ザトウムシ

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ザトウムシ
Harvestman opilio canestrinii male.jpg
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
亜門 : 鋏角亜門 Chelicerata
: クモガタ綱 Arachnida
: ザトウムシ目 Opiliones
学名
Opiliones
Sundevall, 1833
亜目

ザトウムシ(ザトウムシ類、座頭虫、Harvestman)は、鋏角亜門クモガタ綱ザトウムシ目Opiliones)に属する節足動物の総称である。非常に脚の長いものがあり、豆に針金の足をつけたような独特の姿をしている。長い脚で前を探りながら歩く様子から、座頭虫の名がある。

一瞥するとクモを連想させる外見で、古くは「メクラグモ」と呼ばれてきた。クモとは同じくクモガタ類ではあるが、ザトウムシはクモではなく、自ら独自の分類群をなしている。

最古の化石記録は4億1千万年前(古生代デボン紀)のものが知られている。

英語圏の名称は「Harvestman」(刈り入れ人夫)、特にアメリカでは「Daddy Longlegs」(あしながおじさん)の愛称がある。なお、後者は地域によってユウレイグモガガンボなど、脚の長い他の節足動物を示す名称でもある。

概説[編集]

ザトウムシ類は、多くが長い脚を伸ばし、粒のような体を中空に支え、その体を揺らしながら歩く様子が特徴的なクモガタ類である 。

多くは体長1~2cm程度でごく小型のものもある。外骨格は丈夫で、前体(頭胸部)と後体(腹部)は密着して、全体として楕円形にまとまる。この点で前体と後体の接続部が明瞭にくびれ、柔らかい後体をもつクモ類から区別できる。

姿は多様で、体色は地味なものが多いが、金属光沢をもつものや、鮮やかな色彩のものもあり、背面などに棘を備えるものもある。また雌雄で性的二型を示すものもある。日本では古くは「メクラグモ」と呼ばれ、中国語では「盲蛛」と名付けるが、通常では前体背側の中心に左右1対の目(中眼)がある。

長い脚にあることが印象的であるが、ザトウムシ類は必ずしもそうとは限らない。脚の短いものは、ダニザトウムシなど、ごく小型で、一見ダニのような姿である。中位の脚の長さのものは、丸い体のクモのような姿をもち、アカザトウムシオオヒラタザトウムシなどがある。一般に知られるものは非常に細い脚で、長いものでは10cmを超えるものがあり、日本産のナミザトウムシでは、雄の第二脚が180mmに達する例がある。

他のクモガタ類とは異なり、ザトウムシ類は真の交尾を行い、雄と雌はそれぞれペニス産卵管を有する。

外部形態[編集]

体は前体(頭胸部)と後体(腹部)からなり、両者はくびれはなくクモ類のような腹柄はない。また、前体と後体の間、及び後体の体節は明瞭に分かれ、もしくは体節が癒合した種類もある[1]。例えばカイキザトウムシ類では、前体の背甲と後体の背板は分かれているが、他の類では、後体前方の体節の背板が、前体の背甲に癒合している。ダニザトウムシ類では、前体の背甲は後体前方の背板と癒合して、大きな盾甲を形成する。

前体[編集]

Phalangium opilio の雌。背甲の中心に1対の中眼がある
化石ザトウムシ類Hastocularis argus の復元図。尖った眼丘にある中眼と背甲の両側に備わる側眼を同時に有する

前体(頭胸部)は先節付属肢をもつ6つの体節からなり[1]、背面はキチン質の丈夫な背甲(carapace)に覆われる。通常は背甲が融合しているが、一部の種類では後2節の分け目が明瞭に見られる。後者の場合、背甲は3つの「peltidium」という外骨格として区別でき、前4節に当たる1枚は「propeltidium」、後の2節に当たる2枚はそれぞれ「mesopeltidium」・「metapeltidium」という[1]。また、背甲には臭腺(scent glands)が開き[2]、その位置は群によって異なる。防御および情報伝達に用いられると考えられるが、詳細は不明である。

通常は背甲の中央近くに一対の単眼(中眼)があるが、ダニザトウムシ類では例外的に眼を欠き、一部の群では中眼の代わりに前方側面に側眼がある。同時に中眼と側眼にあることはザトウムシ類の祖先形質で、現存の系統でそのいずれか退化消失していたと考えられる[3][1]。中眼は背甲中央の小さな盛り上がった眼丘(ocular tubercle)の両側面に位置し、眼丘が幅広く発達するものや、ほとんど認められないものもある。

歩脚と触肢の基節が椀のように前体の腹面全体を囲み、通常は腹板が見られない。ただし一部の種では腹板が見られる[1]

付属肢[編集]

ザトウムシの1種の本体部。頑丈な鋏角、歩脚状の触肢と4対の脚の接続部が映る
ザトウムシの1種。鞭の様な細長い脚が映る
ザトウムシの1種。第1脚の跗節がたくさんの節単位に細分される

付属肢関節肢)は前体に6対あり、1対の鋏角触肢、4対の脚をもつ。

身体の前端に鋏状の鋏角があり、口はその間の腹面側に開く。鋏角は3節からなり、先の2節が鋏を構成する[1]。これは餌をつかみ、引き裂くのに用いられ、また、他の付属肢を清掃するのにも使う。普通は小さくて目立たないが、サスマタアゴザトウムシなどでは、鋏角が強大に発達し、捕獲器となる。また形状に性的二形が見られるものや、発音器と思われる構造が知られているものがある。

触肢は6節からなり、基部の節は顎葉(maxillary lobes、coxapophyses)をもつ。この節が決して会合しないのは、ザトウムシ類の特徴の一つとされる。多くのものでは短い歩脚状で、獲物をつかみ、鋏角に渡すのに用いられる。またアカザトウムシ類など捕食性のものでは、鎌状の捕獲器になっている[1]。触肢にも形状に性的二形が見られるものがある。

歩脚は7節からなり、第1-2脚の基節は触肢のように顎葉をもつ[4]。先端の節、いわれる跗節が更にたくさんの「tarsomeres」という節単位に細分され、脚の長い種では鞭のようになる。長さについては様々で、ダニザトウムシ類などでは長いものでも体長の2倍を超えない。それ以外のものでは体長の数倍以上、ナミザトウムシでは最も長い脚が体長の30倍にも達する。ダニザトウムシ類では第一脚が最も長いが、それ以外の類では第二脚が特に長く、これを前に伸ばし、昆虫の触角のような器官として探るように使う。歩行にはそれ以外の三対を用いる。ただしこれについては、第2脚のみならず、歩行用の第1脚も重要な感覚器であると明らかにした研究がある[5]。Gonyleptidae科のザトウムシでは、第4脚は特に強大で、基節が大きく後ろに伸びている。

触肢・第1-2脚基節における顎葉は、上唇や鋏角に併せて「stomotheca」という口器をなしている[4]。似たような口器をもつ他のクモガタ類は、サソリが挙げられる[4]

後体[編集]

Paroligolophus agrestis の雌。腹面(右下)が前体に占め込んだ生殖口蓋が映る

後体(腹部)には付属肢はなく、9つの体節を含む[1]。呼吸器官である気管の開口部が後体第2節の腹面に1対ある[1]。背面には体節ごとに背板が並ぶが、いくつかの群では前方のものが前体の背甲と癒合する[1]。腹面にも体節ごとに腹板があり、特に前端2節の腹板が前体の領域に食い込んで、生殖器官を覆う蓋状の構造体をなす。生殖器官の背側を覆う第1節の小さな腹板は「arculi genitales」といい、腹側を覆う第2節の大きな腹板は生殖口蓋(genital operculum)という[1]

クモガタ類にしては例外的に、ザトウムシ類は真の交尾を行うことに適した生殖器官をもつ。雄はペニス、雌は産卵管を有し、通常は生殖口蓋の下に収納される。これらは付属肢由来の器官とは見なされていない[1]。また、これらは後体の器官であるが、生殖口蓋は前体に占め込むため、生殖口は前体の腹側にあたり、前向きに開く[1]。この点も通常では後体にあたり、後ろに向いて開く多くのクモガタ類の生殖孔とは大きく異なる。

尾端は肛門を覆う1枚の肛門板(anal operculum)があり[6]、これは尾節由来の器官ではないかとの説がある[1]

生態[編集]

ハエを摂るザトウムシ

多くのものが森林に住み、小型のものは土壌動物として生活する。足の長いものは、低木や草の上、岩陰などで生活する。乾燥地帯に生息するものもあり、日本では海岸の岩陰に住むものがある。

多くが雑食性で、昆虫などの節足動物ミミズなどの小動物を捕食するものや、遺骸キノコなどを食べるものがある。

天敵に対する防御防御行動としては、臭腺から忌避物質を分泌したり、足を自切することがある。刺激を受けると身体を大きく揺するように動いたり、オオヒラタザトウムシなど地面や岩の上にはいつくばって、つついても動かないようになるものも防御行動の一つと考えられるが、詳細は不明である。

ザトウムシ類は、クモガタ類のなかでは例外的に雄がペニスを有し、真の交尾を行う。雌雄は向き合って、腹面を触れ合う形で交尾をする。

分類[編集]

系統関係[編集]

多くのクモガタ類と同様、ザトウムシ目のクモガタ綱における系統的位置は不明確である。

日本の学会ではザトウムシをダニに近縁な動物としていた[7]。海外でもかつてはダニクツコムシに近縁(Cryptoperculataを構成する[4])とする考え方が主流であった。その後では形態学と一部の分子系統学的見解によって、サソリカニムシヒヨケムシとともに走脚亜綱Dromopoda)をなす系統仮説が提唱された[8]。その中でも、「stomotheca」という口器をもつという共通点に基づいてサソリと姉妹群をなし、Stomothecataを構成する説があった[4]

しかし上述の系統仮説は、2010年代以降の多くの分子系統学的解析に疑問視される。代わりに、クツコムシヒヨケムシに近縁[9]、或いはカニムシと胸穴ダニ類(Parasitiformes)に近縁[10]など、不安定な結果が出ている[4]

下位分類[編集]

オオナミザトウムシの一種(Nelima genufusca
ユミヒゲザトウムシの1種(Leiobunum sp.)
Pachyloidellus sp.

世界で約4000種ほどが知られる。

脚注[編集]

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  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n Lamsdell, James C.; Dunlop, Jason A.. “Segmentation and tagmosis in Chelicerata” (英語). Arthropod Structure & Development 46 (3): 395–418. ISSN 1467-8039. https://www.academia.edu/28212892/Segmentation_and_tagmosis_in_Chelicerata. 
  2. ^ Schaider, Miriam; Novak, Tone; Komposch, Christian; Leis, Hans-Jörg; Raspotnig, Günther (2018年). “Methyl-ketones in the scent glands of Opiliones: a chemical trait of cyphophthalmi retrieved in the dyspnoan Nemastoma triste”. Chemoecology 28 (2): 61–67. doi:10.1007/s00049-018-0257-5. ISSN 0937-7409. PMC PMC5897473. PMID 29670318. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5897473/. 
  3. ^ (PDF) A new stem-group Palaeozoic harvestman revealed through integration of phylogenetics and development” (英語). ResearchGate. 2019年1月20日閲覧。
  4. ^ a b c d e f Dunlop, Jason; Garwood, Russell J. (2014年11月13日). “Three-dimensional reconstruction and the phylogeny of extinct chelicerate orders” (英語). PeerJ 2: e641. doi:10.7717/peerj.641. ISSN 2167-8359. https://peerj.com/articles/641. 
  5. ^ (PDF) Sensory biology of Phalangida harvestmen (Arachnida, Opiliones): A review, with new morphological data on 18 species” (英語). ResearchGate. 2019年1月20日閲覧。
  6. ^ Suzuki,Tsurusaki (1991) Pictorial key Soil animals Japan, Opiliones.PDF
  7. ^ 岩波 生物学辞典 第5版
  8. ^ Jeffrey W. Shultz (1990年). “Evolutionary morphology and phylogeny of Arachnida”. Cladistics 6 (1): 1–38. doi:10.1111/j.1096-0031.1990.tb00523.x. 
  9. ^ Giribet, Gonzalo; Wheeler, Ward C.; Hormiga, Gustavo; González, Vanessa L.; Pérez-Porro, Alicia R.; Kaluziak, Stefan T.; Sharma, Prashant P. (2014年11月1日). “Phylogenomic Interrogation of Arachnida Reveals Systemic Conflicts in Phylogenetic Signal” (英語). Molecular Biology and Evolution 31 (11): 2963–2984. doi:10.1093/molbev/msu235. ISSN 0737-4038. https://academic.oup.com/mbe/article/31/11/2963/2925668. 
  10. ^ Cunningham, Clifford W.; Martin, Joel W.; Wetzer, Regina; Bernard Ball; Hussey, April; Zwick, Andreas; Shultz, Jeffrey W.; Regier, Jerome C. (2010年2月). “Arthropod relationships revealed by phylogenomic analysis of nuclear protein-coding sequences” (英語). Nature 463 (7284): 1079–1083. doi:10.1038/nature08742. ISSN 1476-4687. https://www.nature.com/articles/nature08742. 

参考文献[編集]

  • 内田亨監修 『動物系統分類学』第7巻(中A)「真正蜘蛛類」、(1966)、中山書店。

関連項目[編集]