鋏角亜門

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鋏角亜門
Tachypleus tridentatus-3.jpg
カブトガニ(上)とツユグモ(下)

Micrommata virescens Luc Viatour.jpg

分類
: 動物Animalia
: 節足動物Arthropoda
亜門 : 鋏角亜門 Chelicerata

鋏角亜門(きょうかくあもん、Chelicerata)は、節足動物門を大きく分けた亜門のひとつである。クモサソリカブトガニなどを含む。

概要[編集]

鋏角亜門に含まれる節足動物は以下のような基本的体制の違いによって、それ以外の節足動物(大顎類三葉虫類など)から区別される。

  1. 体は前体Prosoma、頭胸部)と後体Opisthosoma、腹部)からなる。
  2. 触角は存在しない。
  3. 鋏角の他に、独立した顎のような付属肢がない。
サソリの構造
1:前体
2:中体
3:終体
4,7,8,9:触肢
5:歩脚
6:鋏角
10,11:尾節

前体[編集]

目を備えた前端の口前葉を除き、体節の前6節からなり、計6対の付属肢関節肢)をもつ。第1節には本グループの特徴である1対の鋏角Chelicerae)、次の第2-6節は5対の歩脚型付属肢があり、そのうち最初の一対は触肢Pedipalps)としてやや異なった構造を持つ場合がある[1]

「頭胸部」とも呼ばれたが、この部分に含めた殆どの体節は大顎類の前5節からなる頭部に相同する。従って大顎類の顎として特化した付属肢は、鋏角類の場合は殆ど歩脚として役を果たす。

後体[編集]

「腹部」ともいう、体節の第7節から始め、最多は13節からなる[1]サソリウミサソリのように、後体は更に中体(Mesosoma、前腹部)と終体(Metasoma、後腹部)として区別できることがある。一部のグループは後端に尾節(Telson)が備える。

現生の鋏角類に限れば、後体の付属肢は退化している場合が多く、あっても歩脚状から飛び抜けた形状である。原始的なカブトガニと一部の古生代鋏角類の後体付属肢は鰭状であり、クモ綱の書肺、クモの糸疣とサソリの櫛状板も付属肢に由来する部分と思われる[1]

下位分類[編集]

系統関係[編集]

節足動物門
大顎類

多足亜門




甲殻亜門(側系統群)



六脚亜門




Artiopoda

三葉虫類†



光楯類



鋏角亜門
 ?

Megacheira


 ?

ウミグモ綱




サンクタカリス



ハベリア



真鋏角類

カブトガニ




ウミサソリ



クモ綱






節足動物門における鋏角亜門の位置と内部系統関係。

現生節足動物の4つの亜門の中で、鋏角類は最も早期に分岐した単系統群という系統的位置は、多くの分岐分類学分子分類学的知見に支持される[2][3]。しかし鋏角類の体制は他の節足動物の群とはかけ離れており、付属肢の対応関係(相同性)の判断は難しく、大顎類以外の化石節足動物のグループとの類縁関係も長く議論されていた[2]

化石節足動物との系統関係については、三葉虫類から派生したものとの見解がかつてはあった。これは、光楯類が両者の中間的な形態を持つものとして存在したことが大きな理由である。光楯類は三葉虫に似た体型に短い剣尾を持ち、附属肢も鋏角類的だが触角があるとされた。また、これによると、古典的知見に基づいて、鋏角類は第1触角、およびそれを備えた第1体節を二次的に喪失していたと思われる[2]

しかしその後、ホメオボックス遺伝子の発見により、鋏角類は第1体節を喪失せず、鋏角は第1体節に由来の、大顎類の第1触角に相同する付属肢であることが判明した[2]。一方、光楯類は触角と鋏角類の特徴を持たない別系統であると考えられるようになり[4]、三葉虫類と鋏角類の類縁関係は疑問視されている。カンブリア紀サンクタカリスハベリアは、本グループによく似た体制も注目される[5]。同期の節足動物Megacheira類の鋏角類らしき脳と大付属肢の構造も、本グループとの類縁関係を示唆していた[6][7]

鋏角類と他の節足動物の体節対応関係
分類/体節 口前葉
(前大脳)
1
(中大脳)
2
(後大脳)
3 4 5 6
鋏角類
(古典的知見)
上唇/口下片 (退化) 鋏角 触肢 第1脚 第2脚 第3脚
鋏角類
ホメオボックス遺伝子に基づく)
上唇/口下片 鋏角 触肢 第1脚 第2脚 第3脚 第4脚
Megacheira 上唇/口下片 大付属肢 第1脚 第2脚 第3脚 第4脚 第5脚
大顎類 上唇/口下片 第1触角 第2触角/
(退化)
大顎 第1小顎 第2小顎/
下唇
第1脚
三葉虫 上唇/口下片 触角 第1脚 第2脚 第3脚 第4脚 第5脚
アノマロカリス類 触手 ヒレ ヒレ ヒレ ヒレ ヒレ ヒレ

節足動物であると考えられたアノマロカリス類触手も口より前にあるため、触角がなく、口より前に口器をなす附属肢由来の構造がある点で、これと鋏角相同と見なす知見があった。そこから、原始的節足動物の中からアノマロカリス類と鋏角類がまず分化し、鋏角の分枝が触角化したことからそれ以外の節足動物が分化した、という説も出ている(小野(2009))。中でもMegacheira類は、両者の中間的な群であると見なされた[8][7]

しかしその後、神経解剖学の知見はこの関係性(および付属肢の相同性)を支持せず、アノマロカリス類の触手は前大脳(口前葉)[9]Megacheira類の大付属肢鋏角類鋏角大顎類触角と同様に、中大脳(第1体節)に対応することが明らかになった[6]

系統関係が疑問視されるウミグモ

また、下位分類についてクモ綱の内部系統ははっきりせず、ウミグモ綱については様々な説が出ており、他の鋏角類(真鋏角類、Euchelicerata)と姉妹群にする説や[10]、残り全ての現生節足動物の姉妹群にする説もある[11]

歴史と進化[編集]

鋏角類は古生代の初期に出現し、常に節足動物相の一翼を担ってきた。特に古生代前期には非常に繁栄し、ウミサソリシルル紀にほぼ食物連鎖の頂点に位置し、史上最大の節足動物の一つになっている。また生物の陸上進出が始まったときにも早い時期に陸生種を出し、肉食者としての地位を築いた。しかし、多くは次第に衰退し、現在ではクモ類・ダニ類以外は種数もごく少なく、生きている化石的なものが多い。

この理由として、一つには鋏角類の前体にある付属肢は殆ど歩脚となり、口器として独立した付属肢は1対の鋏角しかなく、複雑で多様な口器を発達させる余地がなかったことが挙げられる。このため、その歴史の早期には強力な肉食者として存在したが、それ以降に食性についての幅広い適応を行うことができなかった。また、陸上種に関しては呼吸器としての書肺をもっていたが、そのために気管の発達が遅れ、そのために運動能力において後れを取ったとの説もある。

いずれにせよ、海では甲殻類に、陸上では昆虫類に押されて衰退したと見られる。この類で大きな発展を遂げたのはクモ目とダニ目のみで、前者は糸と、それによる網の活用で広範囲な昆虫を捕食する能力を発達させたこと、後者では小さな体を利してニッチを拡大し、食性の幅を広げた(肉食・草食・吸血・腐植食など、あるいは捕食者、草食者・寄生者など)ことによると思われる。それ以外の類はほとんど古生代の姿を残した遺存的な群である。

脚注[編集]

  1. ^ a b c Segmentation and tagmosis in Chelicerata
  2. ^ a b c d Expression of homeobox genes shows chelicerate arthropods retain their deutocerebral segment
  3. ^ Arthropod relationships revealed by phylogenomic analysis of nuclear protein-coding sequences
  4. ^ Ortega-Hernández, J.; Legg, D. A.; Braddy, S. J. (2013年). “The phylogeny of aglaspidid arthropods and the internal relationships within Artiopoda”. Cladistics 29: 15–45. doi:10.1111/j.1096-0031.2012.00413.x. 
  5. ^ Mandibulate convergence in an armoured Cambrian stem chelicerate
  6. ^ a b Tanaka, Gengo; Hou, Xianguang; Ma, Xiaoya; Edgecombe, Gregory D.; Strausfeld, Nicholas J. (2013年10月17日). “Chelicerate neural ground pattern in a Cambrian great appendage arthropod”. Nature 502 (7471): 364–367. doi:10.1038/nature12520. PMID 24132294. 
  7. ^ a b Functional morphology, ontogeny and evolution of mantis shrimp-like predators in the Cambrian
  8. ^ The sudden appearance of diverse animal body plansduring the Cambrian explosion.
  9. ^ Peiyun Cong; Xiaoya Ma; Xianguang Hou; Gregory D. Edgecombe; Nicholas J. Strausfeld (2014年). “Brain structure resolves the segmental affinity of anomalocaridid appendages”. Nature 513 (7519): 538–42. doi:10.1038/nature13486. PMID 25043032. 
  10. ^ Pycnogonid affinities: a review
  11. ^ Neuroanatomy of sea spiders implies an appendicular origin of the protocerebral segment

参考文献[編集]

  • 内田亨監修『動物系統分類学(全10巻)第7巻(中A) 節足動物(IIa)』,(1966),中山書店
  • 石川良輔編『節足動物の多様性と系統』,(2008),バイオディバーシティ・シリーズ6(裳華房)
  • 小野展嗣編著、『日本産クモ類』、(2009)、東海大学出版会

関連項目[編集]