には既にアルベニスの友人であるエンリケ・フェルナンデス・アルボスの編曲が存在した。ラヴェルの意図を知ったアルボスは「望むなら権利を譲りましょう」と打診したが、ラヴェルはそれを断って一から書き起こすこととした。
作曲は1928年の7月から10月頃にかけて行われた。同年の夏、アメリカへの演奏旅行から帰ってきたラヴェルは、海水浴に訪れていた別荘で友人達にこの曲の主題を披露したという逸話が残っている。
ハ長調で、一般的な演奏では、この曲の長さは15分程度である[1]。
この曲は、次のような特徴を持つ。
- 最初から最後まで(最後の2小節を除く)同じリズムが繰り返される。
- 最初から最後まで1つのクレッシェンドのみ
- メロディもA、B、2つのパターンのみ
これだけを見ると極めて単調なように思われるが、実際の演奏は非常に豊かな色彩をみせる。曲は、スネアドラムによる後述のリズムが刻まれる中、フルートによって始まる。フルートはAの演奏を終えるとスネアドラムと同じリズムを刻み始め、代わってクラリネットがAのメロディーを奏でる。このように、次々と異なった楽器構成によりメロディーが奏でられ、メロディーもリズムも次第に勢いを増していく。そして最後には、フルート、ピッコロ、オーボエ、オーボエ・ダモーレ、コーラングレ、クラリネット、ファゴット、コントラファゴット、ホルン、トランペット、ピッコロ・トランペット、トロンボーン、チューバ、チェレスタ、ハープ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、スネアドラム、バスドラムという大編成で、フルート単独の時と同じメロディーが奏でられる。圧倒的な重厚さ(並行3度や5度を組み合わせたりもしている)でA、Bのメロディーを演奏すると、曲は初めてA、Bのメロディーを離れた旋律に移り、音量も最高潮を迎えた直後、最後の2小節で下降調のコーダで収束し、終焉を迎える。
『ボレロ』はラヴェルゆかりのスペインの民族舞踊であるにも関わらず、自筆スコアの研究ではトライアングルとカスタネットが作曲過程で抹消され、逆にE♭クラリネットとソプラノ・サクソフォーンが追加されるなど、そのルビンシュタインの「スペイン人役」という出自に反して民族色が消された上、ラヴェルが立ち会った録音は総譜の指示あるいは舞踊としての『ボレロ』よりテンポが遅いものばかりで、指揮者のトスカニーニの実演に接したラヴェルはそのテンポの速さに激怒し、トスカニーニと口論にまでなったという。少なくとも「ボレロ」でのラヴェルの姿勢は、一切の具象から忌避するものであった。
[編集] 楽器編成
| 木管 | 金管 | 打 | 弦 | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Fl. | 2 (Picc.1), Picc.1 | Hr. | 4 | Timp. | 3 (1人) | Vn.1 | ● |
| Ob. | 2 (Ob.d'am.1), C.ing.1 | Trp. | 4 | 他 | T.mil. 2, Ptti. 1, Gr.C. 1, Tam-t., Cel. | Vn.2 | ● |
| Cl. | 2 (Cl.Es1), Cl.b. | Trb. | 3 | Va. | ● | ||
| Fg. | 2, Cfg. | Tub. | 1 | Vc. | ● | ||
| 他 | Sax.sopr.1, Sax.t. (Sax.s.)1 | 他 | Cb. | ● | |||
| その他 | Arpa | ||||||
[編集] 基本リズム
基本リズムは以下のようになっている。
[[Media: |[音:サンプルmidiファイル]]]
このリズムを、スネアドラム(小太鼓)が、最初から最後まで同じテンポで演奏する。
[編集] メロディと音色の構成
[編集] メロディの構成
メロディはパターンA
[[Media: |[音:サンプルmidiファイル]]]とパターンB
[[Media: |[音:サンプルmidiファイル]]]があり、この2つのパターンが、以下のように繰り返される。
- AABB の組を4回繰り返し。
- Aを1回演奏。
- B'を1回演奏。(ここでB'とは、Bのメロディの後半部分がコーダになっているものである)
[編集] 楽器の組み合わせ
[編集] メロディーを奏でる楽器
メロディを奏でる楽器は以下のように変化する。なお、数字はA/Bの両パターンを通しで振っている。
- 第1フルート(ハ長調)
- 第1クラリネット(ハ長調)
- 第1バスーン(ファゴット)(ハ長調)
- ソプラニーノクラリネット(ハ長調)
- オーボエ・ダモーレ(ハ長調)
- 第1フルート(ハ長調)、第1トランペット(弱音器付き)(ハ長調)
- テナーサクソフォーン(ハ長調)
- ソプラニーノサクソフォーン→ソプラノサクソフォーン(ハ長調)
- ピッコロ(ホ長調とト長調)、ホルン(ハ長調)、チェレスタ(ハ長調)
- オーボエ(ハ長調)、オーボエ・ダモーレ(ト長調)、コーラングレ(ハ長調)、クラリネット(ハ長調)
- 第1トロンボーン(ハ長調)
- フルート(ヘ長調とイ長調)、ピッコロ(ハ長調)、オーボエ(ハ長調とイ長調)、コーラングレ(ヘ長調)、クラリネット(ハ長調)、テナーサクソフォーン(ハ長調)
- フルート(ハ長調)、ピッコロ(ハ長調)、オーボエ(ハ長調)、クラリネット(ハ長調)、第1ヴァイオリン(ハ長調)
- フルート(ホ長調とト長調)、ピッコロ(ハ長調)、オーボエ(ハ長調とト長調)、コーラングレ(ハ長調)、クラリネット(ハ長調とト長調)、テナーサクソフォーン(ハ長調)、第1ヴァイオリン(ハ長調とホ長調とト長調)、第2ヴァイオリン(ハ長調とホ長調とト長調)
- フルート(ハ長調)、ピッコロ(ハ長調)、オーボエ(ハ長調)、コーラングレ(ハ長調)、トランペット(ハ長調)、第1ヴァイオリン(ハ長調)、第2ヴァイオリン(ハ長調)
- フルート(ヘ長調とイ長調)、ピッコロ(ハ長調)、オーボエ(ハ長調とイ長調)、コーラングレ(ヘ長調)、クラリネット(ヘ長調とイ長調)、トロンボーン(ハ長調)、ソプラノサクソフォーン(ハ長調)、第1ヴァイオリン(ハ長調とイ長調)、第2ヴァイオリン(ハ長調とイ長調)、ヴィオラ(ヘ長調)、チェロ(ハ長調)
- フルート(ホ長調とト長調)、ピッコロ(ハ長調)、トランペット(ハ長調とホ長調とト長調)、サクソフォーン(ハ長調)、第1ヴァイオリン(ハ長調とホ長調とト長調)
- フルート(ヘ長調とイ長調)、ピッコロ(ハ長調)、トランペット(ハ長調とヘ長調とイ長調)、トロンボーン(ハ長調)、サクソフォーン(ハ長調)、第1ヴァイオリン(ハ長調とヘ長調とイ長調)
[編集] リズムを奏でる楽器
次にあげる楽器の他に、終始小太鼓は鳴っている。
- 小太鼓のみ
- 第2フルート
- 第1フルート
- 第2フルート
- ファゴット
- 第1ホルン
- 第2トランペット
- 第1トランペット
- 第1フルート、第2ホルン
- 第4ホルン、第3トランペット、第2ヴァイオリン、ヴィオラ
- 第1フルート、第2ホルン、ヴィオラ
- 第4ホルン、第1トランペット、第2ヴァイオリン
- 第1・第2ホルン
- 第3・第4ホルン
- 第1・第2ホルン
- ホルン
- オーボエ、クラリネット、ホルン、第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ
- オーボエ、クラリネット、ホルン、第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ
[編集] オルガンから借用した手法
曲中、旋律が完全に並行音程で重ねられている箇所が何度も登場するが、オーケストラの中で非常に新鮮に響くこの効果は、パイプ・オルガンで日常的に使用される倍音の組み合わせを採り入れた手法と言われている。パイプ・オルガンにおいては、実際に奏する鍵盤にとって倍音関係にある音の発音されるパイプ群が並行音程を保って装備されており、それらを自在に組み合わせることによって種々の倍音構成を特徴づけるという技術は、パイプ・オルガンにおいて複雑な音色を生み出す常套手法である。上記9.箇所においては、ホルンの実音が基音とみなされ、それに対して第2倍音をチェレスタが、第3倍音をピッコロが、第4倍音をチェレスタが、第5倍音をピッコロが、それぞれの楽器の実音によって重ねられることで輝かしい音色が生み出されている。実際のパイプ・オルガンにおいての例としては、ストップを8' + 4' + 2 2/3' + 2' + 1 3/5'の組み合わせによってホルンパートを奏すると、実際と全く同じ音の組み合わせができあがる。また、それらをもっと高次倍音とみなして別の組み合わせで同じ効果をもたらすこともできる。詳しくはストップを参照。
[編集] 編曲
- 作曲者自身による2台ピアノ用編曲、連弾用編曲
- 冨田勲によるシンセサイザー版編曲
- スイッチトオンボレロ
- ジェフ・ベックによるギター用編曲
- ラリー・コリエルによるギター用編曲
- 押尾コータローによるギター用編曲
- 池辺晋一郎による和楽器用編曲
- 大橋恵の「603」のボレロ (MS IGLOOのテーマ曲)
- ミシェル・センドレスによる打楽器と2台ピアノ用編曲(ラベック姉妹によるディスクがある)
- 菅原淳によるパーカッション用編曲
- パリ・ギャルド・レピュブリケーヌ管弦楽団、第6代楽長ピエール・デュポンによる吹奏楽編曲版(初演はラヴェル自ら指揮を行った)
[編集] 『ボレロ』が使用されている作品
単純な構成とそこから醸し出される豊かさとから、この曲は人気があり、様々な場面で使われている。
- 1984年に行なわれたサラエボオリンピックにおけるフィギュアスケート競技のアイスダンスにおけるイギリスのトービルとディーンのペアの曲。オリンピック史上初めて9人の審判全員から6点満点を得て金メダルを獲得した[2]。楽曲の最後の部分では、二人がリンクの上に倒れこむという極めてインパクトの強い演出がなされており、見るものの度肝を抜く。
- クロード・ルルーシュ監督の映画『愛と哀しみのボレロ』(1981年)。
- ROYAL ASCOT IIのGI、STARHORSE2 SECOND FUSIONにおいて、凱旋門賞のベット時BGM。後者は、フランス出身のラヴェルということで使用されているものと思われる。
- ホンダ・プレリュード(2代目、1982年 - 1987年)のCM。
- アニメ『銀河英雄伝説』劇場版『我が征くは星の大海』(1988年、クライマックスの第4次ティアマト会戦の戦闘シーン)。
- 映画『催眠』(1999年)劇中。
- ブライアン・デ・パルマ監督の映画『ファム・ファタール』(2002年)劇中。デ・パルマ監督の要望で、坂本龍一が本作を意識して『ボレリッシュ』(ボレロ風)という曲を作曲し、それがテーマ曲として使用された。
- 映画『交渉人 真下正義』(2005年)。
- スズキ・エスクード(3代目、2006年)のCM。
- TVドラマ『相棒~Season V』(2006年10月 - 2007年3月、テレビ朝日系)17話『女王の宮殿』。
- フィギュアスケート選手村主章枝の2006-2007シーズンにおけるショートプログラム。
- 京セラのテレビCM(グループ紹介)。
- mihimaru GTが『帰ろう歌』でサンプリング。
- アニメ『クレヨンしんちゃん』(テレビ朝日系)の酢乙女あいの幼稚園通園シーン(初期)。
- 『デジモンアドベンチャー』シリーズの劇中。
- 『TVチャンピオン』(テレビ東京系)の優勝者決定時BGM。
- Gacktのライブにおける開演前の会場内BGM。
- 東急ジルベスターコンサートのカウントダウン曲。第1回をはじめ3度(最多)演奏されている。
- 『行列のできる法律相談所』(日本テレビ系)で弁護士軍団が結論を出す際のBGM。
- NHK教育『クインテット』。
- 格闘技「ハッスル」のインリン様の入場テーマ曲。
- TVドラマ『警部補 古畑任三郎』第3シーズン 第36回 『絶対音感殺人事件』(主演:市村正親)
- フィギュアスケート選手安藤美姫の2008-2009シーズンにおけるエキシビジョン。
- フィギュアスケート選手エヴァン・ライサチェクの2008-2009シーズンにおけるショートプログラム。
- 安室奈美恵のシングル「Dr.」のオペラパート。
[編集] 脚注
- ^ ラヴェルは17分を望んでいたという(『作曲家別名曲解説ライブラリー11 ラヴェル』音楽之友社、p.38)。スコア上のテンポ指示は4分音符=72だが、60、つまり1秒刻みで演奏すると17分になる。
- ^ 芸術点は9人全員が6点、技術点は3人が6点、残り6人が5.9点をそれぞれ付けた。




