コスリイムシ目
コスリイムシ | ||||||||||||||||||||||||
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![]() コスリイムシ Plesiosiro madeleyi の復元図
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保全状況評価 | ||||||||||||||||||||||||
絶滅(化石) | ||||||||||||||||||||||||
地質時代 | ||||||||||||||||||||||||
石炭紀後期 | ||||||||||||||||||||||||
分類 | ||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||
Haptopoda Pocock, 1911[5] | ||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||
コスリイムシ[2][3][4] | ||||||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||||||
Haptopod[5] | ||||||||||||||||||||||||
下位分類群 | ||||||||||||||||||||||||
コスリイムシ目[2][3][4](学名:Haptopoda)は、鋏角亜門・クモガタ綱に分類される化石節足動物の分類群。古生代石炭紀に生息したコスリイムシ(Plesiosiro madeleyi)という1種のみによって知られる[3][4][5]。
学名「Haptopoda」はギリシャ語の「hapto-」(掴む・捕らえる)と「pous」(足)に由来する[3][4]。和名は岸田久吉による命名で[2]、発見地であるイギリスの地名 Coseley に因む[3][4]。
形態[編集]
体長は10mm程度のクモガタ類である。表面が窪起を密生した体は縦長い楕円形で前体と後体に分かれ、その間はくびれていない[6]。
前体[編集]
前体(prosoma、頭胸部)の背面は1枚の背甲(carapace, psosomal dorsal shield)に覆われる。背甲は台形で先端は幅狭くなって尖り、1対の中眼(median eyes)をもつ[1][7]。中眼の両側は1対の突起があり、側眼(lateral eyes)を支えたと推測される[1][7]。背甲の背側は4本の隆起線が走り、中心の2本は前後で1本に会合する[1]。腹面は2枚の腹板(sternum)があり、そのうち前方の腹板は1対の突起をもつ[1][7]。
付属肢[編集]
他のクモガタ類と同様、前体は鋏角1対・触肢1対・脚4対という計6対の付属肢(関節肢)をもつ[6]。
鋏角(chelicerae)は往々にして保存状態は悪く、古くは鋏状と推測された[1]が、2014年にコンピュータ断層撮影で得られる3次元画像によれば、鋏角は背甲前端の真下にあり、2節によって構成され、先端の節はトタテグモ下目のクモのように、垂直方向に湾曲した牙状である[7]。
触肢(pedipalp)は脚に比べてはっきりと短く、先端(跗節)の詳細は不明、基部はクモやザトウムシに見られるような下顎や顎葉は存在しない[1]。
4対の脚は内側をやや前方に向かってよく発達しており、そのうち第2-3脚はやや短く、第1脚は最も長い[1][6]。脚はいずれも7つの肢節からなるが、先端の細い跗節がさらに6節(第1脚)もしくは4節(第2-4脚)の跗小節に分かれている[1]。先端の爪の有無は不明[1][7]。脚の肢節の中で腿節(第3節)は最も発達し、内側は一連の棘が走る[1]。
後体[編集]
後体(opisthosoma、腹部)は12節からなり、10枚の顕著な背板(tergite)と腹板、および小さな最終2節によって表れる[1][7][6]。最終の2節は目立たないため、10-11節と見間違われやすい[1]。前体との境目は幅広く、クモや脚鬚類のようにくびれていない[6]。ほぼ全ての背板は脚鬚類のように、1対の凹み(内突起)がある[1]。第1節の背板は短縮して前体の背甲の下に隠れる[1][6]。第1腹板は三角形で第4脚基節の間にあって三角形をなす[1]。第2節の腹面の外骨格は四肺類の生殖口蓋のように幅広く、生殖孔を持っていたと考えられる[1]。第2-3節での書肺の有無は不明だが、もし書肺があれば、その腹面の外骨格は腹板ではなく、蓋板(operculum)という著しく特化した後体付属肢であり、そのうち第2節のものは生殖口蓋(genital operculum)と考えられる[1][6]。第5-10腹板のそれぞれの中心は1本の溝がある[1]。最終の2節はごく小さく、円筒状もしくは小さな背板と腹板に分かれる[1][6]。
生態[編集]
コスリイムシは捕食者であったと考えられている。腿節の棘から、この部分で獲物を捕らえたのではないかと考えられる[1]。サソリの様に脚を体に密着するほど折り畳められ、これにより狭い隙間に潜められたと推測される[1]。脚の跗節は華奢で多数の跗小節に分かれるため、この部分は感覚の役割を果たしていたと考えられる[1]。
生息時代と分布[編集]
コスリイムシは古生代石炭紀後期の地層からのみ発見されている。発見されているのはイギリスのコーズリー村(Coseley)における化石産地のみである[1][5]。
分類[編集]
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コスリイムシの系統的位置[1][7] |
コスリイムシ(Plesiosiro madeleyi)はコスリイムシ目(Haptopoda)コスリイムシ科(Plesiosironidae)Plesiosiro 属の唯一の構成種である[5][3][4]。古くは外見的な類似から、コスリイムシは絶滅群のワレイタムシやムカシザトウムシと共にダニやザトウムシに近縁との説が挙げられ、更にコスリイムシは独立の目によおるものではなく、実はムカシザトウムシもしくはザトウムシではないかという提唱もあった[1]。しかし1999年の見解を始めとして、鋏角・跗節・背板と腹板などの特徴から、コスリイムシはむしろ四肺類(クモ+脚鬚類など)であり、特に脚鬚類(ウデムシ+サソリモドキ+ヤイトムシ)に類縁である説の方が有力視される[1][7]。2014年以降、コスリイムシは脚鬚類と共にSchizotarsataに分類され、この類は3節以上に細分された脚の跗節を共有派生形質とする[7]。
出典[編集]
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa Dunlop, Jason A. (1999). “A redescription of the Carboniferous arachnid Plesiosiro madeleyi Pocock, 1911 (Arachnida: Haptopoda)” (英語). Earth and Environmental Science Transactions of The Royal Society of Edinburgh 90 (1): 29–47. doi:10.1017/S0263593300002492. ISSN 1473-7116 .
- ^ a b c d e f 小野展嗣「クモの仲間」「分類表」『クモ学 摩訶不思議な八本足の世界』東海大学出版会、2002年、122-130, 195-207頁。
- ^ a b c d e f g h i 小野展嗣「コスリイムシ目」石川良輔編『節足動物の多様性と系統』〈バイオディバーシティ・シリーズ〉6、岩槻邦男・馬渡峻輔監修、裳華房、2008年、156-157頁。
- ^ a b c d e f g h i 小野展嗣編著「コスリイムシ目」『日本産クモ類』東海大学出版会、2009年、19-20頁。
- ^ a b c d e f g h i Dunlop, J. A., Penney, D. & Jekel, D. 2020. A summary list of fossil spiders and their relatives. In World Spider Catalog. Natural History Museum Bern, online at http://wsc.nmbe.ch, version 20.5, accessed on 24 August 2020.
- ^ a b c d e f g h Dunlop, Jason A.; Lamsdell, James C. (2016). “Segmentation and tagmosis in Chelicerata” (英語). Arthropod Structure & Development 46 (3): 395. ISSN 1467-8039 .
- ^ a b c d e f g h i Garwood, Russell J.; Dunlop, Jason (2014-11-13). “Three-dimensional reconstruction and the phylogeny of extinct chelicerate orders” (英語). PeerJ 2: e641. doi:10.7717/peerj.641. ISSN 2167-8359 .