あたご (護衛艦)
あたご | |
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訓練中の「あたご」。うねりを受けて艦首が押し上げられている。 | |
基本情報 | |
建造所 | 三菱重工業長崎造船所 |
運用者 | 海上自衛隊 |
艦種 | ミサイル護衛艦(DDG) |
級名 | あたご型護衛艦 |
建造費 | 1,475億円 |
母港 | 舞鶴 |
所属 | 第3護衛隊群第3護衛隊 |
艦歴 | |
発注 | 2002年 |
起工 | 2004年4月5日 |
進水 | 2005年8月24日 |
就役 | 2007年3月15日 |
要目 | |
基準排水量 | 7,700トン |
満載排水量 | 10,000トン |
全長 | 165m |
最大幅 | 21.0m |
深さ | 12.0m |
吃水 | 6.2m |
機関 | COGAG方式 |
主機 | 石川島播磨-GE LM2500 × 4基 |
出力 | 100,000PS |
推進器 | スクリュープロペラ × 2軸 |
最大速力 | 30ノット以上 |
乗員 | 300名 |
兵装 |
62口径5インチ単装砲 × 1門 Mk.15 高性能20mm機関砲(CIWS) × 2基 90式艦対艦誘導弾(SSM-1B)SSM 4連装発射機 × 2基 Mk.41 Mod20 VLS × 96セル 68式3連装短魚雷発射管 × 2基 |
搭載機 | ヘリコプター(格納庫のみ)× 1機 |
C4ISTAR |
イージスシステム AN/SQQ-89A(V)15J 対潜システム |
レーダー |
SPY-1D 多機能型 AN/SPQ-9B 対水上 OPS-20 航海用 Mk.99/SPG-62ミサイル誘導用 × 3基 |
ソナー |
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電子戦・ 対抗手段 |
NOLQ-2 ESM/ECM Mk.137 デコイ発射機 × 4基 |
その他 | 曳航具4型 対魚雷デコイ |
あたご(ローマ字:JS Atago, DDG-177)は海上自衛隊の護衛艦。イージス艦に分類されるあたご型護衛艦の1番艦。艦名は京都府の愛宕山に因み、日露戦争期に活躍した摩耶型砲艦3番艦「愛宕」、天城型巡洋戦艦4番艦「愛宕」、高雄型重巡洋艦2番艦「愛宕」に続き、日本の艦艇としては4代目[1]。
本記事は、本艦の艦暦について主に取り扱っているため、性能や装備等の概要についてはあたご型護衛艦を参照されたい。
艦歴
[編集]「あたご」は中期防衛力整備計画に基づく平成14年度計画7700トン型護衛艦2317号艦[2]として、三菱重工業長崎造船所で2004年4月5日に起工された。2005年8月24日に同造船所において挙行された命名・進水式において、防衛庁長官(防衛庁副長官今津寛代読)により「あたご」と命名され、進水した。2006年5月17日に海上公試を開始。2007年3月15日に初代艦長・舩渡健1佐の指揮下で就役した。舩渡1佐は岐阜大学卒業後、海自に入隊。幹部候補生学校を経て幹部となり、各部署でキャリアを積み、艦長を歴任。艦長拝命は「あたご」で4隻目であった。
なお、当初、艦名は部内応募により、旧海軍を代表する艦名として、「ながと」および「ゆきかぜ」が候補に挙がったが、「ながと」は、時期尚早と判断され見送られた。「ゆきかぜ」が落選した理由は不明。
2007年3月15日、就役した後、第3護衛隊群第63護衛隊に編入され、舞鶴に配備された。同年10月25日からイージスシステムの装備認定試験(SQT)のため、米国ハワイに派遣。 その帰国途上の2008年2月19日にイージス艦衝突事故が発生した。事故後は横須賀港に1ヶ月以上係留され、乗組員の外出も禁じられていたが、3月24日に事故当時の当直であった海士長が自殺未遂を起こしたため、翌日には乗組員の外出が許可されることとなった。防衛省は28日に舩渡艦長を含む6名の護衛艦隊司令部付への異動を発表し、後任の艦長には第2護衛隊群司令部幕僚の清水博文1佐が着任した。程なくして、舩渡1佐は退官し、民間企業に再就職した。本件については、検察および海保が漁船側の正確な航路や位置を特定・立証することが出来なかった、と裁判所によって認定されたことから、「疑わしきは罰せず・疑わしきは被告人の利益に」に則って被告人側に最も有利な航路・位置が裁判所によって推定された結果、2013年に当直士官2名の無罪判決が確定した。ただし、海難審判においては、2009年1月22日、海保の主張する航路・位置が採用されて事故主因をあたご側と認定する裁決が下りており(2009年1月30日をもって裁決が確定)、刑事裁判と海難審判では一部判断が分かれている。
2008年3月26日、護衛隊改編に伴い第3護衛隊群第3護衛隊に編入された。
2008年9月14日午前6時56分に、豊後水道の領海内で、国籍不明の潜水艦らしいペリスコープ(潜望鏡)を発見し、アクティブソーナーによる追尾を実施したが、同日午前8時40分頃に失探した。
2009年6月9日から7月30日の間、米国派遣訓練に参加。
2010年5月16日、RIMPAC2010に参加するため護衛艦「あけぼの」と共に横須賀から出航。RIMPACに先立ち、6月9日から6月19日までカナダ・ビクトリアに寄港、6月12日、エスカイモルト湾で実施されたカナダ海軍創立100周年記念国際観艦式に参加した。6月22日にパールハーバーに到着し、8月1日までハワイ周辺海域で訓練を実施。8月16日、横須賀に入港した[3]。
2012年12月10日、アメリカ国防総省は議会に対して日本向けに最新のミサイル防衛システムの売却を通知した。「あたご」および同型艦の「あしがら」に適用される見込みとなった[4]。
2013年6月10日から26日まで米国カリフォルニア州キャンプ・ペンデルトンおよびサンクレメンテ島にて実施される統合訓練「ドーンブリッツ13」に初めて参加した(これは元々、米軍単独で行われていた訓練だった)。「あたご」は、主に艦隊防空、並びに主隊着上陸前の対地支援射撃を行ったといわれる。他に護衛艦「ひゅうが」、輸送艦「しもきた」が、陸上自衛隊からは西部方面普通科連隊と西部方面航空隊ほかも参加している[5][6]。
2016年7月から定期検査とBMD(弾道ミサイル防衛)能力付与のため、JMU舞鶴事業所に長期入渠する。2017年6月から、JMU横浜事業所磯子工場に回航し、改修の最終調整と同時に次期イージスシステム搭載のミサイル護衛艦の艤装に向け、ノウハウを取得する工事を同年末まで行った。
2017年4月、あたごのイージスシステム改修の一環として、OPS-28EがAN/SPQ-9Bに装備転換されていることが確認された。同レーダーが潜望鏡探知能力を持つ最新型であるかどうかは不明である[7]。
2018年9月12日(現地時間11日)、ハワイ諸島カウアイ島から発射された模擬弾道ミサイル標的に対して、SM3ブロック1Bミサイルを発射して大気圏外で命中させて[8]迎撃に成功し、イージス弾道ミサイル防衛システムの能力を保有を確認した[9]。
2019年9月17日から9月29日および10月15日から10月23日までの間、 関東南方から沖縄周辺を経て九州西方へ至る海空域において日豪共同訓練(日豪トライデント)を実施する。海自からは本艦のほか、護衛艦「はるさめ」、「てるづき」、「あさひ」、補給艦「ましゅう」およびP-1哨戒機又はP-3C哨戒機と潜水艦が、オーストラリア海軍からは艦艇および潜水艦が参加し、 各種戦術訓練を実施する[10]。
2021年4月6日、海上保安庁と合同で、不審船に係る共同対処訓練を実施した。ほかに参加したのは、海上自衛隊からミサイル艇「うみたか」、およびSH-60K哨戒ヘリコプター2機、海上保安庁から巡視船「ほたか」、ボンバル300型航空機1機[11]。訓練では、海上自衛隊のゴムボートが不審船役となり美浜原発方向に航行、これをボンバル300およびSH-60Kが発見通報し「うみたか」が追尾、その後「ほたか」に引継ぎを行い、発光・汽笛信号等により停船させた。訓練中一連の流れは映像伝送システムにより海自本省・海保本庁に共有された。またこれら全般を、並走する「あたご」から海自・海保の幹部が視察した[12][13]。
2022年、低視認性塗装(ロービジビリティー Low-visibility 略してロービジとも)へ塗装変更。その内容としては、煙突頂部の汚れを目立たなくするための黒帯の廃止、艦番号及び艦名の灰色化かつ無影化、飛行甲板上の対空表示(航空機に対し艦番号下2桁を表示するための塗装)の消去[14]。
2023年2月22日、日本海において日米韓共同訓練に参加した。米海軍駆逐艦「バリー」、韓国海軍駆逐艦「セジョン・デワン」が参加し、弾道ミサイル情報共有訓練を含む各種戦術訓練を実施した[15]。 同年3月18日、日本海において、米海軍駆逐艦「ミリウス」と弾道ミサイル情報共有訓練を含む各種戦術訓練を実施した[16]。同年4月17日、日本海において日米韓共同訓練に参加した。米海軍駆逐艦「ベンフォールド」、韓国海軍駆逐艦「ユルゴク・イ・イ」が参加し、弾道ミサイル情報共有訓練を含む各種戦術訓練を実施した[17]。
現在は、第3護衛隊群第3護衛隊に所属し、定係港は舞鶴である。
歴代艦長
[編集]代 | 氏名 | 在任期間 | 出身校・期 | 前職 | 後職 | 備考 |
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艤装員長 | ||||||
舩渡 健 | 2005.8.24 - 2007.3.14 | 岐阜大・ 29期幹候 |
艦艇開発隊勤務 | あたご艦長 | ||
あたご艦長 | ||||||
1 | 舩渡 健 | 2007.3.15 - 2008.3.27 | 岐阜大・ 29期幹候 |
あたご艤装員長 | 護衛艦隊司令部付 | |
2 | 清水博文 | 2008.3.28 - 2009.12.20 | 防大29期 | 第2護衛隊群司令部幕僚 | 第1海上訓練支援隊司令 | |
3 | 大野敏弘 | 2009.12.21 - 2011.12.8 | 防大30期 | 海上幕僚監部指揮通信情報部 指揮通信課情報保証班長 |
第4護衛隊群司令部幕僚 | |
4 | 山脇 修 | 2011.12.9 - 2014.3.25 | 防大29期 | 艦艇開発隊開発部長 | 統合幕僚監部防衛計画部計画課 | |
5 | 宇仁健一郎 | 2014.3.26 - 2015.11.26 | 防大34期 | 第4護衛隊群司令部首席幕僚 | おうみ艦長 | |
6 | 三浦則文 | 2015.11.27 - 2017.5.25 | 防大35期 | 海上幕僚監部防衛部装備体系課 | 護衛艦隊司令部付 →2017.5.28 誘導武器教育訓練隊司令 |
|
7 | 大島信吾 | 2017.5.26 - 2019.2.14 | 防大37期 | 護衛艦隊司令部 | 自衛艦隊司令部 | |
8 | 小城尚徳 | 2019.2.15 - 2020.7.21 | 防大38期 | システム通信隊群司令部首席幕僚 | 護衛艦隊司令部勤務 →2020.12.11かしま艦長 |
|
9 | 後藤正寛 | 2020.7.22 - 2022.11.30 | 防大39期 | 護衛艦隊司令部 | 第5護衛隊司令 | |
10 | 今若充啓 | 2022.12.1 - 2024.7.31 | 護衛艦隊司令部幕僚 兼 自衛艦隊司令部 |
呉地方総監部付 | ||
11 | 尾﨑元気 | 2024.8.1 - | 防大44期 | 自衛艦隊司令部作戦分析主任幕僚 |
ギャラリー
[編集]-
舞鶴湾航行中の「あたご」
-
3代目艦長・大野1佐 (手前)
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海上保安庁との共同訓練
-
同左
-
JMU舞鶴事業所にて工事中の「あたご」(2021.11.3)。CIWS等が取り外され、艦番号が消されている。
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日米韓共同訓練を実施中の左から「あたご」、米駆逐艦「ベンフォールド」、韓国駆逐艦「ユルゴク・イ・イ」(2023.4.17)
脚注
[編集]- ^ “護衛艦 あたご”. 海上自衛隊第3護衛隊群. 2020年3月21日閲覧。
- ^ DSI 現有艦艇一覧
- ^ 平成22年度米国派遣訓練及びカナダ海軍創立100周年記念国際観艦式について(PDF文書)
- ^ “イージス全艦が迎撃可能に 海自、北朝鮮対応強化へ”. MSN産経ニュース (2012年12月11日). 2012年12月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年2月18日閲覧。
- ^ 平成25年度米国における統合訓練(実動訓練)(ドーン・ブリッツ13)について(PDF文書)
- ^ 島嶼防衛目的に「ドーン・ブリッツ」3自衛隊が初参加(2013年6月10日~26日)
- ^ 艦載搭載武器等部品の製作役務に係る契約希望者募集要項(公募)-2015年12月14日 海上自衛隊舞鶴地方総監部公示第55号
- ^ 改修イージス艦 迎撃実験に成功 「あたご」『日本経済新聞』朝刊2018年9月13日(政治面)2018年9月13日閲覧。
- ^ “イージス護衛艦「あたご」からのSM-3ブロックⅠB発射試験の結果について”. 防衛省 (2018年9月12日). 2018-09-0913閲覧。
- ^ 日豪共同訓練(日豪トライデント)の実施について (PDF)
- ^ 海上自衛隊との連携を強化します!!~ 不審船に係る共同対処訓練 ~ (PDF)
- ^ “不審船に対処、海保と海自が共同訓練 若狭湾”. 朝日新聞デジタル (2021年4月17日). 2021年5月2日閲覧。
- ^ “海自のミサイル艇や海保の巡視船も参加 若狭湾で不審船対応訓練”. 京都新聞 (2021年4月17日). 2021年5月2日閲覧。
- ^ イカロス出版 2021.
- ^ 日米韓共同訓練の実施について 統合幕僚監部(2023年2月22日)
- ^ 日米共同訓練の実施について 統合幕僚監部(2023年3月18日)
- ^ 日米韓共同訓練の実施について 統合幕僚監部(2023年4月17日)
参考文献
[編集]- 石橋孝夫『海上自衛隊全艦船 1952-2002』(並木書房、2002年)
- 『世界の艦船 増刊第66集 海上自衛隊全艦艇史』(海人社、2004年)
- 『JShips2021年10月号』イカロス出版〈隔月刊JShips〉、2021年10月、14-17頁。JAN 4910151671010。