鋏角類

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鋏角類
生息年代: 505–0 Ma[1]
Chelicerata Collage.png
地質時代
カンブリア紀 - 現世
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
亜門 : 鋏角亜門 Chelicerata
学名
Chelicerata
Heymons, 1901
英名
Chelicerate
下位分類群

鋏角類(きょうかくるい、Chelicerate)は、節足動物を大まかに分ける分類群のひとつである。通常では鋏角亜門Chelicerata)の総称とされ、クモサソリダニなどのクモガタ類、およびカブトガニウミサソリウミグモなどを含む。鋏角をもつことを特徴とする[2]

11万種以上が知られ[3]、現生節足動物の4つの亜門の中では2番目に種を富んだ分類群である。系統関係については、多足類甲殻類六脚類という3つの亜門を含んだ大顎類と姉妹群になり、現生節足動物を大きく分けた2つの系統群の一角になる[4]

形態[編集]

カニムシの構造
I:鋏角、II:触肢、III-VI:歩脚、1-11:後体

鋏角類に含まれる節足動物は以下のような基本的体制の違いによって、それ以外の節足動物大顎類三葉虫類など)から区別できる。

  1. 一部の例外を除き[注釈 2]、体は前体Prosoma頭胸部)と後体Opisthosoma腹部)の2部のみからなる。
  2. 第1対の付属肢は鋏角である[2]。(大顎類三葉虫の場合は触角である)
  3. 鋏角を除き、前部の合体節の付属肢はほとんどが歩脚型である。(大顎類の場合はほとんどが触角と顎をなす)
  4. 触角と真の顎として独立した付属肢は存在しない。(その機能らしい別の付属肢/部位をもつ例のみが存在する[注釈 3]

前体[編集]

クモ(A)、ヒヨケムシ(B)、およびコヨリムシ(C)の鋏角
サソリ(左列)とアメリカカブトガニ(右列)の前体付属肢比較図
I:鋏角
II:触肢
III-VI:歩脚

前体(Prosoma)は先節と直後6つの体節からなり、それに応じて計6対の付属肢関節肢)をもつ。通常は前体全ての体節が癒合して背面が1枚の背甲に覆われるが、第5と第6体節が独自に分節した例も存在する[注釈 4][2]

第1体節は本群の特徴である1対の鋏角cheliceraeウミグモの場合は鋏肢 cheliforesという)をもつ。通常は目立てない型の付属肢であるが、分類群によっては巨大化したり[注釈 5]ナイフ型[注釈 6]になったりする場合もある。次の第2-6体節は、7節前後の肢節に分かれる5対の歩脚型付属肢があり、そのうち最初の一対は触肢pedipalps)としてやや異なった構造へ特殊化した場合がある[2]。感覚や摂食の機能を補助する付属肢(およびその一部の構造体)をもつ例があるものの、大顎類に見当たる触角と真の顎は存在しない[注釈 3]は鋏角と触肢の間に開き、目立てない上唇に覆われるが、ウミグモ類の場合では上唇の代わりに発達した円筒状の吻をもち、口はその先端に開く[2]

この部分は「頭胸部」(cephathorax)とも呼ばれていたが、鋏角類の前体は1つの合体節(tagma)で、甲殻類に見当たる頭部と胸部という2つの合体節の癒合を通じて由来する頭胸部とは異なり、そこに含まれた体節(第1-6体節)はほとんどが大顎類の頭部に相同である(第1-5体節)。従って、大顎類において顎に特殊化した付属肢は、鋏角類の場合ではそのほとんどが歩脚として用いられる(後述の対応関係も参照)[5]。節足動物全般の頭部構成に因む議論、特に他の節足動物の頭部と比較する場合、鋏角類の前体は常に「頭部」扱いとされる[6][7]

ウミグモ類は集約した4つの単眼のみをち、それ以外の鋏角類では原則としてそれぞれ背甲の中心と左右に備わる中眼(median eye)と側眼(lateral eye、単に単眼ともいう)をもつ。カブトガニ類ウミサソリ類・原始的なサソリ類の側眼は複眼であるが、現生のクモガタ類はそれが退化し、複眼由来の数対以下の単眼となる[8]。なお、全ての眼を退化消失した鋏角類もある。

後体[編集]

カブトガニ類の後体断面図と鰓脚の構造

腹部」(abdomen)とも呼ばれる。体の第7体節から始め、最多は13節からなる(第19体節まで及ぶ)[2]サソリウミサソリ、およびChasmataspidida類のように後体は更に中体mesosoma、前腹部)と終体metasoma、後腹部)として区別でき、または後端の3節が細短い尾部(pygidium)となる分類群もある[注釈 7]。最終体節の肛門の直後に尾節telson)をもつ分類群も少なからずにあり、その形は分類群によって剣状・へら状・鞭状など様々である[注釈 8][2]

現生の鋏角類に限れば、後体の付属肢はほとんどが退化的であり、あっても歩脚状から飛び抜けた形態をもつ。カブトガニ類などの節口類の後体付属肢は鰭状の蓋板(operculum)であり、クモガタ類の書肺とそれを覆う板状構造・クモの糸疣・サソリの櫛状板・ウミサソリウデムシサソリモドキの生殖肢などの器官は、著しく特殊化した後体付属肢であると考えられる[2][9]

特に注目されるのは、その第1節(第7体節)である。クモガタ類の場合、この体節は付属肢を欠き、一部の群ではくびれて腹柄となる。しかしカブトガニ類の場合、この体節は前体へ癒合し、1対の唇様肢(chilaria)という小さな付属肢を備える[2][10]ウミサソリ類もそれに似通い、癒合した付属肢と思われる1枚の「metastoma」を持っていた[2]ウミグモウェインベルギナは更なる極端な例であり、この体節は前体と同形の歩脚をもっていた[2]。特に前者は、この第7体節を胴部の一部と扱うことが一般的である[2][11]。これによって、第7体節の多くの形質は前体的であり、前体の一部と扱うべきではないかという提唱もある[2][10]

生殖孔(gonopore)はウミグモ類では各脚の基部に開いている[12]が、それ以外の鋏角類(真鋏角類)では後体第2節の腹側に開き、生殖口蓋(genital operculum)に覆われる[2]

神経系[編集]

ウデムシの中枢神経系。br:脳/食道上神経塊、ce:後体の神経、le:側眼、me:中眼、nch:鋏角の神経、np1-np4:第1-4脚の神経、npd:触肢の神経、seg:食道下神経塊

他の節足動物と同様、鋏角類ははしご形神経系をもつ。(brain もしくは syncerebrum[13])に含まれる神経節と付属肢の対応関係はかつて議論があったが(後述参照)、2010年代以降では先節の神経節を前大脳(protocerebrum)、第1体節/鋏角の神経節を中大脳(deutocerebrum)、第2体節/触肢の神経節を後大脳(tritocerebrum)、それ以降の体節/付属肢の神経節を腹神経索(ventral nerve cord)と扱うのが一般的である[6]ウミグモ類の脚の神経節ははっきりとしたはしご形を残るが、カブトガニ類クモガタ類の場合、脳神経節と脚の神経節は著しく癒合して脳と腹神経索の境目がほぼなくなり、すなわち前体の全ての神経節が「synganglion」という1つの集中部になっている[13]。食道はその中心(神経解剖学的には中大脳の間[14])を貫通しており、これに基づいてsynganglionを前後で食道上神経塊(supraesophageal ganglion)と食道下神経塊(subesophageal ganglion)として区別される場合もある[15]。後体の神経節の場合、カブトガニ類とサソリ類ははしご形のままであるが、他のクモガタ類は前体へと集約される[13]。側眼の視神経が3つの神経網をもつ大顎類とは異なり、現生鋏角類の側眼の視神経は1つの神経網のみをもつ[8]

生態[編集]

生息地[編集]

陸上で多様化したクモ

鋏角類の中でクモガタ類はほとんどが生で、様々な陸上生態系に進出しており、砂漠極地・高山など極端な環境に生息する種類もある[16]。水中生態系の場合、クモガタ類にはミズダニミズグモなど陸から二次的に水生化したものが知られ[16]カブトガニ類ウミグモ類は現生群ではすべてが海棲である。しかし化石群まで範囲を広げると、カブトガニ類とウミサソリ類はいずれも海棲・陸水性と考えられる種類が挙げられており、特にウミサソリ類に関しては、少なくとも短時間の陸上活動をできたと思われる種類もある[17][18]

食性[編集]

鋏角類は一般に捕食者ニッチ(生態的地位)を占めるが、幾つかの例外も挙げられる。クモガタ類は多くが昆虫などの小型節足動物を捕食する肉食動物であるが、その中でダニ類は例外的で肉食性・草食性・腐植食性・寄生性・吸血性まで多岐にわたり[19]ザトウムシ類は雑食性や腐肉食性の種類によって知られる。捕食者として代表的であるクモ類の中でも吸蜜行動が見られ[20][21]、植物成分を主食とする1種も報告される[22]。絶滅群のウミサソリ類は多くが活発な捕食者であったと考えられ、現生のカブトガニ類は肉食性に偏る雑食性である[23]ウミグモ類の食性については研究が進んでいないが、主に刺胞動物など柔らかい固着生物の体内組織を摂ることが知られ、これは文献によって捕食性もしくは寄生性と扱われる[24]

カブトガニ類の前体の横断面図。脚の基節に嚙み合わせた顎基をもつ。

多くの場合、鋏角類の鋏角は口器として機能する主な部分であり、餌を把握・切断・粉砕するのに用いられる。クモ類の場合、牙のような鋏角は毒腺をもち、毒を獲物に注入する機能を備わっている[2]。鋏角以外の前体付属肢(触肢や脚)の基部が摂食を補助する構造をもつ場合もあり、例えばクモ類の下顎(maxilla、触肢の基部に備わる)・ザトウムシ類の顎葉(coxapophyses、触肢と第1脚の基部に備わる)[25]・カブトガニ類とウミサソリ類の顎基(gnathobase、触肢と全ての脚の基部に備わる)などが挙げられる。ウミグモ類は突き出した吻で直接に餌を摂るが、発達した鋏肢と触肢をもつ種類ではこれらの付属肢も摂食行動に参加している[24]

多くのクモガタ類は固形物の餌を直接に摂食せず、代わりに消化液で餌を体外消化し、軟組織を液体状に分解してから口へと飲み込むが、ザトウムシ類は例外的に固形物を直接に摂食できる。現生のカブトガニ類は発達した前胃で固形物の餌を細かく砕き、食べられない物をここから噴き返すこともできる[26]

繁殖と発育[編集]

カブトガニはオス(奥)がメス(手前)を包接する習性をもつ。

鋏角類の中で様々な繁殖行動が見られ、クモガタ類の中では特殊な求愛行動をもつ分類群もいくつか挙げられる。配偶子のやりとりとして、ザトウムシ類は交尾(雌雄生殖器の接続を通じて行う)、他のクモガタ類は交接(精包の受け渡しなど、交尾以外の方法で精子をメスの生殖孔に入り込む)、カブトガニ類ウミグモ類は体外受精を通じて行う[12]。原則として卵生だが、サソリは卵胎生である。卵や幼生の世話をする保育行動は、クモガタ類とウミグモ類に普遍に見られる[12]

他の節足動物と同様、鋏角類は脱皮を通じて成長し、幼生は多くの場合では成体と同じ体節数や付属肢数で生まれる。例外として、生まれたての多くのダニ類とクツコムシ類は6本の脚のみをもち、後に脱皮してから8本脚となる。ウミグモ類はプロトニンフォン幼生(protonymphon)という成体らしからぬ特殊な形態で生まれ、脱皮を通じて徐々に脚をもつ体節を増やして成体らしい姿に変態する[27][28]。また、性成熟を迎えると成長が止まるもの(カブトガニ類、多くのクモガタ類など)と、性成熟になっても脱皮し続けられるものがある(オオツチグモのメス、ウデムシなど)[29]。欠損した付属肢は通常では次の脱皮である程度まで再生できるが、付属肢の再生能力を欠く分類群もある(ザトウムシなど)[30]

体節と付属肢の対応関係[編集]

クモガタ類の前方の体節構成を示した模式図。この図では鋏角(Ch)の神経節は中大脳(D)であるとされる。
分類/体節(先節を除く) 1(中大脳) 2(後大脳) 3 4 5 6
大顎類 第1触角 第2触角/間挿体節 大顎 第1小顎 第2小顎/下唇 第1脚
Artiopoda 触角 第1脚 第2脚 第3脚 第4脚 第5脚
鋏角類
(古典的な見解)
(退化) 鋏角 触肢 第1脚 第2脚 第3脚
鋏角類
(遺伝子発現・発生学・神経解剖学に支持される見解)
鋏角 触肢 第1脚 第2脚 第3脚 第4脚

鋏角類の体制は他の節足動物の群とはかけ離れており、外見から付属肢の対応関係(相同性)の判断は難しく、中でも触角を持たない原因や鋏角の対応関係が議論の的となった。

かつて、鋏角類は触角(第1触角)、およびそれを備わった第1体節を二次的に退化していた思われた。これによると、鋏角類の鋏角は後大脳性(第2体節由来)で、大顎類の第2触角/間挿体節に相同と考えられた。20世紀で主流になった鋏角類と三葉虫など(Artiopoda類)の類縁関係も、この説を踏襲していた(後述参照[31][32]。さらに鋏角類の中で、ウミグモ類と他の鋏角類の体節/付属肢の対応関係が疑問視されることもあった(詳細はウミグモ綱#頭部付属肢の対応関係を参照)[33][34]

しかし、ホメオボックス遺伝子発現発生学神経解剖学から得られる情報では、次の結果が出ている。

  • 発生学:鋏角類の胚発生は始終を通じて、第1触角をもつ体節およびその痕跡は鋏角をもつ体節の直前に見当たらない[39]
  • 神経解剖学:鋏角に対応の脳神経節は、第2触角や間挿体節に対応の後大脳より、むしろ第1触角に対応の中大脳らしい形質をもつ[39][14]

これにより、古典的な対応関係は徐々に否定され、代わりに鋏角は中大脳性(第1体節由来)で、すなわち鋏角類は第1体節を喪失せず、鋏角は大顎類の第1触角に相同の付属肢であることを明らかにした。

系統関係[編集]

カブトガニ類(右下)を甲殻類と一斉に並んだ19世紀の「甲殻類」のイラスト。
節足動物門
鋏角亜門

Chelicerata Collage.png ウミグモカブトガニクモガタ類など

大顎類

多足亜門 Myriapod collage.png ムカデヤスデなど

汎甲殻類
甲殻亜門
側系統群

Crustacea.jpg カニとエビフジツボミジンコなど

六脚亜門

Insect collage.png 内顎類昆虫など

20世紀以前では、「鋏角類」という分類群はなく、カブトガニ類ウミサソリ類は、クモガタ類とは別に甲殻類扱いされた[40]。20世紀以降の再検討により、カブトガニ類とウミサソリ類の体制は甲殻類らしからぬ、むしろクモガタ類に対応していることが明らかになった。こうして1901年、ウミグモ類・カブトガニ類・ウミサソリ類・クモガタ類をまとめた節足動物の分類群「鋏角類」(Chelicerata)が創設された[41]

現生節足動物の4つの亜門の中で、鋏角類は最初に分岐した単系統群で、残り全ての現生節足動物(大顎類)の姉妹群になるという系統位置は、ホメオティック遺伝子発現[42]、および多くの形態学分子系統学的見解に強く支持される[43][4]。他にも甲殻類などと姉妹群になる(Schizoramiaをなす)、多足類と単系統群になる(MyriochelataまたはParadoxopodaをなす)、もしくは鋏角類は多系統群(Cormogonida説、後述参照)などの異説はかつてあったが、いずれも後に否定的とされる[4]

上述の現生群以外にも、鋏角類と化石節足動物の分類群の類縁関係は多くの議論が繰り広げられていた。

化石節足動物との関係性[編集]

節足動物
大顎類

多足類甲殻類六脚類など

Arachnomorpha
Artiopoda

三葉虫類、光楯類など

鋏角類

Arachnomorpha
節足動物
Antennulata
大顎類

多足類甲殻類六脚類など

Artiopoda

三葉虫類、光楯類など

鋏角類

Antennulata
節足動物
大顎類

多足類甲殻類六脚類など

Artiopoda

三葉虫Olenoides serratus 3d.jpg、†光楯類 Aglaspis spinifer.jpg など

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Megacheira 20191028 Megacheirans Leanchoilia Haikoucaris Yohoia Fortiforceps.png

鋏角類

ウミグモ類 Callipallene brevirostris (YPM IZ 077244) 003.jpeg

サンクタカリス 20191019 Sanctacaris uncata.png

ハベリア 20190927 Habelia optata.png

モリソニア 20191003 Mollisonia plenovenatrix side.png

真鋏角類

カブトガニ類 Tachypleus gigas.JPG

Chasmataspidida 20200607 Chasmataspidida Octoberaspis Hoplitaspis Chasmataspis Diploaspis.png

ウミサソリ類 Eurypterus Paleoart (no background).png

クモガタ類 Haeckel Arachnida.jpg

現生の鋏角類(太字)といくつかの化石節足動物(†)の系統関係。姉妹群関係が不確実のものは複数分岐としてまとめられる。

化石節足動物との系統関係については、三葉虫類(Trilobita)とそれらしい節足動物を含んた分類群三葉形類Trilobitomorpha)に類縁とする説は、20世紀においては主流であった。鋏角類と三葉形類は、共にArachnomorphaをなし、その中で鋏角類は三葉形類から派生しているとされ、特に節口類と三葉形類の形質は少なからぬ比較された(幅広い背甲・平板状の鰓脚/外肢・顎基をもつ頭部付属肢など)[32][31]。同時に光楯類Aglaspidida)は、鋏角類のように頭部(前体)に鋏角を含めて6対の付属肢をもつと解釈され、節口類の鋏角類と誤解された[44][10]。三葉形類は触角をもつため、これにより、鋏角類は三葉形類から派生している過程で触角(およびそれをもつ体節)を二次的に退化したと考えられ[32]ケロニエロンなど一部の化石節足動物が、その中間形態を表すとされることもあった[31]

しかし、20世紀後期の議論を始めとして、光楯類は上記の鋏角類らしい特徴を欠く(頭部の付属肢は4-5対しかなく、最初の付属肢は鋏角ではなく触角である)ことが徐々に判明し、21世紀では三葉形類・ケロニエロン類などと共にArtiopoda類に分類されるようになった[44]。そして90年代の研究を始めとして、鋏角類の鋏角は第1触角に相同であると後に分かり(前述参照)、前述の系統仮説もこれにより見直しがなされている。21世紀になっても、根拠は20世紀と多少異なりながらArachnomorpha説(鋏角類+Artiopoda類)を支持する研究はあるが、確実でなく、逆にArtiopoda類(少なくとも三葉虫類)と大顎類の類縁関係(Antennulataをなす)を支持する見解もある[45][46][4]

鋏角類はカンブリア紀に起源と考えられ[1]、基盤的な鋏角類とされるカンブリア紀の節足動物はいくつか挙げられる。Megacheira類は鋏角類らしい神経系[47]、退化的な上唇[48]、および鋏角を彷彿とさせる構造をした大付属肢があり[49]、議論の余地があるが、類縁関係にあることを示唆している。同期のサンクタカリスハベリアなどを含んだハベリア類ハベリア目 Habeliida)は、再検討により鋏角類らしい体制をもつことが判明した[50]。しかし、これらの節足動物は鋏角に相同と思われる付属肢をもつものの、そのいずれも確実に鋏角といえるほどの構造を欠いている[1]モリソニア類モリソニア目 Mollisoniida)のモリソニア[51]の1種 Mollisonia plenovenatrix は、真の鋏角をもつことが認められる初のカンブリア紀節足動物で、胴部の付属肢がカブトガニ類の書鰓らしい構造も備わっている[1]

節足動物であると考えられるアノマロカリス類前部付属肢も口より前にあるため、触角がなく、口より前に口器をなす附属肢由来の構造がある点で、これと鋏角相同と見なす知見があった。そこで、基盤的な節足動物の中からアノマロカリス類と鋏角類がまず分化し、鋏角の分枝が触角化したことからそれ以外の節足動物が分化した、という説も出ている(小野(2009))。中でもMegacheira類は、両者の中間的な群であると見なされた[52][49]。しかし、神経解剖学的証拠はこの系統関係(および付属肢の相同性)を支持せず、アノマロカリス類の前部付属肢は前大脳性(先節由来)[53]である一方、Megacheira類の大付属肢と鋏角類の鋏角大顎類触角と同様に、中大脳性(第1体節由来)であることを明らかにした[47]

下位分類[編集]

鋏角類は通常、大きくウミグモPycnogonida、ウミグモ綱、皆脚綱)と真鋏角類(Euchelicerata)の2群に分かれ、後者は更にカブトガニ類ウミサソリ類などを含んだ節口類(Merostomata、節口綱、腿口綱)、およびクモサソリダニなどの陸生群を含んだクモガタ類Arachnida、クモガタ綱、蛛形綱、クモ綱)として細分される。

しかしこのような分類体系の一部は、系統関係を適切に反映していないと思われ、以下の議論が繰り広げられる。

節足動物

大顎類

鋏角類

ウミグモ類

真鋏角類

カブトガニ類

Chasmataspidida

ウミサソリ類

クモガタ類

最も広く認められる鋏角類の系統関係[4]。(青桁=節口類
節足動物

ウミグモ類

Cormogonida

大顎類

真鋏角類

カブトガニ類

Chasmataspidida

ウミサソリ類

クモガタ類

Cormogonida仮説。ウミグモ類の系統的位置によって鋏角類は解体される。(青桁=節口類
クモガタ類
四肺類クモ+ウデムシ+サソリモドキ+ヤイトムシ)の単系統性は昔今を通じて広く認められ、サソリとの姉妹群関係(蛛肺類)も分子系統学[43][54][55][56]遺伝子重複[57][58]・書肺の連続相同性[59]に支持されるが、それ以外の群の類縁関係は主に分子系統解析によって不確定の状態に至った[4]ダニの単系統性は賛否両論で[54][60][56]、またクモガタ類自体が非単系統ではないかと思われることもしばしばある[61][54][62][55]
節口類
化石群であるウミサソリ類は、後に生殖器官の形質に基づいてカブトガニ類よりもクモガタ類に近縁であるとされる。こうして節口類はクモガタ類に対して側系統群とされることが一般的になり、「節口類」を破棄させる見方もある[10]。また、従来ではカブトガニ類の一部としてまとめられた化石群(Synziphosurine)は、他の真鋏角類に対して非単系統であることも示唆される[10]。ウミサソリによく似ているChasmataspidida類に関しては、カブトガ二類とウミサソリ類を除いた側系統群、もしくはウミサソリに属するなどの説はあったが、ウミサソリ・クモガタ類と共に単系統群になる説の方が後に広く認められる[10][63]
ウミグモ類:
真鋏角類の姉妹群になる説は形態学・分子系統学の両方に最も広く認められる[4]が、クモガタ類に含まれ[64]・残り全ての現生節足動物(Cormogonida)から孤立した群[65]、などの見解もある[66][67]。特に後者の場合、真鋏角類は大顎類とCormogonidaをなし、鋏角類(鋏角亜門)は多系統群として解体され、代わりにウミグモ類と真鋏角類を亜門(ウミグモ亜門、真鋏角亜門)へと昇格させる見方もある[68]。ウミグモ類自体の単系統性は確実であるが、その内部系統は分子系統解析によって再編成されつつある[69][70][71]

2019年現在、真鋏角類の単系統性は確実であり、ウミグモ類と単系統群の鋏角類になることも広く認められる。真鋏角類の中でカブトガニ類は基盤的で、ウミサソリ類は一般にクモガタ類の近縁と見なされる。蛛肺類以外のクモガタ類の系統関係は、未だに議論の余地がある[4][16]

2011年時点では、11万種以上の現生鋏角類が記載される。百万種に及ぶ六脚類ほどではないが、節足動物の中で鋏角類は2番目に種数の多い亜門である[3]

進化史[編集]

鋏角類は古生代の初期に出現し、常に節足動物相の一翼を担ってきた。特に古生代前期には非常に繁栄し、ウミサソリシルル紀にほぼ食物連鎖の頂点に位置し、史上最大の節足動物の一つになっている。また生物の陸上進出が始まったときにも早い時期に陸生種を出し、肉食者としての地位を築いた。しかし、多くは次第に衰退し、現在ではクモ類・ダニ類以外は種数もごく少なく、生きている化石的なものが多い。

この理由として、一つには鋏角類の前体にある付属肢は殆どが歩脚となり、口器として独立した付属肢は1対の鋏角しかなく、複雑で多様な口器を発達させる余地がなかったことが挙げられる。このため、その歴史の早期には強力な肉食者として存在したが、それ以降に食性についての幅広い適応を行うことができなかった。また、陸上種に関しては呼吸器としての書肺をもっていたが、そのために気管の発達が遅れ、そのために運動能力において後れを取ったとの説もある。

しかしクモ類とダニ類は例外的で、多様化して大きな発展を遂げた。前者は糸と、それによる網の活用で広範囲な昆虫を捕食する能力を発達させたこと、後者では小さな体を利してニッチを拡大し、食性の幅を広げたことによると思われる。

脚注[編集]

[脚注の使い方]

注釈[編集]

  1. ^ O:単眼
    緑:前体(頭胸部
    黄(1-7):中体(前腹部)
    ピンク(M1-M5):終体(後腹部)
    T:尾節
    A:肛門
    C:鋏角
    P:触肢
    Co・Fe・Ti・Ta:歩脚
  2. ^ ウミグモの体は頭部・胴部・腹部の3部として区別されることが多い。詳細は該当項目を参照。
  3. ^ a b 摂食用の鋏角(第1体節由来、大顎類の第3-5体節由来の顎に相似)、
    カブトガニ類ウミサソリ類の顎基(歩脚の基節の突起物であり、独立の付属肢ではない)、
    ウデムシサソリモドキヤイトムシの感覚用の第1脚(第3体節由来、大顎類の第1-2体節由来の触角に相似)、
    などが挙げられる。
  4. ^ ヒヨケムシヤイトムシコヨリムシザトウムシ(痕跡的)・ウミグモなど。
  5. ^ ヒヨケムシプテリゴトゥス科ウミサソリ・一部のクモトタテグモ下目アシナガグモ科のオス・アリグモ属のオスなど)。
  6. ^ 四肺類クモコスリイムシウデムシサソリモドキヤイトムシなど)。
  7. ^ ウデムシサソリモドキヤイトムシクツコムシコヨリムシ・一部の基盤的なカブトガニ類Synziphosurine
  8. ^ 剣状:カブトガニ類、ほとんどのウミサソリ類、パレオイソプスウミグモ
    へら状:プテリゴトゥス上科ウミサソリ
    鞭状:コヨリムシサソリモドキFlagellopantopusウミグモ

出典[編集]

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参考文献[編集]

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  • 石川良輔編『節足動物の多様性と系統』,(2008),バイオディバーシティ・シリーズ6(裳華房)
  • 小野展嗣編著、『日本産クモ類』、(2009)、東海大学出版会

関連項目[編集]