ウミサソリ

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ウミサソリ
生息年代: 467.3–251.4 Ma
Haeckel-Eurypterida1024.jpg
左 :Pterygotus anglicus (cf. en)
右 :Eurypterus fischeri (cf. jp/en)
生物学者エルンスト・ヘッケルによる図説)
地質時代
約4億6730万年前 - 約2億5140万年前
古生代オルドビス紀中期ダリウィル期 - ペルム紀末[P-T境界])
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
亜門 : 鋏角亜門 Chelicerata
: 節口綱 Merostomata
ただし本文参照
: ウミサソリ目広翼目Eurypterida
学名
Eurypterida
Burmeister1843
シノニム
Gigantostraca
Haeckel1866 [1]
和名
ウミサソリ
英名
Sea scorpion
Eurypterid
下位分類群(亜目

ウミサソリ(海蠍、英語名:sea scorpioneurypterid)、およびウミサソリ類は、鋏角亜門に分類される絶滅した節足動物である。ウミサソリ目広翼目Eurypterida)を構成し、シノニム(異名)Gigantostraca (和名:オオサソリ目)がある。

最古の化石記録は古生代オルドビス紀中期ダリウィル期(およそ4億6730万年前)まで遡り[2]シルル紀からデボン紀にかけて栄えた肉食性水棲動物であるが、特にシルル紀には海中における頂点捕食者であったとされる。生物群として約2億年間生き続けたが、古生代を終わらせた約2億5140万年前[3]ペルム紀末、P-T境界)の大絶滅期を乗り切ることはできず、それ以降の地質時代から姿を消した。

大きいものは2.5メートルにも達し、これらは既知で史上最大級の節足動物であり、2.3メートルの化石多足類アースロプレウラと双璧をなす。ウミサソリ類として一般的周知の種は、紹介例の多いユーリプテルス属は比較的よく知られている。

名称[編集]

学名Eurypterida」は、古代ギリシア語: ευρυς (eurys; エウリュス) 「広い」 + πτερον (pteron; プテロン) 「翼、」 に、一般的に目名に使われる語尾のひとつ -ida を添えたもので、おそらくその櫂状の脚を指して名づけたもの。 音訳としては、他の慣習に準じて、「ユーリプテリダ」「エウリプテリダ」「エウリュプテリダ」などが考えられる。

英語では「Eurypterid」(ユーリプティーリッド)という。中国語では訳語に「」(カブトガニ)の字を付け足して「廣翅鱟」(簡体字: 广翅鲎)と呼ぶ。ほかに「板足鱟」(簡体字: 板足鲎)の名もある。

和名ウミサソリ」は、英語における学術的通称である「sea scorpion」に由来すると思われる。中国語でも同様に「海蝎」である。標準和名である「ウミサソリ目」の名はこれに単純に「目」を添えたものだが、学名の由来(上記)の訳出にはなっておらず、このことから、20世紀末期以前には標準和名として通用していた「広翼目」および「広翼類」という呼び名のほうがむしろ本来である、との考え方がある[要出典]

形態[編集]

体は偏平で長く、前体(頭胸部)と後体(腹部)に分かれる[4]。ほとんどの種類は大型の節足動物であり、1メートル前後に及ぶのものが多い[5]。2メートル以上にも達する既知最大級の節足動物として知られる種をも含むが、数センチしか及ばない小型種もいくつかある[6]

ウミサソリの1属ユーリプテルスの体制模式図

前体[編集]

前体は幅広く、背面の前方両側には一対の複眼が、中央には単眼があった。

前体の下面は計6対の付属肢をもち、最初の1対は鋏角である。3節からなり、通常は短い鋏状の付属肢であるが、プテリゴトゥス科(Pterygotidae)の場合、鋏角は腕のように長く伸びていr[4]

鋏角の直後は5対の付属肢が並び、それぞれの基部(基節)は、口を囲んだ咀嚼器である顎基(gnathobase)をもつ[4]。そのうち最初の1対は触肢であるが、形態的に特殊化していない。それ以降の4対は歩脚であり、最後の1対は、エウリュプテルス亜目Eurypterina)の場合ではよく発達し、最後の数節が偏平になっており、遊泳に用いたもの(遊泳脚)と考えられる。スティロヌルス亜目Stylonurina)の場合、この脚は特殊化せず、歩脚型のままである。

後体[編集]

後体は長く伸び、12節が見られるが、元々は13節で、そのうちの第1節が著しく退化していたと考えられる[4]。後体はやや幅広い中体(前腹部)とやや狭い終体(後腹部)に分かれるものもあった。

後体の前6節の下面には平板状の付属肢がある。前体との接続部の中心には「metastoma」という第4脚の間まで伸びていた1枚の小さな板状構造をもち、これは退化した後体第1節に由来し、左右癒合した付属肢であると考えられる[4]。metastomaに次ぐ2節は1枚の生殖口蓋(genital operculum)に覆われ、生殖肢(genital appendage)をもつ。生殖肢は細長いタイプと短いタイプという2つの形態に分かれ、前者はメス、後者はオスであったと思われる[7]。後の4節は、それぞれ「blatfüsse」という平たい付属肢があり、裏面は呼吸用の書鰓(えら)が付属していた。これらの付属肢は、「kiemenplatten」という書鰓とは別の呼吸器官をもつ後体の腹面に併せて、鰓室(gill chamber)を構成していた[4]

後体の最後尾は尾節をもち、剣状にとがったものが多く、へら状のものもあった[4]

生態[編集]

ヒベルトプテルスの足跡であったと考えられる生痕化石 [8]

多くは浅海、特にサンゴ礁ラグーンに棲息していたものと思われ、淡水域にも棲息するものがあった。一部は陸に出ることができたらしく、それを示唆する足跡化石(生痕化石)も発見される[8]。2種類の呼吸器官をもつことにより、短時間の陸上活動をもできたと考えられる[9]。複雑な生殖器をもつことにより、ウミサソリはカブトガニ類のような体外受精をせず、むしろクモガタ類のように体内受精をし、が特殊化した生殖肢を用いて精莢を受け取ったと考えられる[10][11]

系統関係[編集]

多くの特徴がウミサソリと共通したカブトガニ

従来、ウミサソリはカブトガニ類(剣尾類)に近縁とされ、共に節口綱(腿口綱)に分類された。これは両者の多くの形態的類似点によって支持される[12]。しかし2010年代以降では、精莢の受け渡しに適した硬質な生殖器をもつことなどの形質に基づいて、むしろクモガタ類姉妹群(Sclerophorata[11]およびMetastomata[13]を構成する)と見なす系統的位置のほうが広く認められる[4]。これによると、ウミサソリ類を含んだ節口類クモガタ類を除いた側系統群であり(もしくはウミサソリ類を節口類から除外する[14])、カブトガニ類とウミサソリの多くの共通点は、単なる共有原始形質祖先形質)であると見なされる[14]。全体の姿と後体付属肢の構成がウミサソリ類に似通っているChasmataspidida類との類縁関係も注目される[14]

鋏角類

カブトガニ類 Xiphosura


Dekatriata

Chasmataspidida


Sclerophorata

ウミサソリ類 Eurypterida



クモガタ類 Arachnida





また、終体の節の数と呼吸器官の配置などの形質に基づいて、ウミサソリをサソリの姉妹群と見なす異説もあった[15]が、この見解は後の研究に支持されていない[16]

下位分類[編集]

2018年現在、ウミサソリ目の下位分類は2亜目約250が認められる[17]

ウミサソリ類の一覧 (List of eurypterids)も参照

脚注・出典[編集]

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  1. ^ Gigantostraca Haeckel 1866”. (official website). Nomina circumscribentia insectorum (World Wide Web electronic database). 2010年4月15日閲覧。
  2. ^ Lamsdell, James C.; Briggs, Derek E. G.; Liu, Huaibao P.; Witzke, Brian J.; McKay, Robert M. (2015年9月1日). “The oldest described eurypterid: a giant Middle Ordovician (Darriwilian) megalograptid from the Winneshiek Lagerstätte of Iowa” (英語). BMC Evolutionary Biology 15 (1). doi:10.1186/s12862-015-0443-9. ISSN 1471-2148. PMC PMC4556007. PMID 26324341. https://bmcevolbiol.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12862-015-0443-9. 
  3. ^ en:251.4 million years ago.
  4. ^ a b c d e f g h A., Dunlop, Jason; C., Lamsdell, James. “Segmentation and tagmosis in Chelicerata” (英語). Arthropod Structure & Development 46 (3). ISSN 1467-8039. https://www.academia.edu/28212892/Segmentation_and_tagmosis_in_Chelicerata. 
  5. ^ “Distribution and dispersal history of Eurypterida (Chelicerata)” (英語). Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology 252 (3-4): 557–574. (2007年9月3日). doi:10.1016/j.palaeo.2007.05.011. ISSN 0031-0182. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S003101820700291X. 
  6. ^ Lamsdell, James C.; Braddy, Simon J. (2010年4月23日). “Cope's Rule and Romer's theory: patterns of diversity and gigantism in eurypterids and Palaeozoic vertebrates” (英語). Biology Letters 6 (2): 265–269. doi:10.1098/rsbl.2009.0700. ISSN 1744-9561. PMID 19828493. http://rsbl.royalsocietypublishing.org/content/6/2/265. 
  7. ^ James, Lamsdell, (2014年5月31日) (英語). Selectivity in the evolution of Palaeozoic arthropod groups, with focus on mass extinctions and radiations: a phylogenetic approach. https://kuscholarworks.ku.edu/handle/1808/14519. 
  8. ^ a b Whyte, Martin A. (2005年12月). “A gigantic fossil arthropod trackway” (英語). Nature 438 (7068): 576–576. doi:10.1038/438576a. ISSN 0028-0836. http://www.nature.com/nature/journal/v438/n7068/pdf/438576a.pdf. 
  9. ^ “Distribution and dispersal history of Eurypterida (Chelicerata)” (英語). Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology 252 (3-4): 557–574. (2007年9月3日). doi:10.1016/j.palaeo.2007.05.011. ISSN 0031-0182. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S003101820700291X. 
  10. ^ Braddy, Simon. “The functional morphology of mating in the Silurian eurypterid, Baltoeurypterus tetragonophthalmus (Fischer, 1839)” (英語). Zoological Journal of the …. http://www.academia.edu/320306/The_functional_morphology_of_mating_in_the_Silurian_eurypterid_Baltoeurypterus_tetragonophthalmus_Fischer_1839_. 
  11. ^ a b Kamenz, Carsten; Staude, Andreas; Dunlop, Jason A. (2011年10月). “Sperm carriers in Silurian sea scorpions”. Die Naturwissenschaften 98 (10): 889–896. doi:10.1007/s00114-011-0841-9. ISSN 1432-1904. PMID 21892606. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21892606. 
  12. ^ Ruedemann, John Mason Clarke and Rudolf. The Eurypterida of New York. https://en.wikisource.org/wiki/The_Eurypterida_of_New_York/Volume_1/Eurypteridae. 
  13. ^ Weygoldt, P.; Paulus, H. F. (2009年4月27日). “Untersuchungen zur Morphologie, Taxonomie und Phylogenie der Chelicerata1 II. Cladogramme und die Entfaltung der Chelicerata”. Journal of Zoological Systematics and Evolutionary Research 17 (3): 177–200. doi:10.1111/j.1439-0469.1979.tb00699.x. ISSN 0947-5745. https://doi.org/10.1111/j.1439-0469.1979.tb00699.x. 
  14. ^ a b c Lamsdell, James C. (2012年12月18日). “Revised systematics of Palaeozoic ‘horseshoe crabs’ and the myth of monophyletic Xiphosura” (英語). Zoological Journal of the Linnean Society 167 (1): 1–27. doi:10.1111/j.1096-3642.2012.00874.x. ISSN 0024-4082. https://academic.oup.com/zoolinnean/article-abstract/167/1/1/2420794. 
  15. ^ The origins of tetrapulmonate book lungs and their significance for chelicerate phylogeny - PDF”. docplayer.net. 2018年11月9日閲覧。
  16. ^ Weygoldt, Peter (2018年). “Current views on chelicerate phylogeny—A tribute to Peter Weygoldt” (英語). 2018年11月9日閲覧。
  17. ^ Dunlop, J. A., Penney, D. & Jekel, D. 2015. A summary list of fossil spiders and their relatives.

参考文献[編集]

関連項目[編集]