FCS-3

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
FCS-3を艦橋上に装備した試験艦「あすか」

FCS-300式射撃指揮装置3型)は、日本防衛庁技術研究本部が開発した艦載武器システム。射撃指揮装置(FCS)や艦載対空レーダーを統合した対空戦闘システムであり、機能を対空捜索と航空管制に限定したシステムはOPS-50と呼称される。

概要[編集]

FCS-3は、試験艦「あすか」での試験を経て2000年(平成12年)に制式化された対空脅威の捜索・追尾を行なう多機能レーダーを中核とする対空戦闘システムである。多機能レーダーはCバンドで動作するアクティブ式フェーズドアレイレーダーであり、4面固定式の平板アンテナにより全方向の半球空間を探索する。多目標の捜索・探知・追尾・武器管制を自動化、迅速なリアクションを可能にしている[1]。また、電子機器の信頼性向上も行われた[1]

制式化後も開発は続き2009年(平成21年)の「ひゅうが」の就役により初めて改良型が実戦配備された。改良型の最大の改良点は、Cバンドレーダーに加えてミサイルの誘導を行うXバンドレーダーが追加された事と、新戦術情報処理装置OYQ-10等と連接されて新戦闘指揮システムATECS(Advanced Technology Combat System)のサブシステムの1つとして組み込まれるようになったことである。

開発経緯[編集]

制式化まで[編集]

FCS-3の開発の端緒は、1980年(昭和55年)から1987年(昭和62年)までの五三中期業務見積りから五六中期業務見積りの時期にまでさかのぼる。この時期、海上自衛隊は、初の汎用護衛艦としてはつゆき型汎用護衛艦の整備を進めていた。その搭載する対空戦闘システムは、主として下記のようなサブシステムから構成されていた。

この系譜はその後、OPS-14をOPS-24 3次元レーダーに、OYQ-5をOYQ-6/7に更新したあさぎり型汎用護衛艦に発展するが、既にこの構成では、特に対空戦闘能力の面で限界があることが明らかになっていた。すなわち、対空レーダーで探知した目標情報を戦術情報処理装置に入力する過程と、戦術情報処理装置での情勢判断・意思決定後に目標情報を射撃指揮装置に入力する過程がオペレータによる手動処理であり、さらに意思決定過程の大部分も人間に頼っていたため、対応時間の短縮が困難となっていた。

FCS-3の開発は、これらの問題を克服した新世代の個艦防空システム(Point Defense Missile System; PDMS)として開始された。技術研究本部は1983年より部内研究を開始[1]1986年(昭和61年)より3年に渡って研究試作を行ない[1]、Cバンドで動作するフェイズド・アレイ・レーダーを作製して陸上試験を実施した。その成果をもとに、1990年(平成2年)より実艦への搭載を前提としたアンテナの開発試作を開始し、これを1995年(平成7年)に就役した試験艦「あすか」に搭載し、5年間に渡って技術・実用試験に供したのち、2000年(平成12年)に00式射撃指揮装置として制式化した[1]

なお、日本は個艦防空を想定して多機能レーダーにCバンドを選択したが[2]、アメリカはイージスシステムの開発段階において、その中核となる多機能レーダーの動作周波数について、SバンドとCバンドのいずれを採用するかで艦船局と兵器局が対立し、最終的にプロジェクト・リーダーであったウィシントン提督の判断によってSバンドに決定したという経緯がある。この際の検討によれば、Cバンド・レーダーはSバンド・レーダーに対し、低高度目標に対する探知性能に優れ、より小型軽量のアンテナを有するために艤装が容易で、より広域の信号帯域幅を有するという点でECCM性に優れる一方、探知距離や耐荒天性などで劣るとされていた[3]

実戦配備まで[編集]

当初、FCS-3はむらさめ型汎用護衛艦の後期型、若しくはたかなみ型汎用護衛艦から実戦配備されると言われていたが、FCS-3の配備は制式化された後もなかなか始まらなかった。これは当初、FCS-3が99式空対空誘導弾(AAM-4)をベースに開発される予定だった終末アクティブ誘導方式艦対空誘導弾(AHRIM: Active Homing RIM)のXRIM-4と組み合わされて対空戦闘システムを構成する計画だったことが一因である。すなわち、XRIM-4は開発遅延とアメリカでのESSMの実用化を受けて開発が中止されてしまい、新たにFCS-3がESSMの運用に対応するため、Xバンドで動作するアクティブ・フェイズド・アレイ・タイプのイルミネーターを追加する改良型の開発が必要になってしまったのである。

また、FCS-3の開発期間が長期間に及んだため、開発完了時点で既に陳腐化してしまっていたことも改良型が必要になった理由である。このような事態を受けて制式化後も改良型の開発が続けられて、2004年(平成16年)に初めて改良型であるFCS-3のひゅうが型への搭載が決定された。そして2009年(平成21年)のひゅうが型の就役でようやく実戦配備されることになった。

搭載艦ごとのFCS-3[編集]

ひゅうが型ヘリコプター護衛艦
いせ」の艦橋上部に設置されたFCS-3。大型がCバンド、小型がXバンドのレーダー面
ひゅうが型(16/18DDH)に搭載されたFCS-3の多機能レーダーは、試験艦「あすか」に搭載されていたCバンドレーダーの台枠を流用しているが、レーダーのヒ化ガリウムアンテナ素子自体は4面とも新造されている。試験艦「あすか」に搭載されていた多機能レーダーからの大きな改良点は、Cバンドレーダーの横にESSMを誘導するためのより小型のXバンドレーダーが各1面ずつ追加装備されていることである。これはタレス社APARシステムの一部を採用した[4]もので、これに伴いESSMを誘導するためののICWI(間欠連続波照射)のアルゴリズムも導入されている。最大探知距離は200キロ以上、最大追尾目標数は300程度とされている。
また、FCS-3の多機能レーダーが新型の戦術情報処理装置であるOYQ-10 ACDS(Advanced CDS)と組み合わされるている事も大きな改良点であり、これによりFCS-3搭載艦の戦闘能力の大幅な向上が図られている。OYQ-10の特徴は、オペレーターの判断支援および操作支援のため、予想される戦術状況に対応して、IF-THENルールを用いて形式化されたデータベースに基くドクトリン管制を採用している点にある。これによって、オペレーターの関与は必要最小限に抑えられ、意思決定は飛躍的に迅速化される。FCS-3とOYQ-10は、新対潜情報処理装置(ASWCS: Anti Submarine Warfare Control System)、水上艦用EW管制システム EWCSとともに、新戦闘指揮システムATECS(Advanced Technology Combat System)を構成する。また、システムに商用オフザシェルフ(COTS)を多用したのも改良点であり、プロセッサは試験艦「あすか」に搭載されていたものに比べて100倍以上の処理能力を備えている。
FCS-3は対空捜索レーダーと対水上捜索レーダーとしての機能も有しており、各種レーダーを一本化して護衛艦に搭載するシステムをコンパクト化することが出来る。ひゅうが型護衛艦では近距離の水上目標や沿岸状況把握のためのOPS-20C航海レーダーのみを残し、OPS-24対空捜索レーダーとOPS-28対水上捜索レーダーを取り外している。また、FCS-3及びOYQ-10にはヘリコプター搭載護衛艦に必要な艦載機の飛行管制機能を備えており[5]、ひゅうが型に搭載されたFCS-3は単なる対空戦闘指揮にとどまらない多様な役割を担っている。
当初、ひゅうが型に搭載されるFCS-3は、試験艦「あすか」に搭載されていたものと区別するために便宜的にFCS-3改と呼称されていたが、その後はFCS-3と呼称されている。
あきづき型汎用護衛艦
あきづき」のFCS-3A
2006年(平成18年)、あきづき型(19/20/21DD)にもFCS-3の改良型が搭載されることが決定した[6]。このモデルはFCS-3Aと呼称され、レーダーに窒化ガリウム(ガリウム・ナイトライド)素子を採用することで、モジュールの出力はひゅうが型の搭載システムの3倍以上に増強されており、FCS-3Aを管制する戦闘指揮システムのOYQ-11にも複数目標や横行目標(自艦ではなく僚艦へ向かう目標)を対処するためのアルゴリズムが追加されている。
これらの性能向上策により、あきづき型護衛艦の搭載システムは僚艦防空(Local Area Defense)任務に対応しうる性能を有することになる。これは、ミサイル防衛任務によって、護衛隊群のイージスシステム搭載ミサイル護衛艦のリソースが割かれることで生じる間隙を埋めるために必要な措置である。具体的には、ミサイル防衛作戦中に通常の航空脅威に対して脆弱となるイージス艦を直接護衛したり、あるいはミサイル防衛作戦のためにイージス艦が引き抜かれた艦隊の防空を担当することが考えられている。
また、新たに5インチ砲の管制機能も付加されている。これによりFCS-3AとOQY-11が射撃計算や弾着観測を担い、対空・対水上・対地の各種砲撃の管制を行うこととなる。
いずも型ヘリコプター護衛艦
ひゅうが型に続くヘリコプター搭載護衛艦のいずも型(22/24DDH)に搭載する火器は高性能20mm機関砲SeaRAMになる予定である。その為、FCS-3の射撃管制能力は不要となり、機能を対空捜索と航空管制に限定したシステムが搭載される。これはOPS-50と呼称され、最大探知距離は約260キロに及ぶとされる。22DDHは1方向につきレーダー面が1基なのでCバンドのみと思われる。
また、対空捜索に多くのリソースを割いている為かOPS-28が再び装備される予定である。
25DD
平成25年度に建造が決定した25DDはあきづき型の準同型艦とも言える艦容をしているが、主任務が対空から対潜に変更されている。これにより、搭載されるFCS-3の能力も個艦防空に限定され、ひゅうが・あきづき型が搭載していたタレス社のICWI機能は経費節減のため削除される。替りに国産の連続波照射装置が搭載されるが、ESSMの同時誘導数は低下する。
将来汎用護衛艦
2014年に撮影された「あすか」
FCS-3は上記の通り逐次改良が続けられているが、2008年度(平成20年度)から2013年度(平成25年度)まで「FCS-3の性能向上の研究」名目で更なる改良型の研究開発が進められており、この改良型が将来汎用護衛艦に搭載される予定である。
この改良型では、Xバンド・レーダーに捜索・追尾機能を付加することで、Cバンド・レーダーをより遠距離の捜索に特化させることが検討されており、これによってCバンド・レーダーは小型化できるので、システム全体の小型軽量化、消費電力低減、整備性の向上が可能となり、将来汎用護衛艦の設計の自由度の向上と艤装条件の緩和が可能となる。
また、捜索・探知・追尾範囲の拡大、超低高度目標(シースキミングミサイル)対処能力の向上、ECCM能力の向上も図られている。
改良型は2013年4月の段階で2014年度よりあすかへの搭載・試験が行われるとされていた[7]。実際、2014年に撮影されたあすかには旧来のFCS-3が搭載されたアンテナ部とマスト上部のいずれも艦首側に新たなフェイズドアレイアンテナが設置されており、いずれかが該当することになる。

名称について[編集]

  • FCS-3の名称基準は混乱しており、以前は「あすか」搭載型を「FCS-3」、「ひゅうが」以降の搭載型を「FCS-3改」と呼称していた。しかしあきづき型が進水する段階になって、ひゅうが型に搭載される型式を「FCS-3」、あきづき型護衛艦に搭載される型式を「FCS-3A」と呼称するように変更された。これは今後もFCS-3の異なるバージョンが開発される為と思われる。なお、機能を対空捜索と航空管制に限定したシステムは「OPS-50」と呼称される。

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e 技術研究本部50年史 P81-82
  2. ^ 石井幸祐(『世界の艦船』2008年3月号)
  3. ^ 大熊康之(2006年)による
  4. ^ 東郷行紀「1. 護衛艦 (特集・海上自衛隊の新艦載兵器)」、『世界の艦船』第778号、海人社、2013年5月、 76-85頁。
  5. ^ 多田智彦(『軍事研究』2010年1月号別冊)
  6. ^ イージス艦守る新鋭艦19DDを調達」、朝雲新聞、2006年12月14日
  7. ^ 東郷行紀「洋上試験評価の担い手 : 試験艦「あすか」と「くりはま」」、『世界の艦船』第778号、海人社、2013年5月、 98-103頁、 NAID 40019640910

参考文献[編集]

  • 石井幸祐「海上自衛隊の多機能レーダー FCS-3の能力と限界」『世界の艦船』2008年3月号
  • 大熊康之『軍事システム エンジニアリング』かや書房、2006年
  • 『軍事研究2010年1月号別冊 新兵器最前線シリーズ9 海上自衛隊の空母型護衛艦』2010年

関連項目[編集]