アノマロカリス

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アノマロカリス
生息年代: 525.0–505.0 Ma
Anomalocaris BW.jpg
アノマロカリスの復元図
保全状況評価
絶滅(化石
地質時代
約5億2,500万- 約5億0,500万年前(古生代カンブリア紀前期終盤カエルファイアトダバニアン- 中期[ミドルカンブリアン]
分類
: 動物界 Animalia
上門 : 脱皮動物上門 Ecdysozoa
階級なし : 汎節足動物 Panarthropoda
: 節足動物門 Arthropoda[1][2]
: 恐蟹綱 Dinocaridida
: 放射歯目 Radiodonta
亜目 : アノマロカリス亜目 Anomalocarida
: アノマロカリス科 Anomalocarididae
: アノマロカリス属 Anomalocaris
学名
genus Anomalocaris
Whiteaves1892
タイプ種
アノマロカリス・カナデンシス
Anomalocaris canadensis
Whiteaves1892
和名
アノマロカリス
英名
Anomalocaris
下位分類群(
本文を参照
アノマロカリス・カナデンシスの触手の化石(スペインはバルセロナのコスモ・カイシャ科学生物博物館 所蔵)

アノマロカリスAnomalocaris)は、約5億2,500万- 約5億0,500万年前、古生代カンブリア紀の海に棲息していた捕食性動物である。アノマロカリス類模式属で、突出して著名な1である。

バージェス動物群(約5億0,500万年前)の代表的動物として広く一般に知られるようになったが、更に古い時代に属する澄江動物群(約5億2,500万- 約5億2,000万年前)にも、同属とした見なされた種類の姿を見出せる。一方で、バージェス頁岩累層より新しい地層からの出土はほとんど無い。

現在知られている限りカンブリア紀最大の動物であり、当時の頂点捕食者生態ピラミッドの最高次消費者)であったと考えられる。

直接と思われる子孫を残さずに絶滅した動物群であり、かつては所属タクソン(分類群)不明の「プロブレマティカ(不詳化石)」の代表例として語られてきた。その後は様々な知見のバックアップにより、他のアノマロカリス類などと共に、節足動物との関連性が認められ、その起源を推定する重要な古生物になった(詳細は後述の系統関係を参照)。

発見史[編集]

奇妙な“エビ”[編集]

現在ではバージェス動物群に属する代表的な動物として知られているが、触手化石についてはそれ以外でも発見されていた。その部分化石は、エビの仲間の腹部と考えられたことから、1892年にカナダの古生物学者であるジョセフ・フレデリック・ホワイティーブス英語版によって「anomalo- (奇妙な) + caris (エビ)」、すなわち「奇妙なエビ」との意味で Anomalocaris という学名を与えられている。中国語でも「奇蝦(きか)」である。本体の化石もバージェス頁岩塁層から間も無く発見されるのではあるが、その確認に先立って、古生物学者チャールズ・ウォルコットと胴体を発見し、それぞれ個別の動物として記載を行った。口の部分はクラゲの化石と判断してペユトイア (Peytoia)、胴体部分はナマコの一種と考え、ラガニアとしてである。特にペユトイアは古生代カンブリア紀の復元図には必ず描かれるほど有名になった。

しかしながら、アノマロカリス、ペユトイア、ラガニアという3つの化石については大いに疑問を持たれ、次のようなことが言われていた。

  1. アノマロカリス(触手部分)はエビのような甲殻類の後半身と考えられていたが、内側の突起は外骨格の突出部であって、付属肢ではない。先端は尾節の構造がない。消化管の痕跡も見あたらない。
  2. ペユトイアは中央に穴が開いていて、が並んでおり、クラゲとしては異様である。

そして、ハリー・ウィッティントンen)とブリッグスがラガニアの化石を再検討した結果、その端の部分にペユトイアが付いており、その前に対をなしてアノマロカリスが付属していることを発見、1985年にこれらのそれぞれが大きな動物の一部位であることを認め、その動物の名はアノマロカリス・カナデンシス (Anomalocaris canadensis) として再認識されるに至った。ちなみに後述のように、再研究によってラガニアはアノマロカリスに近い別属の名として残っている。

発見地[編集]

保存状態の良い近縁種の化石は、主に北アメリカ(米国のユタ州およびネバダ州、カナダのブリティッシュコロンビア州バージェス頁岩累層)、中国雲南省澄江、オーストラリアのカンガルー島エミュ・ベイ頁岩塁層Emu Bay shale (Formation)])、グリーンランドシリウス・パセット塁層Sirius Passet (Formation)])などのいわゆるラーゲルシュテッテンで発見されている。口器および頭部の付属肢(触手)は硬質であり、他の体の部分に比べれば発見例が多い。

形態[編集]

バージェス頁岩塁層で発見されたアノマロカリス(A. canadensis)の完全化石(カナダはトロントロイヤル・オンタリオ博物館 所蔵)
かつて本種のものとして見なされたフルディアの口[3]
アノマロカリスの触手化石

バージェス動物群の中で最も大きな動物であり、A. canadensisはおよそ1mまでにも及ばす。中国の澄江動物群としては体長2mのA. saronに当たる化石も確認されている。

ここは、本属のタイプ種A. canadensis(アノマロカリス・カナデンシス)の特徴に基づいて説明する。広義のアノマロカリス、いわゆるアノマロカリス類の全面的な特徴については該当記事を参照のこと。

胴体[編集]

胴体はやや扁平な狭い楕円形で、頭部と胴部の間がややくびれる。背側には、「setal blades」という鰓として考えられた櫛状の構造が鰭の対数に応じて並ぶ。脚らしき構造は見当たらない[2]

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胴体の腹側から左右に大きく横に張り出した、(かい)に似た(ひれ)が13対ある。その鰭は、体のほぼ中央部にある最も長い1枚を頂点に両の端へ向けて次第に短くなっていく稜線(りょうせん)の形を描く。鰭の前縁部には、皺のような構造が密性する。また、"首"に当たる部分には、もう3対のごく小さな鰭がある[2]。体の後端には斜め上方向に突き出した尾鰭が3対あり、その最後の対の間にはもう1本の細い鰭がある[2]

頭部[編集]

頭部の上面には左右に大きな眼が1対あり、短い眼柄を介して左右側面に飛び出している。この眼は無数の六角形のレンズ(個眼)からなる複眼である。1つの眼にあるレンズ数はおよそ16,000個、これは現生節足動物トンボの約28,000個に匹敵する[4]

頭部の背側には、リング状の外縁と円盤状の中心からなる殻が確認されている。この構造の存在は多くのアノマロカリス類からにも確認され、フルディアの頭部にある大きな殻もこの部分に由来すると思われる[2]

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頭部の下面中央には、放射状に配列した歯に囲まれ、“輪切りのパイナップル”とも喩えられた丸い形の口がある。

かつて、アノマロカリスの口はフルディアラガニアのように、32個の歯のうち4つの最大歯は十字配置という典型的な「ペユトイア口」("peytoia" mouth)だと思われた。しかし、保存状態の良い化石の観察により、アノマロカリスの口はやや異なり、開口部は比較的に小さく、歯の総数は不定で、最大歯は3つのみあり、三角配置であることが判明した[2][5]A. canadensisの他に、A. saronの化石からにもらしき歯列が見られ、本属の共通性質として考えられる[6]

触手[編集]

唯一の関節肢として、口の前方には大付属肢(great appendages)ないし前方付属肢(frontal appendages)という、外骨格に覆われた2本の触手がある。左右にやや扁平で、14節に分かれ、全体の造形はエビの腹部に似ている。先に向かって細くなりながら下側に曲がり、先端の節を除いて内側の棘状突起は1節に1対ずつある。そのうち第2-10節の棘は三叉状になっており、先端に向けて次第短くなるが、奇数節の棘は偶数節のより少し短いという仕組みがある。腹側の関節膜は幅広く、高い可動範囲を示す。この触手は下側に向かって曲げることができて、これで獲物を捕らえ口に運んだと考えられている[2]

内部構造[編集]

内部構造は、鰭に繋がる筋組織と消化道が確認される[2]。かつて、その筋組織は鰓など他の器官として復元されたことがある。消化道は鰭の対数に応じて節に分かれ、前腸・中腸・後腸という3部分からなる。そのうち前腸と後腸は太く、中腸は細くて6対の消化腺が両側に並ぶ、これも鰭の対数に対応する。これらの特徴、特に消化道の構造は節足動物様の体節制をもつこと示す[2]

生態[編集]

アノマロカリスの触手の化石
(バージェス頁岩塁層)

本種は、当時の頂点捕食者であったと考えられている。発達な複眼、捕爪状の触手、流線型の体付きと消化道の形態は、能動的な捕食生活を示す[4]。捕食は、頭部先端部の付属肢(触手)で捕らえた獲物を逃がさずに、口の方向に導いていたと考えられている。

やや細長い体の両側に、一面に張り出した鰭を並べる構造は現生の動物では例がない。ホウネンエビを代表として腹部に鰭を並べる構造の動物はあるが、それらは腹部を上にして泳ぐのが普通である。それに対して、この動物では鰭が側面に張り出しており、これらを波打たせて、例えばコウイカのようなかたちで泳いだのではないかと考えられる。

食性の議論[編集]

カンブリア紀の化石から、糞や消化道の内容物として考えられる三葉虫の破片の塊、三葉虫には齧られた痕にもしばしば発見されており、これらはアノマロカリスによるものとも言われている[6]。しかし、アノマロカリス類の歯は常に損傷なき鋭く、歯の硬度も分析により三葉虫の殻を破れるほど強くない[7]。化石の消化道から三葉虫の破片らしき硬組織の存在も確認できず、むしろ柔らかい動物を主食とするという知見がある[7]。その後も化石的証拠により、アノマロカリスの歯は思われるほど典型的ではなく(上記を参照)、開口の部分も他のアノマロカリス類のよりも小さい。このような口は大きくて硬い三葉虫を捕食するには不向きで、むしろ柔らかい蠕虫型の獲物に向いている形ではないかと思われた[5]。一方、前述の三葉虫の痕には癒合する傾向があり、アノマロカリスは脱皮直後の柔らかい三葉虫を狙う可能性も示す[8]

分類[編集]

系統関係[編集]

汎節足動物

有爪動物



緩歩動物




パンブデルリオン



ケリグマケラ




オパビニア



アノマロカリス類



節足動物





アノマロカリス類、それに近縁とする古生物と現生汎節足動物の類縁関係を示す分岐図[9][10]。諸説のあるものは、ここで複数の分岐としてまとめる。

その外見や構造は、一見して現在のいかなる動物群にも似ておらず、かつては全く孤立した独特の動物に含まれる、既存の系統への分類が不可能な生物(プロブレマティカ)であるとの主張がある。体に体節や対をなす鰭がある点では環形動物や節足動物との類縁を感じさせるが、環形動物としては形が特殊すぎ、節足動物にしては鰭があまりにも付属肢の体をなしていない、といった問題点があるからである。

他方、これに反対する意見もある。それによると、複眼関節肢である触手、消化腺、体節制を示唆する形態的特徴など、節足動物との重要な共通点が見られ、この動物は節足動物に含まれると理解するのに無理はないという。特にパンブデルリオンなど近縁のものには鰭の付け根の下に脚を具えた種があり、この鰭と脚の組み合わせ、いわゆるニ叉型付属肢は節足動物の共通先祖性質でもある。

鰭の配置、特に後体部の上向きの鰭は現生の動物には見られず、この特徴は化石動物ではオパビニアと共通する。そのような絶滅したグループの動物のみならず、節足動物のもの以外にも有爪動物(脳の構造[11]の類似性が指摘されている)とも共通点がわずかに存在し、最初期の節足動物の系統発生の様子を推定するのに重要な存在である。

近縁種[編集]

ヒト()とバージェス動物群のスケール比較
Anomalocaris canadensis (アノマロカリス・カナデンシス) 
Laggania cambria ラガニア・カンブリア 
Opabinia regalis オパビニア・レガリス 
Wiwaxia corrugata ウィワクシア・コルガタ 
Pikaia gracilens ピカイア・グラキレンス 
Hallucigenia sparsa ハルキゲニア・スパルサ

未記載の種を含め、世界中で意外に多くの種類が発見されている。実のところ、当初の復元図そのものも2種の動物を組み合わせたものであることが分かり、上述のような特徴を持つアノマロカリスと、体が幅広く、眼が頭の後方に付いているラガニアLaggania cambria、現Peytoia nathorsti)が区別された。この種の体型は丸く、眼が後方にある点などから底性生活だったのではとも言われている。 澄江動物群からも、近縁と思われる化石が発見されている。

下位分類[編集]

アノマロカリス属として名付けられ種類は幾つ存在する。しかし、アノマロカリス類の内部系統に、本属は往々にして単系統とされていない[12]。かつて、ラガニアなど初期に発見された一部のアノマロカリス類も、アノマロカリス属として名付けられた。

表記は左から順に、学名、和名(もしくは仮名転写形[ラテン語発音の転写)、特記事項。

  • Anomalocaris canadensis Whiteaves1892 アノマロカリス・カナデンシス
    最初に発見され、学名を与えられた本属のタイプ種。全長約1メートル。上の図説も参照。
  • Anomalocaris saron Hou, Bergström et Ahlberg, 1995 アノマロカリス・サロン
    澄江動物群の一つ。体長約2メートルにも及ばし、同属中最大の種とされる。触手の棘のはA. canadensisよりも発達する。体の後端には1対の尾毛がある。アンプレクトベルア科の種として見なされる。
  • Anomalocaris briggsi アノマロカリス・ブリッグシ
    エミュ・ベイ頁岩塁層(Emu Bay Shale)から出土した触手化石のみが発見されている。触手腹側の突起は細長く伸びていて、それぞれの突起の両側には無数のノコギリ状の突起が並ぶ[6]タミシオカリスの近縁種として見なされる。
  • Anomalocaris kunmingensis アノマロカリス・クンミンゲンシス
    アンプレクトベルア属の1種(Amplectobelua kunmingensis)として見なされる。
  • Anomalocaris pennsylvanica Resser, 1929 アノマロカリス・ペンシルウァニカ
    A. canadensisとして疑われる[13]


破棄された学名(シノニム)は、以下のものが知られる[13]

  • Anomalocaris lineata Resser et Howell, 1938 アノマロカリス・リネアタ
  • Anomalocaris nathorsti (Walcott1911) アノマロカリス・ナトルスティ(その後のラガニア

絶滅の謎[編集]

アノマロカリスを含め、アノマロカリス類はカンブリア紀に繁栄した古生物であるが、カンブリア紀の中期と後期の間(ミドルカンブリアンの終焉期)を境に長らく化石が発見されなかったため、絶滅したと考えられていた。その時期には地球環境に大きな変化は無く、温暖な気候が続いていたと考えられているため、なぜ突如として絶滅したのかは謎とされていた。

しかし2009年、デボン紀の地層からアノマロカリス類であるシンダーハンネスの化石が発見される[14]に至り、アノマロカリス類はカンブリア紀を超えて生存していたことが分かった。2011年5月、モロッコで新たに、いくつかの軟組織を残したオルドビス紀の化石が見つかり[1]、注目を集めている。更に2015年、新たにモロッコオルドビス紀の地層から、フルディアによく似た全長2メートルの大型アノマロカリス類エーギロカシスAegirocassis)の大型立体化石が発見された[15]

関連事象[編集]

関連項目[編集]

脚注[編集]

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  1. ^ アノマロカリス類は真節足動物のステムグループとされる。詳しくはアノマロカリス類#分類を参照。
  2. ^ a b c d e f g h i Morphology of Anomalocaris canadensis from the Burgess Shale
  3. ^ The morphology and systematics of the anomalocarid Hurdia from the Middle Cambrian of British Columbia and Utah
  4. ^ a b Acute vision in the giant Cambrian predator Anomalocaris and the origin of compound eyes
  5. ^ a b peytoia The oral cone of Anomalocaris is not a classic ‘‘peytoia’’
  6. ^ a b c New anatomical information on Anomalocaris from the Cambrian Emu Bay Shale of South Australia and a reassessment of its inferred predatory habits
  7. ^ a b Hagadorn JW (2010) Putting Anomalocaris on a soft-food diet? Geol Soc Am Abstr Prog
  8. ^ Anomalocaris predation on nonmineralized and mineralized trilobites
  9. ^ A suspension-feeding anomalocarid from the Early Cambrian
  10. ^ The Burgess Shale Anomalocaridid Hurdia and Its Significance for Early Euarthropod Evolution
  11. ^ Peiyun Cong; Xiaoya Ma; Xianguang Hou; Gregory D. Edgecombe; Nicholas J. Strausfeld (2014). “Brain structure resolves the segmental affinity of anomalocaridid appendages”. Nature 513 (7519): 538–42. doi:10.1038/nature13486. PMID 25043032. 
  12. ^ Vinther, J.; Stein, M.; Longrich, N. R.; Harper, D. A. T. (2014). “A suspension-feeding anomalocarid from the Early Cambrian”. Nature 507: 496–499. doi:10.1038/nature13010. PMID 24670770. 
  13. ^ a b possible anomalocaridid from the Cambrian Sirius Passet Lagerstätte, North Greenland
  14. ^ Gabriele Kühl (2009). “A great-appendage arthropod with a radial mouth from the Lower Devonian Hunsrück Slate, Germany.”. Science 323 (5915): 771–773. Bibcode 2009Sci...323..771K. 
  15. ^ Anomalocaridid trunk limb homology revealed by a giant filter-feeder with paired flaps

外部リンク[編集]