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2021年1月4日 (月) 06:50時点における版

タヌキ
タヌキ
タヌキ Nyctereutes procyonoides
保全状況評価[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: 食肉目 Carnivora
: イヌ科 Canidae
: タヌキ属 Nyctereutes
Temminck, 1838[2][3]
: タヌキ N. procyonoides
学名
Nyctereutes procyonoides (Gray, 1834)[2][3][4]
シノニム

Canis procyonoides Gray, 1834
Canis viverrinus Temminck, 1838
Nyctereutes albus Hornaday, 1904
Nyctereutes sinensis Brass, 1904
Nyctereutes amurensis
Matschie, 1907
Nyctereutes stegmanni
Matschie, 1907

和名
タヌキ[4]
英名
Raccoon dog[2][3][4]
分布図
青:自然分布、赤:移入

タヌキ(狸、Nyctereutes procyonoides)は、哺乳綱食肉目イヌ科タヌキ属に分類される食肉類。

分布

元々極東にのみ生息する世界的に見れば珍しい動物であり[5]日本朝鮮半島中国ロシア東部などに分布していた。主に山野に生息しているが、日本に棲むものは都市部でも見られる[5]

現在の生息域は、日本ロシアウスリー地方)、朝鮮半島中国モンゴル国ベトナム[1]ヨーロッパ各国(ウクライナエストニアオーストリアオランダカザフスタンスイススウェーデンスロバキアスロベニアセルビアチェコ共和国ドイツデンマークノルウェーハンガリーフィンランドフランスブルガリアベラルーシベルギーポーランドボスニア・ヘルツェゴビナマケドニア共和国モルドバ、旧ユーゴスラビアラトビアリトアニア、ロシア(ヨーロッパロシア))[1]

模式標本の産地(基準産地・タイプ産地・模式産地)は広東省(中国南部)とする研究者も一部にいるが[2]、学術的には不明である。1928年毛皮目的で旧ソビエト連邦に移入され、1955年にはポーランドや旧ドイツ民主共和国まで、北ヨーロッパ西ヨーロッパへも分布を拡大している[4]

上記のように1928年に毛皮をとる目的でソ連(現・ロシア)に移入されたビンエツタヌキが野生化し、ポーランド、東ドイツ(当時)を経て、現在はフィンランドやドイツにも生息している。1990年代頃からフランスやイタリアでも目撃例があり、分布を確実に広げている[6]。なお、ヨーロッパの外来種については、カリーニンタヌキN. p. kalininensis Sorokin, 1958 の種名が与えられているが、後述分類のとおりビンエツタヌキのシノニムとみなされている。

形態

体長50 - 80センチメートル[4]。体長約50-60cm。体重2 - 8.4キログラム[2]。秋季には体重8 - 10キログラムに達することもある[4]。冬場に向けてのタヌキは長短の密生した体毛でずんぐりとした体つきに見えるが、見かけよりは足も尾も長い。体色はふつう灰褐色で、目の周りや足は黒っぽくなっているが、まれに全身が真っ白な白変種の個体も存在する。幼獣は肩から前足にかけて焦げ茶の体毛で覆われており、有効な保護色となっているが、成熟すると目立たなくなる。精巣は、俗に「狸の金玉八畳敷き」と言われるが、それほど大きいわけではない。

食肉目の共通の先祖は森林で樹上生活を送っていたが、その中から獲物を求めて森林から草原へ活動の場を移し、追跡型の形態と生態を身につけていったのが、イヌ科のグループである。タヌキは湿地・森林での生活に適応したイヌの仲間であり、追跡形の肉食獣に較べて水辺の生活にも適した体型である[要出典]。胴長短足の体形など、原始的なイヌ科動物の特徴をよく残している。

分類

以下の分類はWard & Wurstar-Hill(1990)・MSW3(Wozencraft,2005)に従う。

Nyctereutes procyonoides procyonoides (Gray, 1834)
染色体数は2n=54+B[2]
N. p. kalininensisN. p. sinensisN. p. stegmanniはシノニムとされる[3]
Nyctereutes procyonoides koreensis Mori, 1922
タイプ産地はソウル近郊の議政府[2]大韓民国)。
Nyctereutes procyonoides orestes Thomas, 1923
タイプ産地は雲南省[2](中国南部)。
Nyctereutes procyonoides ussuriensis Matschie, 1907
タイプ産地はウスリー川河口[2]
N. p. amurensisはシノニムとされる[2]
Nyctereutes procyonoides viverrinus (Temmink, 1838)
タイプ産地は日本[2]
染色体数は2n=38+B[2]
N. p. albus(タイプ産地は日本の長崎)はシノニムとされる[2]

2015年に大陸産と比べて頭骨が長いこと・染色体数から日本産の個体群を独立種N. viverrinusとする説も提唱されている(この説では下位分類として亜種N. v. albusも認めている)[7]。この説に従うとタヌキ属の模式種はN. viverrinusとなる[3]。なお、研究論文ではないが、日高敏隆の『ぼくの世界博物誌』[8]には、フィンランドで毛皮用に養殖されているシベリアから来たタヌキと、日本のホンドタヌキの掛け合わせがうまく行っておらず、その原因を「日本タヌキとシベリアタヌキ染色体の数が少し違う。」からだと述べられている。

日本には、北海道エゾタヌキN. p. albus本州四国九州ホンドタヌキN. p. viverrinusの2亜種が棲息する。エゾタヌキはホンドタヌキよりやや被毛が長く、四肢もやや長めである。

生態

湖などの水辺で、下生えの深い環境を好む[2][4]。日本の例では河川や湖・海岸などの周辺にある広葉樹針葉樹混交林を好む[2]シベリアの例では河川や小さい湖の周辺にある沼地や草原・地・広葉樹林などを好み、タイガは避ける[2]森林で生活する。夜行性だが、人間の影響がない環境では昼間でも活動する[4]。単独もしくはペアで生活する。ペアの絆は強く、普通は相手が死ぬまで解消されない。行動圏は地域・季節などによって非常に変異が大きい[2]。本州北部や九州南部では秋季に49 - 59ヘクタールとする報告例もある[2]が、複数の個体の行動域が重複しており、特に縄張りというものはもっていないようである。泳ぎはうまく、日本では本土から金華山までの約700メートルを泳いだと考えられる例がある[4]。少なくとも日本では高さ150センチメートルの金網フェンスのよじ登りに成功した報告例がある[9]。巣穴は自分で掘るだけでなく、自然に開いた穴やアナグマ類キツネ類の穴も利用し、積み廃屋などの人工物を利用することもある[4]

本種には複数の個体が特定の場所にをする「ため糞(ふん)」という習性がある。1頭のタヌキの行動範囲の中には、約10か所のため糞場があり、1晩の餌場巡回で、そのうちの2、3か所を使う。ため糞場には、大きいところになると、直径50cm、高さ20cmもの糞が積もっているという。ため糞は、そのにおいによって、地域の個体同士の情報交換に役立っていると思われる。糞場のことを「ごーや」や「つか」と呼ぶ地方がある[10]

死んだふり、寝たふりをするという意味の「たぬき寝入り(擬死)」とよばれる言葉は、猟師猟銃を撃った時にその銃声に驚いてタヌキは弾がかすりもしていないのに気絶してしまい、猟師が獲物をしとめたと思って持ち去ろうと油断すると、タヌキは息を吹き返しそのまま逃げ去っていってしまうというタヌキの非常に臆病な性格からきている[要出典]。同様の習性を持つことから、擬死を指す表現として英語圏では fox sleep(キツネ寝入り)、それよりさらに一般的なものとして playing possum(ポッサムのまねをする)という言いまわしがある[11]。また「タヌキ」という言葉は、この「たぬき寝入り」を「タマヌキ(魂の抜けた状態)」と呼んだのが語源であるという説がある[12]

長い剛毛と密生した柔毛の組み合わせで、湿地の茂みの中も自由に行動でき、水生昆虫魚介類など水生動物も捕食する。足の指の間の皮膜は、泥地の歩行や遊泳など水辺での活動を容易にする。

温暖な地域に生息する個体に冬眠の習性はないが、秋になると冬に備えて脂肪を蓄え、体重を50%ほども増加させる。積雪の多い寒冷地では、冬期に穴ごもりする[13]ことが多い。タヌキのずんぐりしたイメージは、冬毛の長い上毛による部分も大きく、夏毛のタヌキは意外にスリムである。

食性は雑食で、齧歯類鳥類やその卵、両生類魚類昆虫多足類甲殻類軟体動物、動物の死骸、植物(果実・堅果・漿果・種子)などを食べる[2][4]。木に登ってカキやビワの果実を食べたり、人家近くで残飯を漁ったりすることもある[4]。捕食者はタイリクオオカミイヌオオヤマネコクズリイヌワシオオワシワシミミズクなどが挙げられる[2]

繁殖様式は胎生発情期は1 - 3月[2][4]。1頭のメスへ3 - 4頭のオスが集まり、ペアが形成されると周囲や互いに尿をかけて臭いをつける[4]。陰茎がメスの膣内で膨張して射精するまで抜けなくなり、尻合わせのような姿勢で交尾(交尾結合、タイ)を行う[4]。妊娠期間は59 - 64日[2][4]。5 - 7頭の幼獣を産むが、最大19頭の幼獣を産んだ例もある[2][4]。授乳期間は1か月半から2か月[4]。生後9 - 11か月で性成熟するが、繁殖を開始するのは生後2 - 3年以降が多い[4]

人間との関係

古来の関わり

野生のホンドタヌキ
野生のホンドタヌキ

タヌキは人家近くの里山でも度々見かけられ、日本では古くから親しまれてきた野生動物である。昔話にも登場するが、そのわりに、他の動物との識別は、必ずしも明確にはされてこなかった。 タヌキと最も混同されやすい動物はアナグマであり、「タヌキ」「ムジナ(貉)」「マミ(猯)」といった異称のうちのいずれが、タヌキやアナグマ、あるいはアナグマと同じイタチ科テンジャコウネコ科ハクビシンのような動物のうちのいずれを指すのかは、地方によっても細かく異なり、注意を要する。

たとえば、関東周辺の農村部には、今もタヌキを「ムジナ」と呼ぶ地域が多い。山形県の一部には「ホンムジナ」とよぶ地域もあった。栃木県の一部では「ムジナ」といえばタヌキを指し、逆に「タヌキ」の名がアナグマを指す。タヌキとアナグマを区別せず、一括して「ムジナ」と呼ぶ地域もある。タヌキの背には不明瞭な十字模様があるため、タヌキを「十字ムジナ」ということもある。

その他の地方名として「アナッポ」「アナホリ」「カイネホリ」「ダンザ」「トンチボー」「ハチムジナ」「バンブク」「ボーズ」「マメダ」、「ヨモノ」などがあり、行動、外観、伝承などに基づいた呼び方であろうことが分かる[14]

アイヌエゾタヌキを「モユク(小さな獲物)」と呼び、特に顔が黒いものを「スケ(飯炊きをする)モユク」と区別しているが[15]、エゾタヌキとムジナは区別されておらず、民話『モユク キムンカムイ』は一般的に『ムジナと』と訳される[16]

近代の関わり

近代に入り、タヌキが毛皮採取目的で乱獲され、全国的に絶滅が危惧された時期があった。1926年大正15年)2月24日山口県防府市の「向島(むこうしま)タヌキ生息地」が、国の天然記念物に指定されている。しかし1950年昭和25年)に本土と向島を結ぶ錦橋が建設されて以来、島のタヌキの生息数は減少の一途をたどり、天然記念物指定時には2万頭と推定されたタヌキが、1987年にはほぼ10頭未満まで減少し、近年では姿を見られることさえまれであるという。これは、錦橋を渡って島に侵入した野犬の影響が大きいと思われている。現在では、多数の市民ボランティアにより、様々な保護活動が行われている[17]

近年、本来の生息地である山林が開発により減少しているため、生ゴミ等食事に困らない都市部への流入が進んでおり、排水溝のような狭いところを住み家にする習性もあって、街中で見かけることも珍しくない。タヌキが人家の周辺に出没する際に、飼い犬・猫を起源とするイヌジステンパーウイルスや、センコウヒゼンダニの寄生により疥癬症に感染する例があり[18]、地域個体数への影響が心配されている。疥癬が原因で保護されるタヌキが近年増加している。駆虫薬で治療できるが、重症化した場合は多くの個体が衰弱のために死亡する。[19]

タヌキの図案を用いた標識

また、当歳のタヌキは経験不足から自動車の前照灯にすくんでしまう習性があり、交通事故に遭う件数が非常に多い。特に高速道路では事故死する動物の約4割を占め、群を抜いて多い[20]。このため、タヌキが多く出没する地域の高速道路に於いて、動物の注意を促す標識にタヌキの図案を用いているところが多い。また、高速道路に限らず、地方の民家の少ない道路などでも事故が絶えない。事故に遭わないよう、道路をくぐる動物用トンネルが設置されているところもある。

漢字名「狸」の由来

「狸」の漢字は本来、ヤマネコ等を中心とした中型の哺乳類を表した。日本にはごく限られた地域にしかヤマネコ類が生息しないため、中世に入って、「狸」の字を「たぬき」という語(実際にはタヌキやアナグマを指す)に当てるように整理されていったと考えられる。『本草和名』に「家狸 一名 猫」とあるのは中国の用例にならったものだろうが(「狸」がヤマネコなら、イエネコは確かに「家狸」となる道理である)、このような混乱が尾を引いたものか、『和漢三才図会』では、逆にタヌキの名として「野猫」と記しているという。

概念

日本手話の「たぬき」は、「タヌキの腹鼓」の伝承による。

ずるがしこい人を指して「たぬきおやじ」「たぬきじじい」と呼ぶことがあるが、タヌキが現在のような滑稽なイメージになったのは、実は近世以降のことである。

鎌倉時代から室町時代の説話に登場するタヌキには、時に人を食うこともあるおどろおどろしい化け物としてのイメージが強い。一例に御伽草子の『かちかち山』前半の凶悪なタヌキは、おばあさんを騙して殺し、さらにおじいさんを騙して「婆汁」を食わせる、など。それが江戸時代に入ると、タヌキのイメージは腹がふくれ、大きな陰嚢を持ち、やがて腹鼓まで打つようになった。腹鼓は和歌にも詠まれた。たとえば『夫木集』に「人すまでかねも音せぬ古寺にたぬきのみこそつづみうちけれ」。

信楽焼のタヌキ
狸谷山不動院京都市左京区)のタヌキ

この意匠を題材にした「たんたんたぬきの - 」という歌い出しの俗謡が知られるが、これは1937年(昭和12年)の歌謡曲『タバコやの娘』(薗ひさし作詞、鈴木静一作曲)の替え歌である。「タバコやの娘」はメロディーの一部を賛美歌まもなくかなたの』(日本福音連盟制定第678番/原題:Shall we gather at the river?)から流用しており、結果として「たんたんたぬきの - 」の歌い出し部分は「まもなくかなたの」と類似している。なお、タヌキの剥製は、上記のような直立させた姿(尾を前に回して陰嚢に見たてる)で飾ることが多く、飲み屋や山間部の旅館などで見かける。

日本でしばしば見かけられるタヌキの置物の多くは信楽焼滋賀県)で、「他を抜く」と語呂合わせした縁起物である。産地では11月8日を「信楽たぬきの日」としている[21]狸谷山不動院(京都市)、東京メトロ有楽町線有楽町駅「ぽん太の広場」のように、タヌキの置物を集めているあるいは所有者が寄贈していく場所もある[22]

タヌキの腹鼓の音を表す「ポン」「ポンポコ」「ポコポン」などの擬音語はタヌキを表す俗語として現代でも用いられる。

また、目も鼻も顔も丸くでかわいい顔つきの顔を「たぬき顔」と呼ぶこともある[23]

現代の日本では、飼育している人を含む愛好者団体(「日本たぬき学会」)が、腹鼓大会などの活動をしている[22]

伝承

タヌキの剥製草鞋を履いて立っている)。分福茶釜伝承がある群馬県館林市茂林寺にて

民間伝承では、タヌキの化けるという能力はキツネほどではないとされている。ただ、一説には「狐の七化け狸の八化け」といって化ける能力はキツネよりも一枚上手とされることもある。実際伝承の中でキツネは人間の女性に化けることがほとんどだが、タヌキは人間のほかにも物や建物、妖怪、他の動物等に化けることが多い。また、キツネと勝負して勝ったタヌキの話もあり、佐渡島団三郎狸などは自身の領地にキツネを寄せ付けなかったともされている。また、犬が天敵であり人は騙せても犬は騙せないという[24]

飼育

毛皮が上質なため、中国やロシアでは産業的な人工飼育が行われている。日本でもかつては防寒具の材料とするため養殖された時期があった[25]が、第二次世界大戦後には狸の毛皮の需要もなくなり、産業的に飼育されることはなくなった[要出典]

タヌキ類が生息する日本などの地域ではそれほど珍しがられない動物であるが、生息していない国や地域では珍しがられ、2010年3月23日に、旭山動物園久留米市鳥類センターとが、シンガポール動物園へホンドダヌキのオス・メスひとつがい(2009年5月産)を贈ったところ、「パンダ並み」の珍獣と扱われ、タヌキに冷暖房完備の専用舎が用意されたうえに、歓迎式典まで開かれた[26][27]。このように、日本国外の動物園がタヌキを展示すべく日本の動物園に飼育中のタヌキの譲渡を依頼することがある。さらに、日本の動物園がタヌキと交換で国外の稀少動物の譲渡を受けることもある[28]

食用

日本における食用

日本におけるタヌキの料理法にたぬき汁がある。ただし、たぬき汁と称してコンニャク汁を指すこともある。

タヌキの肉は概ね臭みが強いという[29]。そのため、酒で煮たりショウガニンニクを使ったりするなど臭みを消す必要がある。また、臭い消しのためたぬき汁は味噌仕立てにすることが多い[30]。臭い消しのために、山椒牛蒡生姜なども利用される[29]佐藤垢石随筆『たぬき汁』では、毛皮をとったあとの狸を食材として売り出す可能性を試すため、ある日、食通の知り合いを集め、タヌキを各種の料理にして食べる会を開催したとある。その記録では味噌汁と、香辛料を混ぜて作った狸の肉団子は美味であったが、カツステーキは噛めないほど固く、吸い物は獣臭くて食べられず、タヌキ肉は一般的な食材になりがたいと結論している[31]。しかし、その後、佐藤の『続たぬき汁』には友人から家に送られた野狸の肉の贈り物に「家内一同大いに喜んだ」とあり、また「上州、会津、雄鹿半島、紀州、丹波、信濃、満州などの狸を食ったこと」があるという記述もある[32]。 また、狸肉の臭み抜きの方法として、山梨の猟師の間で行われている、内臓を取り稲ワラに包んで4~5日土に埋めておく方法や、岩手の猟師が皮を剥ぎ骨を外して20日間くらい軒に吊るしておく方法[30]、狸の肉を水で煮て泡立ってきてから本格的に味噌で煮る方法[29]などがある。 、

中国における食用

中国では、「野味」(げてもの料理、ブッシュミート)もしくは薬膳の一つとして、タヌキ(貉、拼音: )が現在も一部で食用にされている。『本草綱目』はを「甘温無毒」と記載し、体を温め、食べても害がなく、また、強壮効果がある生薬と扱っている。中国では、古来ヤギ肉、犬肉など、臭みのある肉の処理方法も研究されており、タヌキ肉は、長時間水につけて血抜きをすること、ニンニクネギトウシキミ(八角)、クミン唐辛子などを使って臭みを隠すこと、煮込んで柔らかくすること、熱いまま食べるのではなく、冷菜として食べることがこつであるとされる。主に毛皮目的で養殖されたものの肉や内臓が利用されるが、河北省には、煮付けにした肉をレトルト食品として販売している会社もある。

皮革

狸の皮は昔から需要が多く、高値で売買されていた。当てにならないものを当てにして無意味な計画を立てることを「捕らぬ狸の皮算用」と言うのは、かつての日本では狸の毛皮が高値で売れたことに由来する。

鞴(ふいご)
日本においては、皮が丈夫だったことから、鍛冶屋製鉄業が使用する火に風を送って温度を上げる道具である「(ふいご)」に最適とされた[33][34][35]金山で有名な佐渡島に狸は棲息していなかったが、金山で鞴として使用するのに持ち込まれ、繁殖させたという話もある[35][36]
太鼓の革
「狸の腹鼓」が有名だが、太鼓にも使用された。
服飾
防寒具のために乱獲され、一時は場所によって絶滅が懸念された[37][34][25]。冬にも活動するタヌキの毛皮は、防寒具に最適であるとして珍重される[要出典]。英語では「murmansky」と呼ばれ、一般的にシルキーな毛を持つ小さな狸の皮が上質とされる。アメリカ合衆国では人造毛皮であるフェイクファーと偽り、本物の狸の毛皮が何度も使用されては問題になっている[38][39][40][41][42]

タヌキの毛は柔らかく、の材料として珍重される。この場合、タヌキ毛は俗にラクーンと呼ばれている。水彩画、油彩画、書道など、多岐にわたって用いられる[要出典]。「弘法筆を選ばず」で知られる空海(弘法大師)がの技法で狸の毛を使った筆を造らせ、嵯峨天皇に献上している。その時に空海が書いたという上表文が『狸毛筆奉献表』であり、国宝に指定されている。

歯ブラシなどのブラシに使われる[43]

民間療法

タヌキの登場する作品

物語

落語

音楽

地歌『たぬき』
大阪・鶴山勾当作曲・18世紀中頃 = 滑稽な内容を持つ「作もの」といわれる一群に属する曲。猟師が鉄砲で狸を撃とうとすると、タヌキはお腹に子を宿しているし夫が待っているので、どうか助けてくれと頼む。それを聞いた猟師は哀れんで撃つのを止めるとタヌキは喜び、お礼に自慢の腹鼓を打って猟師に聴かせる。猟師は良いものを聴いたと帰って行くという筋。三味線で腹鼓を模した手事 {器楽部分} が面白い。[独自研究?] またこの曲を伴奏とした上方舞の演目。
長唄『たぬき』(『昔噺たぬき』)
杵屋勝三郎作 文福茶釜を長唄曲にしたもの 浮世節『たぬき』の元
浮世節『たぬき』
立花家橘之助が創始した浮世節のなかの一曲
清元『玉兎』
かちかち山がテーマの舞踊曲
俗謡『たんたんたぬきの』
作詞作曲者:不詳。原曲はプロテスタント聖歌まもなくかなたの(Shall We Gather at the River ?)』
童謡『山の音楽家
水田詩仙による日本語詞では、タヌキが太鼓を叩くという歌詞が登場する。
童謡證城寺の狸囃子
作詞:野口雨情、作曲:中山晋平
童謡『月夜のポンチャラリン』(『おかあさんといっしょ』2003年7 - 8月の歌)
作詞:斉藤久美子、作曲:越部信義
童謡『こだぬきポンポ』(NHK『みんなのうた』)
うた 下條アトム、作詞:鈴木悦夫、作曲:大山高輝、アニメーション:堀口忠彦
童謡『ポンタ物語』(NHK『みんなのうた』)
『わらいかわせみに話すなよ』(『みんなのうた』)
一番がタヌキの子が腹に霜焼けを作る話。
童謡『こぶたぬきつねこ』
作詞・作曲:山本直純
童謡『たぬきのレストラン』(『おかあさんといっしょ』)
作詞:名村宏、作曲:福田和禾子。たぬきのレストランにお客さんのきつねが入りびたって食べまくったあげく、きつねは食べ過ぎてレストランいっぱいに太ってしまう話。
わらべうた『げんこつやまのたぬきさん』(曲名は『げんこつ山のたぬきさん』とも)
テレビ番組で歌われたものとしては『おかあさんといっしょ』のコーナー「てをつなごう」で、名古屋市内の幼稚園でのロケで歌われたのが初とされる[45]
1973年に『あそびましょパンポロリン』で、同番組の初代「歌のお姉さん」である山田美也子によって歌われ、香山美子の補作詞・小森昭宏の補作曲・編曲、山田の歌で歌詞とメロディを付け足してシングルレコードとして発売された[45]。1980年、矢野顕子がカバー。
童謡『パンダがなんだ』(『ひらけ!ポンキッキ』)
作詞:海友彦、作曲:小倉靖。パンダの人気を羨むタヌキが、パンダに化けて人前に出るという話。
もしもタヌキが世界にいたら』(『なるほど!ザ・ワールド』エンディングテーマ)
作詞:荒木とよひさ、作曲・編曲:坂本龍一
『もしもタヌキが世界にいたら2』(『なるほど!ザ・ワールド』エンディングテーマ)
作詞:荒木とよひさ、作曲:坂本龍一、編曲:瀬尾一三
陰陽座『貍囃子』
作詞: 瞬火、作曲: 招鬼
ZAZEN BOYS『TANUKI』
作詞・作曲: 向井秀徳
『ニッポンのたぬき』(NHK『なんでもQ』)
うた:知久寿焼(元たま)、作詞:斎藤久美子、作曲:濱田理恵

映画

アニメ

タヌキの名を持つ生物

タヌキの名を持つ生物、特に植物はいくつかある。タヌキの特徴(フサフサした毛やずんぐりと丸みを帯びた形など)にちなむ場合もあるが、怪しげな印象からタヌキに結びつけられる場合も多い。

脚注

  1. ^ a b c Kauhala, K. & Saeki, M. 2016. Nyctereutes procyonoides. The IUCN Red List of Threatened Species 2016: e.T14925A85658776. doi:10.2305/IUCN.UK.2016-1.RLTS.T14925A85658776.en. Downloaded on 04 July 2018.
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w Oscar G. Ward & Doris H. Wurstar-Hill, "Nyctereutes procyonoides," Mammalian Species No. 358, American Society of Mammalogists, 1990, Pages 1-5.
  3. ^ a b c d e W. Christopher Wozencraft, "Order Carnivora," Mammal Species of the World, (3rd ed.), Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (ed.), Johns Hopkins University Press, 2005, Pages 532-628.
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s 増井光子 「イヌ科の分類」『世界の動物 分類と飼育2 (食肉目)』今泉吉典監修、東京動物園協会、1991年、124-149頁。
  5. ^ a b 「首都にすむ世界的珍獣」〜タヌキ”. ナショナルジオグラフィック日本版. 2013年2月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年2月9日閲覧。
  6. ^ Kaarina Kauhala (1994年). “The Raccoon Dog: a successful canid”. 2008年6月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年8月19日閲覧。
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参考文献

関連資料

関連項目

外部リンク