サソリモドキ

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サソリモドキ目
Whipscorpion.jpg
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
亜門 : 鋏角亜門 Chelicerata
: クモガタ綱 Arachnida
階級なし : 四肺類 Tetrapulmonata
階級なし : 脚鬚類 Pedipalpi
階級なし : 有鞭類 Uropygi
: サソリモドキ目 Thelyphonida
学名
Thelyphonida
O. P-Cambridge, 1872
シノニム
Uropygi sensu stricto
英名
vinegaroon
whip scorpion
下位分類群
  • サソリモドキ科 Thelyphonidae
    • (亜科)Hypoctoninae
    • (亜科)Mastigoproctinae
    • (亜科)Typopeltinae
    • (亜科)Thelyphoninae

サソリモドキ(蠍擬)、およびサソリモドキ類は、鋏角亜門クモガタ綱サソリモドキ目Thelyphonida)に属する節足動物の総称。頑強な触肢と鞭のようなをもつ捕食者であり、強烈な匂いをもつ酸性の噴出物で自衛をすることが知られる。

呼称[編集]

異名「Uropygi」はギリシャ語の「οὐροπύγιον」(ouropugion[1]に由来し、そのうち「οὐρά」 (oura) は「尾」・「πυγή」 (puge) は「尻」を意味する。これは本群の尾節が鞭のようなとなっていることに因んでいる。この学名は、サソリモドキ目がヤイトムシ類をも含んだ時期に用いられたものである。ヤイトムシ類が独立の目として区別される以降でも、この学名を従来通りにサソリモドキ目の学名とする文献もある[2]が、混乱を招きやすいため、サソリモドキ目の学名を「Thelyphonida」へ改名し、「Uropygi」をサソリモドキ目とヤイトムシ目を含んだ上位分類(有鞭類)の学名とみなす用法が後に採用される[3][4][5]有鞭類#定義の変遷も参照)。

総称「サソリモドキ」は、かつては日本産の種(サソリモドキ Typopeltis stimpsonii)の和名として使われたこともあるが、後にそれらは後述のように2種が含まれていたことが分かって、それぞれ別個の和名(アマミサソリモドキタイワンサソリモドキ)で呼ばれるようになっている。英名「whip scorpion」および「vinegaroon」からムチサソリビネガロンとも呼ばれる。

形態[編集]

全身はほぼ黒褐色の外骨格をもつ。名前の通りサソリのようなフォームを持つが、サソリとは系統的に近縁ではなく、細部の多くの特徴が近縁であるヤイトムシウデムシと似通っている[6]。前体(頭胸部)と後体(腹部)は偏平で縦長く、その間は少しくびれる。後体の後端には細い紐状の尾節があり、「whip scorpion」(ムチサソリ)という名の由来となる。全長は 25–85 mm程度、陸生節足動物にしては中大型。中にMastigoproctus 属が最大である[7]

性的二形は、生殖口蓋の形状以外に、雄の触肢は雌より発達し、雌の第1脚に特殊な突起を持つ例がある[8][9]

Thelyphonus 属の形態模式図
A:全身、腹側(尾節除く)
B:後体、背側
I鋏角
II触肢
III:感覚用の第1脚
IV-VI:歩行用の第2-4脚
st:前体の腹板
pregen:腹柄
l:書肺の開口
pm.sg:内突起
paf尾節


前体[編集]

前体(頭胸部)は1枚の背甲に覆われており、4対の単眼はその前方に1対(中眼)と両側に3対(側眼)となる[7]。他のクモガタ類と同様、ここには鋏角1対・触肢1対・歩脚4対という計6対の付属肢関節肢)をもつ。腹側の正中線には分節した三角形の腹板がる[6]

鋏角鋏状に近い折りたたみナイフ状で、ごく小さく目立たない。触肢は太く発達し、先端の脛節と符節は鋏状になる他、膝節もよく発達した突起をもち、転節の背側に歯車の様な突起があり、併せて全体が捕脚状となる[6]。この触肢は獲物を捕獲するほか巣穴を掘るなどの用途に用い[7]、普段は頭胸部の前に曲げた状態で、握りこぶしを口元に寄せたようにも見える。第1脚は細長く、歩行に使わず、昆虫触角のような感覚器官として用いられる[6]。他の3対の脚は歩行用で、後方ほど長くなる。

後体[編集]

後体(腹部)は12節からなり[6]、多くの節は腹背(背板と腹板)にそれぞれ1対の凹み(内突起)がある。第1節は幅狭い腹柄であり、第2-3節の腹面は2対の呼吸器官である書肺をもち、第2節の生殖口蓋に生殖孔と生殖肢がある[6]。後端の3節は細短い円柱状の尾部(pygidium)となり、先には体長とほぼ同長の尾節をもち、鞭状の感覚器官として用いられる[6]毒腺はないが、付け根に肛門腺をもち、両側の開き目から酢酸カプリル酸の混合物を噴射する[7]。英名「vinegaroon」(ビネガロン)は、この自衛用の液体が(vinegar)のような強烈な匂いを持つことに由来する。

生態[編集]

夜行性肉食動物であり、各種の昆虫ヤスデ等の節足動物を捕食する[7]。またミミズナメクジなども餌とすることがあり、Mastigoproctus 属の大型種に至っては小型の脊椎動物を狩ることも確認されている[7]。これらの捕獲された獲物は、触肢の転節にある歯車らしい突起と鋏角で砕いて、口外で一部消化しながら摂食する。

倒木・岩の下など湿った暗い場所を好む。通常は一つの石の下に単独で生息している。刺激を受けると素速く逃げる、或いは触肢を開いて後体を上げて威嚇姿勢を取る。更に刺激を受けた場合は肛門腺から刺激性を持つ液を相手に向けて噴射する。

Thelyphonus sp.の求愛行動

多くのクモガタ類と同じように、真の交尾は行わず、に精包(精莢)を受け渡すことで交接が行われる。繁殖行動はいくつかの種類のみが記載されたが、以下の過程が知られる[10]

  1. 雄は触肢を用いて雌の第1脚を掴み、その先端を自らの鋏角の近くまで置く。
  2. 雌は雄の後ろから、触肢を用いて雄の後体を抱く。
  3. 雄は精包を排出し、触肢を用いて精包を雌の生殖孔に押し込む。

また、アマミサソリモドキからは、雄同士は闘争行為をもつことが確認されている[9]

卵を守る Mastigoproctus giganteus の雌

産卵数は35個以下の場合が多く、粘膜によって乾燥から保護されている。雌は孵化するまで絶食して卵を守る。孵化した幼体は白く、吸盤で母体の背に吸着して過ごす。最初の脱皮を終えると成体らしい姿となり、幼体が母体を離れた後に雌は寿命を終える。幼体の成長は遅く、3年で3回の脱皮を経て成体となり、成体となった後も4年程度生きると考えられている[7]

分布[編集]

ヨーロッパオーストラリア大陸を除く世界各地の熱帯亜熱帯に分布する[7]

日本では伊豆諸島八丈島(人為分布)、九州南部から奄美にかけてアマミサソリモドキ Typopeltis stimpsonii が、沖縄本島から八重山諸島タイワンサソリモドキ Typopeltis crucifer が分布する。どちらも外見はよく似ており、以前は同一種と考えられていた。天草下島南端の旧牛深市域に生息するアマミサソリモドキは、北限の個体群といわれ、熊本県天然記念物に指定されている。

分類[編集]

ヤイトムシ目とは近縁であり、同じとされている時期もあった[11]。Rowland & Cooke (1973)[2]は本目を2科 (Thelyphonidae・Hypoctonidae) に分けたが、Weygoldt (1979)[12]、Haupt & Song (1996)[13]は Hypoctonidae の単系統性は不確かであるとし、Hypoctonidae を亜科として1科に統合した。Dunlop & Horrocks (1996)[14] では Hypoctonidae はヤイトムシ+†Proschizomus の姉妹群とされているが、この際に用いられた化石種 Proschizomus の特徴は非常に不確かなものである[15]

四肺類

クモ目


脚鬚類

ウデムシ目


有鞭類

サソリモドキ目



ヤイトムシ目





サソリモドキ目は姉妹群であるヤイトムシ目と共に有鞭類(Uropygi)を構成し、ウデムシ目と共に脚鬚類(Pedipalpi)をなす。この分類群はクモ目の姉妹群となり、更に四肺類Tetrapulmonata)を構成する[16][11]。サソリモドキのこれらのクモガタ類との共通点は、書肺の数は最大2対、折りたたみナイフ型の鋏角、歩脚の基節と転節の構造、ウデムシヤイトムシと同様に感覚器官に特殊化した第1脚・繊毛のある鋏角の牙状節・3節に細分される歩脚の跗節と捕脚状の触肢をもち、ウデムシと同様の単眼配置、などが挙げられる[6][11]

下位分類[編集]

Thelyphonus doriae hosei
アマミサソリモドキ Typopeltis stimpsoni

2006年の時点で100を超える種が知られている[17]。現生種は全てサソリモドキ科(Thelyphonidae)に属し[18]、4つの亜科に分かれる。また、従来が1種2亜種として記載された Mastigoproctus giganteus は、2018年の再検証により7種に分かれていた[19]

人間との係わり[編集]

通常家屋内に侵入することはなく、日常生活で見掛けることはない。野外活動中に偶然刺激された場合、肛門腺から噴出する液は強い刺激があり、人間の皮膚に触れたり目に入ると火傷様の皮膚炎や角膜炎等を起こす恐れがあるため有害な生物として認識されるが、ハチアブのように積極的に人間を襲う事はないので、注意して取扱いあえて捕まえたりしなければ問題はない。

同じクモガタ類クモサソリに対し、民俗文化的な事物として注目される事もなく人間の生活との係わりはほとんどない動物だが、外国産の大型クモ類甲虫類と同様に観賞用に飼育されることがある。

飼育[編集]

成体はテラリウムで飼育できるが、湿度を保つことが重要である。水分補給のために、基材の一角を濡らしておくか、溺れない程度の深さの水入れが必要となる。温度は 20–25 °C、基材はココヤシ繊維など、体表に付着しない素材が望ましい。基材に潜る性質があるため、重い物を入れる際は注意すべきである[22]

餌は Eublaberus 属・Blaberus 属などのゴキブリや、後脚を除去したコオロギが用いられる。幼体には、コオロギの幼虫や無翅ショウジョウバエが利用できる。餌は週に数回食べる[22]

餌の与え過ぎなどでコナダニが発生し、気門を塞ぐことがある。 外骨格は傷つきやすく、傷口からノミバエダニが侵入することがあるため、丁寧に扱うことが推奨される[22]

脚注[編集]

  1. ^ Found in Aristoteles' work: De Anim. Hist., Lib: IV Cap: I.
  2. ^ a b J. Mark Rowland & John A. L. Cooke (1973). “Systematics of the arachnid order Uropygida (=Thelyphonida)” (PDF). Journal of Arachnology 1: 55–71. http://www.americanarachnology.org/JoA_free/JoA_v1_n1/JoA_v1_p55.pdf. 
  3. ^ “Geological history and phylogeny of Chelicerata” (英語). Arthropod Structure & Development 39 (2-3): 124–142. (2010-03-01). doi:10.1016/j.asd.2010.01.003. ISSN 1467-8039. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1467803910000046. 
  4. ^ SHULTZ, JEFFREY W. (2007-06). “A phylogenetic analysis of the arachnid orders based on morphological characters” (英語). Zoological Journal of the Linnean Society 150 (2): 221–265. doi:10.1111/j.1096-3642.2007.00284.x. ISSN 1096-3642. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/j.1096-3642.2007.00284.x. 
  5. ^ Panarthropoda.de - General - Whip spiders” (英語). www.panarthropoda.de. 2018年11月26日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g h A., Dunlop, Jason; C., Lamsdell, James. “Segmentation and tagmosis in Chelicerata” (英語). Arthropod Structure & Development 46 (3). ISSN 1467-8039. https://www.academia.edu/28212892/Segmentation_and_tagmosis_in_Chelicerata. 
  7. ^ a b c d e f g h Günther Schmidt (1993) (German). Giftige und gefährliche Spinnentiere [Poisonous and dangerous arachnids]. Westarp Wissenschaften. ISBN 3-89432-405-8. 
  8. ^ Haupt, Joachim (2004年). “A self-made taxonomic character in whip scorpions ( Arachnida , Uropygi : Thelyphonida ) Joachim” (英語). 2018年11月26日閲覧。
  9. ^ a b Watari, Yuya; Komine, Hirotaka (2016). “Field observation of male-male fighting during a sexual interaction in the whip scorpion Typopeltis stimpsonii (Wood 1862) (Arachnida: Uropygi)” (英語). Acta Arachnologica 65 (1): 49–54. doi:10.2476/asjaa.65.49. ISSN 0001-5202. https://www.researchgate.net/publication/309623689_Field_observation_of_male-male_fighting_during_a_sexual_interaction_in_the_whip_scorpion_Typopeltis_stimpsonii_Wood_1862_Arachnida_Uropygi. 
  10. ^ Aspects of the behavior and reproduction of Mastigoproctus brasilianus Koch, 1843, (Arachnida:Uropygi:Telyphonidae)
  11. ^ a b c Garwood, Russell J.; Dunlop, Jason (2014-11-13). “Three-dimensional reconstruction and the phylogeny of extinct chelicerate orders” (英語). PeerJ 2: e641. doi:10.7717/peerj.641. ISSN 2167-8359. https://peerj.com/articles/641/. 
  12. ^ P. Weygoldt (1979). “Thelyphonellus ruschii n. sp. und die taxonomische Stellung von Thelyphonellus Pocock 1894 (Arachnida: Uropygi: Thelyphonida)”. Senckenbergiana Biologica 60: 109–114. 
  13. ^ J. Haupt & D. Song (1996). “Revision of East Asian whip scorpions (Arachnida Uropygi Thelyphonida). I. China and Japan”. Arthropoda Selecta 5: 43–52. 
  14. ^ J. A. Dunlop & C.A. Horrocks (1996). “A new Upper Carboniferous whip scorpion (Arachnida: Uropygi: Thelyphonida) with a revision of the British Carboniferous Uropygi”. Zoologischer Anzeiger 234: 293–306. 
  15. ^ M. S. Harvey (2002). “The neglected cousins: what do we know about the smaller arachnid orders?” (PDF). Journal of Arachnology 30: 357–372. doi:[[doi:10.1636%2F0161-8202%282002%29030%5B0357%3ATNCWDW%5D2.0.CO%3B2|10.1636/0161-8202(2002)030[0357:TNCWDW]2.0.CO;2]]. http://www.americanarachnology.org/JoA_Congress/JoA_v30_n2/arac-30-02-357.pdf. 
  16. ^ Regier, Jerome C.; Shultz, Jeffrey W.; Zwick, Andreas; Hussey, April; Ball, Bernard; Wetzer, Regina; Martin, Joel W.; Cunningham, Clifford W. (2010-02). “Arthropod relationships revealed by phylogenomic analysis of nuclear protein-coding sequences” (英語). Nature 463 (7284): 1079–1083. doi:10.1038/nature08742. ISSN 0028-0836. https://doi.org/10.1038/nature08742. 
  17. ^ Thelyphonidae”. 2012年12月14日閲覧。
  18. ^ 内田亨監修 『動物系統分類学』第7巻(中A)「真正蜘蛛類」、中山書店。:p.206.
  19. ^ Barrales-Alcalá, Diego; Francke, Oscar F.; Prendini, Lorenzo (2018-02). “Systematic Revision of the Giant Vinegaroons of the Mastigoproctus giganteus Complex (Thelyphonida: Thelyphonidae) of North America” (英語). Bulletin of the American Museum of Natural History 418: 1–62. doi:10.1206/0003-0090-418.1.1. ISSN 0003-0090. https://www.researchgate.net/publication/322881558_Systematic_Revision_of_the_Giant_Vinegaroons_of_the_Mastigoproctus_giganteus_Complex_Thelyphonida_Thelyphonidae_of_North_America. 
  20. ^ JC Huff, L Prendini (2009). “On the African Whip Scorpion, Etienneus africanus (Hentschel, 1899) (Thelyphonida: Thelyphonidae), with a Redescription Based on New Material from Guinea-Bissau and Senegal”. American Museum Novitates 3658: 1-16. doi:10.1206/674.1. 
  21. ^ Huff, Jeremy C.; Víquez, Carlos; Prendini, Lorenzo (2008-12). “Redescription of Mimoscorpius pugnator (Butler, 1872) (Arachnida: Thelyphonida), with first description of the female” (英語). American Museum Novitates 3633: 1–9. doi:10.1206/640.1. ISSN 0003-0082. https://www.researchgate.net/publication/232679843_Redescription_of_Mimoscorpius_pugnator_Butler_1872_Arachnida_Thelyphonida_with_first_description_of_the_female. 
  22. ^ a b c Orin McMonigle (2008). Whipscorpions and Whipspiders: Culturing Gentle Monsters. Elytra and Antenna Insect Books. 40pp.

関連条目[編集]

外部リンク[編集]