アノマロカリス

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アノマロカリス
生息年代: 520–499 Ma[1]
20191203 Anomalocaris canadensis.png
アノマロカリス・カナデンシス(Anomalocaris canadensis)の復元図
保全状況評価
絶滅(化石
地質時代
古生代カンブリア紀第三期 - ガズハンジアン期(約5億2,000万 - 4億9,900万年前)[1]
分類
: 動物界 Animalia
上門 : 脱皮動物上門 Ecdysozoa
階級なし : 汎節足動物 Panarthropoda
: ステムグループ
節足動物門 Arthropoda[2]
: †(和訳なしDinocaridida
: 放射歯目
ラディオドンタ目Radiodonta
亜目 : アノマロカリス亜目 Anomalocarida
: アノマロカリス科 Anomalocarididae
: アノマロカリス属 Anomalocaris
学名
Anomalocaris
Whiteaves1892 [3]
タイプ種
アノマロカリス・カナデンシス
Anomalocaris canadensis
Whiteaves1892 [3]
  • Anomalocaris canadensis
    Whiteaves, 1892 [3]
  • Anomalocaris pennsylvanica
    Resser, 1929 [4]
  • Anomalocaris saron
    Hou, Bergström et Ahlberg, 1995 [5]
  • Anomalocaris kunmingensis
    Wang, Huang & Hu, 2013 [6]
  • Anomalocaris magnabasis
    Pates, Daley, Edgecombe, Cong & Lieberman, 2019 [7]
本文も参照

アノマロカリスAnomalocaris[3])は、約5億年前の古生代カンブリア紀の海に生息したアノマロカリス類(ラディオドンタ類)の一。アノマロカリス類の中でもっとも有名な属であり[2]、長い前部付属肢と扇状の尾部をもつ、遊泳性捕食者であったと考えられる[8][9][10]

カンブリア紀の代表的動物としてカナダバージェス頁岩バージェス動物群、カンブリア紀ウリューアン期)から発見されたタイプ種であるアノマロカリス・カナデンシス[11]Anomalocaris canadensis[3])が有名であるが、アメリカ中国オーストラリアなど、カンブリア紀の異なる時代と地域に生息した種類もいくつか発見されている[4][5][12][13][14]

特異な形態によって、かつては現存する動物分類群タクソン)に収まらない「プロブレマティカ(未詳化石)」の代表例として語られてきた[15]。後に研究が進み、他のアノマロカリス類と共に、基盤的な節足動物として広く認められ、節足動物の起源に繰り広げる議論において重要視される古生物になった[2]

名称[編集]

学名Anomalocaris」は古代ギリシア語の「ἀνώμαλος」(anomalos、奇妙な・異常な) と「καρίς」(carisカニもしくはエビの意、水生節足動物の学名に常用される接尾辞)の合成で、すなわち「奇妙なエビ」を意味する[3][16]。これは本属は最初では前部付属肢のみによって知られ、それが当時において甲殻類コノハエビ類の腹部と誤解されたからである(後述参照)[15]中国語でも同じ意味で「奇蝦簡体字奇虾ピンイン:Qí xiā、チーシャ)」と呼ばれる[17]

形態[編集]

この項では、特記されない限り、本属のタイプ種である Anomalocaris canadensis(アノマロカリス・カナデンシス)の特徴に基づいて説明する。他のアノマロカリスの種の特徴についてはアノマロカリス#下位分類アノマロカリス類全般の特徴については該当記事を参照のこと。

大きさ[編集]

アノマロカリスのサイズ比較図。A. saron(A)と A. canadensis(C)以外の種は全身が不明(薄灰色)で、前述2種の比率に基づいて体長を推算される[9]

多くのアノマロカリス類と同様、アノマロカリスもカンブリア紀の動物として飛び抜けて大型の種を含むが、発見される全身化石はいずれもやや小型の個体(A. canadensis:17.4cmA. saron:8.9cm)で、大級個体は単離した硬組織(本属の場合は前部付属肢)のみから知られ、その数値で全身化石の比率にあわせて最大体長(前部付属肢と尾部を除く)が推算される[9]バージェス動物群A. canadensis の場合、体長は柄部を除いた前部付属肢長の2倍前後で、最大の前部付属肢(柄部を除いて18cm)から換算すると、体長は最大38cm前後に及ぶとされる[9]澄江動物群A. saron の場合、既知最大の前部付属肢は柄部を除いて20cmあるとされ、全身化石の体長は柄部を除いた前部付属肢長の2.8倍であるため、体長は最大56cmと推測される[9]

1980年代の文献をはじめとして、長らく体長最大1mほどのカンブリア紀最大の動物として語られてきた[18][16]が、これは正確の比率から逸した過大評価である[9](もし Vinther et al. 2017 の見解が正確であれば、体長1.5mと推測される Omnidens amplus がカンブリア紀最大の動物である[19])。

頭部[編集]

頭部は胴部に対して明らかに小さい。他のアノマロカリス類と同様、正面には1対の前部付属肢、両背側には1対の複眼、腹面には放射状の、背面と左右は3枚の甲皮に覆われる[20]

前部付属肢[編集]

前部付属肢の化石(1枚目)と模式図(2枚目)

口の前にある1対の前部付属肢(frontal appendages)は、甲殻類の腹部を思わせる造形をしており、分節した外骨格に覆われた触手様の付属肢関節肢)である。左右に扁平で、14個の肢節(柄部1節と残り13節)で構成される。先に向かって細くなりながら下に曲がり、先端の肢節を除いて内側の棘(内突起)を1肢節に1対ずつもつ。そのうち第2-10肢節の内突起は前後で1本の分岐をもって三叉状になっており、先端に向けて次第に短くなるが、奇数番目の内突起は偶数番目のものより少し短い。先端6節の背側は、前向きに重なり合った爪のような棘(dorsal spine)をもつ。この前部付属肢は、各肢節の腹側の境目が明瞭な節間膜に分けられることによって幅広い上下可動域をもつ[2]。また、全身が知られるアノマロカリス類の中で本種の前部付属肢は体に対して最も長く、柄部を除いても体長の半分に及ぶ[9]

A. canadensis 以外のアノマロカリスの種は、それぞれの前部付属肢が上述とはまた異なった特徴をもつ(後述参照)[7]

口(歯)[編集]

アノマロカリス(A)、ペイトイア(B)とフルディア(C)のそれぞれの oral cone

多くのアノマロカリス類と同様、アノマロカリスの頭部の腹面にある「oral cone」という口器も、放射状に並んだ大小の歯によって構成される。ただしアノマロカリスの oral cone は、開口部は比較的小さく、歯の総数と配置は不規則で、表面が突起と筋を密生し、最大の歯は3つで三放射の構造をなしている[8]。このような構造は知られる限り本属の種のみに見られ[13]、他のアノマロカリス類、例えばペイトイアフルディアにおける規則的な十字放射構造とは大きく異なる[2][21][8]

[編集]

頭部の両背側にある1対のは、眼柄を介して左右に突出する。Emu Bay Shale で見つかった本属由来とされる眼は、無数の六角形のレンズ(個眼)からなる複眼である。その1つの眼にあるレンズ数はおよそ16,000個であり、これは現生節足動物のトンボの約28,000個に匹敵する[22][23]

甲皮[編集]

頭部の背面と左右を包んだ甲皮(head carapace complex)はアンプレクトベルア科のものに似て、いずれも小さく楕円形の構造体である。背側の甲皮(H-element)は外縁が隆起線になっており[2]、左右の甲皮(P-element)は前方にある棒状の突出部(P-element neck)を介して連結する[20]

胴部[編集]

バージェス頁岩で発見された A. canadensis の全身化石(ロイヤル・オンタリオ博物館所蔵)。胴部の発達した鰭と尾扇が見られる。

胴部は上下に平たく縦長いひし形で、前後ほど幅狭くなる。他のアノマロカリス類と同様、胴部の表皮は柔軟であったとされ、背側には「setal blades」というと思われる櫛状の構造体、両腹側には鰭(ひれ)が十数対ほど並んでいる[2]。脚およびそれらしき構造は見当たらない[2]

[編集]

胴部の両腹側から左右に大きく張り出した、丸みを帯びた三角形のが13対ある[2]。この一連の鰭はひし形の輪郭を描くように、前方の数対のみ後方ほど発達し、それ以降では後方ほど小さくなる[2]。それぞれの鰭の前縁部には、他の多くのアノマロカリス類に見られる同規的な筋状構造(strengthening rays)ではなく[10]、代わりに不規則な皺のような構造体が密集している[2]A. saron の場合、鰭の前縁部は前述のような筋状構造をもつ[24][5])。また、胴部の前端、いわゆる「首」に相当する部分には、さらに3対の小さな鰭がある[2]

尾部[編集]

体の尾部には尾扇(tail fan)という、特化した3対の尾鰭によって構成される部分がある[2]。それぞれの尾鰭は斜め上向きに突き出し、後方ほど小さくなる。最後の尾鰭の間には、1本の細い鰭らしい突起がある[2]A. saron の場合、尾部は2対の尾鰭と1対の長い尾毛(furcae)をもつ[24][10]

内部構造[編集]

内部構造は、鰭の基部に繋がった左右の筋組織と中央の消化管が確認される[2]。消化管は鰭の対の数に応じて節に分かれ、大まかに前腸・中腸・後腸という3部分からなる。そのうち前腸と後腸は太く、中腸は細くて6対の消化腺(中腸腺)が両側に並び、これも鰭の対の数に対応する。これらの特徴、特に消化管の構造は節足動物様の体節制をもつことを示し、特化した前腸と後腸は、節足動物のように消化管の両端の内側はクチクラ層に覆われ、体表のクチクラと同様に脱皮を行ったことを示唆する[2]

生態[編集]

カナダスピスを捕食するアノマロカリスの復元模型

本属は発達した複眼・棘のある前部付属肢・筋肉に繋いだ大きな・流線型の体型・特化した消化腺などの特徴から、当時の活発な捕食者であったと考えられている[22]。捕食の際は、頭部先端の前部付属肢で獲物を捕獲し[7]、それを放射状の口器に運んで呑み込んでいたと考えられる[8]

他のアノマロカリス類と同様、アノマロカリスもほぼ平行して側面に向けて張り出した胴部の鰭を上下に波打たせて、エイコウイカ類のような方法で泳いだのではないかと考えられる[25][26]。アノマロカリス類の中でも、本属とアンプレクトベルア科フルディア科の種類に比べて胴部の鰭が発達しており、これは力学的解析で高速な遊泳に適したと示される[27]。アノマロカリスの尾扇は、構造的に飛行機尾翼のように横安定性を維持したか、鳥類尾羽のように移動中の急速な方向変更に用いられたと示唆される[26]

捕食対象[編集]

アノマロカリスは前述の通り明らかに捕食性に適した形態をもち、昔今を通じて活動的な捕食者として広く認められてきたが、その捕食対象、特に三葉虫を捕食していたのか否かについては議論がなされていた。

カンブリア紀の地層から、糞や消化管の内容物として考えられる三葉虫の破片の塊を含んだ化石や、齧られた痕をもつ三葉虫の化石もしばしば発見されており、これらはアノマロカリスによるものとの考えはかつてあった[13]。加えて、前述の負傷した三葉虫の中では癒合する最中のような傷跡をもつものがあり、これに基づいてアノマロカリスは脱皮直後の柔らかい三葉虫を狙ったという推測もあった[28]。一方、アノマロカリスの歯には損傷がみられず、全身化石の消化管から三葉虫の破片らしきものも確認できない。その歯は三葉虫の殻を破れるほどの硬度はなく、むしろ柔らかい動物が主食であったではないかという分析もある[29]。しかし2012年以前のこれらの見解は、長らくアノマロカリスのものと誤解された、別のアノマロカリス類の歯に基づいた誤解釈である[8]

2012年、新たな化石証拠と幾つかの従来の化石に行われる再検討により、前述の研究対象をも含めて今までアノマロカリスのものと思われた歯は別のアノマロカリス類(ペイトイア)のものであると判明し、本当のアノマロカリスの歯は思われるほど典型的ではなく、配列は不均一で、表面は突起と筋をもち、開口部も他のアノマロカリス類より小さいことが明らかになった。このような口は大きくて硬い三葉虫を捕食するには不向きで、むしろ蠕虫型の柔らかい獲物を吸い込むのに向いている形である[8]

アノマロカリスの中で、A. canadensis の前部付属肢は小型で活発な獲物を捕獲するのに向いていたと考えられる[30]。加えて、本種の前部付属肢は比較的に短く頑丈な内突起をもつ一方、A. saronA. magnabasis では前部付属肢が細い棘のある長い内突起をもつ。これにより、A. canadensis の前部付属肢は A. saronA. magnabasis のものより高い可動域をもち、より硬い獲物をも粉砕できたと考えられる[7]

分布[編集]

バージェス頁岩をはじめとして、アノマロカリスの化石は、北アメリカカナダアメリカ)、中国オーストラリアにおけるカンブリア紀ラーゲルシュテッテン(保存状態の良い化石を産する堆積層)で発見されており、次の通りに列挙できる[31][7][32]

カンブリア紀第三期(約5億2,100万 - 5億1,400万年前)
カンブリア紀第四期(約5億1,400万 - 5億900万年前)
ウリューアン期(約5億900万 - 5億450万年前)
ガズハンジアン期(約5億50万 - 4億9,700万年前)

これにより、アノマロカリスは熱帯から亜熱帯海域にかけて、時代・地域・環境的に幅広く分布したことが示される[32]

カンブリア紀第三期の Emu Bay Shale から発見される、Nedin 1995 に本属の1種として命名された 'Anomalocaris' briggsi[42]、およびウリューアン期の Spence Shaleドラミアン期の Wheeler Shale(いずれもアメリカ、ユタ州)から発見される、それぞれ Briggs et al. 2008[43] と Halgedahl et al. 2009[44] に本属の未命名種と同定された化石標本に関しては、本属由来のものとして認められにくく、再検証が必要とされる[10][7]

発見史[編集]

多くのアノマロカリス類化石と同様、アノマロカリスも硬質な前部付属肢は他の部分より発見例が多い。2018年現在、全身化石が知られるのはアノマロカリス・カナデンシス(Anomalocaris canadensis)とアノマロカリス・サロン(Anomalocaris saron)という2種のみで、他の種はほぼ前部付属肢のみによって知られる[9]

アノマロカリス、特にそのタイプ種であるアノマロカリス・カナデンシスはカンブリア紀古生物の中でも複雑な発見史をもつ[15][16]。最初は19世紀後期から長い間に前部付属肢甲殻類の腹部と思われ、20世紀後期を初めとしてペイトイア(=ラガニア)の特徴と混同して復元され、2010年代においてもいくつかの特徴を更新され続けていた[8][2][10]

コノハエビ・クラゲ・ナマコ(1890~1980年代)[編集]

ツゾイアの背甲の化石。アノマロカリスの前部付属肢は一時では本属の腹部と思われていた。

アノマロカリスはバージェス動物群に属する代表的な動物として知られているが、最初に発見されるのは単離した前部付属肢の化石である。その化石は、当初は甲殻類コノハエビの腹部と考えられたことから、1892年にカナダの古生物学者ジョセフ・フレデリック・ホワイティーブスJoseph Frederick Whiteaves)の記載(Whiteaves 1892)によってアノマロカリス・カナデンシス(Anomalocaris canadensis)という学名を与えられた[3]。アノマロカリスや他のアノマロカリス類の完全な化石が発見される前に、放射状の円盤らしい化石と縦長い動物の体らしい化石が先に発見され、前者はクラゲであるペイトイア・ナトルスティ(Peytoia nathorsti)、後者はナマコであるラガニア・カンブリア(Laggania cambria)と、それぞれアメリカの古生物学者チャールズ・ウォルコットCharles Walcott)の記載(Walcott 1911a)に個別の動物として命名された[45]

しかし、これらの化石については、次のような疑問があった。

  1. アノマロカリスは甲殻類の後半身と考えられていたが、内側の突起は外骨格の突出部であって、付属肢ではない。先端は尾節の構造がない。消化管の痕跡も見当たらない。
  2. ペイトイアは中央に穴が開いていて、が並んでおり、クラゲとしては異様である。

特に前部付属肢の部分であるアノマロカリスに関しては、別の解釈が提唱されており、例えばHenriksen 1928 にツゾイアTuzoia)という節足動物の腹部と思われ[46]、Briggs 1979 に未発見の大型節足動物の付属肢と考えられた[36][16]

「ペイトイア」と「ラガニア」はアノマロカリスの一部(1980年代)[編集]

こうして数十年も不明確であったアノマロカリス、ペイトイアとラガニアの本質だが、古生物学者ハリー・ウィッティントンHarry B. Whittington)とデリック・ブリッグスDerek Briggs)が1980年代に行われる研究によって解明され始めた[15][16]。1980年代初期、ウィッティントンがとあるラガニアらしい所属不明の化石標本 GSC 75535 を解析したところ、その先端から1対のアノマロカリスと1つのペイトイアらしい構造が発見された。そして既存のいくつかのラガニアの化石にも似たような結果を得られており、その先端からペイトイアと、アノマロカリスとはやや異なった1対の櫛状の前部付属肢が発見された。こうしてアノマロカリス、ラガニアとペイトイアはお互いに無関係な動物ではなく、それぞれ同じ分類群(アノマロカリス類)の動物に由来する体の一部(アノマロカリス=前部付属肢、ペイトイア=口、ラガニア=胴体)であることが判明した[18]

ウィッティントンとブリッグスが共著した1985年の記載(Whittington & Briggs 1985)では、これらの全てが1つの属によるものと考え、その属名を学名の先取権に従ってアノマロカリス(Anomalocaris)にした。更に、この属の中には前部付属肢の形態だけ明らかに異なる2種、いわゆる「アノマロカリス」型の前部付属肢を特徴とし、その学名を元通りに受け継ぐアノマロカリス・カナデンシス(Anomalocaris canadensis)と、ペイトイアの種小名を受け継ぐ、櫛状の前部付属肢を特徴とするアノマロカリス・ナトルスティ(Anomalocaris nathorsti)を認めていた[18]。「体の各部位がかつてそれぞれ別生物とされた」という一般に紹介されるアノマロカリスの復元史が、この見解に基づいたものである。

「ラガニア」は別属(1990年代)[編集]

アノマロカリス・カナデンシス(1枚目)とペイトイア・ナトルスティ(=ラガニア・カンブリア、2枚目)の全身化石

しかし、その後は再検証や更なる身化石の発見によって、前述の見解は2種のアノマロカリス類の特徴を混同させたものであると分かった。古生物学者デスモンド・H・コリンズDesmond H. Collins)は1996年の記載(Collins 1996)でアノマロカリス・カナデンシスとラガニア・カンブリア(=前述のアノマロカリス・ナトルスティおよび2010年代以降のペイトイア・ナトルスティ)というお互い別属の2種のアノマロカリス類を復元した[15]。前者は前部付属肢の形態だけでなく、扇状の尾部・流線型の体・頭部の前方に備わる眼など多くの特徴によって後者(前部付属肢は櫛状・尾鰭を欠き・楕円形の体・頭部の後方に備わる眼)から区別される[15][16]。また、アノマロカリスの前部付属肢とペイトイア形の歯が少し離れた位置で保存される化石標本 ROM 51216 も記載されており、これらは同一生物に由来と解釈され、アノマロカリス・カナデンシスの口がその化石の歯に基づいて復元された[15]

アノマロカリスの口は「ペイトイア」ではない(2012年)[編集]

アノマロカリス(A)、ペイトイア(B)、およびフルディア(C)の口

21世紀至っても、アノマロカリス・カナデンシスの口は十数年も80-90年代の見解に基づいて、規則的な32個の歯のうち4つの最大の歯は十字方向に配置されるという典型的な「ペイトイア形」だと思われていた[8]。しかし、既存の化石への再検証や新たな化石標本から確実な証拠を得た Daley & Bergström 2012 により、アノマロカリス・カナデンシスの口は不規則な三放射構造という、今までの復元から大きく逸した形態にあると判明した[8]。これにより、かつてアノマロカリスに由来と思われた「ペイトイア形」の歯は別のアノマロカリス類、おそらくラガニアに由来するものとなる[8]。また、同じ文献で、ラガニア・カンブリアはペイトイア・ナトルスティへと改名された(ラガニア#発見史を参照)[8]

それ以降の展開[編集]

Daley & Edgecombe 2014 ではアノマロカリス・カナデンシスに対する全面的な再記述が行われ、本種の復元が大幅に更新された。各鰭の前縁を走る一連の皺・背中の鰓らしい構造体(setal blades)・尾扇中央の突起部・頭部背側の甲皮(H-element)などの新しい形質が発見されるだけでなく、前部付属肢はより左右平たく、複眼はより大きく、の数は(首と尾部の鰭を除いて)13対など、一部の既知の構造も更新された[2]。本種の最大体長は、正確の比率に基づいた Lerosey-Aubril & Pates 2018 の推算によって今までの1mから38cmへと大幅に下方修正された(前述参照)[9]。Moysiuk & Caron 2019 に行われる再検証では、前述の Daley & Edgecombe 2014 に大きな複眼と解釈された部分は眼らしからぬ保存状態をもち(同じ堆積層で化石化した眼において特徴的な光沢と色合いを欠く)、むしろ頭部の両側に備わる楕円形の甲皮(P-element)であることを明らかにした[20]

分類[編集]

分類史[編集]

汎節足動物

有爪動物 Velvet worm.jpg

緩歩動物 SEM image of Milnesium tardigradum in active state - journal.pone.0045682.g001-2.png

様々な葉足動物側系統群Aysheaia.jpg

シベリオン類 20191217 Siberiida Siberion Megadictyon Jianshanopodia.png

パンブデルリオン 20191112 Pambdelurion whittingtoni.png

ケリグマケラ 21091022 Kerygmachela kierkegaardi.png

オパビニア

20191108 Opabinia regalis.png

アノマロカリス類
アノマロカリス科

アノマロカリスなど 20191203 Anomalocaris canadensis.png

アンプレクトベルア科

アンプレクトベルアなど 20191201 Amplectobelua symbrachiata.png

タミシオカリス科

タミシオカリスなど 20191228 Radiodonta frontal appendage Tamisiocaris borealis.png

フルディア科

フルディアペイトイアなど 20191212 Hurdiidae Aegirocassis Peytoia Laggania Hurdia.png

節足動物

Arthropoda.jpg

アノマロカリスの系統的位置[47][48][9][10]。位置に諸説が多い部分は、複数分岐としてまとめられる。

その外見や構造は、一見して現在のいかなる動物群にも似ておらず、かつては既存の系統群への分類が不可能な未詳化石(プロブレマティカ)だとの主張があった[49]関節に分かれた前部付属肢や体に体節制がある点では節足動物を思わせるが、節足動物にしては放射状の口器や鰭を有する柔軟な胴部が異質である、といった問題点があるからである[15]

他方、これに反対する意見もある。それによると、関節肢(前部付属肢)・体節制・複眼[22][23]・消化腺[50]など、節足動物との重要な共通点が見られ、アノマロカリスを節足動物と理解するのに無理はなく、前述の節足動物らしからぬ特徴は、派生的な節足動物の系統で失った祖先形質か本群の派生形質として解釈できる[24][15]。特にパンブデルリオンなど近縁のものには鰭の付け根の下に脚を具えた種があり、この鰭と脚の組み合わせ、いわゆるニ叉型付属肢は節足動物の祖先形質でもある[51][52]。特に21世紀代以降から研究が進んでおり、アノマロカリスが所属するアノマロカリス類(後述参照)と節足動物の密接な類縁関係は、ほとんどの新たな化石証拠と系統解析[53][54][48][52][55][9][10]から根強い支持を受けられる。

前大脳に対応(先節由来)の特化した前部付属肢と対になる一連の鰭の組み合わせという、アノマロカリスの付属肢の配置は現生の節足動物には見られず、他のアノマロカリス類、およびパンブデルリオン[56]ケリグマケラ[57]オパビニア[51]などの「Gilled lobopodians」に共通する。これらの古生物は節足動物らしい特徴(体節制・消化腺・下向きの口・複眼・二叉型付属肢など)だけでなく、葉足動物有爪動物緩歩動物という他の汎節足動物との祖先形質(柔軟な胴部、葉足、単純の脳など)もわずかに見られ[48]、最初期の節足動物の系統発生の様子を推定するのに重要な存在である。こうしてアノマロカリスとその類縁は「真正」の節足動物(真節足動物)とされないものの、節足動物のステムグループ(絶滅した初期系統群)に位置する基盤的な節足動物(ステム節足動物、ステムグループ節足動物)として認められるようになった[55][58]

未記載の種を含め、世界中で多くの近縁が発見されている。著名な例としてかつて本属と思われ、後に様々な特徴で区別されるようになったペイトイア(旧称ラガニア)が挙げられる[15]。同じくバージェス動物群のペイトイアとフルディアに限らず、澄江動物群のアノマロカリス・サロンやアンプレクトベルア[5]シリウス・パセット動物群タミシオカリス[47]Emu Bay Shale のアノマロカリス・ブリッグシ[13]など、アノマロカリスに似た古生物は世界中のカンブリア紀の地層から次々と発見されており、オルドビス紀エーギロカシス[52]デボン紀シンダーハンネス[53]など、カンブリア紀より先んじる時代に生息した類似種も後に記載される。こうしてアノマロカリスは自らのみならず、ある多様なグループに所属していることが分かる。アノマロカリスをも含め、これらの古生物はアノマロカリス類(ラディオドンタ類、ラディオドント類、ラディオドンタ目、放射歯目とも、学名:Radiodonta[11]と総称され、更に前述のオパビニア、パンブデルリオンとケリグマケラなどのgilled lobopodiansと共にDinocaridida類という基盤的な節足動物のグループを構成する[15]

アノマロカリス類の中で、アノマロカリスはアノマロカリス科Anomalocarididae)の模式属である。このはかつて全のアノマロカリス類を含んでいたが、Vinther et al. 2014 以降ではアノマロカリスとその近縁のみを含むようになった[47]。この科は多くの系統解析にアンプレクトベルア科の近縁と見なされる[47][48][52][9]

下位分類[編集]

A. canadensisA. pennsylvanicaA. saronA. kunmingensis、および A. magnabasis の前部付属肢。
アノマロカリス・カナデンシス Anomalocaris canadensis
アノマロカリス・サロン Anomalocaris saron

アノマロカリスAnomalocaris)に分類されるアノマロカリス類は幾つかあり、それぞれ前部付属肢の形態で区別できる。しかし、本属の単系統性は疑わしく、これは幾つかの種が別属に分類できるほどの特異性をもち[24][32]系統解析においても別の属や科に近縁とされるからである[47][48][52][9][10]。これにより、正式にアノマロカリスと命名される種の中で、本属に含められるのはアノマロカリス・カナデンシス(Anomalocaris canadensis)のみである可能性が高い[32]

2019年まで、一般にアノマロカリスに含まれるとされ、正式の命名がなされる種は次の通り。

  • Anomalocaris canadensis Whiteaves1892[3] アノマロカリス・カナデンシス
カナダブリティッシュコロンビア州バージェス頁岩バージェス動物群[3]Eager formation [36]から発見される。最初に発見され、学名を与えられた本属のタイプ種。前部付属肢は14節(柄部1節と残り13節)からなり、第2-10肢節の内突起は前後それぞれ1本の分岐をもって三股状になる。首を除いて胴部は13対の鰭をもち、それぞれの鰭の前縁部は皺のような構造が集密している。尾部は3対の鰭を含んだ尾扇と中央に1本の平たい突起がある[2]。体長約38cmと推測される[9]。詳しくは上の記述を参照。
種小名canadensis」は発見地であるカナダ(Canada)による[3]
  • Anomalocaris pennsylvanica Resser, 1929[4] アノマロカリス・ペンシルウァニカ
アメリカペンシルベニア州Kinzers Formation から発見される[4][7]。前部付属肢のみによって知られる。前部付属肢は14節(柄部1節と残り13節)からなり、内突起は単なる長い針状で分岐はない[37]。本種として記載された一部の化石は A. canadensis のものであるとされる[59]。Wu et al. 2021 で別属(Lenisicaris)に分類される[32]
種小名「pennsylvanica」は発見地であるアメリカのペンシルベニア州(Pennsylvania)による[4]
  • Anomalocaris saron Hou, Bergström et Ahlberg, 1995[5] アノマロカリス・サロン(アノマロカリス・サーロン[11]
中国雲南省Maotianshan Shale澄江動物群[5]Hongjingshao FormationMalong Fauna[33][34]から発見される。前部付属肢はやや細く、15節(柄部2節と残り13節)からなり、柄部とその直後の肢節の境目は上向きに屈曲する。内突起は細長く、その前後に数本の細い分岐が並んでいる[60]。首を除いて胴部は11対の鰭をもち、それぞれの鰭の前縁部は1本の主筋から分岐してほぼ平行に並ぶ一連の筋状構造をもつ。尾部は2対の尾鰭を含んだ尾扇と1対の尾毛がある[24][10]。体長約56cmと推測される[9]。多くの場合はアンプレクトベルア科に類縁とされる[47][48][9]。別属の種とする見解がある[32]
たくさんの分岐をもつ内突起に因んで、種小名はギリシャ語の「saron」()による[5]
  • Anomalocaris kunmingensis Wang, Huang & Hu 2013[6] アノマロカリス・クンミンゲンシス
中国雲南省の Wulongqing Formation (Guanshan biota) から発見される[6]。柄部が不完全な前部付属肢のみによって知られる[6]。15節(柄部2節と残り13節)からなり、前後での肢節の太さはさほど変わらない。第3肢節の内突起は前方に1-2本と後方に1本の分岐をもち、それ以外の肢節の内突起は単純の棘状[6]。第12-14肢節の背側の棘は対になる[6]。体長22.2cm(A. canadensis の比率)から32.8cm(A. saron の比率)と推測される[9]。ほぼ全ての系統解析にアンプレクトベルア科に類縁とされ、アンプレクトベルア属の1種(Amplectobelua kunmingensis)とも見なされる[47]
種小名「kunmingensis」は発見地である中国の昆明市ピンイン:Kūnmíng)による[6]
  • Anomalocaris magnabasis Pates, Daley, Edgecombe, Cong & Lieberman 2019[7] アノマロカリス・マグナベシス
アメリカネバダ州Pioche ShalePyramid shale から発見される[12][7]。鰭と歯の断片、および前部付属肢のみによって知られる[7]。15節(柄部2節と残り13節)からなり、基部の3節は太く、第2-11肢節の内突起は前側に数本の細い分岐が並んでいる[7]。最初は Anomalocaris cf. saron として記載された[12]。別属の種とする見解がある[32]
前部付属肢の大きな基部に因んで、種小名「magnabasis」はラテン語の「magna」(大きいな、偉大な)と「basis」(基部)の合成である[7]

2019年まで、同属の独立種と思われるが、未だに正式の命名がなれていないアノマロカリスの種は次の通り。

A. cf. canadensis (Emu Bay Shale) と A. aff. canadensis (Weeks Formation) の前部付属肢
  • Anomalocaris cf. canadensis/Anomalocaris aff. canadensis (Emu Bay Shale)[13]
オーストラリアカンガルー島Emu Bay Shale から発見される[13][7]。柄部と一部の内突起が不完全な前部付属肢と、同種に由来と思われる歯と複眼[23]のみによって知られる。前部付属肢は14節(柄部1節と残り13節)からなり、第2・4・6肢節の内突起は前後それぞれ2本以上の分岐をもつ[13]。体長約34.8cm(A. canadensis の比率)から51.2cm(A. saron の比率)と推測される[9]。Pates et al. 2013[13] をはじめとして一般に Anomalocaris cf. canadensis とされるが、Paterson et al. 2020 では Anomalocaris aff. canadensis とされる[23]
  • Anomalocaris aff. canadensis (Weeks Formation)
アメリカユタ州Weeks Formation から発見される[14]。柄部とほとんどの内突起が不完全な前部付属肢のみによって知られる[14]。前部付属肢は14節(柄部1節と残り13節)からなり、全体的に細長く、少なくとも第8肢節(おそらく第2-10肢節)の内突起は後方に1本と前方に2本の分岐をもつ[14]。体長5.5cm(A. canadensis の比率)から8.1cm(A. saron の比率)と推測される[9]が、既知の前部付属肢はすべて幼生由来と考えられる[14]
  • Anomalocaris sp. (Weeks Formation)
アメリカユタ州の Weeks Formation から発見される[14]。前後両端の肢節と内突起が不完全な前部付属肢のみによって知られる[14]。前部付属肢は少なくとも12節からなり、少なくとも第5-8肢節には頑丈な内突起がある[14]。内突起の分岐や背側の棘の有無は不明[14]。体長8.6cm(A. canadensis の比率)から12.6cm(A. saron の比率)と推測される[9]
  • Anomalocaris sp. (Balang Formation)
中国湖南省Balang Formation から発見される[35]。保存状態の悪い前部付属肢の前半部(柄部1節と残り9節)のみによって知られる[35][7]。第2肢節以降のほとんどの内突起は前側に3本以上、後側に1本以上の分岐をもつ[35]


アノマロカリスの名が付く別系統・無効名など[編集]

2019年まで、アノマロカリスとして命名されるものの、本属とは別系統であることが広く認めされるアノマロカリス類は次の通り:

'A.' briggsi の前部付属肢
  • 'Anomalocaris' briggsi Nedin, 1995[42] アノマロカリス・ブリッグシ
オーストラリアカンガルー島Emu Bay Shale から発見される[42]。前部付属肢[13]と同種に由来と思われる複眼[23]のみによって知られる。14節(柄部1節と残り13節)からなり、内突起は細長く、後ろ向きに湾曲し、長さは同規的である[13]。それぞれ内突起の前後両側および後側の基部にはたくさんの分岐をもつ[13]。複眼は腎臓型で眼柄はなく、縁が甲皮に覆われる[23]懸濁物食性であったと考えられる[30][23]。体長33.2cm(A. canadensis の比率)から49cm(A. saron の比率)と推測される[9]タミシオカリスに近縁の別系統と見なされる[47][48][52][9][10]

2019年まで、無効になった学名(ジュニアシノニム)、疑問名、もしくはかつてアノマロカリスとして分類された別属の種は次の通り:

Ramskoeldia consimilisラミナカリスの前部付属肢
  • Anomalocaris emmonsi (Walcott, 1886)
旧称 Climacograptus emmonsi Walcott, 1886。疑問名[36]
  • Anomalocaris whiteavesi Walcott, 1908Anomalocaris gigantea Walcott, 1912Anomalocaris cranbrookensis Resser, 1929
=アノマロカリス・カナデンシス(Anomalocaris canadensis[36][2]
  • Anomalocaris nathorsti (Walcott1911[45]) アノマロカリス・ナトルスティ
=ペイトイア・ナトルスティ(Peytoia nathorsti、旧称ラガニア・カンブリア Laggania cambria[15][8]
  • Anomalocaris kokomoensis Ruedemann, 1925
疑問名[36]
  • Anomalocaris lineata Resser et Howell, 1938
Briggs 1978 に Serracaris lineata という所属分類不明の節足動物として再分類される[61]
かつてアノマロカリス・サロン(Anomalocaris saron)の一部として記載された[62]
かつてアノマロカリス・サロン(Anomalocaris saron)に類似する Anomalocaris aff. saron として記載された[60]

関連事象[編集]

脚注[編集]

[脚注の使い方]
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関連項目[編集]

外部リンク[編集]