頭胸部

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エビ類の体制模式図。緑色の部位は頭胸部(cephalothorax)に該当する

頭胸部(とうきょうぶ、cephalothorax)とは、一部の節足動物の体の前部に用いられる名称。主に頭部胸部から融合した合体節を示す[1][2]

概説[編集]

節足動物の体は基本的に共通の構造をもつ体節の繰り返しで構成されている、いわゆる体節制を持つ。しかし、環形動物に見られるような素直な形ではなく、それらが数節ずつのまとまった構造となっているものが多い。これを合体節と言う。節足動物、特に六脚類甲殻類の体は、頭部胸部腹部と区別できる。をもつ頭部には触角などの感覚器などの口器が集まり、胸部には歩行用の脚が並ぶ。これらの器官はそれぞれ独自の体節に由来する付属肢関節肢)であり、合体節にあわせて機能が区別されている[2]。それに対して腹部の付属肢は退化的な群が多く、あっても軟甲類の腹肢や六脚類の生殖器程度である[2]

ところが、この頭部と胸部全体、もしくは頭部と胸部の一部が更に融合して明確に区別できない例があり、それを頭胸部と言う[1]。頭胸部が見られるのは、主に甲殻類である[2]

頭胸部は、合体節がさらに進んだものと考えられ、運動能力等においてより効果的な活動が可能になっていると考えられる。極端な例として、カニなどでは腹部を頭胸部に密着させることで体全体を単一の固まりにまとめることができ、運動能力が特に高い[3]

鋏角類の前体(prosoma)という1つの合体節は同時に口器と歩脚をもち、これも頭胸部と呼ばれている[4]。しかし前体を構成する殆どの体節は、他の節足動物の頭部に相同するものである。従って、鋏角類の前体は機能として頭胸部的であるが、他の節足動物のように元々区別された、口器のみをもつ頭部と脚などのみをもつ胸部から二次的に癒合した部分ではない[2]

甲殻類[編集]

甲殻類の場合、たとえばカニエビヤドカリなどが属する十脚類の体は、頭胸部と腹部の二部からなっている。頭胸部には見かけ上体節はなく、しっかりと一つにまとまり、眼・触角・口器・歩脚などがある。それに対して腹部は多数の体節に分かれ、腹面にはヒレ状の腹肢と尾肢がある。カニ(短尾類)と一部の異尾類ヤシガニカニダマシスナホリガニタラバガニなど)の場合には腹部は頭胸部の腹面に折り曲げられているため、頭胸部だけが目立つ[3][5]

端脚類の体制模式図。最初の胸節と癒合した頭部をもつ

それ以外の甲殻類の場合では、胸部の前方1節もしくは数節のみ元の頭部と癒合する例が多く、文献によって頭胸部とも扱う[1][2]。例えば等脚類ダンゴムシワラジムシなど)・端脚類ヨコエビワレカラなど)・カイアシ類ケンミジンコ)などは頭部と第1胸節、クーマ類は頭部と第1-3胸節、シャコ類は頭部と第1-4胸節が癒合する[6][2]

カブトエビのような、背面から見て頭部と胸部の区別がなくても、腹面から見ればはっきり区別できる例もある。これは、背甲というものが発達し、それが背中側から体の前半部を覆うためである。背甲が全身を覆ってしまい、ミジンコカイエビのような二枚貝状のものもあるが、体前半を覆えば、上から見れば頭部と胸部の区別が見えない。しかしこれらの甲殻類の背甲は胸部と癒合していないため、頭胸部をなしていない。それに対して前述の十脚類では背甲が後方と側面に広がって単に胸部を覆っているだけでなく、しっかりと胸部の体節と癒合し、その側面も胸部の付属肢の基部で密着しているため、頭部と胸部は完全に一体化した形になっているものである[5][2]。背甲の内部には付属肢の外葉であるが収まっており、鰓腔となっている[7]

鋏角類[編集]

クモの体の構造
1:前体(頭胸部)、2:後体(腹部)、A:歩脚、B:触肢、C:鋏角

クモサソリカブトガニ類などが属する鋏角類は、基本的に前体と後体の2部に分かれる体制をもつ[8][2]。前体は眼・口器(鋏角など)・脚をあわせ持つため、他の節足動物の頭部らしい機能(感覚、摂食など)だけでなく、同時に胸部らしい機能(移動など)をも担っていた。これによって、前体は「頭胸部」、後体は「腹部」とも呼ばれる[4]

ただし、鋏角類の前体は先節と前の6つの体節によって構成されるものであり、体節制的にはむしろ他の節足動物の頭部(先節+前5節)に相当する部位である。従って、鋏角類の前体/頭胸部は、元々区別された頭部と胸部から二次的に癒合した部分ではない。一部の群、例えばヤイトムシコヨリムシヒヨケムシなどの前体の後2節が分節した例もあるが、眼・口・鋏角のある体節は、少なくとも必ず歩脚のある4節の前2節と一つにまとまり、頭部のように歩脚のある体節から分離した例は全く見当たらない[8]。鋏角類の前体を覆う背甲も、甲殻類のもの(carapace)から区別できるように「prosomal dorsal shield」や「peltidium」とも呼ばれる[4][8]

ウミグモ類の場合、鋏肢触肢などを持つ部位は、一見で頭部として明瞭に区別できる。しかし、この部位と第1脚の体節の接続部は癒合しており、分節は存在しない。従って、前述の部位と第1脚をもつ節は1つの合体節であり、これらはまとめて「頭部」(cephalon、cephalosoma)と扱う[8][9]

その他の例[編集]

タマミズムシの1種 Helotrephes indicus

昆虫では一部のものに頭部と胸部の融合が見られる。たとえば半翅類タマミズムシなどにその例がある。

脚注[編集]

  1. ^ a b c Crustacea Glossary::Definitions (cephalothorax)”. research.nhm.org. 2020年11月20日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i Fusco, Giuseppe; Minelli, Alessandro (2013). Minelli, Alessandro; Boxshall, Geoffrey; Fusco, Giuseppe. eds (英語). Arthropod Segmentation and Tagmosis. Berlin, Heidelberg: Springer. pp. 197-221. doi:10.1007/978-3-642-36160-9_9. ISBN 978-3-642-36160-9. https://link.springer.com/chapter/10.1007/978-3-642-36160-9_9 
  3. ^ a b Keiler, Jonas; Wirkner, Christian S.; Richter, Stefan (2017-05-01). “One hundred years of carcinization – the evolution of the crab-like habitus in Anomura (Arthropoda: Crustacea)” (英語). Biological Journal of the Linnean Society 121 (1): 200–222. doi:10.1093/biolinnean/blw031. ISSN 0024-4066. https://academic.oup.com/biolinnean/article/121/1/200/3089703. 
  4. ^ a b c Dunlop, Jason A.; Penney, David (2012) (英語). Fossil Arachnids. Siri Scientific Press. ISBN 978-0-9567795-4-0. https://books.google.com.tw/books?id=16Zed-dC1OYC&printsec=frontcover&hl=ja#v=onepage&q=cephalothorax&f=false 
  5. ^ a b An Overview of the Decapoda - Royal BC Museum
  6. ^ Haug, Carolin; Sallam, Wafaa S.; Maas, Andreas; Waloszek, Dieter; Kutschera, Verena; Haug, Joachim T. (2012-11-14). “Tagmatization in Stomatopoda – reconsidering functional units of modern-day mantis shrimps (Verunipeltata, Hoplocarida) and implications for the interpretation of fossils”. Frontiers in Zoology 9 (1): 31. doi:10.1186/1742-9994-9-31. ISSN 1742-9994. PMC: PMC3542093. PMID 23148643. https://doi.org/10.1186/1742-9994-9-31. 
  7. ^ Davie, Peter J. F.; Guinot, Danièle; Ng, Peter K. L. (2015-01-01). “Anatomy and functional morphology of Brachyura” (英語). Treatise on Zoology - Anatomy, Taxonomy, Biology. The Crustacea, Volume 9 Part C (2 vols): 11–163. doi:10.1163/9789004190832_004. https://www.researchgate.net/publication/296696404_Davie_PJF_Guinot_D_Ng_PKL_2015a_Anatomy_and_functional_morphology_of_Brachyura_In_Castro_P_Davie_PJF_Guinot_D_Schram_F_Von_Vaupel_Klein_C_Eds_Treatise_on_Zoology_-_Anatomy_Taxonomy_Biology_-_The_Crust. 
  8. ^ a b c d A., Dunlop, Jason; C., Lamsdell, James (2017). “Segmentation and tagmosis in Chelicerata” (英語). Arthropod Structure & Development 46 (3). ISSN 1467-8039. https://www.academia.edu/28212892/Segmentation_and_tagmosis_in_Chelicerata. 
  9. ^ Winter, Gerhard (1980) (英語). Palaeoisopus, Palaeopantopus and Palaeothea, pycnogonid arthropods from the Lower Devonian Hunsrück Slate, West Germany.. https://www.academia.edu/5146832/Palaeoisopus_Palaeopantopus_and_Palaeothea_pycnogonid_arthropods_from_the_Lower_Devonian_Hunsr%C3%BCck_Slate_West_Germany. 

関連項目[編集]