イージス弾道ミサイル防衛システム

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イージス弾道ミサイル防衛システムAegis Ballistic Missile Defense System, Aegis BMD)はアメリカ合衆国国防総省ミサイル防衛局アメリカ海軍が開発中のイージス艦を用いた弾道ミサイル防衛システム(BMD)。国家ミサイル防衛(NMD)の一部を構成する。 アメリカ海軍と海上自衛隊が導入している。日本も開発に参加している。

イージスBMDでは、イージス艦が装備する防空システムであるイージスシステムを拡張し利用している。目標である弾道ミサイルは、ブースト段階から人工衛星、地上レーダー、イージス艦のAN/SPY-1レーダーにより探知・追尾され、イージス艦から発射されたBMD用スタンダードミサイルによって大気圏外を飛行中のミッドコース段階で運動エネルギー弾頭を直接衝突させることにより破壊される。

歴史[編集]

背景[編集]

アメリカ海軍が弾道ミサイル防衛に関心を示したのは1965年に遡る。テリアミサイルRIM-24短距離弾道ミサイルであるPGM-11MGM-5に対して発射された。実験は部分的な成功を収めたが、それ以上の進展はなかった。

1970年代に航空機対艦ミサイルへの対応力を向上させるため、イージスシステムが開発された。これはセンサーコンピューターソフトウェア表示装置ランチャー、そして武器そのものから構成される戦闘システムで、名前はギリシャ神話の神ゼウスが持つに由来している。第一号艦は1983年に導入されてから幾度ものアップデートを経ている。これまでに建造されたののはタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦がある。27隻が建造されたタイコンデロガ級巡洋艦の内、22隻が現役であり、艦歴35年になるまで運用される。アーレイ・バーク級駆逐艦は2012年に62隻目が就役する。海軍はこれからもアーレイ・バーク級駆逐艦を2031年まで調達する予定で、定められた艦歴に退役する艦を考慮に入れると2020年に94隻、2034年に65隻、2041年に75隻のイージス艦が現役であることになる。2010年以降に建造されるイージス艦は建造時点でBMD対応となる[1]

1980年代にロナルド・レーガン政権は戦略防衛構想(SDI)を推進した。当初軌道上のレールガンを用いることが計画されたが、技術的な問題から大気圏外で運動エネルギー弾を用いて迎撃する軽量大気圏外迎撃体 (LEAP、Lightweight Exo-Atmospheric Projectile)に変更された。戦略防衛構想局(Strategic Defense Initiative Organization)は海軍と共同でテリアミサイルにLEAPを載せる研究を行った。このプロジェクトは1991年から1995年まで続き5回のテスト発射が行われた。1995年前半に2度続けて行われたテストでは迎撃に失敗した。1回目はソフトウェアのエラーと第二ロケットの不具合で、二回目は迎撃弾の点火スイッチが逆向きに取り付けられていたミスが原因だった。

イージスBMD[編集]

1990年代後半になると、イージスシステムを用いたイージスLEAP迎撃(ALI)プログラムが開始された。この計画では5回中2回の成功を収めた。2002年6月13日にFM-3フライト・テストで迎撃に成功した。ジョージ・W・ブッシュ大統領は2004年後半までに弾道ミサイル防衛能力を獲得する計画を立てていた。

ALIプログラムの完了をもってイージスBMDは生産段階に移行した。最初のSM-3ブロック1ミサイルは2004年10月に、バージョン3.0のイージスシステムは2005年に納入された。

複数のイージス艦が目標の探知・追跡をおこない情報をやり取りすることが可能である。弾道ミサイルの発射位置に近いレーダーからの情報を基にして後方のイージス艦がSM-3を発射することもできる。このような能力は「launch on remote」と呼ばれており、海上配備XバンドレーダーAN/TPY-2とも連携可能である。イージスBMDはTHAADミサイルなどの他のBMDシステムともデータをやり取りする設計となっている[1]

イージスBMD計画の予算は大半がMDA予算において計上されているほか、海軍も一部を負担している。2012年予算においては、イージスBMDとEPAAの一部であるイージス・アショア・サイト予算として、23億8,030万ドルが要求されている[1]

EPAA[編集]

ヨーロッパ諸国における弾道ミサイル防衛は、イランからの弾道ミサイル攻撃が仮想敵とされてきた。ジョージ・W・ブッシュ政権は、チェコにレーダーを、ポーランドGBIミサイル防衛施設を建設することを合意していた。バラク・オバマ大統領はこの合意を2009年に破棄し、同年9月17日に弾道ミサイル防衛能力を段階的に向上させるアプローチ(European Phased Adaptive Approach)を発表した。EPAAはヨーロッパに配備するBMD対応イージス艦と新たに開発する陸上型システムであるイージス・アショア・サイトを用いることを予定している。1つのイージス・アショア・サイトは陸上型SPY-1レーダーと24基のSM-3ミサイルを備えるVLS(垂直発射システム)から構成される。VLSは海軍のイージス艦で用いられている既存のVLSを基に移動可能なものを開発される[1]

EPAAは2011年から2020年にかけての4段階からなる[2]

第一段階として、2011年までにブロック1Aを装備したアメリカ海軍の既存のBMD対応イージス艦をヨーロッパに配備する。以後の段階でヨーロッパに配備されるイージス艦も増強される。最初に派遣されたのはノーフォーク海軍基地を母港とするモンテレーで、2011年3月から半年間地中海に配備された。2011年10月5日にアメリカとスペインNATOは共同で、4隻のBMD能力獲得イージス艦をスペインのロタに2014年から前進配備させると発表した。

第二段階は2015年を目標としてイージス・アショア・サイトを1つ南ヨーロッパルーマニアを予定)に建設し、SM-3ブロック1Bが新たに配備される。

第三段階は2018年を目標として新たに中距離弾道ミサイルにも対応し、2つ目のイージス・アショア・サイトを北ヨーロッパポーランドを予定)に建設する。SM-3ブロック2Aが新たに配備される。

第四段階は約10年後を目標としてブロック2Bを用いて中東からの大陸間弾道ミサイルに対応させる。

世界の他の地域では具体的な陸上設置型イージスBMDシステムは計画されていないものの、西太平洋地域やペルシア湾においてもEPAAを応用することができるとしている。

課題[編集]

アメリカ軍の司令官たちは、EPAAがさらに進展するとBMD対応艦をより早いペースで増加させる必要があると考えており、またBMD任務によってイージス艦のBMD以外の任務が制約を受けかねないと憂慮している。他の課題としては、EPAAに対するヨーロッパ諸国の貢献とSM-3ブロック2Bの能力、プログラムの技術的なリスクが上げられる。EPAAはヨーロッパ諸国を防衛するための計画であるが、それらの国がどの程度予算を支出するのかまったく決まっていない[1]

配備と利用[編集]

アメリカ海軍[編集]

FY2011時点で23隻のタイコンデロガ級巡洋艦とアーレイ・バーク級駆逐艦がBMD能力を獲得しており、111のSM-3ミサイルが配備されている。現在の計画ではFY2016までにBMD能力獲得艦は41に、SM-3ミサイルの数は341に増加する[1]

アメリカ海軍は2011年2月の時点で、6隻のBMD対応イージス艦がパール・ハーバーに、5隻がサンディエゴに配備されている。大西洋ではノーフォークとメイポート海軍補給基地に配備されている。本国の他には5隻のBMD対応イージス艦が横須賀を母港としている。ペルシャ湾にもBMD対応イージス艦を配備しており、それぞれ北朝鮮とイランを対象としている[1]

海上自衛隊[編集]

1998年の北朝鮮によるテポドン1号打ち上げを受けて日本政府は1999年度からBMDに係る日米共同技術研究に着手した[3]。2003年12月の安全保障会議及び閣議において弾道ミサイル防衛システムを導入することを決定した[4]

日本はイージスBMDとパトリオットミサイルPAC-3による多層防衛システムを構築するとともに、4基のJ/FPS-5を新設し7基のJ/FPS-3とバッジシステムを改修した。

日本はSM-3ブロック2Aの開発に参加しており、クラムシェル型ノーズコーンと第二弾ロケットモーター、キネティック弾頭の一部を担当している。2波長赤外線シーカーについては日米で異なる種類のものを開発し、どちらかを採用する[5]

海上自衛隊は、2004年から4隻のこんごう型護衛艦に順次バージョン3.6.1のBMD能力を付加する改修を行い、SM-3ブロック1Aを調達するとともに、発射テストをハワイ沖でおこなった。1隻あたりの改修費とSM3取得費は340億円であった。2隻のあたご型護衛艦についても2012年予算において合計360億円をかけてBMD能力付加改修とSM-3の調達することが決定された。

2009年4月5日に行われた北朝鮮によるミサイル発射実験の際には、ロケット本体や破片が日本の領土、領海に落下した場合に迎撃することが決定された。事前に防衛大臣から「弾道ミサイル等に対する破壊措置命令」が発出され、自衛隊はBMD統合任務部隊を編成した。「こんごう」および「ちょうかい」が日本海へ、PAC-3部隊が東北地方首都圏の自衛隊駐屯地に展開された。ミサイルは11時37分頃に東北地方から太平洋に通過し破壊措置命令は解除された。

2012年4月に予定されている北朝鮮によるミサイル発射実験では、ミサイルは黄海沿岸の平安北道鉄山郡東倉里から南方に打ち上げられ沖縄県先島諸島上空を通過すると見られる。2009年の際と同様に領土領海への破片落下の際に迎撃することが決定し、3月30日に破壊措置命令が発令された。沖縄周辺海域に2隻、日本海に1隻のこんごう型護衛艦を配置する。

他国[編集]

イージス艦を所有もしくは建造中であるスペイン、韓国オーストラリアがイージスBMDを調達する可能性のある国としてあげられている。その他にはイギリスオランダドイツデンマークなども候補国である。イージス以外の戦闘システムを採用している駆逐艦フリゲートもBMDに貢献できる可能性がある。オランダは以前から弾道ミサイル防衛に関心を示しており、タレス・ネーデルラント社のSmart-Lレーダーとそれを装備するデ・ゼーヴェン・プロヴィンシェン級フリゲートを用いたBMDを検討している。同レーダーを装備する艦を保有しているドイツとデンマークは計画を注視している[1]

迎撃弾[編集]

SM-3[編集]

SM-3はSM-2ブロックIVを基に開発されたものである。発展段階によってブロックに分けられている。現在既にブロック1Aが配備されている。江畑謙介は有効迎撃高度が120km以上、半径1200kmの広域防衛が可能であるとしている[6]。ブロック1Bは改良型2色ターゲット・シーカー、発展型シグナル・プロセッサー、発展型位置・方向制御システムを備えている。ロケットの燃料が燃え尽きた時点で記録する最高速度は3.0から3.5km/sになる。

ブロック2Aではブースターの直径が全体で13.5インチから21インチに大型化する。これにより搭載燃料が増加し、最高速度が45%から60%増加するとともに、大型の運動エネルギー弾頭を搭載できるようになる。日本はブロック2Aの開発に参加しており、一部の技術の開発を担当している。

ブロック2Bではキル・ヴィークルが小型化され、燃焼のフレキシブル化、制御ソフトウェアがアップグレードされる。

ミサイル防衛局はブロック1Aの価格は900万ドルから1,000万ドル、ブロック1Bは1,200万ドルから1,500万ドル、ブロック2Aは2,000万ドルから2,400万ドルと計算している[1]

SM-2ブロック4とSBT[編集]

SM-2は航空機と対艦ミサイル防衛用として設計されたが、弾道ミサイルの大気圏内での迎撃に用いられるよう改良したものがSM-2ブロック4である。2011年2月時点では75のSM-2ブロック4が調達されており、3つがフライト・テストで利用された。

MDAと海軍はSM-6を基にした弾道弾迎撃ミサイルsea-based terminal (SBT) を開発中である。SBTは2つのインクルメントに分類され、インクルメント1は2015年頃に、インクルメント2は2018年頃に導入される予定である[1]

バージョン[編集]

イージスBMDシステムは対応する使用武器によって幾つかのバージョンに分類されている。現在運用されているの3.61は、2006年に初期利用が認可され2008年に運用試験評価が完了したもので、 短距離弾道ミサイル準中距離弾道ミサイルに対応する。ミッドコースでの迎撃についてはSM-3ブロック1Aを、大気圏内での迎撃についてはSM-2ブロック4を利用する。

2012年に初期利用が開始される4.01はSM-3ブロック1Bの利用が可能となり、新たに中距離弾道ミサイルに対応する。2014年に初期利用が開始される5.0/5.01は終末段階迎撃弾としてSBTインクルメント1が利用可能となる。5.1/5.1.1ではSM-3ブロック2AとSBTインクルメント1が利用可能となり制限付きで大陸間弾道ミサイルが対応可能となる。5.1/5.1.1ではブロック2Bが利用可能となる[1]

フライト・テスト[編集]

2002年からSM-3を用いて23回の大気圏外での迎撃実験が行われ18回で迎撃に成功した。うち4回は海上自衛隊によるもので3回の実験が成功を収めた。SM-2ブロック4を用いた大気圏内迎撃実験は、3回行われ全てで成功した。これらの実験とは別に、軌道を外れた人工衛星USA-193が2008年2月20日にSM-3ブロック1Aを用いて撃墜された[1]

国防省の運用試験評価局は、SM-3ブロック1Aを用いたミッドコース段階での準中距離弾道ミサイルを迎撃する能力を継続的に示していることを確認したとしている。

初めての試験であるFM-2は2002年1月25日に行われ、SM-3を用いてUnitary TTV short-range targetを大気圏外で迎撃することに成功した。

2003年6月18日に行われたFM-5では、初めて目標の迎撃に失敗した。

2005年11月17日に行われたFTM 04-2 (FM-8)では、初めて分離型の準中距離ターゲットが目標として用いられ、撃墜に成功した。

2007年12月17日に行われたJFTM-1では、海上自衛隊の「こんごう」がカウアイ島太平洋ミサイル試射場から発射された分離型の準中距離ターゲットの撃墜に成功した[7]

2008年11月19日のJFTM-2では、海上自衛隊の「ちょうかい」が分離型の準中距離ターゲットの撃墜に失敗した[8]

2009年10月17日に行われたJFTM-3では、海上自衛隊の「みょうこう」が分離型の準中距離ターゲットの撃墜に成功した。レイク・エリーとポール・ハミルトンが目標追跡に協力した[9]

2010年10月28日に行われたJFTM-4では、海上自衛隊の「きりしま」が分離型の準中距離ターゲットの撃墜に成功した。レイク・エリーとラッセルが目標追跡に協力した[10]

2011年4月14日に行われたFTM-15では、ブロック1Aを用いて中距離弾道ミサイルの迎撃に成功した。「Launch on Remote」が初めて試みられた例でありクェゼリン環礁から発射された射程3000-5500kmのトライデント改造標的を、1000km以上離れたウェーク島のAN/TPY-2からの情報を「オカーン」に伝達しSM-3を発射した[11]

ブロック1Bを使用する初のテストとなったFTM-16は2011年9月1日におこなわれ、「レイク・エリー」は短距離弾道ミサイルの撃墜に失敗した[12]

参照[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i j k l Ronald O'Rourke (2011年4月19日). “Navy Aegis Ballistic Missile Defense (BMD) Program: Background and Issues for Congress (PDF)”. Congressional Research Service. 2012年3月30日閲覧。
  2. ^ United States European Phased Adaptive Approach (EPAA) and NATO Missile Defense”. Missile Defense Agency (2011年5月3日). 2012年3月30日閲覧。
  3. ^ 官報資料版 平成11年4月7日、首相官邸
  4. ^ 内閣官房長官談話、首相官邸、平成15年12月19日
  5. ^ 参考資料ー自衛隊の現状と課題ー、防衛庁、平成16年7月13日
  6. ^ スタンダードSM-3迎撃ミサイル”. kotobank.jp. 2012年3月30日閲覧。
  7. ^ Japan/U.S. Missile Defense Flight Test Successful”. Missile Defense Agency (2007年12月17日). 2012年3月30日閲覧。
  8. ^ Japan/U.S. Missile Defense Flight Test Completed”. Missile Defense Agency (2008年11月19日). 2012年3月30日閲覧。
  9. ^ Japan/U.S. Missile Defense Flight Test Successful”. Missile Defense Agency (2009年10月28日). 2012年3月30日閲覧。
  10. ^ Joint Japan-U.S. Missile Defense Flight Test Successful”. Missile Defense Agency (2010年10月29日). 2012年3月30日閲覧。
  11. ^ Sea-based Missile Defense Flight Test Results in Successful Intercept”. Missile Defense Agency (2011年4月15日). 2012年3月30日閲覧。
  12. ^ Sea-Based Missile Defense Test Conducted”. Missile Defense Agency (2011年9月1日). 2012年3月30日閲覧。

外部リンク[編集]