ハリガネムシ

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ハリガネムシ
Paragordius tricuspidatus.jpeg
ハリガネムシ Paragordius tricuspidatus
分類
: 動物界 Animalia
上門 : 脱皮動物上門 Ecdysozoa
: 類線形動物門 Nematomorpha
: ハリガネムシ綱(線形虫綱) Gordioidea
英名
horsehair worms, Gordian worms

ハリガネムシ(針金虫)とは類線形動物門ハリガネムシ綱(線形虫綱)ハリガネムシ目に属する生物の総称。

ミミズや線虫などと違って体に伸縮性がなく、のたうち回るような特徴的な動き方をする。体は左右対称で、種類によっては体長数cmから1mに達し直径は1〜3mmと細長い。内部には袋状の体腔がある。表面はクチクラで覆われていて体節はない。また、クチクラで覆われているため乾燥すると針金のように硬くなることからこの名がついた。

カマキリ(主にハラビロカマキリに寄生)やバッタカマドウマゴミムシコオロギ等といった昆虫類の寄生虫として知られている。地方によっては「ゼンマイ」とも呼ばれる。アメリカでは馬を洗う水桶の中から発見されたことからhorsehair wormという俗称がある。

寿命は約2〜3年と言われているが、いつ生まれて、どのように育つか未解明なところがある[1]

世界中で記載されているのは326種(2014年時点)であるが、実際には2000種以上いるといわれている。日本では14種(2014年時点)が記載されている[2]

ジャガイモ大根などの害虫として知られている「ハリガネムシ」は本種ではなく、コメツキムシの仲間のマルクビクシコメツキ、クロクシコメツキ、クシコメツキ、トビイロムナボソコメツキ、コガネコメツキ等の幼虫である。

生活史[編集]

水生生物であるが、生活史の一部を昆虫類に寄生して過ごす。

雄と雌が水の中でどのように相手を捜し当てるかは不明だが、雄と雌が出会うと巻き付き合い、オスは二叉になった先端の内側にある孔から精泡(精子の詰まった囊)を出し、メスも先端を開いて精泡を吸い込み受精させる[2]。メスは糸くずのような卵塊(受精卵の塊)を大量に生む[2]

1,2か月かけて卵から孵化した幼生は川底で蠢き、濾過摂食者水生昆虫が取り込む。幼生は身体の先端に付いたノコギリで腸管の中を進み、腹の中で「シスト」の状態になる。「シスト」は自分で殻を作って休眠した状態であり、-30℃の冷凍下でも死なない[2]

水生昆虫のうち、カゲロウユスリカなどの昆虫が羽化して陸に飛び、カマキリカマドウマなどの陸上生物に捕食されると寄生し、2〜3か月の間に腹の中で成長する[2]。また、寄生された昆虫は生殖機能を失う。成虫になったハリガネムシは宿主の脳にある種のタンパク質を注入し、宿主を操作して水に飛び込ませ、宿主の尻から出る[3]。池や沼、流れの緩やかな川などの水中で自由生活し、交尾・産卵を行う。

寄生生物より外に出る前に宿主が魚やカエルなどの捕食者に食べられた場合、捕食者のお腹の中で死んでしまう[4]が、捕食者の外に出ることができるケースもある[5]

カワゲラをはじめとする水生昆虫類から幼生および成体が見つかることがある。また、昆虫だけではなくイワナなどの魚の内臓に寄生する場合もある。

ヒトへの寄生例が数十例あるようだが、いずれも偶発的事象と見られている。ハリガネムシを手に乗せると、爪の間から体内に潜り込むと言われることがあるが、全くの俗説で、成虫があらためて寄生生活にはいることはない。

生態系にて果たす役割[編集]

寄生虫であるハリガネムシが河川に飛び込ませた宿主であるカマドウマキリギリス類は、イワナアマゴなど、渓流に住む河川性サケ科魚類の貴重なエネルギー源となっている[6]神戸大学大学院理学研究科准教授の佐藤拓哉らによる調査結果では、渓流のサケ科の魚が年間に得る総エネルギー量の約6割を、秋の3か月程度に川に飛び込む寄生されたカマドウマで占めている[1][7][8]。カマドウマなど陸の虫が川の中に入ってくることで、川の水生昆虫はあまり食べられなくなり、水生昆虫類の餌である藻の現存量が減り、落ち葉の分解速度が促進される[6][5]。カマドウマを飛び込ませないようにすると魚は水生昆虫を食べるようになり、その結果藻が増え、落ち葉の分解が遅れ、生態系が変わってしまった[5][9]。佐藤らは、ハリガネムシのような寄生虫が森林と河川の生態系に影響をおよぼしていることを、世界で初めて実証した[7][5]

ハリガネムシが寄生する昆虫が川に落ちるのは、主にゴミムシに寄生する北海道では6〜7月頃がピークで、本州では秋である[10]

脚注[編集]

  1. ^ a b 川端裕人 (2014年11月4日). “「研究室に行ってみた。神戸大学 群集生態学 佐藤拓哉」第1回 カマドウマの心を操る寄生虫ハリガネムシの謎に迫る” (日本語). Webナショジオ. ナショナルジオグラフィック 日本語版 (日経ナショナルジオグラフィック社). http://nationalgeographic.jp/nng/article/20141030/422341/ 2015年3月26日閲覧。 
  2. ^ a b c d e 川端裕人 (2014年11月5日). “「研究室に行ってみた。神戸大学 群集生態学 佐藤拓哉」第2回 まるで寄生獣!寄生虫ハリガネムシの恐るべき一生” (日本語). Webナショジオ. ナショナルジオグラフィック 日本語版 (日経ナショナルジオグラフィック社). http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20141031/422534/ 2015年3月26日閲覧。 
  3. ^ 川端裕人 (2014年11月6日). “「研究室に行ってみた。神戸大学 群集生態学 佐藤拓哉」第3回 寄生虫ハリガネムシはどうやって宿主の心を操るのか” (日本語). Webナショジオ. ナショナルジオグラフィック 日本語版 (日経ナショナルジオグラフィック社). http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20141031/422534/ 2015年3月26日閲覧。 
  4. ^ 川端裕人 (2014年11月11日). “「研究室に行ってみた。神戸大学 群集生態学 佐藤拓哉」第6回 ハリガネムシがつむぐ「森と川のフルコース」” (日本語). Webナショジオ. ナショナルジオグラフィック 日本語版 (日経ナショナルジオグラフィック社). http://nationalgeographic.jp/nng/article/20141106/423234/ 2015年3月26日閲覧。 
  5. ^ a b c d 川端裕人 (2014年11月7日). “「研究室に行ってみた。神戸大学 群集生態学 佐藤拓哉」第4回 世界初! 寄生虫が異なる生態系をつなぐことを証明” (日本語). Webナショジオ. ナショナルジオグラフィック 日本語版 (日経ナショナルジオグラフィック社). http://nationalgeographic.jp/nng/article/20141104/422873/ 2015年3月26日閲覧。 
  6. ^ a b 佐藤拓哉 (2013年). “森と川をつなぐ細い糸:寄生者による宿主操作が生態系間相互作用を駆動する”. 日本学術振興会. 2015年3月26日閲覧。
  7. ^ a b Sato Takuya, Watanabe Katsutoshi, Kanaiwa Minoru, Niizuma Yasuaki, Harada Yasushi, Lafferty Kevin D. (1 2011). "Nematomorph parasites drive energy flow through a riparian ecosystem". Ecology (Ecological Society of America) 92 (1): 201–207. 
  8. ^ 「ハリガネムシ 生態系の黒幕 昆虫操り、イワナのエサに 京大など解明」読売新聞大阪朝刊、2011年5月16日、19頁。
  9. ^ 「寄生生物、巧みな支配 宿主を改造・死のダイブに導く」朝日新聞東京朝刊、2013年3月4日、24頁。
  10. ^ 川端裕人 (2014年11月10日). “「研究室に行ってみた。神戸大学 群集生態学 佐藤拓哉」第5回 なんと生き物の半分近くは寄生虫!?” (日本語). Webナショジオ. ナショナルジオグラフィック 日本語版 (日経ナショナルジオグラフィック社). http://nationalgeographic.jp/nng/article/20141104/422873/ 2015年3月26日閲覧。 

外部リンク[編集]