カニムシ
カニムシ | |||||||||||||||
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![]() Chelifer cancroides
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分類 | |||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||
Pseudoscorpiones Haeckel, 1866 | |||||||||||||||
シノニム | |||||||||||||||
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和名 | |||||||||||||||
カニムシ(蟹虫) |
カニムシ(蟹虫、pseudoscorpion)は、鋏角亜門・クモガタ綱のカニムシ目(Pseudoscorpiones)に属する節足動物の総称である。ほとんどは数mm程度以下の微小動物であり、触肢は大きな鋏となる。尾のないサソリのような姿をしているが、サソリとは別系統である。[1]
特徴[編集]
体は円筒形、楕円形で、前体と後体の間がくびれない。全身の外形は、尾のないサソリを彷彿とさせる。4対の歩脚と、最大の特徴である一対の鋏状の触肢を持つ。触肢は大きいものでは体長と同じくらいの長さがあり、先端近くには感覚毛がはえている。この触肢を前方に延ばしてそろそろと歩き、何かにぶつかると、触肢を体に引き付けて、すっ飛ぶように後退する。その姿が印象的なためか、「アトビサリ」等の別名がある。
中には口元の鋏角から糸を出せるものがあり、それを用いて巣を作る。
外部形態[編集]
体は大きく前体(頭胸部)と後体(腹部)に分かれる。両者の間には、はっきりした境目はあるが、著しいくびれはない。他のクモガタ類と同様、前体は鋏角1対・触肢1対・脚4対という計6対の付属肢(関節肢)をもつ。
前体はおおよそ長方形から三角形の背甲に覆われる。その前方側面に眼がある。眼は単眼で2対もしくは1対をもち、無眼のものがある。腹面は触肢と脚の基部(基節)によって占められ、左右のそれが正中線で合わさっているため、その間には腹板がない[2]。
体の前端には鋏角がある。鋏角は2節で、鋏を構成する[2]。鋏は縦に動き、不動指は背面側、可動指は腹側にある。大きさは様々で、ツチカニムシ類では頭胸部とほとんど同長なくらいに大きいが、他のものでははるかに小さい。鋏角には紡績腺があるものが多いが、その位置は様々である。
触肢はよく発達した鋏になり、この動物のとても目立つ特徴となっている。触肢は左右に広がり、その先で前に曲がって、先端に大きな鋏を持つ。この鋏には、長い感覚毛があり、これを触角のように用いると同時に、獲物を捕獲するのにも用いる。この触肢には毒腺があり[3]、捕えた獲物を麻痺させる他、性的二形があり、雌のものが大きいとも言われるが、その差は大きくない。
触肢の後方には4対の脚(歩脚)が配置する。前の二対は前を、後方の二対は後ろを向く。その構造は前二対、後ろ二対がそれぞれに似ていて、いずれも後方の方がよく発達している。
後体(腹部)はほぼ卵形で、付属肢はない。12節からなるが、最後の体節は腹面に曲がって肛門周辺を構成する[2]。背面と腹面は、それぞれに独立した背板と腹板に覆われるが、それぞれが正中線で左右に分かれることが多い。生殖孔は腹面第2節の生殖口蓋に開く。
内部形態[編集]
消化系は、口から肛門に至る消化管であるが、その側面に伸びる腸腺が最も大きい。その先端は鋏角の間に開き、その最前方は口前部といわれる。その中に口が開く。その内側に咽頭があり、そこから後方に細い食道が続く。その後方で左右に広がる腸腺がある。腸腺はキチン質の裏打ちがあって、左右に分かれて後方に伸び、さらに外側にいくつもの膨らみを持つ。後体の背板の下は、ほぼこの腸腺に占められる。この後方には、細い小腸が伸び、体内で一度折り返して前に伸び、さらにもう一度折り返して、肛門に続く。
神経系は、前体部に大きな集中部があり、これは食道上神経塊と食道下神経塊からなる。
呼吸系としては、気管系があり、その開口である気門は、後体第3と第4節[2]の腹面の左右に開く。
排出器としては、基節腺(coxal gland)、腎嚢などがある。
生態[編集]
カニムシは、主として土の中に生息する土壌生物である。やや大柄なものは、石をめくればその裏面にいるのが見られる。小型のものは、野外で採集するのはほとんど不可能で、土壌動物を採集するための装置が必要になる。イソカニムシは、海岸性の大型種で、岩礁海岸の潮上帯で、岩のすき間や割れ目の間に住んでいる。樹上生活を行う種もいる[4]
鋏が目立つことでもわかるように、捕食性の動物であり、より小型の動物、トビムシなどを餌にしている。土壌動物としては、密度はさほど高くないが、重要な肉食者である。餌を求めて歩くのではなく、鋏状の触肢に獲物が触れるまで待つ。
昆虫などの脚を掴み、またはその身に乗って便乗する習性が知られる。
分類[編集]
多くのクモガタ類と同様、クモガタ綱におけるカニムシの系統的位置ははっきりしない。かつては形態学(2節からなるはさみ型の鋏角・膝節のない脚・腹板のない前体・気門の位置など多くの共通点)に基づいてほぼ疑いなくヒヨケムシの姉妹群と考えられてきた(Haplocnemata または Apatella をなす)[5]。しかしこれは分子系統解析に否定的とされ、代わりに不確実であるものの、サソリ、もしくはサソリと四肺類(クモ・ウデムシ・サソリモドキ・ヤイトムシ)からなる単系統群(蛛肺類)に類縁であることを示唆する解析結果が挙げられる[5]。
下位分類[編集]
- ツチカニムシ科 Chthoniidae
- Lechytiidae
- オウギツチカニムシ科 Pseudotyrannochthoniidae
- ケブカツチカニムシ科 Tridenchthoniidae
- Feaellidae
- Pseudogarypidae
- Bochicidae
- Gymnobisiidae
- Hyidae
- Ideoroncidae
- コケカニムシ科 Neobisiidae
- Parahyidae
- ツノカニムシ科 Syarinidae
- イソカニムシ科 Garypidae
- Garypinidae
- リクイソカニムシ科 Geogarypidae
- Larcidae
- Menthidae
- サバクカニムシ科 Olpiidae
- ウデカニムシ科 Cheiridiidae
- Pseudochiridiidae
- Sternophoridae
- メクラカニムシ科 Atemnidae
- カニムシ科 Cheliferidae
- ヤドリカニムシ科 Chernetidae
- イボカニムシ科 Withiidae
出典[編集]
- ^ 以下、全般的には内田監(1966)、p.61-90.による。
- ^ a b c d Lamsdell, James C.; Dunlop, Jason A.. “Segmentation and tagmosis in Chelicerata” (英語). Arthropod Structure & Development 46 (3): 395–418. ISSN 1467-8039 .
- ^ Krämer, Jonas; Pohl, Hans; Predel, Reinhard (2019-04-15). “Venom collection and analysis in the pseudoscorpion Chelifer cancroides (Pseudoscorpiones: Cheliferidae)”. Toxicon 162: 15–23. doi:10.1016/j.toxicon.2019.02.009. ISSN 0041-0101 .
- ^ 佐藤英文、「トゲヤドリカニムシの生活史について」『Acta Arachnologica』 1978-1979年 28巻 1号 p.31-37, doi:10.2476/asjaa.28.31, 日本蜘蛛学会
- ^ a b Dunlop, Jason; Garwood, Russell J. (2014-11-13). “Three-dimensional reconstruction and the phylogeny of extinct chelicerate orders” (英語). PeerJ 2: e641. doi:10.7717/peerj.641. ISSN 2167-8359 .
- ^ “カニムシ目 Pseudoscorpionida - 日本産生物種数調査 - 日本分類学会連合”. www.ujssb.org. 2019年9月3日閲覧。
参考文献[編集]
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- 内田亨監修 『動物系統分類学』第7巻(中A)「真正蜘蛛類」、中山書店。