多足類

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多足亜門
生息年代: シルル紀後期–現世
Myriapod collage.png
多足類のそれぞれ4綱による動物例
左上:オオムカデ属の一種(ムカデ綱
右上:ヤスデの一種(ヤスデ綱
左下:エダヒゲムシの一種(エダヒゲムシ綱
右下:コムカデの一種(コムカデ綱
地質時代
シルル紀 - 現世
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
亜門 : 多足亜門 Myriapoda
学名
Myriapoda
Latreille, 1802
和名
多足類
英名
Myriapod

多足類(たそくるい、Myriapod)とは、節足動物門を大まかに分ける分類群の1つで、多足亜門Myriapoda)に属する節足動物の総称である。ムカデヤスデコムカデエダヒゲムシを含む。長い胴部は同規的で、ほぼ同型の歩脚がたくさん並んでいる。

特徴[編集]

ヤスデ(左)とムカデ(右)

体は往々にして縦長く、頭部と胴部の2部に分かれる。大きさは様々で、ムカデ綱とヤスデ綱には十数センチメートルに及ぶ大型種が含まれるが、エダヒゲムシ綱とコムカデ綱に属するものでは小型種である。化石種まで範囲を広げれば、2メートルに達し、節足動物の中でも史上最大級の1つとして知られるアースロプレウラがある[1]

頭部[編集]

頭部は先節と5つの体節から癒合した合体節であり、原則として触角大顎・第1小顎・第2小顎という計4対の付属肢がある。六脚類と同様、第2体節(甲殻類の第二触角にあたる)は胚発育のみに見られ、のちに退化消失する。ヤスデなどでは更に進め、第2小顎も退化消失する[2]。現生群は複眼が退化し、ほとんどが無眼もしくは複眼由来の単眼を数対もつ。既知唯一の例外はゲジ目に属するムカデで、祖先形質である真の複眼を有する[3]

胴部[編集]

胴部は細長く、多数の体節が並び、そのほぼすべてが同規的で、原則として1節に同型の歩脚型関節肢(脚)が1対ずつ出ている。機能的特殊化はほぼせず[4]、例外はムカデ顎肢forcipulesmaxillipeds[5]曳航肢(ultimate legs)[6]繁殖用の生殖肢gonopods[7][8]、など僅かな例が挙げられる。ヤスデの場合、ほとんどすべての節が2節ずつセットで癒合するため、外見上では1節に2対の脚があるのように見える[9]

いずれにせよ、この胴部は他の多くの節足動物に見当たる著しい機能的分化は見られない[4]。他の節足動物では胸部と腹部、あるいは前体と後体などを区別し、それぞれ異なった形態および付属肢を持つのが通例である。多足類に類似の例は、海底洞窟に産する甲殻類ムカデエビ類がある程度である。この同規的な体制は、節足動物祖先形質に類似であると考えられる[4]

他の特徴については群によって異なる。例えば胴部における生殖口は尾端にあるもの(ムカデ)や腹面の前半部にあるもの(その他)[10]がある。胴体の尾端、例えば尾節の構造もそれぞれである。

生態と発育[編集]

ヤスデの1種Nemasoma varicorne の成長段階

現生のすべてが陸上生活で、真の水生種はない。小型のものは、土壌動物として生活するものが多い。多くのは腐植食性であるが、ムカデは肉食性である。

幼生には特別な成長段階はなく、明確な変態は見られないが、成長につれて体節と歩脚が増える例が多い。ムカデ綱の整形類(オオムカデ目ジムカデ目)では卵中にて変態が完了し、自由生活の段階においては増節変態はみられない。変態過程に3対の歩脚をもった初期段階が散見し、六脚類と類縁関係があるものと考えられたこともあったが、のちに認められない(後述参照)。

一部の群、例えば整形類のムカデからは卵や幼生を保護する行動が見られる。

進化と化石記録[編集]

Latzelia primordialis 、化石ゲジムカデの1種


多足類の化石は希少で、その多くがヤスデムカデであり、特にコムカデエダヒゲムシ琥珀のみによって知られる[1]。はっきりとした化石証拠を欠くものの、多足類の共通祖先は、およそカンブリア紀中期で他の節足動物から分岐していたと考えられる[1]

多足類は初期の陸上生活を行った動物として知られている化石記録を含む。これは Wilson & Anderson, 2004 により記載されたPneumodesmus 属のヤスデである。原記述はこれをシルル紀中期後半の化石と考え、従って既知最古の陸生動物と見なされた[11]。しかし Suarez et al. (2017) の再検証により、これはむしろ直後のデボン紀前期のものであると指摘される[12]ムカデの中ではゲジ類が既知最古の化石記録をもち、シルル紀後期まで遡る[13]

大型節足動物が多く出現する石炭紀では、多足類からも巨大な化石種が現れた。化石ヤスデ類であると考えられるアースロプレウラ類の1属アースロプレウラArthropleura)は、既知最大級の節足動物の1つとして知られ、全長およそ2メートル以上に達する[1]

分類[編集]

系統関係[編集]

古典的な見解では、多足類は六脚類(広義の昆虫類)の共通祖先を含んだ側系統群と考えられた[14]。これは本群における多くの六脚類らしい形質に因んでおり、例えば第二触角(第二体節)と大顎髭を欠き・ヤスデなどに見当たる3対の歩脚をもった幼生段階・コムカデにおける下唇のように癒合した第2小顎・気管を有し・単枝型付属肢関節肢)・マルピーギ管の位置、などの類似点が挙げられる[15][16][17]。こうした多足類は、長い間に六脚類の近縁であると考えられ、この2群は無角類Atelocerata)としてまとめられた(これは文献によって気門類 Tracheata[18]、狭義の単肢類 Uniramia sensu stricto とも呼ぶ)。

節足動物門

鋏角亜門


大顎類

多足亜門


汎甲殻類

甲殻亜門側系統群



六脚亜門





節足動物における多足類の系統的位置

しかし90年代以降の分子系統学的解析は、多足類と六脚類の類縁関係を支持しなかった。その代わりに、むしろ甲殻類六脚類の類縁関係、特に六脚類側系統群である甲殻類から分岐した群であるという系統関係が有力視される[17][19][20][10]六脚類甲殻類は、まとめて汎甲殻類 Pancrustacea八分錘類 Tetraconataともいう)をなす。これによると、上述の多足類における六脚類らしい形質は、系統関係を示唆せず、単なる収斂進化の結果であると見なされる。

汎甲殻類仮説が有力視されるようになった2010年代以降、節足動物における多足類の系統的位置については、大顎類仮説とMyriochelata仮説が注目される[1]大顎類Mandibulata)は多足類・甲殻類六脚類という大顎触角を有する3群からなる系統群であり、その中で多足類は汎甲殻類姉妹群をなす。MyriochelataParadoxopodaともいう)は多足類と鋏角類からなり、この2群が姉妹群をなし、もしくは鋏角類側系統群である多足類から分岐している[1]。この2説の中では大顎類の方が広く認められ、汎甲殻類姉妹群であることが分子系統学的解析とホメオティック遺伝子発現に示唆される[10][4]Myriochelataは相対的に支持が弱いものの、いくつかの分子系統学神経発生的証拠に示唆される[21][22]

下位分類[編集]

(a) Scolopendra sp. (ムカデ綱)
(b) Riukiaria holstiiヤスデ綱
(c) Hanseniella caldariaコムカデ綱
(d) エダヒゲムシ科の1種(エダヒゲムシ綱

多足亜門に属する節足動物は、ムカデ綱(唇脚綱、Chilopoda )・ヤスデ綱(倍脚綱、Diplopoda )・コムカデ綱(結合綱、Symphyla)・エダヒゲムシ綱(少脚綱、Pauropoda)の4綱に分けられる。これらの4綱の類縁関係については議論があるものの、ムカデ綱が最初期に分岐したという系統関係は、生殖口は後ろにある(他の群は前方にある[10])などの形態学的相違点や分子系統学的解析に示唆される[10]。化石群であるアースロプレウラ類Arthropleuridea)はかつては独立の絶滅群(アースロプレウラ綱)扱いとされてきたが、21世紀以降ではヤスデ綱に属する1亜綱(アースロプレウラ亜綱)として分類されるようになった[1]

研究分野[編集]

多足類に注目する研究分野は「Myriapodology[23]」(多足類学界[24])と呼ばれる。なお、他の現生節足動物の大グループ(鋏角類甲殻類六脚類)に比べて、多足類に注目する研究は著しく欠いていると指摘される[25]。例えば多足類の節足動物における本格的な遺伝子発現ゲノム解析は、それぞれ2001年と2014年以前では前例がなかった[25]ムカデ有毒生物として広く知られるものの、その毒の成分に関する研究は少なかった[26]

脚注[編集]

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  1. ^ a b c d e f g Shear, William; Edgecombe, Gregory (2009-11-01). The geological record and phylogeny of the Myriapoda. 39. https://www.researchgate.net/publication/40037333_The_geological_record_and_phylogeny_of_the_Myriapoda. 
  2. ^ (PDF) Dorso-ventral differences in gene expression in Glomeris marginata Villers, 1789 (Myriapoda: Diplopoda)” (英語). ResearchGate. 2019年1月21日閲覧。
  3. ^ Harzsch, Steffen; Melzer, Roland R.; Müller, Carsten H. G. (2007-04-12). “Mechanisms of eye development and evolution of the arthropod visual system: The lateral eyes of myriapoda are not modified insect ommatidia”. Organisms Diversity & Evolution 7 (1): 20–32. doi:10.1016/j.ode.2006.02.004. ISSN 1439-6092. http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1439609206000584. 
  4. ^ a b c d Kaufman, Thomas C.; Hughes, Cynthia L. (2002-03-01). “Exploring the myriapod body plan: expression patterns of the ten Hox genes in a centipede” (英語). Development 129 (5): 1225–1238. ISSN 0950-1991. PMID 11874918. http://dev.biologists.org/content/129/5/1225. 
  5. ^ Haug, Joachim T.; Haug, Carolin; Schweigert, Günter; Sombke, Andy (2014-01-01). “The evolution of centipede venom claws – Open questions and possible answers”. Arthropod Structure & Development 43 (1): 5–16. doi:10.1016/j.asd.2013.10.006. ISSN 1467-8039. http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1467803913000893. 
  6. ^ Sombke, Andy; Müller, Carsten H. G.; Kenning, Matthes (2017-11-14). “The ultimate legs of Chilopoda (Myriapoda): a review on their morphological disparity and functional variability” (英語). PeerJ 5: e4023. doi:10.7717/peerj.4023. ISSN 2167-8359. https://peerj.com/articles/4023. 
  7. ^ (PDF) Gonopod segmentation and the Australian centipede Prionopodella (Chilopoda): Testing a basal position in the Scutigeromorpha” (英語). ResearchGate. 2019年1月21日閲覧。
  8. ^ Drago, Leandro; Fusco, Giuseppe; Garollo, Elena; Minelli, Alessandro (2011-08-22). “Structural aspects of leg-to-gonopod metamorphosis in male helminthomorph millipedes (Diplopoda)”. Frontiers in Zoology 8: 19. doi:10.1186/1742-9994-8-19. ISSN 1742-9994. PMC: PMC3170261. PMID 21859471. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3170261/. 
  9. ^ (PDF) A review of the correlation of tergites, sternites, and leg pairs in diplopods” (英語). ResearchGate. 2019年1月21日閲覧。
  10. ^ a b c d e Cunningham, Clifford W.; Martin, Joel W.; Wetzer, Regina; Bernard Ball; Hussey, April; Zwick, Andreas; Shultz, Jeffrey W.; Regier, Jerome C. (2010-02). “Arthropod relationships revealed by phylogenomic analysis of nuclear protein-coding sequences” (英語). Nature 463 (7284): 1079–1083. doi:10.1038/nature08742. ISSN 1476-4687. https://www.nature.com/articles/nature08742. 
  11. ^ Anderson, Lyall I.; Wilson, Heather M. (2004/01). “Morphology and taxonomy of Paleozoic millipedes (Diplopoda: Chilognatha: Archipolypoda) from Scotland”. Journal of Paleontology 78 (1): 169–185. doi:10.1666/0022-3360(2004)0782.0.CO;2. ISSN 0022-3360. https://bioone.org/journals/Journal-of-Paleontology/volume-78/issue-1/0022-3360(2004)0782.0.CO;2/MORPHOLOGY-AND-TAXONOMY-OF-PALEOZOIC-MILLIPEDES-DIPLOPODA--CHILOGNATHA/10.1666/0022-3360(2004)0782.0.CO;2.full. 
  12. ^ Stöckli, Daniel F.; Catlos, Elizabeth J.; Brookfield, Michael E.; Suarez, Stephanie E. (2017-06-28). “A U-Pb zircon age constraint on the oldest-recorded air-breathing land animal” (英語). PLOS ONE 12 (6): e0179262. doi:10.1371/journal.pone.0179262. ISSN 1932-6203. https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0179262. 
  13. ^ (PDF) Centipede Venom: Recent Discoveries and Current State of Knowledge” (英語). ResearchGate. 2019年1月23日閲覧。
  14. ^ 小野展嗣 「4.多足亜門」 『節足動物の多様性と系統』 石川良輔編、岩槻邦男・馬渡峻輔監修、裳華房、2008年、276-296頁
  15. ^ Are the insects more closely related to the crustaceans than to the myriapods?” (英語). ResearchGate. 2019年1月21日閲覧。
  16. ^ Kraus, O. (1998). Fortey, R. A.; Thomas, R. H.. eds (英語). Arthropod Relationships. Dordrecht: Springer Netherlands. pp. 295–303. doi:10.1007/978-94-011-4904-4_22. ISBN 9789401149044. https://doi.org/10.1007/978-94-011-4904-4_22. 
  17. ^ a b Shultz, J. W.; Regier, J. C. (2000-05-22). “Phylogenetic analysis of arthropods using two nuclear protein-encoding genes supports a crustacean + hexapod clade”. Proceedings. Biological Sciences 267 (1447): 1011–1019. doi:10.1098/rspb.2000.1104. ISSN 0962-8452. PMC: PMC1690640. PMID 10874751. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10874751. 
  18. ^ Koenemann, Stefan; Jenner, Ronald A.; Hoenemann, Mario; Stemme, Torben; von Reumont, Björn M. (2010). “Arthropod phylogeny revisited, with a focus on crustacean relationships”. Arthropod Structure & Development 39 (2-3): 88–110. doi:10.1016/j.asd.2009.10.003. PMID 19854296. http://decapoda.nhm.org/pdfs/31579/31579.pdf. 
  19. ^ Giribet, Gonzalo; Ribera, Carles (2000). “A Review of Arthropod Phylogeny: New Data Based on Ribosomal DNA Sequences and Direct Character Optimization” (英語). Cladistics 16 (2): 204–231. doi:10.1111/j.1096-0031.2000.tb00353.x. ISSN 1096-0031. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1096-0031.2000.tb00353.x. 
  20. ^ Frati, Francesco; Dallai, Romano; Carapelli, Antonio; Boore, Jeffrey L.; Spinsanti, Giacomo; Nardi, Francesco (2003-03-21). “Hexapod Origins: Monophyletic or Paraphyletic?” (英語). Science 299 (5614): 1887–1889. doi:10.1126/science.1078607. ISSN 0036-8075. PMID 12649480. http://science.sciencemag.org/content/299/5614/1887. 
  21. ^ Dove, Hilary; Stollewerk, Angelika (2003-5). “Comparative analysis of neurogenesis in the myriapod Glomeris marginata (Diplopoda) suggests more similarities to chelicerates than to insects”. Development (Cambridge, England) 130 (10): 2161–2171. ISSN 0950-1991. PMID 12668630. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12668630. 
  22. ^ Mayer, Georg; Whitington, Paul M. (2009-10-22). “Velvet worm development links myriapods with chelicerates” (英語). Proceedings of the Royal Society of London B: Biological Sciences 276 (1673): 3571–3579. doi:10.1098/rspb.2009.0950. ISSN 0962-8452. PMID 19640885. http://rspb.royalsocietypublishing.org/content/276/1673/3571. 
  23. ^ International Journal of Myriapodology”. ijm.pensoft.net. 2019年1月23日閲覧。
  24. ^ 高島春雄、太平洋戦争中に於ける日本蜘蛛類・多足類學界の動向 『Acta Arachnologica.』 1950年 12巻 1-2号 p.8-17, doi:10.2476/asjaa.12.8
  25. ^ a b Richards, Stephen; Akam, Michael; Gibbs, Richard A.; Worley, Kim C.; Muzny, Donna M.; Lawson, Daniel; Zou, Xiaoyan; Wu, Yuanqing et al. (2014-11-25). “The First Myriapod Genome Sequence Reveals Conservative Arthropod Gene Content and Genome Organisation in the Centipede Strigamia maritima” (英語). PLOS Biology 12 (11): e1002005. doi:10.1371/journal.pbio.1002005. ISSN 1545-7885. PMC: PMC4244043. PMID 25423365. https://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.1002005. 
  26. ^ (PDF) Centipede Venom: Recent Discoveries and Current State of Knowledge” (英語). ResearchGate. 2019年1月23日閲覧。

関連項目[編集]