ハベリア

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ハベリア
生息年代: 510–505 Ma[1]
20190927 Habelia optata.png
ハベリアの復元図
保全状況評価
絶滅(化石
地質時代
古生代カンブリア紀ウリューアン期
(約5億1,000万 - 5億500万年前)[1]
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
亜門 : 鋏角亜門 Chelicerata [2][3]
: ハベリア目 Habeliida [2]
: ハベリア科 Habeliidae [2]
: ハベリア属 Habelia
学名
Habelia
Walcott1912 [4]
タイプ種
Habelia optata
Walcott1912 [4]

ハベリアHabelia[4])は、約5億年前のカンブリア紀に生息した化石節足動物の一。こぶのある体表と長い尾をもつ、カナダバージェス頁岩で見つかったハベリア・オプタタ(Habelia optata)という1のみによって知られる[5]サンクタカリスなどと共に、ハベリア類という基盤的な鋏角類と考えられるグループに分類される[2][3]

名称[編集]

学名Habelia」はカナダブリティッシュコロンビア州ハベル山Mount Habel)に由来する[4]模式種タイプ種)の種小名optata」は由来が特記されていないが、ラテン語の「optatus」(願い・欲望)によると推測される[5]

形態[編集]

尾を除いて体長は8.5mmから34mmまで及ぶ[2]。背面の外骨格はたくさんのこぶが密生し、丸い頭部(前体)、12節をもつ胴部(後体)、および体長とほぼ同じ長さの尾節からなる[2]

頭部[編集]

斜め腹側から見たハベリアの頭部。上唇ハイポストーマ、および7対の付属肢が写る。

頭部(cephalon、head、または前体 prosoma[2])は体長の約30%を占め、中央部分は丸く盛り上がり、中に大きなが収納される[2]。左右は張り出した三角形の平たい出っ張りで、その縁には一連の三角形の棘が走る[2]。頭部の両縁の途中、いわゆる左右の出っ張りの直前には丸い切り込みがあり、1対のが附属する[2]。顕著な眼柄は見当たらず、複眼であったと考えられる[2]。この頭部は先節と直後の7節の体節(第1-7体節)でできた合体節で、真鋏角類における前体(先節+第1-6体節)と後体第1節(第7体節)に相同とされる[2][3]

頭部の腹面は前端から後端まで、三角形の上唇labrum)とその下で左右2枚に分かれるハイポストーマ(hypostome)、およびと7対の付属肢関節肢)が並んでいる[2]。口はハイポストーマと第2対の付属肢の間で下向きに開き、常に第2対の付属肢の顎基に覆われる[2]

付属肢の中で最初の1対は非常に短く、可動だが肢節の数は不明で、先端はおそらく爪がある[2]。この付属肢は鋏角に相同(第1体節由来)とされる[2][3]

次の5対(第2-6対)は後方ほど発達した二叉型付属肢で、強大な顎基(gnathobase)、およびそれぞれ7節以上に分かれた歩脚型の外肢(exopod)と内肢(endopod)からなる[2]。顎基は前後で重なりながら前に張り出し、頭部腹面のほとんどのスペースを占める[2]。顎基の内側にある一連の歯は、大小を繰り返した構造により左右相互に嚙み合わせている[2]。歯は前の顎基ほど細く鋭く、後ろの顎基ほど鈍く頑丈に特化した[2]。内肢は7節からなり、第5-6肢節の内側は前端が9本以上の剛毛が集密し、先端の第7肢節は爪に似る。前向きに曲がり、付け根は顎基の先端付近に接続するため、内肢は常に頭部の前方に集約しているように見える[2]。外肢は細長い7節以上からなり、それぞれの肢節の先端は3本の剛毛をもつ[2]。外肢のうち前の4対は前方、第5対はやや離れて左右に向かっている[2]。外肢の付け根の詳細は不明だが、顎基に接続しているようには見えず[2]、少なくとも前の4対はそこから分離していたと考えられる[3]。この5対の付属肢は現生の真鋏角類における5対の歩脚型付属肢(触肢と残り4対の脚、第2-6体節由来)に相同とされる[2][3]

第7対の付属肢は、直後の胴部前5節の付属肢に似たニ叉型付属肢である。ただし胴部のものに比べて、この付属肢の内肢は比較的に短く、外肢はもっと丸く周りの毛束も比較的に多い[2]。正確には頭部と胴部の境目に付属していたが、常に下から頭部の腹面を覆うような姿勢をとり、胴部付属肢のように対応の背板も見当たらないことから、機能的には頭部の付属肢とされる[2]。この付属肢は現生カブトガニ類唇様肢ウミサソリ下層板に相同(第7体節由来)とされる[2][3]

胴部[編集]

ハベリアの化石標本
ap:anal pouch、bas:胴部付属肢の原節、ce:頭部付属肢の内肢、cx:頭部付属肢の外肢、ds:胴部背側の突起、E:顎基のクローズアップ、g:胃、ia:頭部第7対の付属肢、it:消化管、pex:胴部第6対以降の付属肢、t1-5:胴部前5対の付属肢、tel:尾節

胴部(trunk、または後体 opisthosoma[2])は12節からなり、12枚の発達した背板(tergite)によって表れる。それぞれの背板の表面は前半部が滑らかで、後半部が盛り上がって無数のこぶが密生していた[2]。後半部の頂点辺りに1対の突起があり、前3節の方は角のように長く伸びた[2]。背板の左右は下方に曲がり、両端は後方ほど後ろ向きに湾曲し、前後の縁に鋭い棘が並んでいる[2]。この胴部は真鋏角類の後体第2-13節(第8-19体節)に相同とされる[2]

体節数に応じて、胴部は計12対の付属肢がある。前5対は発達な二叉型付属肢であり、内肢と外肢はそれぞれ円柱状の原節(basipod)の下側と外側に繋がる[2]。内肢は歩脚状で7節からなり、先端の肢節は爪に似た形で付け根はさらに2本の細い爪がある[2]。内肢のうち前3対はほぼ同じ長さだが、後2対は後方ほど若干長くなる[2]。外肢は2節でできたオール状で、第2節は楕円形に広く、外縁に分厚い剛毛が並んでいる[2]

残りの7対(第6-12対)は単純の丸い外肢のみによって知られ、後方ほど小さくなり、内肢は退化的もしくはなかったと考えられる[2]

このような付属肢の分化にあることから、胴部の前5節を胸部(thorax、または中体 mesosoma)、後7節を「post-thorax」(または終体 metasoma)とも区別される[2]

尾節[編集]

尾節telson)は全長の半分以上を占めほど長く、途中の関節によって前後2部に分かれる[2]。前半部の両筋は後ろ向きの棘が走り、基部は大きく膨らんで残りの部分は細長く、わずかに上向きに湾曲する[2]。その基部の腹側には「anal pouch」と呼ばれる袋状の突出部があり、肛門はその後端に開く[2]。後半部は前半部の1/3ほどの長さで真っ直ぐ伸ばし、最後尾に3本の剛毛をもつ[2]

発見史と分類[編集]

ハベリア(ハベリア Habelia)はカナダブリティッシュコロンビア州バージェス頁岩Burgess Shaleカンブリア紀ウリューアン期、約5億1,000万 - 5億500万年前[1])で見つかった化石標本のみによって知られている[5][6]。本属のとして確実に認められるのは模式種タイプ種)であるハベリア・オプタタ(Habelia optata)のみだが、本属に含める可能性をもつとされる種 Habelia? brevicauda も知られている[7][8][6]

本属は20世紀初期から既に記載された化石節足動物である[4]が、前述の多くの特徴、特に頭部の付属肢とそれによって示される類縁関係は長らく知られておらず、1世紀後の2017年の再記載で判明したものである[2]

20世紀[編集]

ハベリアの旧復元。頭部は眼を欠き、付属肢は少なく、各胴節の突起も中央1本のみをもつとされた。
Walcott 1912 に載せされた様々なバージェス動物群化石標本(6=ハベリア)

バージェス頁岩で見つかった多くの古生物(バージェス動物群)と同様、ハベリアは20世紀初期で古生物学者チャールズ・ウォルコットCharles Doolittle Walcott)によって記載された。原記載(Walcott 1912)では、根拠は不確実でありながらも、ハベリアは光楯類に分類された[4]。数年後、ハベリアの頭部は少なくとも5対の付属肢があると他の研究によって確認された[9][10]。しかしこの見解は、古生物学者ハリー・ウィッティントンHarry B. Whittington)の1981年の記載(Whittington 1981)に否定され、ハベリアを節足動物における不詳化石(プロブレマティカ)の1つで[2]、頭部は1対の触角とおそらく2対の二叉型付属肢のみをもつと考えられた[8]。また長い間、ハベリアは常に頭部がを欠き、各胴節の背板に備わる突起は中央1本のみであるように復元された[5]

2017年以降[編集]

こうして数十年も再検討されなかったハベリアだが、Aria & Caron 2017 の再記載により、全身の復元像、特に頭部の付属肢構成が大きく書き替えられた[2]。頭部は眼をもち、強大な顎基をもつ5対の二叉型付属肢を備わり、前端は上唇や1対の小さな付属肢があり、背板の突起は対になるなど、今まで確認されていない構造を判明した[2]。中でも頭部左右の出っ張り・眼の位置・5対の内肢の配置と構造が、明らかにサンクタカリスに似た特徴であり、近縁関係が示される。これにより、ハベリアを含くんだハベリア科とサンクタカリスなどを含くんだサンクタカリス科は、まとめて新設したハベリア目Habeliida、またはハベリア類 Habeliid)に分類されるようになった[2]。他のハベリア類について、顎基など詳細の頭部構造はハベリアほどには解明されていないが、知られる限り内肢はハベリアと同じく前方に集約するため、ハベリアのと同じ構造だと示唆される(内肢が顎基の先端に接続するからこそ可能の配置)。これにより、ハベリアに見られる頭部付属肢の構成は、ハベリア類全般の共有形質だと考えられる[2]

鋏角類

ウミグモ類

ハベリア類

サンクタカリス

ハベリア

モリソニア類

モリソニア

真鋏角類

オファコルスなど

カブトガニ類

ウミサソリ類

クモガタ類

鋏角類におけるハベリアの系統的位置[3]
オファコルス(1枚目)とダイバステリウム(2枚目)の前体は歩脚型の外肢(Ex1-4)をもつ

ハベリアの特徴をはじめとして、ハベリア類の頭部付属肢の構成は、この類は基盤的な真鋏角類であることを示唆する[2][3]。それぞれ口の前後にある1対の短い付属肢と直後の同型の5対の付属肢は、鋏角類の前体における1対の鋏角と5対の歩脚型付属肢(触肢と脚)と対応しており、中でも発達した歩脚型の外肢は、基盤的な真鋏角類オファコルスダイバステリウムにも見られる特徴である[2][3]。また、第7体節の付属肢が頭部付属肢に参加することも、前体へ癒合し、その付属肢のように機能する一部の真鋏角類の第7体節(=後体第1節)付属肢(現生カブトガニ類唇様肢ウェインベルギナの第6対の歩脚型付属肢・オファコルスの鰭状の付属肢など[11])と共通している。これにより、真鋏角類の前体は、先節と次の6節だけでなく、通常では後体第1節とさる直後の第7体節をも含むことが祖先形質であると示唆される[2]。この説は、基盤的な真鋏角類とされ、第7体節の付属肢が前体のものとセットに特化したモリソニア[12]の発見によって更なる支持が得られている[3]

付属肢の機能と生態[編集]

ハベリアは基盤的な鋏角類とされるが、前体の付属肢はほとんど主に歩行に用いられ、後体の付属肢は多くが退化的な現生鋏角類[11]とは異なって、ハベリアの頭部(前体)付属肢は主に口器として用いられ、胴部(後体)の付属肢で歩行していたと考えられる[2]。その頭部付属肢の構造と機能は、同様に節足動物だが別系統の大顎類多足類甲殻類六脚類)の頭部付属肢と収斂しているとされる[2]。最も顕著な例はその強大な顎基に見られ、これは大顎類に特有の3対の口器である大顎(1対)と小顎(2対)のように、餌を粉砕・咀嚼できたと考えられる。ただし機能的分化が顕著な大顎(主に硬組織を粉砕する役を担う)と小顎(主に餌を細かく咀嚼する役を担う)とは異なって、ハベリアは5対の顎基があるにも関わらず、その形がほぼ統一化される。これによりハベリアの顎基はまるで5対の大顎のように機能し、より単純で強大な粉砕力を発揮できたと考えられる[2]。他にも前向きの歩脚型の外肢は鋏角類にない触角のように周りを探知し、第7対の付属肢は昆虫下唇・一部の甲殻類の顎脚ムカデ顎肢のように摂食を補助する付属肢であったと考えられる[2]

これによりハベリアをも含んだハベリア類は、硬い外皮組織をもつ小動物を捕らえる小型捕食者であったと考えられる。ハベリア類はおそらくカンブリア紀における基盤的な鋏角類として、一部の基盤的な大顎類やArtiopoda類(例えばシドネイアなど)と共に、硬組織をもつ動物を狙う捕食者/腐肉食者のニッチ(生態的地位)を占める節足動物の一つであったと考えられる[2]

脚注[編集]

  1. ^ a b c Canada, Royal Ontario Museum and Parks (2011年6月10日). “Geological Background - The Burgess Shale - Science - The Burgess Shale” (英語). burgess-shale.rom.on.ca. 2021年8月14日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah ai aj ak al am an ao ap aq ar as at au av aw ax ay az ba bb bc bd be bf bg Aria, Cédric; Caron, Jean-Bernard (2017-12). “Mandibulate convergence in an armoured Cambrian stem chelicerate” (英語). BMC Evolutionary Biology 17 (1): 261. doi:10.1186/s12862-017-1088-7. ISSN 1471-2148. PMC PMC5738823. PMID 29262772. https://bmcecolevol.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12862-017-1088-7. 
  3. ^ a b c d e f g h i j k Aria, Cédric; Caron, Jean-Bernard (2019-09). “A middle Cambrian arthropod with chelicerae and proto-book gills” (英語). Nature 573 (7775): 586–589. doi:10.1038/s41586-019-1525-4. ISSN 1476-4687. https://www.nature.com/articles/s41586-019-1525-4. 
  4. ^ a b c d e f WALCOTT, C. D. 1912. Middle Cambrian Branchiopoda, Malacostraca, Trilobita and Merostomata. Smithsonian Miscellaneous Collections, 57: 145-228.
  5. ^ a b c d Canada, Royal Ontario Museum and Parks (2011年6月10日). “Habelia 1 - Fossil Gallery - The Burgess Shale” (英語). burgess-shale.rom.on.ca. 2019年10月2日閲覧。
  6. ^ a b Canada, Royal Ontario Museum and Parks (2011年6月10日). “Habelia 2 - Fossil Gallery - The Burgess Shale” (英語). burgess-shale.rom.on.ca. 2021年8月14日閲覧。
  7. ^ SIMONETTA, A. M. 1964. Osservazioni sugli artropodi non trilobiti della ‘Burgess Shale’ (Cambriano medio). III conributo. Monitore Zoologico Italiano, 72: 215-231.
  8. ^ a b Whittington, H. B. (1981-05-12). “Rare Arthropods from the Burgess Shale, Middle Cambrian, British Columbia” (英語). Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences 292 (1060): 329–357. doi:10.1098/rstb.1981.0033. ISSN 0962-8436. http://rstb.royalsocietypublishing.org/cgi/doi/10.1098/rstb.1981.0033. 
  9. ^ Raymond, Percy Edward (1920). The appendages, anatomy and relationships of trilobites. New Haven, Conn.,: Connecticut Academy of Arts and Sciences. doi:10.5962/bhl.title.28256. https://www.biodiversitylibrary.org/bibliography/28256 
  10. ^ Fedotov D. (1924). On the relations between the Crustacea, Trilobita, Merostomata and Arachnida. Bulletin de l'Académie des Sciences de Russie. 1924;383–408.
  11. ^ a b c Dunlop, Jason A.; Lamsdell, James C.. “Segmentation and tagmosis in Chelicerata” (英語). Arthropod Structure & Development 46 (3): 395–418. ISSN 1467-8039. https://www.academia.edu/28212892/Segmentation_and_tagmosis_in_Chelicerata. 
  12. ^ Gould, Stephen Jay; 渡辺, 政隆 (2000) (Japanese). ワンダフル・ライフ: バージェス頁岩と生物進化の物語. ISBN 978-4-15-050236-2. OCLC 676428996. https://www.worldcat.org/title/wandafuru-raifu-bajiesu-ketsugan-to-seibutsu-shinka-no-monogatari/oclc/676428996 

関連項目[編集]