AN/SPY-1

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あたご型護衛艦あしがら
艦橋正面上部、クリーム色の八角形がAN/SPY-1D(V)両舷に各1基が確認できる

AN/SPY-1は、アメリカ合衆国イージスシステム用に開発した艦載多機能レーダー。製造はロッキード・マーティン社。


概要[編集]

SPY-1レーダーは、イージス武器システムの核心となるサブシステムであり、多数目標の同時捜索探知、追尾、評定、および発射されたミサイルの追尾・指令誘導の役目を一手に担う、多機能レーダーである。パッシヴ・フェーズド・アレイ・タイプの固定式平板アンテナを4枚持ち、これを四方に向けて上部構造物に固定装備することで、全周半球空間の捜索が可能になっている。その特徴的な外見は、イージス艦の特徴ともなっている。極めて優れた探知能力を備えており、アメリカ海軍は「SPYレーダ表示画面に目標を視認すれば、そこには目標が存在する。表示画面に目標を視認しなければ、そこには絶対に目標は存在しない」と豪語するほどである[1]

最初に開発されたA型、発展型のB型巡洋艦向けで、前後の上部構造物に分けて装備された。その後、レーダー機器を艦橋構造物に集中配置して効率化をはかるとともに小型化したD型、その改良型のD(V)型が駆逐艦向けとして開発された。また、D型をベースとしてさらに簡略化されたフリゲート向けのF型、より小型の艦艇向けのK型も開発されている。

開発[編集]

アメリカ国立シビアストーム研究所(NSSL)に設置されたSPY-1A。レドーム設置前で、素子が見えている

ジェット機の登場による経空脅威の増大に対処するため、アメリカ海軍は1958年より次世代の防空システムとしてタイフォン・システムの開発を開始していた。タイフォン・システムは、多機能レーダであるSPG-59を中核として、WDSの武器管制機能とNTDS戦術情報処理機能を統合した統合化システムで、システム・リアクション・タイム 10秒、20の目標を同時追尾可能というもので、時代を考えると極めて野心的なものであった。そのSPG-59は、目標を捜索・捕捉・追尾して、TVM方式でタイフォン・ミサイルを誘導するという多機能レーダで、ルーネベルグ・レンズによるビーム・ステアリング方式を採用、出力管としてTWTを採用した3400のアンテナ素子を備えた大直径の発信アンテナと、受信機として3つのルーネベルグ・レンズを使用し、動作周波数はCバンドと計画された。しかし、要求性能の高さに対する技術水準の低さ、統合システムの開発への経験不足により、開発は極めて難航した。とくにSPG-59レーダーは信頼性が低く、性能は要求に遠く達しない上に重量過大であった。

1962年には、タイフォン計画は実質的に打ち切られており、これを受けて1963年、背水の陣のアメリカ海軍は先進水上ミサイル・システム(ASMS)計画を開始した。ASMSの開発に際して、海軍は民間企業に研究と提案書の提出を求めるとともに、独自に選抜した人材による評価グループを設立した。ウィシントン提督をリーダーとするこのグループの主要な任務は、ASMSのシステムコンセプトとともに、SPY-1レーダの設計指針を策定することにあった。

SPY-1はASMSの中核となるものであり、タイフォン・システムの頓挫の一因がSPG-59の開発失敗にあったことを考えると、SPY-1レーダの設計指針の策定は極めて重要であった。最初にして最も重要な問題は、動作周波数の決定にあった。Xバンド以上では探知距離が不足で、Sバンド以下では送信設備が過大となるため、選択肢はCバンドとSバンドに絞られた。兵器局が推すCバンドは低高度目標に対する探知性能に優れ、ECCM性も高く、アンテナを小型にすることができるが、探知距離に不安があった。一方、艦船局が推すSバンドは遠距離捜索性能に優れ、性能による影響も小さいが、アンテナは大型化が予想された。当初、SPG-59がCバンドを採用していたこともあってCバンドが有力であったが、ウィシントン提督の裁決により、Sバンドが採用された。この決定により、ウィシントン提督は、米国の兵器開発史上に不朽の名声を残すことになった[1]

これに続き、レーダー送信管の選定が行われ、SPG-59で採用された進行波管(TWT)ではなく交差電力増幅管(CFA)が採用され[2]、本数は32本となった。

また、ミサイルの誘導機能を分離したスレイブ型の専用イルミネーターを装備することも決定された。これにより開発されたのが、射撃管制システムMk 99のレーダーAN/SPG-62である。

評価グループの報告を受け、1969年にRCA社が担当企業として選定されるとともに、ASMS計画はイージス計画と改称した。SPY-1の試作品(Engineering Development Model 1: EDM-1)は、陸上の実験施設[3]で1973年より稼働し、信頼性と性能の試験を経て、WCS(Weapon Control System)とC&D(Command and Decision System)と連接されて実験艦「ノートン・サウンド」に搭載され、1974年より洋上試験が開始された。同艦には、ミサイル発射機なども搭載され、太平洋上で総合的な試験がくりかえされた。これらの試験においては、SPY-1のECCM性能、全天候性能が注目された。

SPY-1シリーズの最初の実用機は、ミサイル巡洋艦タイコンデロガ」に搭載され、1983年の同艦の就役とともに運用を開始した[4]

機構[編集]

フェイズドアレイ・レーダーであるSPY-1は、フェイズ・シフターによってビーム・ステアリングを行っている。動作周波数はSバンド、出力は最大4MW、平均64KWである。また、アンテナ一面当たりのレーダー・アンテナ素子は、SPY-1シリーズの主流であってアレイの一辺が3.66メートルのA, B, B(V), D, D(V)型においては4350個、一辺2.44メートルと小型化されたF, F(V)型では1856個、一辺1.68メートルとさらに小型化されたK型では912個である[5]

探知段階においては、コンピュータによって制御された幅1.7度のペンシル・ビームが、全周の半球空間を走査する。走査パターンはドクトリンに従って制御され、低空域など特定の空域を集中的に捜索することも可能である。走査中に探知された目標の情報(距離、方位角および高角)は保存され、1秒間に数回という頻度で更新される[6]。ある1つの捜索ビームで1つの目標を初探知すると、コンピュータはその目標に対して複数のビームを指向して捕捉し、追尾に移行する[1]。最大探知距離は500km、同時に追尾できる目標数は200以上と言われている。

管制段階においては、SPY-1レーダは多数のチャンネルを有する射撃管制レーダとして機能し、高精度で目標を追尾して射撃諸元を算出する。

攻撃段階においては、スタンダードミサイルの終末誘導を行う射撃管制装置Mk 99を補完し、SM-2に対して2-wayリンクコマンドの中間指令誘導を行うことで、目標に対するMk 99の拘束時間を局限するとともに、ミサイルの誘導・飛翔経路を効率化する。

このように、SPY-1は目標の捜索・探知、追尾(および射撃諸元の算出)という複数の機能を単一の機種で実現しており、これにより、従来の防空システムでネックとなっていた、捜索レーダーから追尾レーダーへの目標の移管などがより迅速化され、交戦がより円滑化された。それらを一括して担当するSPY-1は、捜索・探知、管制、攻撃という、武器システムの基本機能の中核体として機能する[1]

バージョン[編集]

SPY-1A
SPY-1A
最初の実用型はイージス・システムのベースライン1および2に組み込まれ、タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦1番艦から12番艦までの12隻が装備した[7]
また、2003年には、海軍の退役艦から撤去されたSPY-1Aがアメリカ国立シビアストーム研究所(NSSL)に設置され、気象レーダーとして運用されている。NSSLの保有機はアンテナ1面構成となっており、レドームに収容されている[8]
SPY-1B
A型の発展型。ベースライン3に組み込まれ、タイコンデロガ級の13番艦から27番艦までの15隻に搭載された。
発信器の能力が改善され、高角度での発信能力が増強されており、急角度のハイ・ダイヴで突入する目標への対処能力が向上したほか、アンテナ構成が見直されてサイドローブが減少し、精度も向上している。また、構成機器も効率化され、重量などの節約にもつながっている。なお、19番艦以降はさらに改良されたSPY-1B(V)を装備しているとも言われている[7]


SPY-1D
SPY-1D
B型をもとに、レーダー配置の効率化などによって、電力増幅部を半減してさらに軽量化した駆逐艦向けのモデル。1991年より就役を開始したアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦に搭載されたほか、日本のこんごう型護衛艦スペインアルバロ・デ・バサン級フリゲートにも搭載されている。
また、アーレイ・バーク級のうちベースライン6フェーズIII以降を搭載した艦(プレブル以降)および日本のあたご型護衛艦と韓国の世宗大王級駆逐艦には、沿岸戦環境にも対応した改良型のSPY-1D(V)が搭載されている[7][9]


SPY-1F
D型をベースとしてレーダー・アンテナ素子を減少させ(4,350個から1,856個へ)、送信電力を落として小型軽量化モデル。
ノルウェーフリチョフ・ナンセン級フリゲート(5,121トン)に搭載された。アンテナの小型化と出力の低下によって最大探知距離が減少したほか、ミサイル防衛への使用には対応していないが、それ以外の機能についてはD型と同等である。また、D(V)型と同様の改良を施したSPY-F(V)型も開発されている[10]
SPY-1K
レーダー・アンテナ素子をさらに減少させた(912個)SPY-1シリーズの最軽量モデル。
現在のところ実際の搭載艦はないが、イスラエルに対して提案されているAFCONコルベット(2,700トン)はSPY-1Kによるイージスシステムを目玉にしているほか、アメリカの沿海域戦闘艦の一案である「フリーダム」にも搭載される計画がある[11][10]

脚注[編集]

  1. ^ a b c d 大熊康之(2006年)による
  2. ^ 『軍事システム エンジニアリング』および「米海軍の研究開発システム」による。「多機能レーダーの機能と発達」によればTWTとCFAの組み合わせ
  3. ^ ニュージャージー州ムーアス・タウンに所在する多目的陸上開発サイト (CSEDS)で、EDM-1のほかに対空・対水上レーダやデータリンクを装備している。水上戦闘艦の上構を再現した異様な外観[1]から「トウモロコシ畑の巡洋艦」「ランコカス号」(USS Rancocas)と通称された。ハイウェイ(ニュージャージー ターンパイクおよびI-295)からも見えるため、地元の名所となっている
  4. ^ 藤木平八郎(『世界の艦船』2006年12月号)による
  5. ^ 野木恵一(『世界の艦船』2008年3月号)による
  6. ^ 多田智彦(『世界の艦船』2008年3月号)による
  7. ^ a b c 岡部いさく(『世界の艦船』2006年12月号)による
  8. ^ NSSL (2009年3月). “National Severe Storms Laboratory - Phased Array Radar Technology (PPT)” (英語). 2012年8月11日閲覧。
  9. ^ 山本紀義(『世界の艦船』2003年2月号)による
  10. ^ a b Lockheed Martin "SPY-1 Family of Radars"による
  11. ^ ロッキード・マーティンLCSプログラム・チーム(『世界の艦船』2005年6月号)による

参考文献[編集]

  • 大熊康之『軍事システム エンジニアリング』かや書房、2006年、35-115頁
  • 岡部いさく(『世界の艦船』2006年12月号)による。
  • 多田智彦「多機能レーダーの機能と発達」『世界の艦船』2008年3月号(通巻第687集)、76-81頁
  • 野木恵一「世界の艦載多機能レーダー」『世界の艦船』2008年3月号(通巻第687集)、86-87頁
  • 藤木平八郎「イージス・システム開発の歩み」『世界の艦船』2006年12月号(通巻第667集)、69-75頁
  • 山本紀義「イージスの眼 SPY-1レーダーの現状と将来」『世界の艦船』2003年2月号(通巻第607集)、90-91頁
  • ロッキード・マーチンLCSプログラム・チーム「米LCS 2案の技術的特徴 ロッキード・マーチン社案」『世界の艦船』2005年6月号(通巻第643集)、82-87頁
  • Lockheed Martin (2006年). “SPY-1 Family of Radars -Battle-Proven Naval Radar Performance- (PDF)” (英語). 2009年1月29日閲覧。

関連項目[編集]