サソリモドキ

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サソリモドキ目
Whipscorpion.jpg
Mastigoproctus giganteus
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
亜門 : 鋏角亜門 Chelicerata
: クモ綱 Arachnida
: サソリモドキ目 Thelyphonida
学名
Thelyphonida
O. P-Cambridge, 1872
シノニム
英名
vinegaroons
uropygids
whip scorpions

サソリモドキ蠍擬)は、クモ綱サソリモドキ目に属する節足動物の総称。英名からムチサソリビネガロンとも呼ばれる。

"Uropygi" はギリシャ語 οὐροπύγιον (ouropugion)[1]に由来し、οὐρά (oura) は"尾"・πυγή (puge) は"尻"を意味する。これは尾節が鞭のような尾となっていることに由来する。

形態[編集]

全身はほぼ黒褐色で丈夫な堅い外皮を持つ。名前の通りサソリに似たようなフォームを持つだが、系統的に近縁ではなく、細部の特徴は近縁のウデムシと似通っている。頭胸部腹部は偏平で縦長く、その間は少しくびれる。腹部の後端に細い紐状の尾節があり、whip scorpion(ムチサソリ)という別名の由来となる。

目は頭胸部前方に1対、両側にそれぞれ3対の単眼となる[2]。付属肢として1対の鋏角、触肢、4対の歩脚をもつ。 鋏角は鋏状に近いナイフ状で極小さく目立たない。 触肢は太く発達し、先端の脛節と符節は鋏状になる他、膝節にも発達な突起を持ち、転節の背側に歯車の様な歯列を持つ。この触肢は獲物を捕獲するほか巣穴を掘るなどの用途に用い[2]、普段は頭胸部の前に曲げた状態で、握りこぶしを口元に寄せたようにも見える。 歩脚の第一脚は細長く、体の前方にのばし、昆虫触角のような感覚器官として用いられる。他の3対は歩行用の足になっている。

腹部には体節に分かれて付属肢はなく、それぞれの節に左右1対の凹み(内突起)が見られる。呼吸器官として腹面に2対の書肺をもち、生殖孔はその間に付く。後端3節は細短くなり、先に頭胴長とほぼ同長の尾節をもち、紐状で感覚器官の役割に立つ。毒腺はないが、付け根に肛門腺をもち、両側の開き目から酢酸カプリル酸の混合物を噴射する[2]。英名 "vinegaroon" (ビネガロン)は、この自衛用の液体が酢 (vinegar) のような強烈な匂いを持つことに由来する。

性的二形として、生殖孔の形状以外にも、雄の触肢は雌より発達し、雌の第一脚の先端付近に突起を持つ。

全長は 25–85 mm程度、陸生節足動物にしては中大型。中にMastigoproctus 属が最大である[2]

生態[編集]

卵を守るジャイアント・ビネガロン (Mastigoproctus giganteus) の雌

夜行性肉食性で、各種昆虫ヤスデ等を捕食し[2]ゴキブリコオロギなどの個体数の制御に有用であると考えられる。またミミズナメクジなども餌とすることがあり、Mastigoproctus 属の大型種に至っては小型の脊椎動物を食べるケースも確認されている[2]。これらの捕獲された獲物は触肢の転節の歯列と鋏角で砕いて、口外で一部消化しながら摂食する。

倒木・岩の下など湿った暗い場所を好む。通常、一つの石の下に単独で生息しているケースが多い。刺激を受けると素速く逃げる、或いは触肢を開く腹部を上げて威嚇姿勢を取る。更に刺激を受けた場合は肛門腺から刺激性を持つ液を相手に向けて噴射する。

多くのクモ型類と同じように、真の交尾は行わず、雄が雌に精包を受け渡すことで交接が行われる。産卵数は35個以下の場合が多く、粘膜によって乾燥から保護されている。雌は孵化するまで絶食して卵を守る。孵化した幼体は白く吸盤で母体の背に吸着して過ごす。最初の脱皮を終えると成体と同じような姿となり、幼体が母体を離れた後に雌は寿命を終える。幼体の成長は遅く、3年で3回の脱皮を経て成体となり、成体となった後も4年程度生きると考えられている。[2]

人間との係わり[編集]

通常家屋内に侵入することはなく、日常生活で見掛けることはない。 野外活動中に偶然刺激された場合、肛門腺から噴出する液は強い刺激があり、人間の皮膚に触れたり目に入ると火傷様の皮膚炎や角膜炎等を起こす恐れがあるため有害な生物として認識されるが、ハチアブのように積極的に人間を襲う事はないので、注意して取扱いあえて捕まえたりしなければ問題はない。

同じクモ型類のクモサソリに対し、民俗文化的な事物として注目される事もなく人間の生活との係わりはほとんどない生物だが、外国産の大型クモ類や甲虫類同様に観賞用に飼育されることがある。

飼育[編集]

成体はテラリウムで飼育できるが、湿度を保つことが重要である。水分補給のために、基材の一角を濡らしておくか、溺れない程度の深さの水入れが必要となる。温度は 20–25 °C、基材はココヤシ繊維など、体表に付着しない素材が望ましい。基材に潜る性質があるため、重い物を入れる際は注意すべきである[3]

餌は Eublaberus 属・Blaberus 属などのゴキブリや、後脚を除去したコオロギが用いられる。幼体には、コオロギの幼虫や無翅ショウジョウバエが利用できる。餌は週に数回食べる[3]

餌の与え過ぎなどでコナダニが発生し、気門を塞ぐことがある。 外骨格は傷つきやすく、傷口からノミバエやダニが侵入することがあるため、丁寧に扱うことが推奨される[3]

分布[編集]

ヨーロッパオーストラリア大陸を除く世界各地の熱帯亜熱帯に分布する[2]

日本では伊豆諸島八丈島(人為分布)、九州南部から沖縄にかけてアマミサソリモドキ Typopeltis stimpsonii が、八重山諸島にタイワンサソリモドキ Typopeltis crucifer が分布する。どちらも外見はよく似ており、以前は同一種と考えられていた。天草下島南端の旧牛深市域に生息するアマミサソリモドキは、北限の個体群といわれ、熊本県天然記念物に指定されている。

分類[編集]

ヤイトムシ目と近縁であり、同じ目とされていたこともある。Rowland & Cooke (1973)[4]は本目を2科 (Thelyphonidae・Hypoctonidae) に分けたが、Weygoldt (1979)[5]、Haupt & Song (1996)[6]は Hypoctonidae の単系統性は不確かであるとし、Hypoctonidae を亜科として1科に統合した。Dunlop & Horrocks (1996)[7] では Hypoctonidae はヤイトムシ+†Proschizomus の姉妹群とされているが、この際に用いられた化石種 Proschizomus の特徴は非常に不確かなものである[8]

四肺類

クモ目


脚鬚類

ウデムシ目


有鞭類

サソリモドキ目



ヤイトムシ目





主流の系統に従うと、サソリモドキ目は姉妹群であるヤイトムシ目と共に有鞭類(Uropygi)に属し、ウデムシと共に脚鬚類(Pedipalpi)を構成する。この分類はクモ目の姉妹群となり、更に四肺類(Tetrapulmonata)を構成する。共通点として書肺の数は最大2対、歩脚の基節と転節の構造、ウデムシヤイトムシと同じく感覚器官に特化した第一脚と捕脚状の触肢、ウデムシと同じの単眼配置、ヤイトムシと同じく細短い腹部先端と尾節を持つこと。

下位分類[編集]

Thelyphonus doriae hosei

2006年の時点で100を超える種が知られている[9]

  • Hypoctoninae Pocock, 1899
    • Etienneus Heurtault, 1984 - Etienneus africanus 1種のみ。アフリカに分布する唯一のサソリモドキで、ゴンドワナ種であると考えられる[10]
    • Hypoctonus Thorell, 1888 - 19種。主にミャンマー。
    • Labochirus Pocock, 1894 - 4種。インド・スリランカ。
    • Thelyphonellus Pocock, 1894 - 3種。中南米。
  • Mastigoproctinae Speijer, 1933
    • Mastigoproctus Pocock, 1894 - 約16種。主に中南米。
    • Mimoscorpius Pocock, 1894 - フィリピンに分布する Mimoscorpius pugnator のみ。
    • Uroproctus Pocock, 1894 - インド・バングラデシュに分布する Uroproctus assamensis のみ。
  • Thelyphoninae Lucas, 1835 - 南-東南アジア・メラネシア。
    • Abaliella Strand, 1928 - 6種
    • Chajnus Speijer, 1936 - 1種
    • Ginosigma Speijer, 1936 - 2種
    • Glyptogluteus Rowland, 1973 - 1種
    • Minbosius Speijer, 1933 - 2種
    • Tetrabalius Thorell, 1888 - 6種
    • Thelyphonus Latreille, 1802 - 約30種
  • Typopeltinae Rowland & Cooke, 1973
  • 化石種
    • Geralinura Scudder, 1884 - ヨーロッパ・石炭紀後期より6種。
    • Mesoproctus Dunlop, 1998 - ブラジル・白亜紀前期より1種。
    • Proschizomus Dunlop & Horrocks, 1996 イギリス・石炭紀後期より1種。

関連条目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ Found in Aristoteles' work: De Anim. Hist., Lib: IV Cap: I.
  2. ^ a b c d e f g h Günther Schmidt (1993) (German). Giftige und gefährliche Spinnentiere [Poisonous and dangerous arachnids]. Westarp Wissenschaften. ISBN 3-89432-405-8. 
  3. ^ a b c Orin McMonigle (2008). Whipscorpions and Whipspiders: Culturing Gentle Monsters. Elytra and Antenna Insect Books. 40pp.
  4. ^ J. Mark Rowland & John A. L. Cooke (1973). “Systematics of the arachnid order Uropygida (=Thelyphonida)” (PDF). Journal of Arachnology 1: 55–71. http://www.americanarachnology.org/JoA_free/JoA_v1_n1/JoA_v1_p55.pdf. 
  5. ^ P. Weygoldt (1979). “Thelyphonellus ruschii n. sp. und die taxonomische Stellung von Thelyphonellus Pocock 1894 (Arachnida: Uropygi: Thelyphonida)”. Senckenbergiana Biologica 60: 109–114. 
  6. ^ J. Haupt & D. Song (1996). “Revision of East Asian whip scorpions (Arachnida Uropygi Thelyphonida). I. China and Japan”. Arthropoda Selecta 5: 43–52. 
  7. ^ J. A. Dunlop & C.A. Horrocks (1996). “A new Upper Carboniferous whip scorpion (Arachnida: Uropygi: Thelyphonida) with a revision of the British Carboniferous Uropygi”. Zoologischer Anzeiger 234: 293–306. 
  8. ^ M. S. Harvey (2002). “The neglected cousins: what do we know about the smaller arachnid orders?” (PDF). Journal of Arachnology 30: 357–372. doi:10.1636/0161-8202(2002)030[0357:TNCWDW]2.0.CO;2. http://www.americanarachnology.org/JoA_Congress/JoA_v30_n2/arac-30-02-357.pdf. 
  9. ^ Thelyphonidae”. 2012年12月14日閲覧。
  10. ^ JC Huff, L Prendini (2009). “On the African Whip Scorpion, Etienneus africanus (Hentschel, 1899) (Thelyphonida: Thelyphonidae), with a Redescription Based on New Material from Guinea-Bissau and Senegal”. American Museum Novitates 3658: 1-16. doi:10.1206/674.1. 

外部リンク[編集]