鋏角亜門

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鋏角亜門
Scorpion anatomy.png
サソリの構造
分類
: 動物Animalia
: 節足動物Arthropoda
亜門 : 鋏角亜門 Chelicerata

鋏角亜門(きょうかくあもん、Chelicerata)は、節足動物門を大きく分けた亜門のひとつである。クモサソリカブトガニなどを含む。

概要[編集]

鋏角亜門に含まれる節足動物は以下のような基本的体制の違いによって、それ以外の節足動物(大顎類三葉虫類)から区別される。

  1. 体は前体Prosoma、頭胸部)と後体Opisthosoma、腹部)からなる。
  2. 触角は存在しない。
  3. 鋏角の他に、独立した顎のような付属肢がない。

前体[編集]

目を備えた前端の口前葉を除き、体節の前6節からなり6対の付属肢をもつ。第1節には本グループの特徴である1対の鋏角Chelicerae)、次の第2~6節は5対の歩脚型付属肢があり、そのうち最初の一対は触肢Pedipalp)としてやや異なった構造を持つ場合がある。

「頭胸部」とも呼ばれたが、この部分に含めた殆どの体節は大顎類の前5節からなる頭部に相同する。従って大顎類の顎として特化した付属肢は、鋏角類の場合は殆ど歩脚として役を果たす。

後体[編集]

「腹部」ともいう、体節の第7節から始め、最多は13節からなる。サソリウミサソリのように、後体は更に中体(Mesosoma、前腹部)と終体(Metasoma、後腹部)として区別できることがある。一部のグループは後端に尾節(Telson)が備える。

現生の鋏角類に限れば、後体の付属肢は退化している場合が多く、あっても歩脚状から飛び抜けた形状である。原始的なカブトガニと一部の古生代鋏角類の後体付属肢は鰭状であり、クモ綱の書肺;クモの糸疣とサソリの櫛状板も付属肢に由来する部分と思われる。

下位分類[編集]

系統関係[編集]

節足動物門

大顎類


鋏角亜門
 ?

ウミグモ綱





サンクタカリス



ハベリア



真鋏角類

カブトガニ




ウミサソリ



クモ綱







節足動物門における鋏角亜門の位置と内部系統。

系統については、三葉虫類から派生したものとの見解がかつてはあった。これは、光楯類が両者の中間的な形態を持つものとして存在したことが大きな理由である。光楯類は三葉虫に似た体型に短い剣尾を持ち、附属肢も鋏角類的だが触角があるとされた。ただし、現在では触角はなかったと考えられるようになり、三葉虫類と鋏角類のこのような関係は現在では疑問視されている。バージェス動物群サンクタカリスハベリアは、本グループによく似た体制も注目される[1]

また、下位分類についてクモ綱の内部系統ははっきりせず、ウミグモ綱については様々な説が出ており、他の鋏角類(真鋏角類、Euchelicerata)と姉妹群にする説や[2];残り全ての現生節足動物の姉妹群にする説もある[3]

いずれにしても、触角がなく、口より前に口器をなす附属肢由来の構造がある点で、他の節足動物の群とはかけ離れており、それらの関係の判断は難しい。ただし、アノマロカリス類が節足動物であると考えれば、その触手も口より前にあるため、これと鋏角を相同と見なすことが可能である。そこから、原始的節足動物の中からアノマロカリス類と鋏角類がまず分化し、鋏角の分枝が触角化したことからそれ以外の節足動物が分化した、という説も出ている(小野(2009))。一方、解剖学の知見によりこれらは相同器官ではないと示唆され、神経の構造によりアノマロカリスの触手は前大脳;鋏角と触角は中大脳に対応する。

歴史と進化[編集]

鋏角類は古生代の初期に出現し、常に節足動物相の一翼を担ってきた。特に古生代前期には非常に繁栄し、ウミサソリはシルル紀にほぼ食物連鎖の頂点に位置し、史上最大の節足動物の一つになっている。また生物の陸上進出が始まったときにも早い時期に陸生種を出し、肉食者としての地位を築いた。しかし、多くは次第に衰退し、現在ではクモ類・ダニ類以外は種数もごく少なく、生きている化石的なものが多い。

この理由として、一つには鋏角類の前体にある付属肢は殆ど歩脚となり、口器として独立した付属肢は1対の鋏角しかなく、複雑で多様な口器を発達させる余地がなかったことが挙げられる。このため、その歴史の早期には強力な肉食者として存在したが、それ以降に食性についての幅広い適応を行うことができなかった。また、陸上種に関しては呼吸器としての書肺をもっていたが、そのために気管の発達が遅れ、そのために運動能力において後れを取ったとの説もある。

いずれにせよ、海では甲殻類に、陸上では昆虫類に押されて衰退したと見られる。この類で大きな発展を遂げたのはクモ目とダニ目のみで、前者は糸と、それによる網の活用で広範囲な昆虫を捕食する能力を発達させたこと、後者では小さな体を利してニッチを拡大し、食性の幅を広げた(肉食・草食・吸血・腐植食など、あるいは捕食者、草食者・寄生者など)ことによると思われる。それ以外の類はほとんど古生代の姿を残した遺存的な群である。

脚注[編集]

参考文献[編集]

  • 内田亨監修『動物系統分類学(全10巻)第7巻(中A) 節足動物(IIa)』,(1966),中山書店
  • 石川良輔編『節足動物の多様性と系統』,(2008),バイオディバーシティ・シリーズ6(裳華房)
  • 小野展嗣編著、『日本産クモ類』、(2009)、東海大学出版会